百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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 最終話は明日投稿予定です!
 どうぞ最後までお付き合い下さい(最終話で終わるとは言っていない)。


二十四話「夢神百合」

 空が堕ちてくる。

 結芽が外に出て見た光景は、この一言に尽きる。

 あちらこちらに出現している荒魂と、タギツヒメが居るであろうビルの周辺に彷徨く冥加刀使。

 何となく、百合が居るのはあのビルの近くだと感じた。

 

 

「真希おねーさん…」

 

「分かっている。ここはボク達に任せて百合の所に急ぐといい」

 

「そうですわね。衛藤さんと紫様も近くまでは一緒に行くでしょうし」

 

「ご武運を」

 

 

 たった一言で分かり合える関係が心地好くて、ここに百合が居ないのがもどかしい。

 絶対に連れて帰る。

 決意がより一層強くなり、結芽の顔は小悪魔のような笑顔に変わる。

 勿論、簡単に片付くとは考えていない。

 ……出会った瞬間から斬り合いが始まるだろう。

 

 

 それでも…それでも、結芽は連れ戻さなければいけない。

 自分の隣に居るのは、自分の隣に居て欲しいのは夢神百合だから。

 

 

「行ってくる。雑魚荒魂なんかに負けたら許さないからね!」

 

「ふふっ、ボク達をあまり甘く見ないでくれ」

 

「百合や結芽程ではありませんが、できますわよ私たち」

 

「元から、負ける気はありません」

 

(…おねーさんたちが強いのなんて、ずっと前から知ってるよ)

 

 

 口に出さない信頼があった。

 軽口を言い合うことで、絶対に大丈夫だと自分に言い聞かせる。

 結芽は、少しだけ空を見上げてから、走り出した。

 向かう場所はーー

 

 -----------

 

 迫り来る荒魂を斬り捨てながら進んで行く。

 ビルまでの距離はそこまでないだろうが、如何せん障害物が多すぎる。

 半ば荒魂化した百合だったが、根本的なものは変わっておらず、避難し遅れてる人を助けていた。

 荒魂を斬り、冥加刀使も斬り、自分に向かってくる障害全てを斬り伏せる。

 

 

 こんな事をやっていたら何時まで経っても、ビルに辿り着けないのだが、百合は辞めようとは思わなかった。

 無くならない殺人衝動、それに必死に抗いつつ人を助ける。

 穢れに身を堕としても、変わらない優しさ。

 度が過ぎた献身にも見える行為は、傍から見れば英雄だ。

 けれど、彼女は英雄ではなくただの心優しい少女で、本当は………

 

 

「はぁ、はぁ……。あと、もう少し…!」

 

「待って!」

 

 

 聞こえた声は、一番の聞きたかった声で、一番の聞きたくなかった声だった。

 ゆっくりと振り返る、そこに居たのは額に汗を浮かべた結芽。

 余程急いで来たのか、息も絶え絶え。

 …何故、来てしまったのか。

 そう問い質したい。

 

 

 しかし、悠長に語ってる時間はない。

 限界は近付いている、早くタギツヒメと共に隠世の果てに行かなければ。

 

 

(……早くしないと、私が私じゃなくなる前に)

 

(本当にやるのか?)

 

(やるよ。だってそうしないと、私が人類を滅ぼす存在になっちゃうかもしれないから)

 

「結芽、ごめんね。私は先にーー」

 

「ダメ! 行っちゃダメ!」

 

 

 少しづつ、自分の方に近付いてくる結芽。

 写シを張っていない、それを百合は好機と見て御刀を振った。

 だが、結芽は避けようとしなかった。

 頬に小さな切り傷が出来る。

 チクリと、百合の胸が痛んだ。

 

 

 でも、今来させる訳にはいかない。

 避けなければ致命傷になるレベルの斬撃を繰り出す…が。

 またしても結芽は避けず、逆に百合の御刀がギリギリの所で致命傷部分を避けた。

 ありえない。

 

 

