百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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 二週間も投稿を開けてしまってすいません!
 お待ちした方も多いと思いますが、今後も少し投稿の間が開くと思います。

 偶に確認する程度にしてもらえると助かります。


After6「咲いて散る火の花」

「夏祭りの巡回任務…ですか」

 

「ああ、そうだ。夏祭りぐらい普通に過ごしもらいたいが、荒魂は空気を読める訳ではないからな…」

 

「えぇ~! その夏祭りって、私とゆりが行こうとしてたやつじゃん! 真庭のおばさん、狙ったでしょ!」

 

 

 ぶーたれる結芽を他所に、百合と紗南は話を進める。

 指令室の中は、涼しいが空気はどんよりと重い。

 何せ、作業をしている職員達の殆どが二徹を超えて働いている。

 空気が重くなるのも当たり前だろう。

 百合や結芽が居るお陰で、何とか空気は軽くなりつつあるが……それがいつまで持つか……

 

 

「任務は構いませんけど…。参加可能な刀使の数は?」

 

「……悪いんだが、そこまで多く出せなくてな。お前達を含めないとあと三人程度だ」

 

「最ッ悪! せっかく頑張って任務こなして、休みを作ったのに~~!!」

 

 

 結芽は休み返上の任務に怒り心頭。

 百合も若干嫌そうな顔をしている。

 …ブラックな国家公務員と言えど限度がある。

 薫がいつものブラックブラック言っている意味が、彼女たちはようやく分かった。

 

 

 最終的に任務は泣く泣く受けることになり、休日だった筈の翌日に任務地である夏祭りが行われる場所に向かった。

 

 -----------

 

 任務当日の昼過ぎ、祭りはまだ始まっていないと言うのに人盛りが出来てきた。

 浮かれている者も多く、浴衣姿の人が目立つ。

 結芽と百合は羨ましそうにそれを見つめていた。

 年頃の少女にとって、浴衣は何度着ても新鮮さがあるものだ。

 

 

 日頃から非日常に浸かっている彼女たちからしたら、浴衣を着て夏祭りを楽しむと言うのは娯楽の中の娯楽と言っても過言ではない。

 そんな二人の肩を、ポンポンと誰かが叩いた。

 叩いたのは……

 

 

「百合ちゃんに結芽ちゃん、そろそろ巡回始めよう」

 

「美炎先輩、すいませんぼーっとしてしまって」

 

「はぁ、荒魂ちゃんはまだかよ。早く来ねえかなぁ」

 

呼吹(こふき)さんだけですよ、荒魂が出て喜ぶのなんて」

 

清香(きよか)おねーさんは戦うの嫌なんだっけ? だったら後ろに居て良いよ。私とゆりだけで充分だし」

 

「あぁん!? 結芽てめぇ、あたしの楽しみをとってじゃねぇ!」

 

 

 チグハグなメンバーだが、個々の戦闘力は折り紙付き。

 荒魂に対して無類の強さを誇る七之里(しちのさと)呼吹。

 持続的な集中力さえあれば、可奈美や結芽とも渡り合える可能性を持つ安桜美炎。

 天才的なセンスの持ち主である六角(むすみ)清香。

 ミルヤのような司令官さえ居れば、彼女たちは最高のパフォーマンスを披露するだろう。

 

 

 だが、残念なことにミルヤは居ない。

 今回の巡回任務の隊長は百合である。

 不安はあるが、やれることをやるだけだ。

 

 

「…ふぅ」

 

 

 少し息を整えて、落ち着いた口調で言葉を紡ぐ。

 

 

「皆さん、よく聞いて下さい。これからの巡回任務にあたって、注意しなければいけないことが二つあります。一つ目は夏祭りに来た人たちの安全確保です。荒魂を見つけた場合、可及的速やかに避難誘導を行って下さい。勿論、全員でやる必要はありません。誰か一人でも良いので避難誘導をして、それ以外は荒魂の討伐。…二つ目、これが一番重要です。出店に被害を絶対に出さないでください。もし被害にあった出店があると、夏祭りに来た人達は相当悲しみます。絶ッ対に死守して下さい」

