百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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 ここにきて、ようやっとまともな伏線回収?です。


二十二話「咲くはクロユリ、燕はまた泣く」

 紫の捜索を開始してから、一時間も経たない頃。

 可奈美の伝達により、銚子海岸近くの工場街に紫が居るとのこと。

 百合たち親衛隊も、至急その場所に向かっていた。

 

 

「この近くか?」

 

「見たいですわね」

 

「皆さん…!」

 

「言わなくても分かってるよ!」

 

「来ましたね…!」

 

 

 紫の元へ行く道を阻むかの如く立ちはだかるのは、二十はくだらない数の冥加刀使。

 こんな所で足止めを食らっていられる程、余裕がある状況ではない。

 百合の思考回路が導き出した答えは……

 

 

「元親衛隊に告ぐ。大人しくしていれば危害は加えない。抵抗するならば、斬る!」

 

「そんなの、馬鹿正直に『はい、分かりました』って頷くわけないじゃん!」

 

「その通りだ。突き進むぞ!」

 

「……先輩たちは支援に回ってください。私と結芽で切り込みます」

 

「何か良い案があるんですわね?」

 

 

 寿々花の問にコクリと頷く。

 百合は親衛隊のことを信頼しているし、背中を預けられる存在だと知っている。

 だが、ここまで数が多いと龍眼の処理は追いつかない。

 無理矢理やろうとすれば、処理に負荷が掛かりすぎ使い物にならなくなるだろう。

 

 

 ならば、今の最善案は百合と結芽でほぼ全ての敵を倒し、真希たちには支援に回って貰うことだ。

 彼女の案に、結芽はなんの疑いも、躊躇いもなく賛同する。

 真希たちもそれが最善だと分かったのか、少し呆れた顔をして頷いた。

 

 

「百合。君は時々、凄く馬鹿みたいなことを言うね」

 

「偶に結芽にも言われます。…行くよ結芽!」

 

「まっかせて!」

 

 

 二本の御刀を鞘から抜き、写シを張る。

 相手は既に御刀を抜いて写シを張っている状態だ。

 百合と結芽はピッタリのタイミングで顔を合わせる。

 その瞬間、二人揃ってニヤリと笑った。

 一瞬のうちに迅移で近づき、目の前に居た敵を右薙で胴から真っ二つにする。

 

 

「なっ!」

 

「気を付けろ!」

 

「甘いです!」

 

「余所見してたら、すぐ終わっちゃうよ!」

 

 

 そこからは一方的な暴力。

 二人のコンビネーションに冥加刀使が敵うはずもなく、次々とやられていく。

 真希たちも、堅実な動きで着々と数を減らし、五分を過ぎた頃には敵は半数も残って居なかった。

 圧倒的な実力差があると分かっていながら、冥加刀使が逃げ出すことはない。

 

 

 数の差にものを言わせて、残った全員で前線に出ている百合と結芽を囲む。

 真希たちには先に可奈美たちの方に行ってもらったので、救援は来ない。

 しかし、百合は動じてないかった。

 なにせ結芽が居るのだから。

 敵が百人居ようが、負ける気がしない。

 

 

「背中合わせって、ドラマとかでよく見るけど実際は全然違うね」

 

「そう? …私は凄く安心してる。結芽にだったら命を預けてもいい」

 

「ヒュー! カッコイイね〜。私も、信頼してるからね」

 

「何をごちゃごちゃと! 全員で掛かれ!!」

 

 

 一斉に向かってくる敵。

 後ろは見ないで、前に居る敵だけを見る。

 心配しなくても、きっと大丈夫。

 そう、百合は信じていたし、結芽も……。

 

 

 僅かなタイミングのズレを利用し、自分に近付くのが早い順番に斬り伏せていく。

 右端、左端、真中二人。

 二つの御刀と言う自分の有利を活かし、両端を振り下ろしで斬り。

 その後は持ち手を順手から、逆手に持ち替えてXを描くように斬り上げる。

 

 