 確かに本気で狙った。

 その筈なのだ。

 なのに…なのに…。

 今度はデタラメに御刀を振り始めた。

 変則的に持ち手を変えて、体制や狙い場所も不規則に変えた。

 

 

 けれど、百合の攻撃は尽く致命傷を避けて、かすり傷程度のものにしかならない。

 明らかに可笑しい現象に、百合の方が壊れ始める。

 タガが外れた百合は誤って、結芽の首筋を斬り割くように御刀を振った。

 だが、その攻撃は直撃寸前で止まった。

 

 

「なんで! なんでなの! 憎んで(愛して)るのに、どうして当たらないの」

 

 

 泣いていた。

 違う色の輝きを放つ両目から涙を零していた。

 結芽はそんな涙を指で拭き取り、そっと百合を抱きしめた。

 身長差が少しだけある百合を屈ませて、心臓の鼓動が聞こえるように胸に顔を当てさせる。

 

 

 そして、言い聞かせように言葉を紡いだ。

 

 

「私ね、バカだからさ、ゆりがどんな事を隠してて、ゆりがどれだけ辛かったかとか、全部理解出来た訳じゃないよ? でも、私はゆりに私の隣にいて欲しい、おねーさんたちだってきっとそうだよ」

 

「…………」

 

「…私が好きなのは()()()()なの。人間の…刀使の夢神百合じゃなくて、荒魂としてのクロユリでもなくて、夢神百合って言う存在が好きなの。私のことを何時も想ってくれてて、凄く優しくて、気遣ってくれてる。そんなゆりが好き」

 

 

 百合は結芽の言葉を聞いて、胸から顔を離してずっと逃げていた想いを口にした。

 

 

「私は…荒魂で…結芽は人間なんだよ?」

 

「そうだね。もし、みんながゆりの事を否定したら、私がゆりの事を肯定するよ。もし、みんながゆりの事を祓おうとしたら、私がゆりの事を守るよ。…世界の敵であるゆりを守ったら、私も世界の敵になっちゃうね…」

 

「それは、ダメ!!」

 

 

 声を荒らげる百合を見て、結芽は小悪魔のようにクスリと笑い、続きの言葉を発した。

 

 

「…でもさ、そうなったら昔みたいにずっと一緒だね?」

 

 

 何の根拠もなく、明日がくると信じていたあの頃に戻る。

 喜ばしいことで、悲しいことで。

 百合はもう一度だけ、結芽の胸に顔を押し当てて消え入りそうな声で呟いた。

 

 

「…私、我儘言ってもいいかな?」

 

「良いよ。好きに言えばいい」

 

「私! 私、結芽の隣に居たい! みんなの傍に居たい!」

 

「…………」

 

「やっぱり、私行くよ。やらなきゃいけなとことを思い出しちゃった」

 

 

 そう言って、彼女は立ち上がった。

 姿は、何時もの百合に戻っていた。

 両目の輝きは変わっていないが、タギツヒメたちのような白を基調とした姿ではなく、いつもの夢神百合だ。

 

 

「元に戻ったね」

 

「そうみたい…どうしてだろうね?」

 

「愛の力! だったりして?」

 

「かもね」

 

「…待ってるからね! 隣の場所は空けて、ずっと待ってるから!」

 

 

 遠ざかる愛しい人(結芽)の声を聞きながら、百合は……タギツヒメの元を目指し走り出した。

 

 -----------

 

 フリードマンや紗南、結月達との連絡を終えた可奈美たちは決戦に赴こうとしていた。

 その時、紫のスマホに着信が入る。

 連絡を寄越した相手は……百合だ。

 その場に居た全員が息を呑む、姫和も可奈美たちから事情を聞いているため若干だが警戒している。

 

 

『百合です。紫様でしょうか?』

 

『ああ、私だ。……連絡をしてきたと言うことは、結芽がやってくれた訳だな』

 

『ええ。……今現在、そちらに向かっています。少しだけ待ってください。後、今何階に居ますか?』

 

『私たちが居るのは四八階だ。くれぐれも気を付けて来い』

 

『はい。三分もしないで着くので』

 

 

 ……三分? 