 

 

 ……二つ目は大分私情が混ざっているがしようがない。

 何故かと言うと、巡回任務が終わればその後は好きにしていいのだから。

 清香と美炎はうんうんと頷いていたが、呼吹は面倒臭そうにへいへいと言葉を返すだけだった。

 

 

 その後、二組に別れて巡回を行い、五周して異常がなかったら任務は終了。

 御刀は帯刀したままだが、夏祭りに参加していいと言われている。

 荒魂の所為で折角のデートをぶち壊されたことに殺気立っている結芽は、周囲に気を張り巡らせている。

 さっきの呼吹との言い合いもそれが原因だろう。

 

 

 だが、拍子抜けのように…時間は何事もなく過ぎていった。

 時刻は四時すぎ、休憩も込みでこの時間だ。

 残り最後の一周。

 辺りは人盛りが凄まじく、手を繋いでいても人混みに揉みくちゃにされてしまう。

 喧騒も高まっているので、荒魂を探すのも一苦労。

 

 

 こんな所で御刀を抜く訳にはいかないが、一度この人混みを出なければ見つけられるものも見つけられない。

 百合は溜息を吐きながら、あまり使いたくない荒魂の力を使う。

 御刀を抜いて八幡力を使っていないのにも関わらず、彼女は八幡力と同等かそれ以上の力でその場を脱した。

 

 

 そして、丁度それを狙ったかのように百合の中の第六感にも等しい感覚が、荒魂が出現したことを知らせる。

 それと同時か少し遅いタイミングで、スペクトラムファインダーにも反応が現れた。

 

 

「ゆり、荒魂が!」

 

「分かってる、悪いけどこのまま行くよ!」

 

 

 御刀を抜いている暇はない。

 結芽の首裏と膝裏に腕を通して、お姫様抱っこをして荒魂が出現したであろう場所に向かう。

 

 

(…荒魂の数は…)

 

(七体ね、あんまり多くもないし、強い訳でもない。ちゃっちゃと終わらせなさい)

 

(言われなくても…!)

 

 

 百合は荒魂を視界に捉えると、結芽のお姫様抱っこするのを止めて荒魂に向かって投げた。

 

 

「ごめん!」

 

「ちょっ! こんなの聞いてないんですけど~!」

 

 

 いきなり投げとばされたにも関わらず、結芽は柔軟に対処した。

 御刀を抜いて写シを張り、着地地点にいる荒魂に向かってニッカリ青江を振り下ろした。

 残り六体。

 百合は辺にいる人たちの避難誘導を優先。

 十分もしない間に、荒魂の討伐は終わったが……

 

 

「ゆ~り~!」

 

「ご、ごめんって。被害が出る前に抑えたくて…」

 

「何も投げることないじゃん! 私じゃなかったら大怪我だよ!」

 

「それは…結芽を信頼してたから。結芽だったらやってくれるって信じてたから…」

 

 

 モジモジしながら呟く百合に、結芽は流されてしまう。

 いつも姉のような百合の、こう言う姿には弱い結芽だった。

 

 -----------

 

 巡回任務終了後、美炎たちとは別れて夏祭りを回る二人。

 チョコバナナや綿あめを買ったり、射的や金魚すくいをしたり。

 充実した時間を過ごした。

 二人で手を繋ぎながら祭りを回るなど数年ぶりで、百合は心なしか浮き足立ってしまう。

 

 

 それを結芽が感じ取れないなんてことはなく、優しく手を握った。

 時刻は七時過ぎ、出店の提灯のお陰で暗くはなく、煌びやかな光が辺りを包んでいる。

 

 

「楽しいね、ゆり」

 

「そうだね。…あっ! そろそろ花火が始まっちゃうよ。場所取りに行かないと」

 

