百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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 それでは、本編をどうぞ!


After3「夢、それは過去の記憶」

 二人して同じ夢を見た。

 ……苦い過去の記憶。

 結芽が入院していた時の記憶だ。

 百合と結芽に切っても切れない絆ができた話。

 

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 結芽が入院して数日が経ったある日。

 百合は今日も今日とて、病院にお見舞いに来ていた。

 彼女が大好きないちご大福を買って、学校から急ぎ足で向かう。

 ……学校に結芽以外の友人が居ない百合にとって、放課後は暇だ。

 剣術の鍛錬も、最近は結芽と一緒じゃないとあまりやる気が出ない。

 

 

 それでも、剣術の鍛錬を休んだことがないのは、彼女の真面目さ故だろう。

 受付で面会手続きを済ませて、病室を目指す。

 腰に付けた二本の御刀が、周りの視線を集めるが百合は特に気にすることなく、病室までの道のりを歩く。

 

 

 結芽の病室は個室で、そこそこの広さがある。

 …実際の所、彼女は話し相手が居ないことに不満を漏らしていたが……

 

 

「結芽〜、来たよ〜」

 

「あっ! ゆり〜! 遅いよ、退屈で死んじゃいそうだったんだから」

 

「ーっ!? …ごめんね、帰りの会が思ったより長くて。代わりにーーー」

 

 

 そう言葉を続けて、いちご大福をベットに付いているテーブルに置く。

 結芽は無垢な瞳を輝かせて、「全部食べていいの?」と、訴えかけてくる。

 無論、そのために買ってきたものなので百合が断る筈もなく、次いでに買ってきた紙コップにお茶を入れてテーブルに置いた。

 

 

「いっただっきま〜す!」

 

「召し上がれ」

 

 

 美味しそうにパクパクといちご大福を食べる結芽を見ながら微笑む百合。

 ……彼女が重病に掛かっているなんて、誰が分かるだろうか? 

 看護婦の中でも、事情をよく知らない者はこぞって言う筈だ。

 

 

「後一週間もしない内に退院するんだろうな」、と。

 

 

 百合自身も、知ったのは偶然だった。

 結芽の主治医の人が彼女の両親と話しているのを、たまたま聞いてしまったのだ。

 

 

「……お子さんの命は良くて一年。そう思って下さい」

 

 

 あまりにも無慈悲な宣告だった。

 まだ幼い百合にとって、余命一年と言うのは最初よく分からなかった。

 家に帰って侍女に余命の事を聞いた時、初めて余命と言う言葉の重大さに付く。

 

 

 この一週間後、百合の無謀な作戦が始まった。

 

 -----------

 

 結芽が入院して三ヶ月。

 未だに欠かさず病院にお見舞いに行っている百合だったが、最近は結芽より百合の方が顔色が悪い。

 少しづつ、本当に少しづつ細くなっていく結芽の体。

 病魔が彼女を苦しめている何よりの証拠。

 

 

 この三ヶ月、百合は結芽のカルテ片手に、近場の病院から片っ端に治せないか当たっていた。

 態々、あまり関係が良くない父に頼み込み、カルテの持ち出しの許可を取ってもらい、手当り次第に病院や医者を当たる。

 この頃には、既に結芽の両親は蒸発していた。

 結芽の私物だけを残して。

 

 

 無責任な親だと怒り狂った。

 しかし、居ない人間に怒ってもしょうがない。

 百合は今日も走る、初めてできた友人の命を繋ぎ止めるために。

 平日も休日も関係なく、ひたすらに走り続けた。

 勿論病院には欠かさず行っているし、結芽と話す時間も一時間以上取っている。

 

 

 その代わり、百合の睡眠時間は急速に減り、一日に五時間ほどしか寝ていない。

 そんな状態に成り果てていた。

 結芽に会う度に、彼女の細くなる体を見る度に。

 どうしようもない吐き気が込み上げてきて、二回に一回のお見舞いでトイレに駆け込んで吐いてしまう。

 

 

「……ゆり? 本当に大丈夫?」

 

「大丈夫だよ。心配しないで。結芽の方こそ平気?」

 

「少し苦しいけど、ゆりと話してるとなんだか苦しくないんだ。不思議だよね!」

 

「そう……だね」

 

 