 可奈美たちは困惑していた。

 幾ら百合でも、この階までひとっ飛びとはいかないだろう。

 相当近かったのか? 

 否だ。

 

 

「? 舞衣ちゃん、明眼で百合ちゃんが何処に居るか分かる?」

 

「ちょっと待ってね…」

 

 

 舞衣はガラス越しに外を見渡す。

 すると、飛行タイプの荒魂を足場にしてピョンピョンと跳ぶ、小さな人らしきものが見えた。

 一瞬見間違いかと思い、目を擦る。

 もう一度見ると、それがハッキリ人だと分かり、ついでに百合である事が分かった。

 

 

 これに加えてもう一つ分かったことがある。

 ……百合が御刀を抜いていないのだ。

 写シを張った状態で八幡力を使っているならまだ納得はいく。

 百合ならやれない事はない、そう納得できるだろう。

 だが、現実は違い、写シを張らずにピョンピョンと跳んでいる。

 

 

 百合が人間ではないと、舞衣は今しがた理解した。

 

 

「舞衣? どうした」

 

「姫和ちゃん。あそこにぴょんぴょんって、荒魂を足場にして跳んでいる人が居るの分かる?」

 

 

 舞衣が可笑しくなったのか? 

 そう思った姫和だったが、その思い…もとい考えは杞憂になった。

 

 

「……百合、なのか?」

 

「多分…」

 

 

 他のメンバーも珍しいもの見たさに、ガラスに寄って外を見た。

 百合の姿に唖然としたのは、無理もない話である。

 段々と近付いてくる百合、全員がガラスから距離を取る。

 それを見た百合は、ライダーキックさながらの構えでガラスにキックをかます。

 ガラスはいとも簡単に砕け散り、百合が姿を現す。

 

 

「夢神百合、ただいま参りました!」

 

 

 笑顔で言い放つ百合に若干引いている者も居るが、可奈美は引くことは百合を抱きしめた。

 

 

「百合ちゃん! 心配したんだから!」

 

「可奈美先輩……姫和先輩も居るんですよね?」

 

「私ならここだ。……案外、私たちは似たもの同士だったのかもな」

 

「ですね…。生きていて、本当に…良かったです」

 

 

 一旦可奈美から離れて、姫和を抱きしめた。

 お互い何処かぎこちないが…それでいいのだろう。

 そうして薫やエレンたちとも抱き合い、数分が経過した頃に紫が咳払いをして場を治める。

 

 

「準備は整った。決戦だ」

 

 

 階段を一歩づつ上がり、タギツヒメの元を目指す。

 屋上、そこで待っていたタギツヒメが百合たちに放った言葉はーー

 

 

「気合い充分と言った顔だな。さぁ、この世の終わりを共に見届けようではないか!」

 

「ワァオ、随分人間臭い台詞を言うようになりましたね?」

 

「タキリヒメとイチキヒマヒメを取り込んだ影響かな?」

 

「けど知ってるか? ラスボスってのは倒されるために存在してるんだぜ」

 

「そう、滅びるのはこの世界じゃない。タギツヒメ…あなた!」

 

 

 その言葉を皮切りに、沙耶香と薫が飛び出し。

 続いて、舞衣とエレンがいく。

 沙耶香は無念無想で近付くき背後からの突き、薫は真正面からの振り下ろし。

 それをタギツヒメは、薫の御刀を人差し指と中指を使って受け止め、沙耶香の突きを自分の御刀を合わせることで止めた。

 

 

 動揺した二人を吹き飛ばし、次に来るのはエレン。

 

 

「隙だらけデース!」

 

 

 外れることは目に見えている突き、背後からの気配にタギツヒメは気付いていた。

 エレンの突きは頭を少し逸らすだけで避け、舞衣の背後からの振り下ろしを受ける前に鳩尾に肘打ちを叩き込む。

 

