投稿がギリギリになってしまって申し訳ありません!
イチゴ大福ネコの楽園。
そう書かれた看板の下にある入場ゲートを潜ると、上下左右どこを見渡してもイチゴ大福ネコで溢れた楽園があった。
上の空にはイチゴ大福ネコの形をした飛行船が飛んでおり、下の地面には所狭しとイチゴ大福ネコが描かれていた。
右を見渡してもイチゴ大福ネコの着ぐるみ、左を見渡してもイチゴ大福ネコの着ぐるみ。
楽園と言う言葉が本当に似合うテーマパークだ。
そんな場所を、百合と結芽は二人で訪れている。
御前試合が終わった日の夜に話した場所に、まさか数ヶ月の遅れを持って来ることになるとは思わなかっただろう。
現に、百合はもう少し早く行くものだと思っていたが……如何せんイチゴ大福ネコの楽園はチケット予約制のテーマパーク。
この時期になるまでのチケットが完売していたのだ。
一応予約はしたが、結芽はすぐに行きたいと駄々を捏ねた。
しかし、そう簡単に物事が進も事はなく、結局、任務に忙殺されていた。
だが、最近になってようやく時間に空きが出来始めたので、予約したチケットを使いデートに来ていたのだ。
残暑が続く九月上旬、百合の服は結芽が監修したものなのでオシャレなJC風になっていた。
白を基調とした丈が膝下五センチ程のワンピース、胸元にやや主張強めな蝶々結びのリボンが付いている。
そして、それを隠さない程度に薄めの茶色いカーディガンを羽織っていた。
結芽自身は百合と合わせるように白を基調としたワンピースを着ており、麦わら帽子を被っている。
身長は少しばかり百合の方が高いので、仲の良い友達か一見姉妹に見えなくもない。
何故か分からないが、周りからヒソヒソ声が聞こえてくるのは気の所為だろう。
「ねぇ、あの子達って…」
「嘘、そんな訳ないでしょ。あんな有名な刀使の子がこんな所に居るわけないじゃん!」
「写真撮ったら怒られるかな?」
「辞めとけ辞めとけ。俺もお前も死にたくないだろ?」
…半分荒魂になった百合の耳にはハッキリと聞こえているが、結芽は気付いていない様子なので彼女は無視をした。
流石に写真を撮られたら消しに行かなくてはいけないが、そんなこと本当にする人など滅多に居ないだろう。
「ゆり! ゆり! あれから乗りに行こうよ!」
「どれ?」
結芽が指を指していたのはメリーゴーランドだ。
…本来馬車やらなんやらがある筈だが、全てイチゴ大福ネコになっている。
可愛いと言われれば可愛いが、乗ると言う行為に若干の罪悪感を覚えそうだ。
……結芽は違うらしいが。
百合は手を引かれるままに、次々とアトラクションを楽しんでいく。
メリーゴーランドから始まり、ジェットコースター、
レストランで休憩を挟んだが、そこでもイチゴ大福ネコ祭り。
結芽頼んだパンケーキは、イチゴ大福ネコの顔を模したものが出されるし、デザートのアイスもそうであった。
百合が頼んだハンバーガーのパンズに至っても、イチゴ大福ネコの顔を模したものが出された。
「…少し食べ辛いね」
「でもでも、すっごく可愛い! 最っ高!」
「そっか、なら良かった」
食べ辛かったが、結芽が嬉しそうならそれでもいいかと百合は思っていた。
デートはまだ続く。
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時刻は夕暮れ。
締めの観覧車に乗りながら、夕日が落ちるのを見届けるように景色を見渡す。
「夕日って案外綺麗だね」
「案外は余計。いつも綺麗だよ」
「…ゆりは今日楽しかった?」
「うん。結芽と一緒にデートできて楽しかったよ」
屈託のない笑みで答える百合。
そんな恋人の顔を見た結芽の心臓は、ドキドキと高鳴る。
その笑顔が見たかった。
今日はその笑顔になって欲しかった。
楽しいのが自分だけじゃなくて良かった。
言いたいことが溢れてきて、結芽は上手く喋ることが出来なかった。
思った事を、素直に、言葉にしたい。
今までだったら出来たーーいや、出来ていた。
でも、百合の事を好きになれば好きになるほど、結芽は偶に素直に想いを口に出せずにいた。
偶にが増えてきて、もしかしたら全然言えなくなってしまうのではないか?
