刀使は常に、命の危機と隣り合わせの日常を送っている。
故に、刀使の殉職者がゼロになる事はない。
紫のお陰で、殉職者は限りなくゼロに近くなったが、奇跡に奇跡が重ならなければゼロにはならなかった。
これは奇跡が起きなかった話。
一人の少女が、最愛の人を待ち続けた話だ。
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決戦から四ヶ月後、桜も見頃になった時期に可奈美と姫和は隠世から帰還した。
だが、そこに百合の姿はない。
二人曰く、途中ではぐれてしまったとの事。
探そうにも、自分たちが現在何処にいるかも分からないので探せなかった事を聞いた。
この時の結芽の落ち込みようは酷く、三日間ほど誰とも口を聞かなかった。
元親衛隊のメンバーさえ、彼女に口を聞いて貰えなかったとか。
その後、何とか活気を取り戻した結芽だったが、喜怒哀楽の起伏が以前より激しくなり、情緒不安定になってしまった。
朱音や紗南の指揮の元、隠世の実地捜索が開始され、結芽も任務として参加する事に。
「結芽、調子は大丈夫かい? 何かあったらすぐに言ってくれ」
「だいじょーぶだよ! 真希おねーさんさ心配症だなぁ〜」
特別遊撃隊として、結芽と真希は参加。
他のメンバーは任務の都合上来れなかったが、それでも結芽は構わなかった。
彼女たちにはやらなければいけないことがある。
結芽だって、それを理解していた。
だからこそ、結芽は真希しか顔見知りが居ないこの状況でも、文句を言うことなく作戦に集中した。
荒魂による妨害なんてなのんその、結芽は天賦の才を遺憾無く発揮し、百合の捜索に当たった……が。
「……結芽、時間だ」
「で、でも、ゆりはまだ!!」
「…これ以上ここに居るのは危険だ。周りを見れば分かるだろう? みんな疲労が溜まっている。捜索をこれ以上続けたら……死者が出る可能性があるんだ。分かってくれ」
「でも……でも!!」
「結芽!!!」
真希の声は直接言われている訳でもない、周りの刀使さえ萎縮させるものだった。
暴力的な正論に、結芽は何も返すことが出来ず、弱々しく頷く。
「驚いた…隠世にも、天気は存在するんだね」
「真希おねー…さん?」
「雨が降るなんて聞いてないよ…。ほら、早く帰ろう。風邪を引いたら困るだろう?」
「…雨なんて、降ってないよ」
「いいや、降ってるよ。さっきから、ずっと」
初めて、結芽は心の底から誰かに謝りたくなった。
自分と同じぐらい悲しんでいて、それでもそれを表に出すことは立場の所為で出来ない。
どこまでも不器用な少女は、隠世の中で雨に打たれた。
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可奈美たちが隠世から帰って来て四ヶ月、決戦からは八ヶ月となった頃。
計四回目の隠世捜索が行われた。
だが、今回も収穫はゼロ。
回数を重ねる毎に、結芽は弱々しくなっていく。
精神的にも…肉体的にも…。
「結芽さん。食事はしっかりと取ってください。任務に差し障ります」
「どうでもいいじゃん。荒魂なんて……。それより、次の捜索任務はまだなの?」
「先日、私と行ったばかりですので、また時間が開くと思いますよ」
「………」
夜見の言葉に、結芽は項垂れる。
あとどれほど待てば、想い焦がれる彼女に会えるのか?
あとどれほど待てば、この寂しさが消えてくれるのか?
百合に会いたくて、この寂しさを満たして欲しくて、焦がれる想いをぶつけたくて。
項垂れたまま、涙を流す。
感情の起伏が激しくなった結芽は、全く持って自分の感情をコントロール出来なくなっていた。
普段なら仲間の前で泣いたりしない彼女だが、今はただ痛くて、会いたくて、想いが涙になって零れ落ちる。
約束は破らない。
自分の隣は、ずっと空けておく。
最後に交した約束を糧に、少女は一日を生きてゆく。
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時は経ち、決戦からは一年が経った。
隠世への捜索は未だに行われているが、一向に成果は上がらない。
その所為もあってか、結芽は鬱に近い状態になっていた。
必要な任務以外では部屋から外に出ず、食事もまともに取っていない。
何人かが交代制で、結芽に食事を持って行っているが、食器が帰ってこない為に、食べているかは分からない。
彼女の部屋の前を通ると、時たま気が狂ったような叫び声が聞こえたり、嗚咽を漏らしながら泣き叫ぶ声が聞こえるなど。
少しづつ、結芽に関わろうとする人間は減っていった。
それでも、特別遊撃隊のメンバーや可奈美たちは、頻繁に彼女の部屋を訪れる。
誰かが訪れている間は、結芽も少しだけ笑顔でいられた。
けれど、部屋に人が居なくなった途端、満たされない寂しさと焦がれる想いがぶり返し、思いをぶちまける。
「ゆり…なんで帰ってこないの? なんで…なんで…。なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」
捨てられた?
否、彼女はそんなことしない。
帰って来れない理由が出来た?
否、彼女ならどんな理由があっても、自分の元に戻ってきてくれる筈だ。
なら、何故?
何故、自分の元に帰って来てくれないのか?
疑問が結芽の頭の中をグルグルと回り、壊れた機械のように言葉を吐き出し続ける。
会いたい、会いたい、会いたい。
想いが強くなれば強くなるほど、少しづつ結芽の精神が壊れていく。
苦しい、辛い、悲しい、怖い、痛い、気持ち悪い。
精神を少しづつ…少しづつ、負の感情が蝕んでいく。
限界は…すぐそこまで来ていた。
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春になった。
四月の頭、桜前線に異常はなく、全国各地で桜の蕾が開いている。
無論、結芽たちが居る地域も例外ではなく、桜が咲き誇っていた。
『結芽の髪って、桜みたいで凄く綺麗だよね』
「そんなことないよ〜、ゆりの髪だってすっごく綺麗だよ?」
『本当? なら、嬉しいなぁ』
過去の幻影と会話しながら、桜を眺める。
百合の居ない、二度目の桜。
あと、何回…あと何回一人で桜を見れば、彼女は帰ってくるのだろうか?
五回? 十回? はたまた二十回?
分からない。
『ずーっと、何時でも桜が見られればいいのに』
「…そう、だね」
『そしたら、近くに結芽が居なくても、ちょっとは寂しくないのに』
「…………」
幻影の彼女が寂しそうに微笑んでいたのを覚えている。
そこだけ非日常の中にあるように、幻想的で綺麗な桜並木。
聞けば、隣にある空き地には花園が出来るらしい。
何でも、植えるのは百合の花だけだとか。
「ゆり、知ってる? 新しく、ここの隣の空き地に花園が出来るんだって。しかも! 百合の花しか植えないんだよ? 凄くない! すっごい偶然! ……でもさ、百合の花が咲く時期って六月から八月の間なんだって」
皮肉としか言いようがない。
百合と結芽の写し身のように、桜並木は百合の花園は隣に並ぶ。
しかし、二つの花が同時期に咲くことはない。
奇跡が起こってもありえない。
隣に居る筈なのに、永遠にすれ違う運命。
「ゆり。今年の桜も綺麗だよ。…早く帰って来ないと、散っちゃうよ」
『それは嫌だなぁ。早く帰るよ…だから、待っててね結芽』
「…うん。ずっと、ずーっと、隣は空けて待ってるね」
少女は待ち続ける。
永遠に帰って来ない、自分の大切な人を。
例え、万年経とうとも。
次回もお楽しみに!
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