友達はたくさんいないけど、みんなに好かれてはいないけど……

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ふと思いついた短編です。


嫌われ者は夢を見る。

 子供たちがはしゃぎまわる声が、大きな公園に響いている。

 降り注ぐ春の日差しは暖かく、子供たちの表情を自然と笑顔にさせている。

 ここはとある地方の、とある町。人々とポケモンが共に仲良く生きる、平和な町である。その証拠に、公園の中には、ポケモンと共に遊んでいる子供たちもちらほらと見えた。

 子供を見守る親はいない。この町では犯罪などは全く起きず、格差社会もないような町だったのだ。

 いつもの時間に見える、いつもの光景。そんな中に、一人の男が現れた。

 それは、どこかおかしな格好をした男だった。

 春だというのに、分厚いジャンバーを羽織って、たっぷりと腹に蓄えた脂肪を楽し気に揺らしている。顔には脂汗がびっしりと浮いており、丸く髭を生え散らかした不潔な見た目からは考えられないほどに、つぶらな瞳をしている。これでもかというほどに浮かぶ造り笑顔が、気味悪さに拍車をかけていた。

 何か小さな紙の束をわきに抱えた男は、そのまま公園の真ん中に設置されてあるベンチの方まで歩いていくと、どっかりとそこに座った。

 急に現れた不審者に、子供たちは少しだけ怯えた表情を見せたが、すぐに遊びへと戻っていく。ポケモンがいれば安心だとでも思ったのだろう。

 貼り付けたような笑みを浮かべたまま、公園をぐるりと見渡していた男は、不意に何を思ったのか、わきに抱えていた紙の束を取り出した。

 その男の行動に、子供たちの数人は興味を惹かれ、誘蛾灯へと飛んでいく蛾の如く、男の方へと歩いていく。

 

 男が取り出したのは、画用紙で出来た紙芝居だった。

 手作り感満載のその紙芝居は、よっぽど古いのか、すこしだけ黄色くなっていた。

 子供たちはその紙芝居に、男がこれから何をするか想像がつかなかったからか、

 少しだけ首を傾げた。

 男は、遠巻きに自分のことを見ている子供たちを手招きすると、ベンチの前に大きなシートを敷いた。ここに座って、紙芝居を見てくれという意味なのだろう。

 その意図をくみ取った数人の子供がシートの上に座る。すると、誘われるように多くの子供たちが寄ってきた。警戒心よりも好奇心の方が勝ったのだろう。

 子供たちを見てにっこりと、貼り付けたような笑みをさらに大きくする男。少し不気味だった。

 気が付けば、公園にいた子供たちとポケモンは、全員男の前に座っていた。集まる視線は期待に輝いており、男はつぶらな瞳を数回瞬かせて、紙芝居の一ページ目を皆に見せた。

 

『嫌われ者のメタモンさん』

 

 ピンクのクレヨンで丁寧に装飾を施されたその題名は、子供たちの興味をじゅうぶんに引き付けたようだ。数人の子供が前のめりになって、じっと紙芝居を見つめる。

 そんな子供を見てにっこりと笑った男は、ゆっくりとした手つきで、紙芝居を始めた。

 

 それでは、嫌われ者のメタモンさん。はじまり、はじまり。

 

 

 ◆

 

 

 昔むかし、あるところに一匹のメタモンさんがいました。

 メタモンさんはいつも独りぼっち。ずっと森の中に住んでいて、友達もいないまま過ごしていました。

 

 

 そんなメタモンさんには、一つの夢がありました。

 それは、友達をたくさん作ることです。たくさんの友達に囲まれて、笑顔で過ごせれば、どれだけいいだろうと、いつも家で眠る前に布団の中でそう夢を描いていました。

 しかし、そんなメタモンさんと友達になろうという者は、彼の周りには一人もいませんでした。

 

 何故なら、メタモンさんは何者でもなかったからです。

 ポケモンや人間は同じ人間と共につるむ生き物だったのです。自分と違うものを、拒む生き物だったのです。

 メタモンさんは何者でもありませんでした。メタモンさんは生まれた時から特殊な体質で、どんなものにでもなれるという特性を持っていました。

 どんなものにでもなれます。誰にでもなれます。

 しかし、メタモンさんは本当の意味で、何にもなれず、誰にもなれなかったのです。

 