「だいじょーぶ! 私が事前にリサーチしてたから、穴場は見つけてあるよ」

 

「結芽~! 大好き!」

 

 

 何時にもなく年相応にはしゃぐ百合。

 夏祭りに限らず、祭りと言うのは人の心を昂らせる。

 大人も子供も、みんな揃って笑う。

 それが、祭りと言うものだ。

 

 

 結芽が連れてきた場所は本当に穴場で、人もあまり見当たらない。

 着いて数分もしない内に、花火が上がり始めた。

 

 

『たーまやー!』

 

 

 声が重なる瞬間が愛おしく感じて、さっきまで握っているだけだった手の指をお互いに絡めた。

 肩を寄せあって、打ち上がる花火を見つめる。

 百合は百合の花が描かれた黄色い浴衣を着て、結芽は巣から飛び去る燕が描かれたピンク色の浴衣を着ていた。

 

 

 百合が結芽の浴衣を、結芽が百合の浴衣を選んだ。

 一も二もなく決めて、せーので見せあった。

 驚く程に似合っていて二人で褒めあったあと、回り始めて今に至る。

 

 

 数秒だけ咲いて散る火の花。

 百合は少しだけ昔の自分を思い出した。

 結芽の為だったら、この身を懸けても構わないと思っていた自分を。

 

 

 でも、それは間違いで。

 結芽は自分に、隣に居て欲しいと思っていた。

 

 

(…私は隣に居ていいんだよね?)

 

 

 思ったことが顔に出ていたのか、結芽は百合の前に回っていた。

 不機嫌なのか小悪魔のような笑みで、こう言った。

 

 

「私との約束、忘れてないよね?」

 

「勿論、忘れてないよ」

 

「だったら、そんな顔しないの。…私の隣は一生分ゆりに上げたんだから」

 

「…うん」

 

 

 微笑んだ百合の唇に、結芽は自分の唇を重ねた。

 少女漫画であるような、花火を背景にする口付け。

 短い時間なのに、何時間も時が流れたような…そんな感覚がした。

 

 

「花火、綺麗だね」

 

「ゆりの方が綺麗だよ」

 

「結芽の方が可愛いよ」

 

 

 出てきた言葉に、二人してクスクスと笑った。

 夏も終わるその日、関係は変わらないままに時は進む。

 今年の夏は例年に比べて熱い(厚い)夏だったと、百合は後に語っていた。

 

 

 




 みにゆりつば「ポッキーゲーム」

 ポッキーゲームとは、一本のポッキーを二人が両端から食べていき、どこまで近づけるかというもの。
 先にポッキーを折った方の負けである。
 特にやることがなかった結芽が持ちかけた勝負であり、百合が受ける義理もないのだが……


 百合に受けないと言う選択肢はないらしく、笑顔で了承した。
 この時、結芽はまだ知らなかった。
 自分がポッキーごと美味しく頂かれるなんて……


「じゃあ、よーいドン! でスタートね」

「良いよ」

「よーい……ドン!」


 二人が同時に両端からポッキーを食べて、顔を近づけて行く。
 結芽は近付けは近付くほど、百合の端正な顔立ちに見惚れていってしまった。
 中々に、こうやってじっくりと顔を見る機会はない。
 あるにはあるが、その時は結芽の調子が乗っているため、そのまま口付けまで運べてしまうのだが……


 何故か、今回に限ってそんなことはなく、みるみる内に顔が赤くなっていく。
 茹でダコよろしく赤くなった顔のまま、お互いに近付いていく。
 そして、ポッキーを食べ切り唇が重なった瞬間、百合が貪るように口内に舌を入れて絡ませた。


「んん!? ん~~~~!!」

「んんぅ」


 ……唇が離れると、二人の顔の間に糸が垂れる。
 何時もとは違う百合のギラついた目付き。
 今日組み敷かれるのは自分だと、結芽は悟った。


 そして翌日、首筋辺りに絆創膏を貼った結芽と百合が仲良く歩いていたのは、また別の話である。

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