百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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 今回は少し文字数少ないです。


After4「親と言う存在」

 御前試合から数日経ったある日。

 久しぶりに休暇の取れた二人は、実家に帰省していた。

 ……実家に帰省と言っても、百合の帰省に結芽が付いてきただけなのだが。

 

 

 実家は京都府美山町にあり、立派な武家屋敷だ。

 所々現代風に改築されてはいるが、大元の形は崩されていない。

 部屋数は……百合自身も知らない。

 広い庭園に、少し古びた倉庫、道場なども建てられている。

 庭園の手入れや家事、侍女の数もそれ相応に居る。

 

 

 帰省の連絡は入れてあるが、家の門の前で無性に緊張していた。

 強ばった体に喝を入れるように、結芽が後ろから背中を叩いた。

 

 

「大丈夫! 私が居るよ?」

 

「ありがとう。……よし…!」

 

 

 インターホンを鳴らして数秒待つと、声が返ってくる。

 懐かしい声に、どこかホッとした。

 

 

『百合お嬢様ですね? 少々お待ちを』

 

『急がなくて結構ですよ。小林さん』

 

 

 数分もしない内に門が開いた。

 門から玄関までの道のりは約五分も掛かる。

 偶に感じる不便さを懐かしく感じた。

 

 

 そして、門を開いた先には、白を基調とした給仕服に身を包んだ小林正子(まさこ)が居た。

 凛とした表情と、年齢の老けを感じさせない艶のある肌。

 綺麗な黒髪と夜空色の瞳は、給仕服に大変似合っている。

 

 

「お久しぶりでございます、百合お嬢様」

 

「こちらこそお久しぶりです、小林さん。……あっ、この子が私の友人で、今日ここに泊まる燕結芽です」

 

「ど、どうも、燕結芽です」

 

「燕様ですね。お話は聞いております。大変仲がよろしい友達が出来たと」

 

 

 若干緊張している結芽を気遣う優しさは健在のままらしい。

 昔も、親とあまり上手くいってなかった百合を慰めてくれた。

 乳母のような存在だ。

 その後は、流れるように誘導されて、居間で待っている両親の元に通された。

 

 

 荷物を正子に渡し、自室に持って行かせる。

 居間に居るのは、両親と百合と結芽の四人だけ。

 侍女は居らず、母親である夢神漣音(さざね)が飲み物をお盆に持って運んで来た。

 正子と同じく、歳を感じさせない美しい肌。

 童顔故か焦げ茶色の髪に栗色の瞳は、幼さを際立たせている。

 

 

 逆に父親である夢神(れい)は、厳格な表情で百合と結芽の二人を見ている。

 聖と同じく紺色の髪に薄茶色の瞳。

 二人が兄妹だと言うことを嫌でも教えてくれる。

 

 

 向かい合って十分、短いように見えて長い時間が流れた。

 片やかつて自分を化け物と蔑んだ母親、片やかつて自分に不干渉だった父親。

 何を話せばいいかなんて、分かるわけがない。

 ……だが、目的があるので話しは進めなければいけない。

 凝り固まった雰囲気の中、百合は進んで話し始めた。

 

 

「お久しぶりです。お父さん、お母さん。……この一年、色々なことがありました。自分のことを、夢神家のことを初めて理解出来た気がします。……私の本当のお父さんとお母さんのことも」

 

「そうか、聖や龍雅君のことを知ったか。…時間の問題だったが、それが分かったなら私たちをお父さんやお母さんと言う必要はーー」

 

「あるよ。…私を育ててくれたのは紛れもなく二人だから。私を産んで愛してくれたのはお母さんやお父さんだとしても、今の私を作ったのは間違いなく二人。だから、この呼び方は続ける」

 

 

 あまりにも強引で、力強い物言い。

 その言葉に、参ったと言わんばかりに、礼は手を挙げた。

 厳格そうな表情はもうなく、不器用な笑みを見せていた。

 

 

 その後、二人から謝られたが、百合は何でもないように許した。

 何故なら、前提が違うのだ。

 最初から百合は怒ってなどいない、ただ……

 

 

「謝るのはいいから……。褒めて欲しい、認めて欲しい、私が二人の娘だって」

 

「…お前は自慢の娘だよ。聖と龍雅君の愛の結晶で、私たちの娘だ」

 

「そうよ。本当に自慢の娘だわ」

 

 抱きしめながら頭を撫でられる。

 心が温まる、未だヒビの入った心が少しづつ修復されていく。

 結芽は少しだけ不機嫌そうだったが、百合の幸せそうな表情を見て、悪戯をする気は失せた。

 

 

 話しは進み、二人に跡取りが居ないことから百合が暫定的に、夢神の当主になることが決まっていると報告を受けた。

 分家、もとい親族の方にも女子は居て刀使でもあるが……

 如何せん百合と比べたら差があるし、本家の子である百合が選ばれるのは必然だ。

 

 

 だが、百合はここで一つ爆弾発言にも等しい言葉を放った。

 

 

「二人共、落ち着いて聞いて欲しいの」

 

「どうした?」

 

「何かあるの? もしかして、当主になるのが嫌なの?」

 

「違うよ。当主なるのは構わない。…そのね、今…私と結芽は真剣にお付き合いしているの!!」

 

 

 礼と漣音がフリーズした。

 オマケに結芽もフリーズした。

 流石にここで暴露すると思っていなかったのだろう。

 三人がフリーズした中、何か不味いことを言っただろうか? 

 そう考える百合に、結芽が声を荒らげた。

 

 

「ゆり! それは今言わなくていいでしょ!」

 

「えっ? でも、報告はキチンと……」

 

「夢神家の当主になるって話してるのに、私たちの関係話したら事実上の跡取り産まれない発言してるのと同じじゃん!!」

 

「あっ……あーー!!」

 

 

 今更気付いたのか叫ぶ百合に、礼と漣音はクスリと笑った。

 結局、帰省中散々弄られて顔を真っ赤にしながら生活を送る百合だった。




 みにゆりつば「キスの味」
 
 キスはレモンの味がする、とはよく言ったものだ。
 結芽は常々そう思っていた。
 何せ、何回キスをしてもレモンの味なんてしやしない。
 この世の甘味を全て足しても届かない程の甘さ、それが彼女が感じるキスの味。
 
 
 彼女にとってのキスは、この世に存在する最高の甘味を食しているのと変わらない。
 夢神百合と言う最高の甘味。
 一口食べただけで病み付きになる。
 そして、今日今日とて唇を重ねた。
 
 
 するのは慣れても、どうしようもない幸福感には慣れない。
 寝る前にするキスが、段々と違う物になっているのを最近感じる。
 
 
「ん……はぁ……ぁ」
 
 
 僅かに漏れる吐息。
 暗闇の中で見えないが、さぞかし蕩けた表情に違いない。
 百合のそんな表情を見るのが、最近の楽しみの一つでもある。
 昔から、百合の表情を見るのは好きだが、自分の行動によって変わる表情は見てて飽きがこない。
 
 
 彼女も彼女で、キスの味を知っている。
 無我夢中で貪りたくなるような、少しだけ癖のある味。
 何度でも求めたくなるような……
 
 
「ゆり?」
 
「もう一回だけ?ダメ……かな?」
 
 
 増えていくキスの回数。
 変わっていく感覚。
 
 
 唇を重ねる、この行為が何処までも相手を愛おしくさせる。
 ……一線を超える日は、そう遠くないのかもしれない。

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結芽の誕生日は……

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