 誰かに化けて友達になろうとしても、最後にはバレて嫌われてしまいます。

 だから、メタモンさんはそのうち、本当の自分を見せることが怖くなってしまい、一人で過ごすようになってしまったのです。

 しかしそれでも、友達を作るという夢は諦めていませんでした。

 毎日、山から下りては様々なポケモンや人間たちと仲良くなろうとしました。

 しかし、それらは全て無駄に終わりました。

 一日が終わるたびに、メタモンさんの心は腐っていきました。自分は何者でもなくて、何者にもなれないんだと、朝が来て起き上がるたびに、涙を流しました。

 彼を救う人は誰もいません。

 

 自分に自信がないので人の真似をする。それだけで嫌われるなんて、なんと残酷な世界でしょうか。

 今日もメタモンさんは、一人で過ごしていました。

 山の麓を歩いていたメタモンさんは、ふと何かを見つけました。

 それは、近くの町に住む人たちがよく愛用していた、薬草でした。

 それを見たメタモンさんの頭の中を、とある案が駆け巡りました。

 これを持っていったら、自分は皆から愛されるのではないのだろうか。

 

 そう思ったメタモンさんは、早速人間に化けて、薬草を摘み取りました。目指すは町の薬草屋さんです。

 

 二本の脚で確かに地面を踏みしめながら、町へと歩いて行ったメタモンさんは、すぐに薬草屋さんへと向かいました。

 

 がらりと木製の扉をスライドさせ薬草屋さんの中に入ると、つんときつい薬草の匂いと、どこか懐かしい埃の匂いがしました。

 急に入ってきたメタモンさんに気が付いていないのか、薬草屋のおばあさんはこちらを見向きもせずに勘定台の向こうで本を読んでいます。

 

 メタモンさんが薬草を勘定台に置くと、おばあさんはやっと気づいたのか、ちらりと薬草を横目で見ました。

 

「これを、売るのかい?」

 

 しわがれた声は、メタモンさんの耳に確かに入ってきました。

 頷きますが、おばあさんはメタモンさんの顔を見ていないので、気づいていません。

 

 困りました、メタモンさんは化けている間、言葉を話せないのです。

 一生懸命頷いたり手を動かしたりでおばあさんに意思疎通を図りますが、おばあさんは気づいていないようです。

 こうなればと、メタモンさんは顔の一部を自分の元々の姿に戻して、返事をしようと考えました。

 顔を元に戻すのは、少しだけ時間がかかります。なのでこれはメタモンさんにとってかなり危険な行為でしたが、このまま会話ができないよりかはマシだと考え、実行することにしました。

 見る見るうちに、メタモンさんの顔がぐにゃりと歪んでいきます。それは、どこか狂った絵画のような光景でした。

 

「はい……売ります」

 

 やっとのことで声を絞り出したメタモンさんは、急いで顔を元に戻そうとします。しかし、その前におばあさんが動きました。動いてしまいました。

 

「悪いけど、私は物を売ってくる人の顔を覚えとかなきゃいけない性分なんでね、あんたの顔もばっちり覚えさせてもらう……よ……」

 

 顔を上げたおばあさんとメタモンさんの目がばっちり合います。メタモンさんの顔の下半分はまだ元に戻っている最中の、ピンク色のゼリーのような見た目のままです。

 おばあさんはその顔を見てしばらくの間固まっていましたが、すぐに大声を上げました。

 

「助けてくれー! ば、バケモンが来たぞー!」

 

 その大きな声は、大きくない町に響きました。

 すぐに誰かが駆けてくる音が聞こえてきます。メタモンさんは焦ってしまい、すぐに薬草屋さんから飛び出ました。

 後ろから、メタモンさんを追いかけるかのように飛んでくる罵声を聞かぬように、走っていきます。目的地はわからないままですが、とにかくこの場所にいたくなかったのです。

 長い間走ったメタモンさんは、不意にどさりと倒れこみました。その瞳には、じわりと涙が浮かんでいます。

 

 

(なんでなんだろうか)

 