 百合は倒したことを確認すると、後ろを振り向く。

 そこには、小悪魔のような笑みでこちらを見つめる結芽が居た。

 

 

「お疲れ〜」

 

「結芽もね。早く追いかけよう、紫様とイチキシマヒメに何かあったらいけないし」

 

「りょーかいっ」

 

 

 八幡力を駆使して、工場街を飛び回る。

 真希たちを見つけるのは、そう難しいことではなかった。

 

 -----------

 

 あの後、可奈美と姫和だけが紫に会ったと言っていたが……

 テント内に、紫やイチキシマヒメ……そして姫和の姿はない。

 聞いた話によると、タギツヒメに襲撃され、紫がイチキシマヒメの囮となった。

 それを助ける為に、イチキシマヒメが姫和に融合することを懇願し、姫和がそれに応じたらしい。

 今の姫和は、十条姫和でありイチキシマヒメ。

 

 

 頭が混乱するような目まぐるしい状況だが、理解しなければ話は進まない。

 百合は何とか頭の整理を着けて、紗南の話は聞く。

 

 

「お前たちは少し休め」

 

「私は平気です。姫和ちゃんの捜索に加えて下さい!」

 

 

 姫和のことでより一層焦りが出てきたのか、可奈美の語気は強い。

 意図した訳では無いが、相手が萎縮しても可笑しくない。

 そんな強い語気の声を聞いても、紗南は萎縮などせず冷静に言葉を返す。

 

 

「ダメだ。休息をとって万全な状態を保っておけ。お前たちは欠かせない戦力だ」

 

 

 けれど、そんな言葉で可奈美が食い下がることはなく、自分の意見を押し通す為に言葉を紡ぐ。

 

 

「タギツヒメはイチキシマヒメと融合した姫和ちゃんを狙います! 姫和ちゃんを守らないと!」

 

「可奈美ちゃん!」

 

「自分以外は信じられないか?」

 

「そう言う訳じゃ……」

 

「らしくありませんよかなみん。気持ちを落ち着ける意味でも、少し休みましょう?」

 

「うん。ボス戦の前には回復しとくものだ」

 

 

 エレンの諭すような言葉と、薫のお巫山戯半分の言葉は案外可奈美に効いたらしく、焦りは少しだけなりを潜める。

 紗南も、可奈美の焦りがまた顔を出す前に話を進めていく。

 

 

「十条の捜索はこちらに任せろ。局長も後を追ったのだろう?」

 

「はい……」

 

 

 それ以上は何か言うことは無く、可奈美たちは外に出て行った。

 百合はただ、心配そうに可奈美を見つめていた。

 

 -----------

 

 休息の間百合は、夢を見ていた。

 濃い霧に覆われた空間。

 神社の石階段にも似た場所で、百合は聖と対峙していた。

 もう幾度と無く戦ったが、勝った回数は一桁代だ。

 

 

「は~い、少し休憩。……な〜に悩んでるか、教えて?」

 

「お母さんには、分かるよね……」

 

 

 全て話した。

 並行世界での自分たちの……いや、結芽の結末。

 その殆どが、死だと言うこと。

 この世界がどれだけ奇跡に近いかを。

 

 

「そっかぁ……」

 

「私、もしもの場合は()()使()()()()

 

「……力を使うのは悪いことじゃない、力に溺れるのが悪いこと。この意味、何となく分かるよね? 百合のやり方は、きっと大切な人を傷つけるよ? …それに、自分自身も」

 

「正直、怖い。でも、結芽を失うことの方が怖い。……大丈夫、もしもの時にしか使わないから。もしもの状況がこないように、精一杯頑張るよ」

 

 

 作ったような笑顔。

 聖は懐かしむように見つめていた。

 自分の娘である証拠が、こんな嫌な部分で見つかるなんて。

 聖は思いもしなかっただろう。

 

 

「その顔、やり過ぎるとバレるよ。私も良く、龍雅君に怒られたっけ…」

 

「お父さんに?」

 

「うん。お前の献身は度が過ぎてるって」

 

 

