百合の少女は、燕が生きる未来を作る   作:しぃ君

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 遅れた言い訳を一言。
 バイトのシフト調整をミスり、土曜は卒業式に行って日曜はバイトでした。
 本当に申し訳ないです。

 大変唐突ですが、本編は残り一話で完結となります。理由は後書きに。


拾肆話「想いの力」

 刀剣類管理職本部に入る道路を埋め尽くすように、熊や巨大なムカデの姿をした強化型大荒魂溢れていた。

 その奥に、誰もが濃厚な気配を感じる。

 クロユリ率いる、冥加刀使の軍団だろう。

 

 

 目測で図ることは不可能だが、数十人単位でこちらを落としに来るのは容易に想像できた。

 可奈美と結芽に部隊指揮の経験なんて数得るほどしかないので、上から出された命令は一つ。

 

 

『単騎で敵陣に特攻し、より多くの荒魂と冥加刀使を切れ』との事。

 

 

 簡単でわかり易い命令だ。

 二人は二つ返事で了承し、先陣に立つ。

 

 

「薔薇が来たら、私がやるから。結芽ちゃんは先に」

 

「……分かった。借りは、終わってからでも返せるもんね」

 

 

 地獄絵図と言った状況にも関わらず、二人は笑っていた。

 お互いがお互いを知っているから、笑っているのだ。

 結芽は可奈美の強さを知っている、可奈美は結芽の想いの丈を知っている。

 だから、負けない、負ける筈がない。

 

 

 一も二もなく、彼女たちは飛び出し、強化された大荒魂に御刀を振るう。

 可奈美は慎重に相対する敵の動きを観察しながら、正確に必殺の一撃を叩き込み。

 結芽は相対する敵の一撃一撃を軽やかに受け流し、生まれた隙を利用して細かく連撃を叩き込む。

 

 

 やり方は違うのに、二人が大荒魂を倒す速度はほぼ同じ。

 改良型S装備──正式名称は燕翔(えんしょう)、があるからこそ可奈美はその動きが出来ているが、結芽はどうやっているのか? 

 そんなの決まっている、夢神流の極意を掴んだ結芽は自分の制御装置(リミッター)をとっぱらったからだ。

 勿論、奥伝が使える余力を残す程度に。

 

 

 だが、それだと可笑しい事になる。

 制御装置をとっぱらったーー解除したなら、結芽の場合でもほぼ一振りで決着をつけることが出来る筈だ。

 

 

 しかし、結芽はそれをしない。

 律儀に、一撃を受けてからカウンターで攻撃を叩き込み倒している。

 加えて、大振りな一撃ではなく細かい連撃で大荒魂を倒しているのだ。

 

 

 神経をすり減らしながら戦ってるも同然。

 一体一体が遜色なく強く、一撃食らったらお陀仏…なんて事が有り得るのだから。

 それでも、結芽はパターンを変えようとしない。

 

 

 確固たる決意を持って、御刀を振り続ける。

 ……それを見て、気に食わない者が居ることを知っているから。

 

 

「…来た」

 

 

 漆黒の髪をたなびかせて、朱殷色の瞳でこちらを睨みつける長身の刀使。

 見間違える筈がない、薔薇だ。

 彼女は、自身の御刀である三日月宗近で、自分が通るのに邪魔な大荒魂を祓い、寄って来た。

 

 

 眉間に見える青筋から察するに、先程までの結芽の戦い方が大分頭に来たらしい。

 珠鋼搭載型S装備を纏った彼女の振り下ろしの一撃が、結芽の脳天に直撃する直前。

 合間に割って入る影が一人……可奈美である。

 

 

 全力の振り下ろしだったのだろう。

 受け止めた可奈美の腕は尋常ではないほどに震え、衝撃で地面に小さなクレーターが出来た。

 

 

「あらあら、随分苦しそうですが? 大丈夫ですか?」

 

「大丈夫じゃない…だけど、結芽ちゃんの邪魔をさせる訳にはいかないから。あなたの相手は私だよ!!」

 

 

 そう言うと、可奈美は不意打ち気味に脇腹に右脚で蹴りを当て、距離を離す。

 八幡力で幾分か強化した筈の蹴りを食らっても、薔薇はピンピンしており、好戦的な笑みで可奈美を見下ろす。

 

 

 血走った薔薇の目と、落ち着いた流水のような可奈美の目がぶつかり合った瞬間、迅移でお互いに距離を詰めて切り結んだ。

 

 

 結芽はそれを尻目に、走り出す。

 クロユリの元まで走り出す。

 後ろは……振り返らなかった。

 

 -----------

 

「不純なものは…消えましたか。…観戦者は居るようですが」

 

「師匠に手出しはさせない。私が、あなたを祓う」

 

 