 メタモンさんは、仰向けに転がり、青空を眺めながらふと考えました。

 

(なぜ僕は周りと違うのだろうか。周りと一緒だったなら、みんなといられたのに)

 

 憎々し気にそう思っても、空は変わらず青いままです。

 ごろりと寝返りを打つと、不意に何もかもが悲しくなってきました。

 なんだか、友達を作る気さえも失せていきました。

 

(ダメだ、友達を作るのは僕の夢なんだから)

 

 弱気な自分に喝を入れ、立ち上がります。どうにかしてたくさん友達を作らないと、そう思いながら、メタモンさんは家へと帰っていきました。

 

 

 翌日、メタモンさんは、町の近くから人々を眺めていました。変身するには細かな情報が必要でしたし、友達を作る方法なども知りたかったからです。

 見れば見るほど、意味がわかりませんでした。

 道を歩く人々と自分は瓜二つだし、特におかしなところはありません(やたらとつぶらな瞳を除けば、ですが)。なのになぜ、自分は嫌われるのだろう。

 

 頭を抱えていたメタモンさんは、視界の隅で何かを見ました。

 それは、一人のおじいさんでした。

 彼のことは、メタモンさんも知っていました。なんでも町一番のシェフだとか。彼の料理を数回、変身した状態で食べに行っていたメタモンさんは、このおじいさんが大好きでした。何度もおじいさんの料理を真似して、それと全く同じ味のものを作れるようになるくらいに、メタモンさんは彼の料理を気に入っていたのです。

 そのおじいさんが、山の近くで倒れこんでいました。どうやら滑って腰を打ってしまったようです。

 すぐさまおじいさんへ駆け寄ったメタモンさんは、おじいさんを抱え上げました。メタモンさんはポケモンなので、人よりかは力が強かったのです。

 

「お、おい……お前さん、何をしておるんじゃ」

 

 担がれたおじいさんが声を上げます。しかしメタモンさんは何も応えません。というより、応えられないというのが正解です。彼は声を出せないのです。

 しかしおじいさんの家がどこにあるかを知っていたメタモンさんは、ゆっくりと、おじいさんの腰に響かないように、歩き始めました。

 

 数分後、無事おじいさんの家へと到着したメタモンさんは、扉を開けおじいさんを家の中へと運び込みました。

 最初はメタモンさんのことを疑わし気な瞳で見ていたおじいさんでしたが、だんだんと警戒心を解いていったのか、痛む腰を抑えながら立ち上がって、メタモンさんを見ました。

 

「ありがとうな、若いの」

 

 その言葉は、メタモンさんにとってとても嬉しいものでした。

 今まで疎まれてばかりいた自分が、お礼を言われる。そのことが、とても嬉しかったのです。

 しかし続いた言葉で、メタモンさんの表情は曇りました。

 

「さて……これからどうすればよいかの……ほかに誰かシェフがいればいいんじゃが……」

 

 おじいさんは町のレストランで働くシェフです。彼が休むとなれば、他に働く人がいなければいけないのです。しかし、おじいさんのように美味しいご飯を作れる人が、この町にはいませんでした。

 

「素直に怪我をしたと言って、数日の間レストランを休むかの……」

 

 寂し気に呟かれたその言葉に、メタモンさんは強く首を振りました。

 そうして、思いついたのです。

 自分が、このおじいさんのために働こうと。

 

 友達なんて今は関係なく、このおじいさんを助けるために、自分の変身の力を使おうと、そう決めたのでした。

 幸い、おじいさんの料理を真似していたので、それに近い味のものは作ることが出来ます。おじいさんの格好になれば、誰からも疑われることはないでしょう。

 

 メタモンさんはおじいさんに大丈夫だと伝え、自分がなんとかすると言いました。

 猜疑心の混ざった視線でメタモンさんを射抜いていたおじいさんでしたが、メタモンさんのまっすぐな瞳を見て、どうやら信じてくれたらしいです。

 

 

 次の日から、メタモンさんはおじいさんの体に変身して、シェフとしてレストランで必死に働き始めました。

 最初は何も喋らないシェフに困惑した様子の従業員でしたが、料理はちゃんと作ってくれると理解してからは何も言わなくなりました。

 お客さんも、おいしいと言って喜んでくれました。

 自分が他人を幸せにしていると考えると、メタモンさんも幸せな気分になりました。

 大勢の友達に囲まれているような気分になって、すごく楽しかったのです。

 