 その献身が身を滅ぼすことを、聖は痛い程分かっていた。

 だが、止めることはしない。

 百合の、娘の可能性を信じたいから。

 

 

「百合。私、信じてるから」

 

「…………ありがとう」

 

 

 そんな、親子水入らずの会話を隠れ聞くものが一人。

 何故だか、百合や聖と良く似ている。

 髪の色や瞳の色は違うが、顔は瓜二つ。

 彼女は、声をかけることはなく、ただ親子の会話を聞いていた。

 

 -----------

 

 夢から覚めた百合を待っていたのは、結芽だけだった。

 

 

「……? ねぇ、何で結芽しか居ないの?」

 

「百合、何度揺すっても起きないんだもん。みんな先に行っちゃったよ?」

 

「えっ!? ご、ごめん、今すぐ行こう!」

 

「ちょ、御刀! 御刀! 忘れていくつもり!」

 

 

 少々焦り過ぎていたのか、百合は御刀を忘れると言う大失態を起こす所だった。

 少しだけ頬を赤くしながら、結芽に御刀を受け取る。

 紗南が居るテントに行くと、累も居て、新型のスペクトラムファインダーを貸し出された。

 ……今の百合にとっては、殆ど意味のないものだが厚意を無下にはしたくないので、笑顔で受け取る。

 

 

 どれ程走っただろうか。

 かれこれ数十分は駆け回っている。

 万全の状態になったとは言え、刀使の力も、もう一つの力も使うわけにはいかない。

 

 

「ゆり〜、少し休憩しようよ」

 

「ダメ。もう少しだけ我慢して……何か嫌な予感がするの…!」

 

「はぁ〜、分かったよ。キビキビ走れば良いんでしょ?」

 

「そう言うこと!」

 

 

 会話に気を取られていた瞬間、地を裂くような音が聞こえた。

 音が聞こえた方向には、碧い雷が見えた。

 四の五の言える場合じゃない、そう判断し御刀を抜いて写シを張る。

 結芽も百合の行動を見て、御刀抜いて写シを張った。

 二人揃って迅移を使う。

 結芽を置いてはいけないが、心臓を締め付けるような嫌な予感がした。

 

 

 だから、百合はシフトなしの三段階迅移でその場に訪れた。

 そこには、既に百合と結芽以外の全員が揃っていてーー可奈美が御刀を姫和に向けていた。

 

 

「ふーん。そんな簡単に諦めて、荒魂ごと隠世の果てに送られるつもりなんだ」

 

「…………」

 

 

 姫和の中に感じる尋常ではない気配、彼女の中にタギツヒメたちがいることが何となく分かる。

 止めるべきなのか? 

 百合がそう思った瞬間、可奈美の瞳から涙が零れた。

 

 

「させない、そんなの絶対にさせないから」

 

 

 そして、ゆっくりと姫和を抱きしめていた。

 

 

「一人で抑えきれないなら、全部出しちゃえばいいよ! 私が斬ってあげる、全部全部全部斬ってあげるから! 半分持ってあげるって言ったでしょ。もっと信頼して預けてよぉ」

 

 

 泣きながら説得しようとする姿が、とても綺麗で止めるべきではないと分かった。

 しかし、世界はどこまでも残酷だった。

 抱きしめられた姫和が穏やかな顔になったと思ったら、次の瞬間苦痛の表情に変わった。

 

 

「つっ! あぁ!」

 

 

 可奈美を突き飛ばしたかと思いきや、彼女の体を……ノロが覆うように蠢いた。

 数秒もしない内に、背中からタギツヒメが現れた。

 大典太と鬼丸を持って、変化した姿を百合たちには見せつける。

 腹から胸元にかけて、八つの目が出来た。

 おどろおどろしい雰囲気が溢れだしている。

 

 

「謀っていたのは貴様だけではないぞ、紫」

 

 

 二振りの御刀を姫和に突き刺すと、姫和は跡形もなくノロに変換されていった。

 ありえない、そう言いたかった。

 されど、現実に起こったことを幻想と言っている暇はない。

 今すぐタギツヒメを斬らなければ、やられるのは……

 

