『お前に価値なんかない』
『何故? 生きているんだ?』
『死んでしまえ!』
『お前なんて産まれなければ良かった!』
『どうせ貴女は一生一人ぼっちよ…!』
夢の中で、言われる言葉は…様々な負の感情に充ちていた。
怨嗟、失望、憎悪、恨み、妬み。
数えていたらキリがない。
…百合は、その言葉をその身一つで受け切っていた。
いや、受け切るしかなかった。
半分荒魂になってから、百合は良くこの夢を見ている。
理由は…恐らく荒魂の性質故だろう。
昔の一人ぼっちだった頃なら耐えられた。
何せ、そんな言葉に耳を傾けなければ良いだけだからだ。
でも、今は違う。
結芽や沙耶香、他にも色々な友達や仲間が出来た百合は、中途半端に心が治り始めた所為で、誰の言葉かも分からないのに勝手に傷ついてしまっている。
真面目過ぎる性格は、時に仇となるのだ。
真剣に受け止めなければいけないと思えば思うほど、ど壺にはまっていく。
浴びせられる言葉に、時々百合は自分の自信を忘れてしまう。
本当に価値のある存在なのか?
本当に生きていていいのか?
生まれて来なければ良かったんじゃないか?
…もしかしたら、また一人ぼっちになっしまうのではないか?
百合は幻視した。
友達が、家族が、仲間が、愛する人が去って行く最悪な最期を。
誰も助けてくれない、誰も見てくれない、誰も声を掛けてくれない。
「待って…! 置いてかないで! …私を…一人にしないで…!」
溢れる涙で視界がぐちゃぐちゃになりながらも必死で追いかけた。
けれど、少しづつ距離は広がっていき…次第に何も見えなくなってしまう。
真っ暗な空間で、またしても一人になった百合は、負の感情に充ちた言葉を浴びせられる
辛いとか、苦しいとか、怖いとか、そんな感情はもう出て来なかった。
ただ、無だった。
眠りから覚めようとしているのか、明るくなる世界。
しかし、依然として百合は無であった。
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九月も中旬、今日も今日とて百合は任務に励んでいた。
珍しく、結芽とは別々の任務を言い渡されて少々驚いたが、偶には離れることを体験するのも悪くない。
刀剣類管理局周辺の巡回任務なので、一人……と言うのは今の百合の精神衛生上宜しくないが、任務であるなら仕方ない。
荒魂同士が引き合う力を頼りに、何処かで荒魂が現れていないか探る。
だが、早々簡単に見つかる訳もなく、宛もなく歩いた。
朝から少しだけ憂鬱な気持ちだった百合は、物悲しそうな顔で周囲を警戒する。
すると、そこに一人の少女が現れて声を掛けてきた。
「お、お姉さん! この前は助けてくれてありがとう!」
「? ごめんね。私、貴女とどこであったかな?」
「ほら! あの時だよ。お空が破けてた時!」
(…もしかして、タギツヒメが隠世への門を開いた時? …でも、あの時の私は)
そう、その時の百合は大荒魂クロユリとして活動していた。
今の百合とは全く持って別人とは言えないが、違うことに変わりはない。
だがしかし、少女は言い当ててみせた。
あの時のクロユリが、今の百合だと。
「…凄いね。あの時の私ちょっと変わってたのに」
「? 違うよ! お姉さんはお姉さんだよ? …ありがとう、お母さんを助けてくれて。実はね、お母さんのお腹の中に赤ちゃんが居たんだ! もう産まれたから見てってよ!」
朗らかに笑う少女に手を引かれて、百合は進んでいく。
五分もしない内に母親であろう女性のもとに着いた。
その女性はベビーカーに、可愛らしい男の子の赤ちゃんを乗せている。
「お母さん! お姉さん連れて来た!」
「ダメじゃない。お姉さんは私たちを守る為に、頑張ってお仕事してくれてるんだから…。…すいませんね、ウチの子が」
「いえ、特に任務に支障はないので…」
「それと、ありがとうございます。あの時は本当に助かりました。この子が無事産まれたのも、刀使さんのお陰です」
温かいものが篭もった優しい瞳で、赤ちゃんを見ながら…女性はお礼を言った。
微笑ましい光景に、百合も自然と微笑んだ。
「その…少し抱っこさせて貰えませんか?」
「ええ、構いませんよ。こうやって抱えるんです」
女性のお手本の見様見真似で赤ちゃんを抱き抱える。
プニプニしてて、暖かくて、それでいて少し重い。
そこに命がある事を、重さが証明していた。
自分が助けた命が、新しい命を紡いだ。
その事実が、百合の心を温めていく。
「良かった…この命を紡ぐことが出来て」
天使が如く微笑む百合。
それを見た女性と少女も、優しく微笑んでいた。
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夕方頃、お役御免な太陽を見送った後に百合は自室に帰ってきていた。
既に結芽も帰ってきていて、今日起こったことを話した。
…黙っていた夢の事も含めて。
「へぇ~、そんなことがあったんだね」
「うん。…何だかすっごく嬉しかった」
「そっか」
ニシシと笑う結芽を見ながら、想った言葉を素直を口から出した。
そして、結芽はしっかりとそれに応えた。
「私に価値ってあるのかな?」
「あるよ、私たちは知ってる」
「私は生きていて良いのかな?」
「良いんだよ、と言うか生きてくれないと困る」
「私は産まれてきて良かったのかな?」
「悪い訳ないよ、ゆりはこの世界に…皆に必要とされてるよ」
「私、まだ、一人ぼっちのままなのかな?」
「違うよ、私か居るし。皆が居るよ」
正解なんてない哲学のような問いに、結芽は真剣に答えたし応えた。
そして、確実に結芽は百合の中での正解を選び抜いていた。
何時もは姉のように振る舞う百合に対し、久方ぶりに結芽は姉になろうとする。
「ゆりが居なくちゃ助からない人が居た。ゆりが居なくちゃ笑顔になれない人が居た。ゆりが居なくちゃ……壊れてしまう人が居た」
「…………」
「私さ、ゆりにいっぱい助けてもらったから、私が一番知ってるよ? ゆりの価値とか何で必要とされてるかとか」
「…………」
「自信を持って欲しいとかそんなこと言わない。自分に自信なんてなくていい……ただ、私のことを信じて。私を、燕結芽を信じて。絶対に裏切ったりしないからさ」
「…ありがとう…結芽」
結芽の胸に顔を埋めるように、百合は抱き着いた。
柔らかい感触と、伝わる鼓動が心地好くて、何時の間にかスヤスヤと眠りに就いてしまった。
「もう、そうやって寝ちゃうとオオカミさんに食べられちゃうよ?」
唇を少しだけ触れ合わせて、結芽は眠る為に体を横にした。
抱き枕では感じることが出来ない温かさと柔らかさは、癖になってしまいそうだ。
「…おやすみ、ゆり」
まだ夜には早いのに、二人はゆっくりと眠りに就いた。
その日は、良い夢が見られた気がした。
結芽の誕生日は……
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