 平気な筈がない。

 彼女は知っていた、結芽は自分がお見舞いに訪れる少し前に、痛み止めの薬を飲んでいることを。

 彼女は感じていた、最近の結芽の笑顔が心の底からの笑顔じゃないことを。

 

 

 知っていても、どうすることも出来ず。

 百合も作り笑顔を張り付けた。

 今にでも泣き出したい。

 そんな感情を押し留めて、結芽に作り物の笑顔を見せる。

 彼女が好いてくれた顔だったから、彼女にもっと見て欲しくて。

 

 

 百合の少女は今日も、燕に小さな嘘をつき続けた。

 積み重ねた嘘が、罪悪感となって自分を襲うことを、少女はまだ知らなかった。

 

 -----------

 

 結芽が入院して九ヶ月。

 半年以上が経ち、残りの時間は三ヶ月を切った。

 百合は既に医者を回るのを、諦め半分でやっていた。

 残りの時間は結芽が笑顔になれるように使うため、マジックや一人人形劇などを練習して、彼女に見せていた。

 

 

 ここ数ヶ月、結芽はあまり笑わなくなった。

 百合が来る度に、パパとママはいつ来るの? 

 そう聞いてくる。

 

 

「今日のはどうだった? 前よりは良くなったと思うんだけど」

 

「…………ゆり。パパとママはいつ来るの?」

 

「そ、それは…きっと結芽の治療費のために頑張ってるんだよ! 病気が治ればすぐにーーー」

 

「もう何度も聞いたよ!!」

 

「ご、ごめん……」

 

 

 友人である結芽に初めて浴びせられた怒声だった。

 百合は気まずそうな顔をしながら、イスを立つ。

 これ以上ここに居ることは、彼女を傷つけることに他ならない。

 九ヶ月前から変わらない生活サイクルの所為で、疲弊している体を引きずって、フラフラとした足取りで病室のドアに手を掛ける。

 

 

「今日はもう…帰るね」

 

「待っーーー」

 

 

 百合は結芽の言葉を聞かずに病室を出た。

 拗れ始めた関係の中でも、二人はお互いを想っていた。

 だが、無情にも残された時間は減っていく。

 百合が初めて結んだ縁という名の糸は、救いようがないほどに解けかけていた。

 

 -----------

 

 結芽が入院して約一年。

 先日聞いた話によると、結芽の残った時間はあと三日らしい。

 彼女の両親が蒸発してから、百合の両親が保護者代わりになっている。

 それのお陰で知ることが出来た情報。

 

 

 結局、百合はこの約一年間で結芽を救う方法を見つけ出すことは出来なかった。

 だが、結芽がが助かる道はまだ残っている。

 体内にノロを入れること。

 ノロを入れることで延命に繋がり、その延命によって生まれた時間で彼女の病気を治す方法を探す。

 

 

 ノロをそうやって利用することを百合は許せない。

 ……許せないが、結芽を助けるにはそれしかないのだ。

 結芽は覚悟を決めている。

 後は、百合が背中を押せばいいだけ。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 無言。

 静寂が病室を支配する。

 背中を押す、それさえ出来れば今まで通り結芽は自分の傍に居てくれる。

 …分かっている、分かっている筈なのに。

 口が開かない。

 

 

 結芽も結芽で、そんな百合を知っているからこそ口を開けない。

 口が開かない、だったらどうするか? 

 決まっている。

 行動で示すのだ。

 

 

 イスを立った。

 結芽は痩せ細った体をベットの機能で起こす。

 ゆっくりと近付いて、触れただけで折れてしまいそうな体を壊さないように優しく、居なくならないように強く抱き締めた。

 

 

 その時、結芽が口を開いた。

 

 

「ありがとう。ゆり。……私のために頑張ってくれてたんだよね? 凄く、すっごく嬉しかったよ。だからーーー」

 

「言わなくていい。言わなくていいから…!」

 

 

 頑張りを知っていた。

 作り笑顔も分かっていた。

 辛さも、苦しさも、悲しさも、全部知っていたし分かっていた。

 自分を抱きしめてくれる少女に、愛おしさを覚える。

 

 