 

「可奈美先輩!!」

 

 

 可奈美の前に立ち、タギツヒメと向き合う。

 龍眼も使って未来視を行うが、何故かノイズのようなモヤがかかった。

 そして……いつの間にか目の前に居たタギツヒメに胴を水平に切り裂かれ、写シが剥がされる。

 

 

「半端者はこちらに来い」

 

 

 この一言と共に、百合の心臓に御刀が突き立てられた。

 写シを張ってない生身の体、体中を燃やされるかのような激痛が走り地面に倒れ伏せる。

 一連の流れを棒立ちしながら見てた結芽が、怒りに任せて御刀を振るった。

 けれど、変化した……進化(神化)したと言っても過言ではない彼女に、結芽の御刀が通ることはなく簡単に写シを剥がされてしまう。

 

 

 同じ様に、その場に居た全員がタギツヒメに瞬殺された。

 写シを剥がされただけだが、危険な状態に変わりはない。

 

 

「さて、お前の大切な者を殺せば、こちら側にくるか」

 

 

 結芽に近付いて行くタギツヒメ。

 写シを張れない結芽に、容赦なく御刀を振り下ろそうとする。

 きっと、この時間は実際は数秒程度だっただろう。

 だが、百合にとってはとても長く感じられた。

 振り下ろされる御刀が、周りにいる仲間が、自分の呼吸が、完全に静止した世界。

 

 

 スライドショーのように、あらゆる並行世界を見た。

 結芽を救えなかった世界、結芽を殺してしまった世界、結芽に殺された世界、結芽を助けなかった世界、結芽をーーー。

 何千、何万と言う並行世界の夢神百合が、この世界の百合に統合されていく。

 そのスライドショーのような光景を見て最初に感じたのは孤独感。

 

 

 百合の存在理由の全てに等しい結芽の死。

 他にも大切な者が居るのに、結芽を失っただけで全てが霞んでしまう。

 二番目に感じたのは喪失感。

 結芽を失ったことにより出来る、心の穴。

 他の存在では埋めようがない、大き過ぎる穴。

 

 

 三番目に感じたのは憎しみ。

 結芽を守れなかった自分への憎しみ、結芽を奪った者への憎しみ。

 百合自身さえ燃やすような憎悪。

 

 

(止めろ百合! その感情たちで私を使ったら!)

 

 

「……触るな…」

 

「ん?」

 

 

 刺された傷が()()によって治されていく。

 痛い、痛いが、立てない程ではない。

 百合がゆっくりと立ち上がると、両目が違う輝きを放っていた。

 燃え盛る炎を彷彿とさせる、緋色の輝きを放つ左目。

 迸る雷を彷彿とさせる、碧色の輝きを放つ右目。

 

 

「私の結芽に……触ってんじゃねぇ!!」

 

 

 それは、今まで誰も聞いたことがない百合の本気の怒声だった。

 写シを張らずに、三段階迅移と同等のスピードで、タギツヒメが結芽に振り下ろそうとしていた御刀を弾いた。

 タギツヒメも一瞬驚き、薄く笑いながら間合いをとった。

 

 

「ふふふ、ははははは! ようやくこちら側に来たか!」

 

「ゆ…り…?」

 

「…私の仲間に触ってみろ、殺す…!」

 

 

 百合から発せられたとは思えないほど低く、ドスの効いた声。

 けれど、結芽が気にしているのはそこではなかった。

 先程の迅移と言っても過言ではない動き、それに加えて目のこと。

 聞きたいことが沢山あり過ぎて、結芽の口はただパクパク開いたり閉じたりしているだけだ。

 

 

 百合は、そんな結芽に気付いたのか、そっと近付いた。

 

 

「我に背中を見せるとは、やけに余裕があるな?」

 

「仕掛けてくればいい、私には通じないけど」

 

 

 売り言葉に買い言葉。

 しかし、タギツヒメは仕掛けることなく待った。

 

 

「結芽?」

 

「ゆり? な、なんで、その目…」

 

「…………」

 

 

 百合は無言で結芽の唇に自分の唇を押し当てた。

 人前ですることに、恥ずかしいと言う感情はない。

 逆に、もっとしていたい、そう思った。

 

 

(こんな幸せな時間が、もっと続けば……)

 

(今すぐやろうとしていることを止めなさい! まだ間に合うわ!)

