百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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After9「救えたものは確かにあって」

『お前に価値なんかない』

 

『何故? 生きているんだ?』

 

『死んでしまえ!』

 

『お前なんて産まれなければ良かった!』

 

『どうせ貴女は一生一人ぼっちよ…!』

 

 

 夢の中で、言われる言葉は…様々な負の感情に充ちていた。

 怨嗟、失望、憎悪、恨み、妬み。

 数えていたらキリがない。

 …百合は、その言葉をその身一つで受け切っていた。

 いや、受け切るしかなかった。

 

 

 半分荒魂になってから、百合は良くこの夢を見ている。

 理由は…恐らく荒魂の性質故だろう。

 昔の一人ぼっちだった頃なら耐えられた。

 何せ、そんな言葉に耳を傾けなければ良いだけだからだ。

 でも、今は違う。

 

 

 結芽や沙耶香、他にも色々な友達や仲間が出来た百合は、中途半端に心が治り始めた所為で、誰の言葉かも分からないのに勝手に傷ついてしまっている。

 真面目過ぎる性格は、時に仇となるのだ。

 真剣に受け止めなければいけないと思えば思うほど、ど壺にはまっていく。

 

 

 浴びせられる言葉に、時々百合は自分の自信を忘れてしまう。

 本当に価値のある存在なのか? 

 本当に生きていていいのか? 

 生まれて来なければ良かったんじゃないか? 

 

 

 …もしかしたら、また一人ぼっちになっしまうのではないか? 

 

 

 百合は幻視した。

 友達が、家族が、仲間が、愛する人が去って行く最悪な最期を。

 誰も助けてくれない、誰も見てくれない、誰も声を掛けてくれない。

 

 

「待って…! 置いてかないで! …私を…一人にしないで…!」

 

 

 溢れる涙で視界がぐちゃぐちゃになりながらも必死で追いかけた。

 けれど、少しづつ距離は広がっていき…次第に何も見えなくなってしまう。

 真っ暗な空間で、またしても一人になった百合は、負の感情に充ちた言葉を浴びせられる

 

 

 辛いとか、苦しいとか、怖いとか、そんな感情はもう出て来なかった。

 ただ、無だった。

 

 

 眠りから覚めようとしているのか、明るくなる世界。

 しかし、依然として百合は無であった。

 

 -----------

 

 九月も中旬、今日も今日とて百合は任務に励んでいた。

 珍しく、結芽とは別々の任務を言い渡されて少々驚いたが、偶には離れることを体験するのも悪くない。

 刀剣類管理局周辺の巡回任務なので、一人……と言うのは今の百合の精神衛生上宜しくないが、任務であるなら仕方ない。

 

 

 荒魂同士が引き合う力を頼りに、何処かで荒魂が現れていないか探る。

 だが、早々簡単に見つかる訳もなく、宛もなく歩いた。

 朝から少しだけ憂鬱な気持ちだった百合は、物悲しそうな顔で周囲を警戒する。

 すると、そこに一人の少女が現れて声を掛けてきた。

 

 

「お、お姉さん! この前は助けてくれてありがとう!」

 

「? ごめんね。私、貴女とどこであったかな?」

 

「ほら! あの時だよ。お空が破けてた時!」

 

(…もしかして、タギツヒメが隠世への門を開いた時? …でも、あの時の私は)

 

 

 そう、その時の百合は大荒魂クロユリとして活動していた。

 今の百合とは全く持って別人とは言えないが、違うことに変わりはない。

 だがしかし、少女は言い当ててみせた。

 あの時のクロユリが、今の百合だと。

 

 

「…凄いね。あの時の私ちょっと変わってたのに」

 

「? 違うよ! お姉さんはお姉さんだよ? …ありがとう、お母さんを助けてくれて。実はね、お母さんのお腹の中に赤ちゃんが居たんだ! もう産まれたから見てってよ!」

 

 