 二人の周りにいる冥加刀使は一切手を出そうとしない。

 前例があるからだ。

 本来、二十人は居たはずの冥加刀使は残り十人、他十人は二人の衝突を邪魔しようとしたがばかりに、一瞬の内にクロユリに切り捨てられた。

 

 

 見つめ合う二人は、何を言うでもなく二振りの御刀を構え写シを張り直す。

 

 

「あなたに、私が倒せるとでも?」

 

「出来る出来ないじゃない、やるの。ゆりの魂(それ)は私のだから」

 

「…人のことをモノ扱いとは、良い御身分ですね」

 

「違う。私の命はゆりのモノ、ゆりの命は私のモノ。そう約束したから、違うんだよ。ゆりが、笑って生きてくれる事はーー幸せでいてくれる事は、私の存在意義の全てなの。例え、あの子にどう思われてようと変わらない。私が、ゆりを大好きな気持ちは変わらない」

 

「だから、私を倒し祓うと?」

 

 

 クロユリの返しに、結芽は黙って頷いた。

 それ以上、言葉は必要ないと言っているようだ。

 

 

 太陽の光が二人を照らす。

 運命の女神がどちらに微笑むかなんて分からないまま、一歩づつ距離を詰め始める。

 

 

「新夢神流、大荒魂クロユリ」

 

「夢神流、燕結芽」

 

『勝負っ!!』

 

 

 迅移なんて使わずとも、二人は悪鬼羅刹を使い迅移以上の速さで間を詰めた。

 鎖を壊す幻影は見えず、ただ二人が纏う覇気が変わる。

 一方は、飛び回る燕のように自由な柔らかいものに。

 一方は、咲き誇る花のように畏まった慎ましいものに。

 

 

 迅移を使えば、お互いに燕より早く動き、花が散るよりも早く一撃を繰り出す。

 一撃一撃が必殺で、受け流した後からが本番。

 カウンターの読み合い、クロユリが何百…何千…何万、と言うパターンで最善を選んでも、結芽はその上を行く切り返しで少しづつ傷を付けていく。

 

 

 未来視と言っても過言ではない力を持つクロユリが、押されていた。

 それを見た冥加刀使は戦慄した表情で、敵である結芽を見ている。

 

 

 彼女は一瞬一瞬の内に成長し、未来の最前の位を一つ一つ上げていたのだ。

 天才の中の天才である自分に秘められた才能を、その場その場の必要に応じて開花させ、更には昇華させる。

 

 

 異次元にいる天才の百合が使った悪鬼羅刹は、自分の中に眠る全ての力を解放させるもの。

 要は封印していたものを解くだけなのだ。

 しかし、結芽は違う。

 

 

 未だ高みに到達していない結芽は、中に眠る溢れんばかりの才能を悪鬼羅刹の能力を利用して、無理矢理掘り起こして開花或いは昇華させているのだ。

 無茶無謀も良い所、体に掛かる負担は百合以上だろう。

 

 

 長くは持たない、良くて三分ちょっと。

 それ以上は活動限界どころか、生命の限界に挑戦するようなものだ。

 気を抜いた瞬間に即死する、なんて事も有り得る。

 

 

 彼女はそれでも、戦うことを止めない。

 死ぬ気は無い、死ぬ気は無いが死ぬ気で戦う。

 追い詰めないと勝てない、ギリギリまでやらないと負ける。

 それを、結芽は知っていたから。

 

 

 刻一刻と迫る時間。

 写シを張り直す事が出来ない結芽は、致命傷を避ける事を最優先に戦い、細かい傷を増やす。

 細かい傷を増やされたクロユリは、致命傷の一撃を入れる事を最優先に、迅移の段階を上げて手数を増やした。

 

 

「……有り得ない」

 

 

 なのに、結芽はその全てを悉く避けるか受け流す。

 常人なら発狂するレベルの予測に予測を重ねても、受け流すどころか避ける事すら不可能な筈なのに。

 

 

「何故、受け流せるんですか? 何故、避ける事が出来るのですか?」

 

 

 クロユリの迅移の段階は四、結芽は三。

 二人の間には圧倒的な差がある筈なのに、結芽は未だに一撃も食らってない。

 写シは無傷のまま、結芽は不敵に笑って見せた。

 

 

「なんでだと思う〜?」

 

「…答えなさい」

 

「正解は、簡単だよ。…それはゆりの剣だから。私を誰だと思ってるの? あの子の一番の理解者で、一番の親友で、一番の想い人。ゆりの剣を一番受けたのは私。その私が、あの子の剣を見切れない訳が無い」

 

 

 ハッタリだ。

 その場その場で才能を開花ーー或いは昇華させ限界ギリギリの所で、対処している。

 命綱無しで超高度の綱渡りをやってるようなものだ。

 風で揺れる綱、恐怖に震える足、その他にもある様々な不安要素を、結芽は想い一つで乗り越えて戦っている。

 