 

(もう無理だよ。だって、私が荒魂だってバレちゃったもん)

 

 

 名残り惜しそうに唇を離し、優しく頭を撫でた。

 母が子にやるように、姉が妹にやるように。

 ありったけの愛を込めて。

 

 

「ごめんね、結芽。でもね、継ぎ接ぎだらけの私にあなたは、誰かのために剣を振るう尊さを、誰かに愛される、誰かを愛する嬉しさを教えてくれたの。……私と出会ってくれてありがと」

 

 

 聖や龍雅に貰った愛情は失われ、新しい親の元必死に努力した。

 認められる為に、足りない部分を継ぎ足して、継ぎ足して。

 学校に友と呼べる存在は居らず、ただ剣を振るった。

 友人と絆を育むべき時間全てを剣に捧げた。

 それでも足りなくて、また継ぎ足して。

 その繰り返し。

 

 

 そんな時に出会った運命の人。

 認めてくれて、褒めてくれて、友として愛してくれて。

 百合は嬉しかったのだ。

 

 

「先輩方も、こんな不出来な後輩でごめんなさい。それと、友達になってくれてありがとうございました」

 

 

 真希に寿々花に夜見、可奈美に舞衣、沙耶香に薫、エレンに……ここには居ない姫和。

 百合を変えてくれた人たち。

 優しい人が居て、少し不真面目な人が居て、不器用なくらい真っ直ぐな人が居て、あまり感情を漏らさない人が居て、研いだばかりの刀のように鋭い人が居て…………

 誰もが大切な人で、誰も失いたくない人で。

 

 

 だから、使うことにした。

 もしもの時に用意した、最悪な方法を。

 

 

「夜見先輩、貰いますね?」

 

 

 迅移を使っていないのに夜見の隣に移動し、夜見の制服のポケットからある物を抜き取った。

 それは……

 

 

「あれは、ノロのアンプルか?!」

 

「……すいません。万が一のことを考えて……」

 

 

 夜見が使ってたのを見た事はある。

 だったら、百合が使えない道理がない。

 慣れたような手付きで、首筋にアンプルを持っていき、躊躇いもなく突き刺した。

 

 

「あっ、がぁ、あ゙ぁぁぁー!!」

 

 

 心臓を突き刺された時とは比べものにならない程の熱量が体全体に広がっていく。

 骨の髄から溶けていくような感覚と、神経が焼け爛れていくような感覚が同時にした。

 生命の根本から作り替えられていく、そんな比喩的表現を百合は体感していた。

 

 

 それが終わった瞬間、そこに居たのは……百合ではないナニカだった。

 長い白髪に、先程のままの両目、親衛隊の制服を白と黒、加えて少しの橙色のラインで形成し直した服。

 極めつけは、病的なまでに白い肌。

 

 

「やはりな、我と同格の素質を持っておったか。…我と共に来るがいい、人類に復讐する時だ!」

 

「ごめんですね。生憎、私に人を殺すような趣味はありません」

 

 

 軽口のような言葉を発したその時、百合は迅移を使ってタギツヒメの裏を取った。

 タギツヒメも目見開いたが、またも薄く笑いながら攻撃を繰り出した。

 百合は持ち手を変則的に変えて、タギツヒメの攻撃を尽く受け流し、逆に袈裟斬りを決められる。

 

 

「づぅ…何故、愚かな種である人間の肩を持つ!」

 

「そうですね、人間と言う種は愚かです。醜くて、どうでもいい事で争って、責任を擦り付け合って。でもですね、その中にも居るんですよ。真っ直ぐで綺麗な心の在り方をしている人間が! 確かに、人間は色々な罪を犯した。赦されなくても可笑しくない。だけど、そんな人間を利用した貴方が、彼女たちに愚かだと言うなんて、私は認めない!」