そう思うと凄く怖くて…病院で一人ぼっちだった時を思い出す。
看護師の人がヒソヒソと噂する声が嫌で、必死に耳に手を当てていた。
(やっぱり、どれだけ強くなっても……変わってないや)
変わらなかった、変われなかった。
一度知ってしまったら、変わることなどできなかった。
恐怖は人を変える、簡単に変えてしまう。
けど、この想いを口にしないのが嫌で…一歩踏み出した。
「その笑顔が見れて良かった、その笑顔になってくれて嬉しかった。……今日はその笑顔になって欲しかったから」
「結芽…」
「あぁ、うぅ……そんな目で見ないでよっ! やっぱり今の言葉取り消し!」
結芽の素直な想いは、百合にとって効果抜群らしくあまりの喜びからか瞳をうるうるとさせていた。
百合のそんな反応は予想していなかったのか、恥ずかしくなった結芽は耳まで顔を赤くしながら俯く。
我慢が効かなくなるのも時間の問題なのか、対面に座っていた筈の百合はそっと結芽の隣に座って包み込むように手を握った。
小さくて、柔らかくて、温かくて、赤ちゃんの手を握っているかのような感覚がある。
この手が、自分を救ってくれたのかと思うと、とても愛おしく感じて胸に手を寄せた。
結芽は結芽で、手に当たる水枕のような柔らかい感触に、先程から高鳴っていた心臓が更に高鳴っていくのが分かった。
「結芽、ドキドキしてる」
「…してない」
「嘘。……だって、私もドキドキしてるから」
「…してない」
「…じゃあ、私が勝手にキスしても…ドキドキしない?」
「そ、それは…」
結芽の返しに、クスクスと笑う百合。
恨みがましい視線を送るが意味は無いらしく、優しそうな笑顔で見つめてくる。
…もう、嘘なんて言える訳はなくて。
ポツリと言葉が漏れ出した。
「…してる。ドキドキしてる」
「うんうん。最初からそう言ってくれれば良いのに」
「だって…何だか恥ずかしくて」
「私たちの間に、今更見せて恥ずかしいものなんて無いでしょ?」
「そうだけど…恥ずかしいものは恥ずかしいの!」
怒った口調の結芽と、優しい笑顔を絶やさない百合。
彼女たちはいつも違う表情を見せ合う。
同一人物なのに、毎日違う人間のような変わりよう。
だが、本当は違う。
変わっているのではない、本当の自分たちを出し合っているだけなのだ。
「ねぇ…観覧車でのキスってどんな感じなんだろうね…」
「私に聞かれても…試してみる?」
「良いの?」
「良いよ、私は」
「じゃ、じゃあ…」
ドラマのようなロマンチックな感じは、背景である夕日ぐらいしかなくて、それでも温かいものが流れ込んでくる。
愛が、好意が、お互いの中に流れ込んで行く。
一瞬はあくまでも一瞬で、永遠なんかにはなりはしない。
だからこそ、何度も唇を重ねた。
温かい想いが、もっともっと欲しくて。
観覧車が下に降りきるギリギリまで、繰り返した。
観覧車を降りてから、二人はポツポツと少しの会話をしながら帰って行った。
このテーマパークは最高に楽しかったが…今は他にやりたいことが…したいことがある。
腕を組んで、指をしっかりと絡めて。
少し顔を近づければすぐにでもキスができる程の距離で、歩いて行く。
翌日、二人が寝不足に悩まされたのは言うまでもない。
みにゆりつば「タピオカチャレンジ…」
「本日五人目のタピオカチャレンジ挑戦者は!夢神百合~!」
「頑張って、百合」
「…いや、ごめん。状況が全く理解できないんだけど?」
執務室で任務を終わらせた百合が自室に戻ると、やけにハイテンションな結芽といつも通りーーではなく少しばかりテンションが高い沙耶香が居た。
…自室に居るのは構わない。
何せここは百合と結芽の部屋だ、同居人が誰を呼ぼおがあまり気にしない。
来る人物などある程度絞れる。
問題はやろうとしている事なのだ。
タピオカチャレンジの存在自体は知っているが、やりたいとは微塵も思わない。
何せ、落とした場合タピオカミルクティーが無駄になるからだ。
ようやく状況を整理し、一呼吸置いてから簡潔な答えを言った。
「…嫌だよ」
「いいじゃん、やってよ~」
「と言うか…私が五人目って他に誰がやったの?」
「姫和と舞衣、私と結芽」
「…明らかに人選ミスじゃない?四人中三人は確実に失敗するでしょ」
ホライズン同盟などと言うグループに入っている以上、無理に決まっているだろうに……
沙耶香に結芽もまだまだ未発達、やるべきではないだろう。
…少しだけ自分の胸部を見る。
クロユリのお陰で肉体的な疲労は起こらないはずなのに、最近肩がやたらと重くなった。
揉むと大きくなると言うのは…真実なのかもしれない。
「……良いからやってよ。私だって無理にテンション上げなきゃやってられないんだから…」
「…私も」
「わ、分かったから!やるから、泣かないでよ」
落ち込み具合が酷く、瞳を潤ませる二人を何とか持ち治させる。
百合は不承不承と言った様子で胸にタピオカミルクティーを乗せて、ゆっくりと手を離した。
タピオカミルクティーは落ちることなく、百合の胸の上に佇んでいる。
頭を少し動かせば楽にストローから飲むことができるだろう。
(…手を使わなくていいのが楽だなぁ…今度やってみよう)
心の中の決意はさておき、百合は結芽と沙耶香を見やる。
二人の視線は、百合の果実に注がれていた。
ガン見である。
「あ、あの、流石にそんなに見つめられると…恥ずかしいんだけど…」
「…………ゆり、私のも揉んで。育つかもしれないから」
「…………舞衣に頼んでみる」
据わった目と抑揚のない声が百合の背筋を凍らせるが、少しだけ可哀想だったので優しく頭を撫でておいた。
一週間ほど経ったある日、刀剣類管理局本部に務める刀使の中で、胸は揉むと大きくなると言う迷信が本当だったと噂になっていたのは…また別のお話。
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