 

 しかし、幸せは長くは続きませんでした。

 メタモンさんが働き始めてから三日目のことです。

 

 おじいさんに扮したメタモンさんが町を歩いていると、一人の少年が目につきました。

 少年は道端でうずくまっていました。

 一体どうしたんだろうかと思いながら見ていると、急に少年に向けて、誰かが石を投げ始めました。

 

「やーい、こののろま!」

「愚図! お前のあだ名、ヤドンな!」

「ははは! ぴったりの名前じゃねえか! 愚図で泣き虫なヤドン!!」

 

 見ると、それは違う少年たちでした。

 どうやらうずくまっている少年は、今石を投げている数人の少年たちから虐められているようです。

 それを見て、メタモンさんは憤慨しました。

 何ということでしょう、この少年は、自分と同じ種族である少年をいじめているのです。一体何が目的で、こんなことをしているのか、メタモンさんには全く見当がつきません。

 人間は、同じ種族でさえも嫌うのかと、メタモンさんは諦めにも似た感情を抱きながら、ぼうっとその光景を見ていました。

 

「やいのろま! これを避けてみろよ!」

 

 少年たちはヒートアップしてきたのか、かなり大きな石ころをうずくまっている少年に向かって投げ始めました。少年は何もすることが出来ずに、ただ泣いているだけです。弱肉強食なんて言葉では済ませられないくらいに、ひどい光景でした。

 ひゅんと、軽くない音を出しながら飛んだ石は、まっすぐに少年の腕へと当たります。当たった場所から、血液が出てきました。

 まさか本当に投げるとは思っていなかったメタモンさんは、少しの間呆然としてしまいました。

 しかしすぐに気を取り戻し、少年を助けるために動き始めました。

 虐めている少年たちは、面白がってさらに大きな石を投げました。

 石は何の障害物もないまま、少年の体へとぶつかる────はずでした。

 石が少年の無防備な肌に接触する一瞬前に、影が飛び込んできて、少年を庇いました。

 

 それは、メタモンさんでした。

 少年を庇ったメタモンさんの体に、これでもかというほど石が投げつけられます。

 しかし、人間の体ではないメタモンさんに石を投げたところで、大して意味なんてありません。

 それに焦った少年たちは、彼らの拳骨か、それ以上あるとても大きな石を大きく振りかぶって、メタモンさんの頭に向かって投げました。

 どこからか聞こえてくる、息を呑む声。

 がつんと、鈍い音が小さな町に広がりました。

 

 何が起こったのか、メタモンさんはわかりません。

 静寂が周りを覆って、誰一人物音を立てませんでした。

 そんな静寂を破ったのは、少年たちの一人から発せられた、小さな一言でした。

 

「化け物……」

 

 その言葉を皮切りに、少年たちはサイレンのような悲鳴を上げました。

 何が起こったのかわからないメタモンさんは、きょろきょろと辺りを見渡します。

 そして、気づきました。

 ショーウィンドウに映るおじいさんの体は、石が当たった顔だけ、メタモンさんの元々の姿に戻っていたのです。

 それに気づいたメタモンさんはすぐに逃げようとしますが、その前に人々が集まってしまいました。

 

「おい、なんだあれ……?」

「あれって……〇〇レストランの、シェフ? 何あの顔……」

 

 野次馬が、メタモンさんを遠く囲んでざわざわと囁きはじめます。

 メタモンさんは、心が絶望に染まっていく感覚を覚えました。

 

「そういえば、昨日シェフの家に行ったけど、あの人今怪我で療養中だぞ」

「じゃあ、今までアイツがレストランで料理を作ってたのか!?」

「き、気持ち悪いわ! 化け物が作った料理を食べてたなんて!」

「こいつ、もしかして毒かなんかいれたんじゃないか!?」

 

 周りが一気に騒がしくなり始めました。

 メタモンさんは投げかけられる言葉を否定しようとしましたが、野次馬はそんな暇さえ与えてくれません。

 

