バットエンドも良いところです。
苦手な人や、あまり見たくないと言う人はブラウザバックすることをオススメします。
「……起き……ゆ……ないと……くすぐる……」
少女の耳に聞こえる声は、聞き慣れたものだった。
何万回聞いたかすら忘れてしまったほどに、繰り返し聞いてきた声。
その声が再開の合図となり、少女は……夢神百合は目を覚ました。
起きた彼女の目の前に居るのは結芽だ。
綺麗な桜色の髪、碧く澄んだ瞳、童顔で小悪魔の様な表情。
いつも通りの彼女がそこに居た。
「おはよ、結芽」
「おはよ〜、早く行かないと真希おねーさんたちに怒られちゃうよ?」
「だね、今すぐ準備する」
着ていた寝巻きを脱いで、ハンガーに吊るしてある親衛隊の制服を手に取る。
この動きも慣れたものだ。
しかし、幾つか変わったことがある。
変わったことの一つは……
何千回目からだったかは覚えていないが、徐々に灰色になっていくものが多くなっていったのは覚えている。
だが、百合はこの現状にさして驚く様子はない。
驚くことに意味を感じていないのか?
はたまた、もうその程度では驚くことさえないのか?
理由は分からないが、一つわかることがある。
彼女の心は……凡そ死んでいる、と言うことだ。
結芽と喋っていた時は普通だったが、制服に着替えている途中の彼女の目は酷く濁っていた。
綺麗だった藍色の瞳に、輝きはない。
結芽と喋っていた時だけ、輝きを取り戻していた。
明らかに不自然だったが、結芽が気づくことは無く、着替え終えた百合と二人で執務室に急いだ。
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時間には何とか間に合い、何度目かも分からない今日の話を聞いている。
御前試合。
伍箇伝の各学校こら二名づつ選出され、頂点を競う。
刀使としての実力を御当主である紫にアピールできる、年に一回のチャンスだ。
決勝戦だけだが、紫も生で試合を見るため、親衛隊に護衛任務が命じられた。
《話は以上だ、解散》
《失礼しました》
変わり果てた景色の中で会話を聞いていたが、それも終わった。
……先程も言った通りだが、百合から感じられる世界は変わっている。
それのもう一つは……
景色が灰色になり始めた頃と同時期にこうなり始めた。
理由は不明。
ただ、一つ言えることがあるとすれば、百合は結芽以外の人間に微塵も感情を向けていない。
繰り返しの果てに、百合は結芽以外に関心がなくなったのだ。
それもあってか、結芽以外が話す言葉は読唇術を使って対処している。
摩耗し過ぎだ百合の心は、結芽と言う精神安定剤がなければ生きることは出来ない。
ここ数千回は、人を殺すことにも罪悪感がない。
可奈美と姫和を殺した回数だって数え切れない。
何度か共闘し、舞草に居たリチャード・フリードマンから、フェニクティアを貰い結芽に投与したが……
結果は失敗。
病状が悪化し、最終的には自分の手で結芽を殺すなんて言う結末になった。
今回こそは、理不尽な運命を変える。
その思いを胸に、百合は進み続けるのだ。
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御前試合の襲撃から一日、百合は特に動くことは無く結芽と過ごしていた。
ベットの上でゲームをする結芽に抱きつく百合。
結芽は何かを言うことは無く、ただ無言で抱きつかれる。
「ねぇ、結芽。もし、私が結芽のことを殺したら…どう思う?」
「いきなり何!? 怖いんですけど!」
「真剣なの…本気で答えて」
「分かんない…分かんないけど……他の誰かに殺されるくらいだったら、百合の方が良いかな」
その答えが貰えれば充分だ。
百合は先程までとは打って変わって、笑顔で結芽のゲームの邪魔をする。
二人でいられる時間。
彼女の残された唯一の心の癒しであり、心の拠り所。
病魔に苦しむ彼女を救うにはどうしたらいいのか?