 こんなにも自分を想ってくれる人は、この世に二人と居ないだろう。

 そう思わせるような、百合の献身。

 強くなりたい、そう思った。

 忘れられないほど強く、誰かの記憶に刻み込まれるように。

 そして、何時か……泣いているこの子(百合)の涙を拭ってあげられるように。

 

 

 この日、結芽はノロを体内に入れることを決意した。

 

 -----------

 

 長い夢を見ていた。

 昨日の御前試合の後、夜遅くまでデートの話をしたのが原因だろう。

 隣に居る愛する人(百合)を見つめる。

 何故か泣いていた。

 理由は分からないが、悲しそうな表情で涙を零していた。

 

 

「今なら、ちゃんと拭えるよ」

 

 

 そっと零れる涙を拭い、悪戯におでこに口付けをした。

 その後は、小悪魔のように微笑みながら百合を起こす。

 

 

 久しぶり慌てる百合を見て、朝から結芽が大爆笑したのは別のお話。




 みにゆりつば「お酒は二十歳になってから!」

 甘酒、人生に一度は飲んだこともある人は居るだろう。
 ノンアルコールのものとアルコールが少量入ったものの二つがある。
 今、百合と結芽の目の前にあるのは明らかにアルコールが入ったものだった。
 アルコールは少量なら体に良い……が、彼女たちはまだ中学二年生。
 
 
 幾らアルコール度数が低いとはいえ、少量でも入っているのを飲むのは不味い。
 だが、飲まなければならない。
 何故なら……
 
 
「すごーい!姫和ちゃんが三人も居る〜!」
 
「か、可奈美!私は一人だ!と言うか、甘酒のアルコール度数は一%未満だぞ!普通酔わないだろ!」
 
「………………」
 
「さ、沙耶香ちゃん?!そのぉ、ずっと抱き着かれるのはさすがに暑いんだけど……じゃなくて!大丈夫、もしかして酔っちゃったの?」
 
 
 可奈美は言ってることで分かるレベルで酔っている。
 顔は真っ赤に染まっていることが余計に分かり易い。
 逆に沙耶香は何も言わずに、ただただ舞衣に抱き着く。
 こちらは顔が普段のままなので分かり辛い。
 他にも……
 
 
「畜生がァ!!あんの腐れ本部長め!俺が何したって言うんだよ!いつもいつも、面倒な仕事吹っかけやがって!」
 
「まぁまぁ、薫。落ち着いて下さいヨ?」
 
「真希さんはズルいです……。いつも私を…」
 
「寿々花だって、ボクを惑わせるじゃないか?」
 
 
 薫はブラック会社の社員並に、上司の愚痴を零す。
 真希と寿々花は超えてはいけない一線を、百合たちの寝室で超えようとしていた。
 カオス……あまりにもカオスだった。
 唯一、夜見だけが難を逃れておにぎーーーおむすびをもぐもぐ食べている。
 
 
 ほぼ全員が飲んでいてこの有様。
 ……百合はため息を吐きながらも、結芽の分の甘酒も一緒に呷った。
 一気に飲み過ぎた所為なのか、異様にアルコールが早く回る。
 本来なら、体内に居るクロユリが飲んだ甘酒を勝手に飲むのだが……
 
 
(言い忘れていたけど、私アルコール嫌いだから飲まないわよ?)
 
(それ、もう少し早く言ってよ……)
 
 
 火照る体。
 アルコールの所為か、体中が暑い。
 着ていたパジャマを脱ぎ出した百合。
 それに一拍遅れて、結芽が反応した。
 何とか脱がせないように止めようとするが……
 
 
「ゆめぇ、暑いの。暑くて暑くて堪らないの、だがら……」
 
 
 酔っ払った所為で少し扇情的になった百合は、結芽の理性を溶かすような声で呼びかける。
 理性と欲望の狭間で、揺れている結芽を現実に引き戻したのは姫和だった。
 
 
「燕!百合を脱がせるな、大惨事になるぞ!」
 
「わ、分かってるよ!」
 
 
 危うく、百合の黒歴史がまた生まれる所だったが、何とか阻止されて事なきを得た。
 
 
 今回総じて分かったことは……お酒は二十歳になってから。
 この一言に尽きる、そうホライズン同盟の一人、ヒヨヨン・ザ・ナイペッタンは語っていた。

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 新しく始めましたので、時間があれば読んでやってください。
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結芽の誕生日は……

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