「おい、アイツ子供を襲ってるぞ!」

「離せこら!!」

 

 メタモンさんが必死に言い訳をしようとしても、彼らは聞く耳など持ちません。

 じりじりと、こちらににじり寄ってくる人を見ながら、メタモンさんは涙を零しました。

 

(みんなに好かれたかっただけなのに……なんでこうなってしまったんだろう)

 

 好かれるために変身をして、好かれるために喋り方を学んで、好かれるために人の生き方を学んだ。それなのに、どうしてみんなは僕を嫌うのだろうか。

 そんな思いが、メタモンさんの頭の中に浮かびます。

 

 悲しくなったメタモンさんは、気絶していた少年を地面にそっと寝かせ、走り出しました。走り出したメタモンさんを見て、野次馬はさっと左右に分かれます。まるで紅海を渡ったモーゼのような光景でした。

 しかし、メタモンさんの視界は涙で滲んでおり、その光景はぼんやりとしか見えませんでした。

 

 

 ◆

 

 

 走って、走って、走りました。

 気が付けば、メタモンさんは自分の本来の姿に戻っていました。

 ピンクで、小さくて、ブサイクな姿です。

 恥ずかしくって、メタモンさんは木の陰に隠れます。こんな自分を、見てほしくありませんでした。

 これからどうしようか、メタモンさんは悩みました。

 もう、夢をあきらめるべきだと、気づいたからです。

 

 自分はこの姿でいる限り、人々に決して好かれることはないとわかったのです。

 

 ぽとり。

 

 草切れに、雫が一滴落ちました。

 それは、メタモンさんの涙でした。

 

 一度零れ落ちた涙は、もう止まりません。

 ぼろぼろと、メタモンさんは木の陰に隠れて泣きました。自分のこの姿が憎かったのです。

 もっと皆が愛してくれるような姿かたちになりたかったと、心から願いました。

 

 そのまま、何時間泣いていたでしょうか。

 気が付けば辺りは黄昏色に染まっていました。

 涙を流し過ぎてへとへとになったメタモンさんは、そっと草むらに寝ころびました。この前寝転がった時よりも、随分と空が高く見えます。

 それもそのはずだ、とメタモンさんは一人で自嘲します。今は変身していないではないか、と。

 

(このまま、雲になって、空を飛びたいな……)

 

 メタモンさんは、空を見上げながら、そう思いました。

 夕焼け色に燃える雲は、まるで溶けたキャラメルのように輝いており、見ているだけでお腹が空いてきました。

 

「ねぇ、こんなところで何してるの?」

 

 不意に、空を見ていたメタモンさんの視界に影が落ちてきました。

 誰かがメタモンさんのすぐ近くに立っているのです。

 起き上がって見てみると、それは先ほど庇った少年でした。

 少年は泣きはらした目で──それでもにっこりと笑いながら、メタモンさんをじっと見つめました。

 

 急に、メタモンさんは恥ずかしくなってきました。

 今の自分は本来の、みすぼらしい姿なのです。その姿をこの少年に見られることは、とても恥ずかしいことだと思っていたのです。

 急いでぐにゅぐにゅと形を変え始めたメタモンさんを見て、少年は焦ったように声を上げました。

 

「ちょ、ちょっと待って! 変身はしなくていいよ!」

 

 そう言われ、メタモンさんは内心で首をかしげました。

 

(この少年は何を言っているのだろう。なぜ、変身しなくてもいいなんてことを言ったのだろうか)

 

 疑問に思うメタモンさんを見て、少年はにっこりと笑いました。

 

「僕、そのままの君、好きだな!」」

 

 その言葉に、メタモンさんは目を見開きました。

 この少年は、メタモンさんの本来の姿が好きと言ったのです。

 

(ありえない。どこに好きになる要素があるんだ?)