 

「…あなたは私に負ける。偽物が本物に負けるように」

 

「私が偽物だとでも? …ふざけるな、私の心は本物だ!! 例え奪ったものだとしてもーー」

 

「別に心は本物だと思うよ? でもさ、感情は違う。あなたは知ってるだけ、味わってもそれは知ってるから分かるだけ。本当は感情なんて簡単には分からない、大切な人が伝えてくれてようやく分かるものなの。ショートカットし過ぎたんだよ、あなたは」

 

 

 結芽の言葉に、クロユリは動揺しているのか左右で異なる瞳を震わせる。

 真逆だった、以前とは真逆の関係になっていた。

 

 

 同様で落ち着きを無くした今が、結芽にとって絶好のチャンス。

 そこからは、昔の再現のように、時間が進む。

 

 

「…ゲームでもしない? お互いに一太刀浴びせて、立ってた方が勝ち。勝った方は、その後相手をどうしても構わない」

 

「私が乗るとでも?」

 

「別に、乗らなくてもいいよ? 負けるのはあなただもん」

 

 

 煽るようないつもの口調で、結芽はそう言った。

 完全に自分を取り戻した結芽に、『敗北』の二文字は存在しない。

 クロユリは苛立ちを顕著に表しながら、御刀『宗三左文字』を構える。

 結芽はニッカリとした笑顔で、御刀『篭手切江』を構えた。

 

 

 向かい合い、数メートルの間を置き、睨み合う。

 快晴の中、太陽が涙を流したように、一雫の雨が落ち、それを合図に二人動いた。

 一瞬、ほんの一瞬だった。

 お互い以外の誰にも捉えられない世界の中で、二人は切り結び、そして……

 

 

「………………えっ」

 

「勝ちだね」

 

 

 糸が切れた人形のように、クロユリは膝から地面に崩れ落ちた。

 訳が分からないままに、クロユリは光の粒子となり薄く消えていく。

 

 

 何も言わず、結芽はクロユリに近付き、彼女を起こし抱き締めた。

 

 

「…なんで……私を…」

 

「勝った方が相手をどうしようと構わない。そお言うルールでしょ? だから、これは勝手に私がやってるだけ。……少しは、温かいでしょ?」

 

「…………えぇ。…とても」

 

 

 勝手だった。

 やりたい事を好きなように、いつも我儘を言うみたいに、結芽はクロユリを抱き締めた。

 少しづつ、消えていく彼女を見つめながら。

 

 

 段々と、自分の意識が薄くなっていることを理解した。

 

 

(…浮気って言われちゃうかな)

 

『…誰も言わないわよ』

 

(そっか…なら、良いか)

 

 

 完全に光の粒子となって消えたクロユリ。

 居なくなった事を確認する間に、結芽の意識は完全に途絶える。

 快晴だった筈の空は、薄く雲がかかり少しだけ雨が降っていた。

 

 -----------

 

 真っ白な夢の世界に、クロユリは迷い込んでいた。

 なんとなく、ここがどこか分かって、自分が完全に負けた事を知った。

 

 

「そうか……私は」

 

「どうやら負けたようね。また、私は」

 

「嘲笑いに来たんですか?」

 

「いや、ただ同胞を迎えに来ただけさ。ほら、行くぞ。私も面倒臭い連れを待たせてるんでな」

 

 

 自分と全く同じ容姿の存在、オリジナルのクロユリ。

 彼女に手を引かれ、クロユリは走った。

 真っ白な世界の先には、温かく彼女を迎える三人の人影があった。

 

 

「……本当にあなたたちは変わっている。…いや、私も…か」

 

 

 クロユリは負けた、可笑しな人間たちの固い絆に。

 温かい愛に…負けた。

 




 この作品を書いて、もうそろそろ一年が経とうとしています。
 一番伸びてもので、皆さんには一番楽しんでもらえた作品になれたら幸いです。

 今は、マギレコの二次やオリジナルの旅話を書こうと躍起になっていて、こっちの方に余り力を回せてない気がします。

 勿論、全力でやってますし、読者の皆さんには面白いと思ってもらえる作品になるよう努力しています。

 ですが、このまま本編完結後もアフターストーリーを続けると、弛んでしまって詰まらない駄作を描き続ける気がしてならないのです。

 だからこそ、私はこの作品本編完結を持って終わらせようと思います。

 もし、私の作品がまだ見てぇよ…と思った読者さんが居ましたら、リクエスト箱を用意しますし、マギレコの方も読んでみてください。(NLです)

 次回、最終話でお会いしましょう。お楽しみに。


 リクエスト箱→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=234630&uid=234829

結芽の誕生日は……

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