百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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 前回の前書きに書き忘れましたが、この記念物語は本編のネタバレや伏線が入っています。

 ネタバレが嫌だって方はあまり見ないことをおすすめします。
 それでも良いと言う方はゆっくり見ていってください。


IFルート 百合が燕で、燕が百合で 「壊れゆく日常」

 御前試合での一件からはや二日。

 百合は、通常通りに執務室にて紫の書類作業を手伝っていた。

 親衛隊に入ってから、時間が流れるのは早く。

 親衛隊の仲間との縁も深くなった。

 だが、そんな百合でも慣れない時間がある。

 

 

 紫と二人だけで作業をする時間だ。

 何故か緊張してしまい、作業が捗らない。

 今日何度目かもわからないため息を漏らしながら、コーヒーを啜る。

 紫はそんな百合をチラリと見やり、こんな質問を投げかけた。

 

 

「百合。私のことは苦手か?」

 

「い、いえ、そんなことはありません! ただ…緊張してしまって」

 

「……お前も私と変わらないからな。仕方の無いことなのかもしれん」

 

 

 紫のその言葉に、百合は露骨に嫌な表情を見せる。

 先程の言葉にどんな意味が込められているか、彼女は知っている。

 だからこそ、嫌な気分が表だって出てしまっているのだ。

 

 

「同族嫌悪に似たものか、難儀なものだ私もお前も」

 

「私は…わた…しは…」

 

 

 言葉が掠れる。

 理解したくなくても、理解出来てしまう自分が恨めしい。

 誰が理解したいと思うだろうか。

 自分が化け物だったなんて。

 

 

「気にする事はない。生まれ持ったものを恨んでも仕方がない」

 

「私は! ()()じゃない!!」

 

 

 怒鳴り散らす百合の声が、執務室に響き渡る。

 紫は少しだけ申し訳なさそうに呟いた。

 

 

「意地が悪かったな。済まない」

 

 

 紫の言葉でようやく、彼女は自分が言ったことを思い出した。

 言ってはいけない事だった。

 二〇年もの間、苦しみ続けている紫に言っていい言葉ではない。

 顔が青を通り越して白くなっていくのが、自分でも何となくわかった。

「今すぐ謝らないと!」と、思うものの言葉が浮かんでこない。

 

 

 謝るということは、自分が荒魂だと、化け物だと認めることになる。

「それだけは絶対に嫌だ!」と、思ってしまい思い浮かんだ言葉を勝手に消し去っているのだ。

 謝りたいと思う心と、自分が荒魂だと認めたくない心が、ぶつかり合い思考が止まってしまう。

 

 

 どっちつかずになり、引き裂けそうな心が悲鳴を上げ始めていた。

 そこに、タイミング良くドアが叩かれる。

 

 

「皐月夜見です。至急お伝えすることがあるため参りました」

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

 

 夜見は感情の伺えない瞳で百合を見つめ、少ししたら紫に目を移した。

 伝えなければいけないことがある。

 夜見は指令室でのやり取りを、紫に細かく報告した。

 話を聞きながら数度頷き、彼女は椅子から立ち上がって百合の方を向く。

 未だに葛藤している百合に対して、彼女は任務を言い渡した。

 

 

「百合、南伊豆に向かい衛藤可奈美と十条姫和の両名を捕らえろ」

 

「…それは、私一人でですか?」

 

「お前も一人の方が、都合がいいんじゃないか?」

 

 

 まるで全てを見透かしているかのような発言に、百合は得体の知れない恐怖を感じた。

 自分と似ていて、決定的に違うと言えるほどに。

 

 

「いえ、それで構いません。夢神百合、只今を持って逃亡者の捕獲任務に入ります」

 

 

 机の横に掛けていた二本の御刀を腰に固定し、執務室を出ていく。

 結芽にメールで一報を入れて、目的地へと向かった。

 彼女はまだ、自分たちの日常が壊れ始めていることに気付かない。

 

 -----------

 