 

 メタモンさんは元に戻った自分の体を見てみます。

 紫色の小さな体に、ぶよぶよと絶えず動くゼリーのような体。

 どこにも、好きになる要素なんてありません。

 それなのに、少年はこんな姿が好きと言ったのです。

 

「すごく可愛らしいよ! それに、格好良かった!」

 

 少年は、目をキラキラと輝かせます。

 

「僕を助けてくれた時の君、すごく格好良かったんだ!」

 

 メタモンさんは何も言えずに、頬を赤くしながら熱く語る少年を見上げていました。

 わけがわかりませんでした。

 メタモンさんを格好いいなんて言う人間がいるなんて、思ってもみませんでした。

 

 しかし、メタモンさんは少し不安に思いました。

 この町でメタモンさんは嫌われています。

 ということは、この少年も、メタモンさんと一緒にいると共に嫌われるのではないかと、そう思っていたのです。

 しかし少年は、微笑んで言いました。

 

「大丈夫だよ。僕はもともと嫌われ者だし、それに──」

 

 メタモンさんは、呆然と少年を見上げています。

 その瞳から、つぅと一筋の涙が零れ落ちました。

 メタモンさんは、ずっと勘違いをしていたのです。

 他人になろう、他人の真似をしよう。

 そう思ってばかりいたせいで、本当の自分を忘れてしまっていたのです。

 少年は、本当のメタモンさんが好きだと言ってくれました。人々に嫌われることを承知で、自分のことを選んでくれたのです。

 

 本当に大事なことは、他人の真似をすることや、他人についていくことなのではなく、自分を貫くことだったのです。

 

 少年は大きく息を吸って、しかし静かに、言いました。

 

「メタモンさんと友達になれたら、僕は他人の視線なんて、もう気にしないよ」

 

 

 ああ、その通りだ。

 メタモンさんは静かに目を閉じました。

 友達をたくさん作ろうとしてばかりで、本当の自分を見失っていた自分に気が付いたのです。

 本当にメタモンさんが欲しかったのは、大勢の愛情でもなく、多数の尊敬でもなく、たった一つの、変わらない愛情だったのです。

 

 

 その日、メタモンさんには、かけがえのない友人が出来ました。

 

 その少年はメタモンさんと旅に出かけ、そこで様々な冒険をするのですが、それはまた、別のお話……。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「面白かった!」

 

 一人の少年が、紙芝居が終わった瞬間にそう言った。

 すると堰を切ったように、大勢の子供たちが、興奮気味に紙芝居の感想を言い出した。中には少し涙を見せる子もいた。

 

 見ると、太陽は既に子供らの直上で輝いている。どうやら、既に昼になっていたらしい。

 

「ねえおじさん!」

 

 不意に、空を見上げていた男を、一人の少女が呼んだ。

 

「このメタモンさん。この後はどうなったの? ちゃんと、幸せになれたの?」

 

 その質問に、男はつぶらな瞳で少女をじっと見ると、大きく頷いた。それを見て、小女の顔にも笑顔が灯る。

 

「おーい!」

 

 不意に、公園の外から、男性の野太い声がした。

 見ると、今しがた紙芝居を披露していた男と同じくらいの年齢の男性が、こちらに手を振っている。

 男は紙芝居を片付け、子供たちを退かしてシートを取ると、男性の方へと歩いていく。どうやら彼の知り合いらしい。

 

 男がいなくなった公園は、いつも通りの日常を取り戻していく。

 しかし、この公園の中にいる少年少女たちは、忘れてはいない。

 この公園で聞いた、いつもとは違う話を。

 いつもとは違う日を、体験したことを。

 

 

 ◆

 

 

「今日もやってたのか? 紙芝居」

 

 二人の男は、並びながら町を眺めていた。

 不意に投げかけられた質問に、男は嬉しそうに頷いた。

 

「よくやるよな、毎日……まあ、それが君の生きがいなんだろうけど」

 

 そう言いながら男性は、道端に落ちていた小石を拾って、ひょいと男に優しく投げた。

 小石は男の二の腕に当たり、そのまま落ちていく。

 

 それを見て、二人はにっこりと笑みを深くした。

 

「さ、行こっか。嫌われ者のメタモンさん」

 

 小さな町に、小さな二人の影。

 今日も変わらず、歩いていく。

 

 友達はたくさんいないけど、みんなに好かれてはいないけど。

 大切な友達が一人でもいれば、案外それでいいのかも。

 




調べてみたら、この小説でメタモンさんと言った回数、なんと110回。

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