 

「カハッ!?」

 

「づぅ!」

 

 

 倒れる二人。

 紫、可奈美、姫和、百合は四方から囲む様に陣形を組む。

 先に倒されていた四人も加わり、怒涛の攻撃が始まった。

 八人が入れ替わりで攻撃を繰り出す中、タギツヒメは余裕を持って受け流していく。

 

 

 百合は既に悪鬼羅刹を使っている。

 …今の状態の百合に上限時間や、発動条件は存在せず思うままに御刀を振るうが当たらない。

 龍眼での予測はぶつかり合い相殺、剣の技量だけで言えば勝っている筈だ。

 それなのに、一太刀も与えることは叶わない。

 

 

「窮鼠猫を噛む…か。だが、幕引きだ…!」

 

 

 空と…いいや現世と隠世の境界線と繋がっていた、タギツヒメの橙色の糸のようなものが切れる。

 瞬く間に世界が変わる。

 濃い霧のようなものが頭上を覆い、緋色の月が彼女たちを照らす。

 

 

「ここは…?」

 

「現世と隠世の狭間だ」

 

「狭間だと?」

 

「我々がここに取り込まれたと言うことは、境界が地上に到達するまであと数分…」

 

「その通りだ。もはや、現世と隠世が交わるは必定。だが、決着を着けぬまま、お前達を隠世に呑ませてしまうのは如何にも惜しい。残された時間、最期の一瞬まで堪能させて貰うぞ」

 

 

 またしても一瞬で消えかと思いきや、エレンの前にタギツヒメが現れる。

 斬られる。

 エレンがそう思った時、目の前に紺色の髪を靡かせながら、百合が立ち塞がった。

 ギリギリの所で腰を深く落としながら重い一撃を受け止める。

 

 

「迅移?!」

 

「よく動く…、だが次はどうだ?」

 

「ぐっ!」

 

「俺たちも行くぞ!」

 

 

 百合と可奈美、姫和に続き紫以外の全員が三人を追う。

 世界の終わりまで、残り数分を切っていた。

 

 -----------

 

 刀剣類管理局維新派の拠点にて。

 結芽と夜見は荒魂に襲われる一人の女性を見つけた。

 

 

「なぜ、何故だ! なぜ私の元に誰も来ない! 沙耶香! 夜見!」

 

「助ける? 助けない? 夜見おねーさんが決めていいよ? 私、あんまり高津のおばちゃん好きじゃないし」

 

「…でしたら、少し申し訳ないですが。高津学長を助けるのを手伝ってもらえますか?」

 

 

 その夜見の言葉にため息を吐きながらも、結芽は頷き。

 目の前に居た邪魔な荒魂達を斬り伏せていく。

 真希たちも、この騒動を聞きつけたのか合流をしに来た。

 その時には、荒魂は殆ど残っておらず…泣き崩れる雪那だけが居た。

 

 

「夜見…何故来た。私はお前に何も…」

 

「…貴女がなんとも思ってなくとも、私に手を差し伸べてくれたのは貴女だったから。ただ、それだけです…」

 

「…夜見、お勤めご苦労様です」

 

 

 夜見はその言葉に少しだけ微笑んで、雪那をおぶった。

 それを見た一同は呆れているが、何かを言うことはしない。

 

 

(ゆり、大丈夫だよね?)

 

 

 彼女が心配する人物は、今しがだ死闘を繰り広げている。

 本当の死闘を。

 

 -----------

 

 ノロが抱える根源的な孤独。

 姫和は知っていた、いや知ることが出来た。

 御刀で知性を保てないほど切り刻まれれば、再度融合してもそれは記憶も性質も違うナニカだ。

 それは人間で言う死。

 

 

 死の概念がありながら命の輪から外れている。

 それが荒魂でありノロ。

 姫和が語り終えると、百合が前に出た。

 

 