 機動隊が使う、大きなテントで準備が出来るのを待つ。

 百合の御刀の鞘はどちらも違う柄が描かれている。

 宗三左文字にはクロユリが、篭手切江には燕。

 聖の話では、聖の曾祖母代からこの鞘を使ってるらしい。

 …鞘にどんな想いを込めたのか、百合は知りえない。

 

 

 ボーッと御刀を見つめていた百合に、いつの間にかテントの中に入ってきていた機動隊C班の隊長が、声を掛ける。

 

 

「百合さん、準備は終わりましたよ。これからどうしますか?」

 

「私が一人で行きますので、皆さんは此処で待機していてください。何かあったら連絡をしますので」

 

「了解。…大丈夫ですか?」

 

「はい。御心配なさらずとも、しっかりと任務を果たしてきます」

 

 

 此処には、ノロのアンプルがある。

 紫が態々待っていかせたのだ。

 もし自分が失敗した場合、わざとアンプルを奪わせる。

 その後は、紫自身が舞草の場所を特定する…そんな所だろう。

 彼女は自分自身のよく回る頭を活かして、今後の状況の動きを未来視の如く予測していた。

 

 

 機動隊の面々に挨拶を済ませて、山の中に入っていく。

 右手でスマホに入っているスペクトラムファインダーを使い、左手は御刀に添えておく。

 スペクトラムファインダーは、本来荒魂発見用に作られたものだが、今は少し改造されている。

 改造されたスペクトラムファインダーは、荒魂ではなく御刀に反応するようになっているのだ。

 

 

 なので、自分以外の反応を見つければ、それが必然的に逃亡者である可奈美と姫和と言うことになる。

 だが、可笑しい。

 本来なら四つしか反応が出ない筈なのに、六つも反応が出ている。

 誰が居るのか分からないが、気にする余裕はない。

 敵であるなら、倒せばいいだけだ。

 

 

 固まっている四つの反応を目指す。

 反応した場所にいたのは、可奈美と姫和に加え、長船の益子薫と古波蔵エレンだった。

 

 

「親衛隊第五席の夢神百合か…ちっ! 面倒なのに出くわしたな」

 

「薫口が悪いデスヨ。にしてもゆりりんはどうしてここに?」

 

「それは、此方の台詞です。衛藤可奈美に十条姫和と、何故一緒に? 敵対しないなら、そこで見ていてください。もし敵対するなら…潰します」

 

 

 此処にいる時点で、何か理由があるのは確実。

 もしその理由が自分たちに害があるのなら、全力で叩き潰す。

 その覚悟があるのか、百合は人間相手には使わないと決めていた二刀流を使う。

 

 

「姫和ちゃん、この子強いよ」

 

「分かっている。…お前達はどうする?」

 

「ここまで来たら、やるしかないだろ」

 

「デスネ。簡単には負けまセン!」

 

「そうですか、ではいきます!!」

 

 

 二段階迅移で薫に接近する。

 薫が使う祢々切丸は刃の長さだけでも2mを超えている。

 必殺一撃タイプの薫と、業と手数で相手を詰ませていく百合。

 単純なパワー勝負では、簡単には勝てない。

 なので、先手を打たれる前に潰す。

 

 

 だが、エレンはその行動が分かっていたかのように、薫を庇うように前に立つ。

 体術と剣術を上手く組み合わせた動きは変則的な部分もあるが、百合は知っているので容易に受け流すことが出来る。

 両手で御刀を振り下ろし、受け流されると感じたら前蹴りで距離をとる。

 そんな作戦は、簡単に崩れ去った。

 

 

 振り下ろす攻撃を左斜め下に受け流し、前蹴りを柄頭で当たらないギリギリのラインで逸らす。

 次の瞬間には今しがたの百合の動きを見て驚いたエレンを、袈裟斬りで倒す。

 薫は、エレンが倒された事で沸き上がった怒りを込めて、いつもより重い一撃を繰り出す。

 

 