 朗らかに笑う少女に手を引かれて、百合は進んでいく。

 五分もしない内に母親であろう女性のもとに着いた。

 その女性はベビーカーに、可愛らしい男の子の赤ちゃんを乗せている。

 

 

「お母さん! お姉さん連れて来た!」

 

「ダメじゃない。お姉さんは私たちを守る為に、頑張ってお仕事してくれてるんだから…。…すいませんね、ウチの子が」

 

「いえ、特に任務に支障はないので…」

 

「それと、ありがとうございます。あの時は本当に助かりました。この子が無事産まれたのも、刀使さんのお陰です」

 

 

 温かいものが篭もった優しい瞳で、赤ちゃんを見ながら…女性はお礼を言った。

 微笑ましい光景に、百合も自然と微笑んだ。

 

 

「その…少し抱っこさせて貰えませんか?」

 

「ええ、構いませんよ。こうやって抱えるんです」

 

 

 女性のお手本の見様見真似で赤ちゃんを抱き抱える。

 プニプニしてて、暖かくて、それでいて少し重い。

 そこに命がある事を、重さが証明していた。

 自分が助けた命が、新しい命を紡いだ。

 その事実が、百合の心を温めていく。

 

 

「良かった…この命を紡ぐことが出来て」

 

 

 天使が如く微笑む百合。

 それを見た女性と少女も、優しく微笑んでいた。

 

 -----------

 

 夕方頃、お役御免な太陽を見送った後に百合は自室に帰ってきていた。

 既に結芽も帰ってきていて、今日起こったことを話した。

 …黙っていた夢の事も含めて。

 

 

「へぇ~、そんなことがあったんだね」

 

「うん。…何だかすっごく嬉しかった」

 

「そっか」

 

 

 ニシシと笑う結芽を見ながら、想った言葉を素直を口から出した。

 そして、結芽はしっかりとそれに応えた。

 

 

「私に価値ってあるのかな?」

 

「あるよ、私たちは知ってる」

 

「私は生きていて良いのかな?」

 

「良いんだよ、と言うか生きてくれないと困る」

 

「私は産まれてきて良かったのかな?」

 

「悪い訳ないよ、ゆりはこの世界に…皆に必要とされてるよ」

 

「私、まだ、一人ぼっちのままなのかな?」

 

「違うよ、私か居るし。皆が居るよ」

 

 

 正解なんてない哲学のような問いに、結芽は真剣に答えたし応えた。

 そして、確実に結芽は百合の中での正解を選び抜いていた。

 何時もは姉のように振る舞う百合に対し、久方ぶりに結芽は姉になろうとする。

 

 

「ゆりが居なくちゃ助からない人が居た。ゆりが居なくちゃ笑顔になれない人が居た。ゆりが居なくちゃ……壊れてしまう人が居た」

 

「…………」

 

「私さ、ゆりにいっぱい助けてもらったから、私が一番知ってるよ? ゆりの価値とか何で必要とされてるかとか」

 

「…………」

 

「自信を持って欲しいとかそんなこと言わない。自分に自信なんてなくていい……ただ、私のことを信じて。私を、燕結芽を信じて。絶対に裏切ったりしないからさ」

 

「…ありがとう…結芽」

 

 

 結芽の胸に顔を埋めるように、百合は抱き着いた。

 柔らかい感触と、伝わる鼓動が心地好くて、何時の間にかスヤスヤと眠りに就いてしまった。

 

 

「もう、そうやって寝ちゃうとオオカミさんに食べられちゃうよ?」

 

 

 唇を少しだけ触れ合わせて、結芽は眠る為に体を横にした。

 抱き枕では感じることが出来ない温かさと柔らかさは、癖になってしまいそうだ。

 

 

「…おやすみ、ゆり」

 

 

 まだ夜には早いのに、二人はゆっくりと眠りに就いた。

 

 

 その日は、良い夢が見られた気がした。

 

 

 




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結芽の誕生日は……

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