 

 

 認められない、それだけは絶対に。

 

 

「私は、例え世界の敵になったとしても彼女たち(人間)を護り続ける!」

 

「ふっ! 本当に愚かだ。次に会うまでに、もう少しマシな回答を聞かせろ」

 

 

 タギツヒメは吐き捨てるように言葉を残すと、その場を去っていった。

 百合はゆっくりと後ろを振り返った。

 そこに居るのは仲間……だった人たち。

 

 

「……何だか分かんないけどさ。帰ろうよ、ゆり?」

 

「結芽、それ以上来ないで」

 

 

 初めてだった。

 百合に拒絶されたのは。

 胸がキュッと締め付けられる。

 それでも、止まるわけにはいかない。

 ここで手を伸ばさなかったら、きっと自分は後悔する。

 そう、結芽は知っていたから。

 

 

「どう…して?」

 

「私は怪物(荒魂)で結芽が人間(刀使)だから。もう、一緒には居られない」

 

「そんなのどうだっていいだろ! 俺は百合まで居なくなるなんてゴメンだ。さっさと帰るぞ」

 

「そうだよ、帰ろうよ百合ちゃん」

 

「デスネ。帰りましょうゆりりん!」

 

 

 その言葉が嬉しくて、同時にとても悲しい。

 こんな優しい人間と出会うことは、きっと二度とないと思うから。

 ずっと一緒に居たい、離れたくない。

 

 

 けれど、それは許されない。

 

 

「私が、皆さんと一緒に居ることはできません。…実際の所、何時暴走しても可笑しくない状況なんです。暴走した私を、皆さんは殺せますか? 最も、その時の私は既に夢神百合ではなく、大荒魂クロユリですけど…」

 

「形がどれだけ変わっても、ゆりはゆりだよ! だから、私が殺る。本当に危なくなったら私がゆりを殺す」

 

「……何となくそう言うって分かってた。結芽は知らないと思うけど、人を殺した罪悪感ってずっとずぅーっと残るんだよ。私の心にも残ってるよ、結芽を殺した時の罪悪感と後悔。もっと別の方法があったんじゃないか、って? だからね、私は結芽にそんなことして欲しくない。それに、暴走した私を殺せる刀使って、この世界に一人しかいないんだ……」

 

「それが、私?」

 

 

 結芽の問に百合が頷く。

 恐らく、この世界で百合を殺せるのは結芽だけだ。

 可奈美より結芽は弱いかもしれない。

 しかし、結芽に躊躇いはなく、百合のことを思って早く終わらせてあげようとするだろう。

 

 

「……じゃあね」

 

 

 タギツヒメと同じ方法で、百合は消えていった。

 最後に見た顔に涙が流れていたのは、見間違いではない。

 

 

「ゆり…! ゔぅ、あ゙ぁぁ、あ゛〜あ゛〜!」

 

 

 枯れ果てたと思っていた涙は、まだ枯れていなくて。

 止めどなく涙が溢れてきた。

 燕は泣いた、自分の無知を嘆いた。

 

 

 戦いは終わりに向かって進んでいく。

 終わりの先にあるのは、破滅か……はたまた希望か。




 みにゆりつば「好きな理由!」

「ねぇ〜ゆり?」

「なに?」

「ゆりってさ、私の何処が好きなの?」

「…………笑顔が可愛いところとか、困ったことがあるとすぐ、捨てられた子犬みたいな顔で私を見てくるところかな?」

「も、もう良いから!」

「えぇ〜、結芽が聞いてきたんじゃん!」

 この後、何個も好きな所を上げていったら、その日一日口を聞いてもらえなかった百合なのでした。

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 次回からは、こんなミニコーナーがあります!
 シリアスムードをぶち壊すスタイルで申し訳ありません!

 取り敢えず、次回もお楽しみに。

 誤字報告や感想などよろしくお願いします!

結芽の誕生日は……

  • X年後のイチャラブ
  • 過去のイチャラブ

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