「貴方と同じになって、ようやく分かった。孤独、喪失感、憎悪。貴方を構成する全てが……。私はやっぱり半端者です。人間にもなれず、荒魂にもなれない。片方を助けたら、片方を助けられない。荒魂でありながら荒魂を斬り、荒魂でありながら人間を守る。逆に人間でありながら荒魂を許容し、人間でありながら荒魂を助けたいと思う」

 

「何が言いたい」

 

「…私にはきっと自分がなかった。他人を拠り所にして、誰かのために戦うのを自己欲(エゴ)だと言い張っていた。そんなあやふやで、不定形だった私を、あの子は見つけてくれた。私は私だと言ってくれた…」

 

「百合? まさかお前!?」

 

「私は夢神の刀使だから、貴方と共に行きますよ隠世の果てに」

 

 

 姫和や可奈美でさえ、気付けず置いていかれた。

 永遠に等しい一瞬、その中で動き続ける。

 沙耶香が追いかけようとしたが動けず、姫和と可奈美も動かない。

 千日手の状態が続く中、その膠着状態を破ったのは思いもよらない人物だった。

 深々と胸から突き出た二本の御刀、それが思いもよらない人物のヒント。

 

 

「私のこと、よもや忘れた訳ではあるまい。行くぞタギツヒメ、共に奈落の底まで!」

 

 

 凄まじい突風と光がタギツヒメを中心として放たれる。

 紫が、タギツヒメを隠世に送る役目を変わろうとしたのだ…

 

 

「紫様!」

 

「今度は私の番だ。夢神、私が討ったタギツヒメをお前が抑えろ! それは夢神の刀使であるお前の役目だ!」

 

 

 あくまでも自分が犠牲になり、百合を生かす。

 その覚悟の表れなのか……

 

 

「ゆぅう゛ぅかぁりぃ゛〜!!」

 

 

 タギツヒメの怨嗟の篭った声が届く。

 あと少し、あと少し。

 そう言った所で、光と風が収まってしまう。

 …押し負けた、二十年の時は紫を弱体化させるのに充分過ぎる時間だった。

 

 

「ここまで来て…」

 

「ふっ、お前も人だ。二十年の抵抗の影響は消し難いな」

 

 

 そう吐き捨てるように、タギツヒメの御刀が紫の腹部を貫いた。

 

 

「紫様!」

 

 

 トドメを刺そうとするタギツヒメの御刀を紙一重で受け流す。

 全力の連撃で追い込もうとした瞬間、誰かの声が聞こえた。

 

 

「百合ちゃーん! 百合ちゃーん!」

 

「百合! 百合ー!」

 

「可奈美先輩に姫和先輩?!」

 

 

 何故か空間に白い切れ目が生まれ、そこから可奈美と姫和が同時に飛び出した。

 姫和は上手く着地したが、可奈美は顔面から地面? に激突。

 ……こんな状況なのに、百合は少し笑ってしまった。

 

 

「ここまで、一体どうやって?」

 

「頑張って!」

 

「まぁ、そんな所だ」

 

「それじゃあ、タギツヒメを救いましょうか」

 

 

 怨嗟を断ち切り、彼女を救う。

 想いを込めた御刀は、因果さえ断ち切ることが出来たのだから。

 きっと出来る、百合は信じていた。

 可奈美や姫和の事を。

 

 

「救う……か」

 

「やっぱり、百合ちゃんもそうじゃなくちゃね!」

 

 

 永遠に近い刹那の牢獄。

 それがこの場所。

 彼女を楽しませる、それこそが救いなら叶えなければいけない。

 夢神百合と言う存在の全てで。

 

 

 打ち合い、打ち合い、打ち合い。

 剣戟の果てに…

 

 

「ごめんなさいタギツヒメ、一生ここには居られないかな。だって、私の隣は一生あの子が予約済みだから!!」

 

 

 姫和がやった五段階迅移を完璧な模倣にて、タギツヒメに打ち込んだ。

 それに続く形で、姫和と可奈美が割って入る。

 

 

 この日、世界の終焉が訪れることはなかった。

 

 -----------

 

 あれから、どれくらいの月日が経ったのか。

 暗闇の中を歩き続けるのは些か疲れてきた。

 少しだけ休憩してもいいだろうか? 