何万回と繰り返してきた問に、ようやく答えが出たーーば良かったのだ。
病魔よりも早く。
病魔より苦しまないように。
もし、今回も救えなかったら、次回はこれを試そう。
百合の心の中に、小さな希望が見えた。
その希望は、大勢にとって絶望だと言うことを、彼女が知る由もなかった。
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あれからまた時間が経った。
今日は可奈美たちが刀剣類管理局本部を襲撃する日。
今、百合の目の前には二つ肉塊がある。
緑色の服を着たものと、白い布を血で染め上げた服を着たもの。
返り血で汚れた服を気にすることは無く、ある場所に向かった。
今回も突破口を見つけることは出来なかった。
いつもと変わらないバットエンドだ。
嘆いている時間より、彼女と会えない時間の方が少なくなっている。
その事実が、擦り切れた筈の心を更に擦り減らす。
いつもの場所に、彼女は居た。
口から出した血で服を濡らし、木に寄りかかって座っている。
死に顔は穏やかなもので、笑っているようにも感じられた。
身勝手だ。
「狡いよね、結芽は。いっつも私を残していくんだもん。そんな幸せそうな顔でいるのはなんで?」
「………………」
死人が答えることは無く、静寂が辺りを包む。
千を超えてから数えるのを止めた繰り返しの中で、何千回目かの口付けをする。
触れ合う唇は冷たく、彼女が死んでいることを嫌でも教えてくる。
「冷たいなぁ…。さっきまで、あんなに温かかったのに……」
口付けは誓いだ。
次は絶対に助けると言う誓い。
けれど、百合の心はもう限界だった。
だからこそ、次にやることは決まっている。
この繰り返しに、終止符を打つ。
最低最悪の……
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「……起き……ゆ……ないと……くすぐる……」
帰ってきた。
また、御前試合の日からやり直し。
でも、それもこれで終わりだ。
結芽の声で起きた振りをして、着替えを始める。
実際、着替えなくてもいいのだが、お揃いの服は心地がいいので気にしない。
すぐに着替え終わり、結芽が扉の方に向かっているのを見た。
「ゆり〜早く行こうよ! 遅れたら怒られちゃう」
「そうだね」
作り慣れた笑顔を貼り付けて、御刀に手を伸ばした。
普段のように腰に固定する訳でもなく、百合は納めていた御刀を抜いた。
流石に百合が抜刀した音に気づいた結芽が振り向く。
顔も少しばかり強ばっているようだ。
「ゆり…?」
「結芽は……私の事好き?」
「いきなりどうしたの?? …勿論好きだよ」
「そっかぁ…。じゃあ、ごめんね」
抜いた御刀は篭手切江。
それを、結芽の心臓部分に突き刺した。
なんの躊躇いもなく、なんの罪悪感もなく。
一重に重すぎる愛が故に、壊れ果てた心が生み出した答え。
「ゆり…なん…で?」
「もう疲れたよ。何回、何十回、何百回、何千回、何万回。繰り返しても、繰り返しても。結芽を助けられない、病魔から救えない。病魔なんてやつに殺されるくらいだったら……」
普段の百合からは考えられないほどの狂った笑顔。
振り切れた愛情は、刃となって結芽に突き刺さった。
「私に殺された方が幸せでしょ? 」
その日、二人の刀使が死亡したと言うニュースが流れた。
一人は結芽……もう一人は百合だった。
このお話で分かる人も居るかもしれませんが。
百合は、何度でも立ち上がる正義の味方や英雄ではありません。
誰かのために頑張れるのではなく、結芽のために頑張れるのです。
御刀のない世界だったら、彼女は普通に優しくて、普通に真面目な女の子だったでしょう。
……恐らく、これが最悪のバットエンドです。
p.s.
まどマギのほむらが繰り返した回数は十回程度らしいので、百合が何万回も繰り返してると思うと、百合がヤンデレを超えたヤンデレに見えてくる。
結芽の誕生日は……
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