 百合もその攻撃を受け流すことは不可能と判断し、シフトなしの三段階迅移で近付き真っ二つに切り裂く。

 写シがあっても相応のダメージを受けたのか、薫もエレンと同じく戦線離脱。

 エレンは倒された際に気絶してしまったらしい。

 悲鳴をあげる体に鞭を打ち、薫はエレンを後方に運ぶ。

 

 

 これまでの攻防は僅か数秒のうちに行われた。

 可奈美と姫和の背中に嫌な汗が伝う。

 このまま戦えば、確実に負ける。

 そんな確信に似た考えが脳裏を過ぎった。

 時間を稼いで気を逸らし、その間に隙を見つけて逃走。

 

 

 無謀も良い所の考えではあるが、思いつく限りこれが最善だ。

 

 

「折神紫は大荒魂だ。こう言ったら信じるか?」

 

 

 ただの時間稼ぎのつもりだった。

 混乱させるような情報で、撹乱するだけのつもりだった。

 けれども、返ってきた言葉は思いもよらないものであった。

 

 

「ええ、信じますよ」

 

 

 百合は呆気らさんと言い放つ。

 まるで、「それがどうした?」とでも言いたげな顔で。

 さも当たり前のことを聞いて、呆れているかのような表情でもあった。

 

 

「なっ!? 貴様、それを知っていて奴の味方をするのか!!」

 

「それの何が悪いんですか?」

 

「奴は大荒魂なんだぞ!! 何故味方をする!!」

 

「…あなたに分かりますか? 親に捨てられた結芽(あの子)の気持ちが? 私の家に来た時も、夜になると一人で泣いてるんですよ!! パパ、ママって。親衛隊は結芽(あの子)が幸せでいられる、笑顔をでいられる、数少ない場所なんです!」

 

 

 残っている時間は少ない。

 その中でも、結芽(あの子)の為に使える時間があまりにも短い。

 焦りがあって、恐怖があって、悲しさがあった。

 結芽(あの子)を、一人にしてしまうのではないかという焦り。

 結芽(あの子)が泣いてしまうのではないかという恐怖。

 結芽(あの子)の傍に居られなくなるという悲しさ。

 

 

 可奈美と姫和(逃亡者)の所為で、百合の残り少ない日常は壊されていく。

 体がだるい、頭痛が酷い。

 それでも、此処で捕まえなければ本当に終わってしまう。

 捕獲任務を遂行しなければいけない。

 日常が壊されたくないのなら。

 

 

「もう、終わりにしましょう」

 

「来るぞ!」

 

「うん!」

 

 

 二人が構えて、百合も構える。

 迅移で突っ込もうとした瞬間、ぐにゃりと視界が歪み頭に鈍痛が響いた。

 そこで百合は、意識を手放してしまった。

 

 -----------

 

 百合が目を覚ましたのは、眩し過ぎるほどの太陽が見え始めた頃だった。

 スマホを確認すると、不在着信がありえない程入っている。

 その全てが結芽からで、一件だけC班の隊長から来ていて、折り返して今の状況を教えて貰った。

 約一時間前に、刀使の一人にノロのアンプルが奪われたらしい。

 

 

 その後は、紫にも報告し帰還命令出た。

 帰還後、しこたま結芽に怒られた。

「何で電話に出なかったの!」から始まり、「百合はもう少し自分を大切にしなきゃダメ!」まで話が発展していた。

 説教? が終わってからは、一人でお風呂に向う。

 

 

 寂しさもあるが、結芽のご機嫌が直るまでは、少し辛抱しなければいけない。

 廊下を歩いていると、昨日と同じような現象が起きた。

 歪む視界と頭に響く鈍痛。

 そして、

 

 

「けほっ……こほっ…こほっ…。ははっ、神様もう少しだけ待ってよ。まだ、やらなきゃいけない事があるの」

 

 

 咳を抑えた彼女の手には、真っ赤な血の花が出来上がっていた。

 

 避けようのない終わりが、少しづつ近付いていた。




 次回もお楽しみに!

 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!

 感想もお待ちしております!

結芽の誕生日は……

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