 そんな思考を振り払い、必死に二人の名前を呼び掛けながら歩く。

 

 

 結局、百合一人の命では足りず、可奈美や姫和の力を借りてしまった。

 やはり、どこまでいっても半端者らしい。

 一人前になるのは何時になるのか…

 

 

「……可奈美先輩! ……姫和先輩!」

 

 

 届いて欲しくて、声を上げる。

 しかし、無情にもナニカが返ってくることはない。

 

 

 会いたい、会って謝りたい。

 自分がもっと上手くやれていれば、こんなことにはならなかったのだから。

 ……それ以上に、会いたい人が居る。

 申し訳ないと思っていても、それ以上に会いたい人が居る。

 

 

「結芽…会いたいよ…」

 

 

 震える声、頬を伝う涙。

 今にも決壊しそうな孤独感。

 だが、その涙がパタリと止まった。

 御刀の共鳴。

 ナニカがある。

 

 

 走り始めたその先にあったのは…

 

 

「平屋建ての一軒家? …何処かで見たことが…」

 

 

 何処かの並行世界で見た光景。

 木製のスライド式のドアを開けて、中に入っていく。

 馴れた足取りで居間に入ると、そこには正座をしている聖が居た。

 百合に気が付くと顔を綻ばせては、手招きする。

 

 

「久しぶり…でもないか」

 

「……ここは、何処なの?」

 

「うーん、分かんないや。私も初めて来たし」

 

「そっか……」

 

 

 上手く繋がらない会話。

 今の百合は聖に頭が上がらない。

 彼女の存在自体が、聖の信頼を裏切った証拠なのだから。

 

 

「少し、お話しようか?」

 

 

 何処とも知らぬ家で、二人は出会い話を始める。

 ケジメつけるための話を。




 みにゆりつば「ファッションセンス」
 
「ゆりってさぁ、ファッションセンスないよね〜」
 
「そ、そう?そんなにダサい?」
 
「そうじゃなくてさぁ〜、素材を生かしきれてないんだよ!」
 
 
 夢神百合と言う少女は、中学生女子でありながらファッションセンスは皆無である。
 特にファッション雑誌を見ることも無く、ようやく最近マニキュアなどをやり始めたばかり。
 ……刀使として真面目なのは良いが、世間体として今のファッションセンスではいけない。
 
 
 今日のデートだって、上がロングTシャツにカーディガン、下はロングスカートとにショートブーツ。
 一見ダサくないように見えるが、色が絶妙に合ってない。
 ロングTシャツが白なのにカーディガンは緑、加えてロングスカートは茶色でショートブーツは黒。
 
 
 服の買い物くらい一人で出来ると豪語して買いに行った服がこれである。
 ……結芽からしたら、最高の素材を持ってるのに勿体ない、そう言いたい所だろう。
 
 
「決めた!今日のデートの予定変更。映画は後回しにして服を見ます!」
 
「えぇ〜!私、あの映画見たくて今日楽しみにしてたのに…」
 
「はいはい、文句言わない。すぐ済ませるから」
 
「…この前、そう言って三時間は付き合わされたんだけど」
 
 
 恨めしそうな視線を向ける百合。
 結芽は知らん顔をしながら吹けていない口笛を吹いて先を行く。
 
 
「待ってよ、結芽〜!」
 
 
 ……最終的に、服の買い物が終わったのは九時過ぎ。
 五時に来て、六時の回を観るはずだったのだが叶わず。
 九時の回は年齢的に観ることが出来ず、結芽は帰り道で百合のご機嫌をとるので手一杯だったらしい。

 -----------

 次回は殆どオリジナル回になると思いますので、ご自愛ください。
 誤字報告や感想もお待ちしております!
 次回もお楽しみに!

結芽の誕生日は……

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