──フラン⋯⋯紅魔館、地下室にて──
レミリアに食事を頼んだ後、私はすぐさま地下に戻った。この暗くて狭くて冷たい部屋だけが私にとって安心できる部屋だったし、何よりも
「⋯⋯はー、疲れた。なんでこんな部屋に居るんだろ⋯⋯」
本当はこんな惨めな部屋に居たくない。もっと自由にしたいし、もっと気軽に生きてたい。それでもこの地下に居る理由は何か。それはただ1つ、レミリアのために他ならない。レミリアの面目を守るためというのもあるけど、何よりも私は気がふれてるから。いつおかしくなって、妹を傷付けてもおかしくないから⋯⋯。
『お前は危険すぎる。レミリアに危害を加える前に地下に幽閉する』
「ちっ⋯⋯黙れよ⋯⋯」
時折、どこからともなく声が聞こえる。憎き父親の声だ。彼はもう既に死んでるから、幻聴という事は確実だ。だけど、聞いてると腹が立つ。怒りがふつふつと湧き上がる。私を地下に閉じ込めた張本人だからなのか、最も私を嫌ってたからなのか。どちらにせよ、私からしてみればいい思い出はない。
『お前はスカーレット家の恥さらしだ!』
『あなたは私の娘なんかじゃないわ! 私の娘はただ1人、レミリアだけよ!』
「っ⋯⋯!」
父親に続けて母親の声が脳裏をよぎる。その言葉に、私を責める言葉に、私の中で何かが切れた。
「うっ、あァァァァ! なんだよ! うっさいんだよ!どいつもこいつもレミリアレミリアって⋯⋯! 誰も私の事なんか見てくれないッ! 私が姉なのに! 当主になるはずだったのに! レミリアは⋯⋯私の全てを奪って⋯⋯ああぁ! 腹立つッ! なんであいつを殺せないの!? 目さえ握ればすぐ殺せるのに! どうしてあんな奴に優しくするの!? あいつさえ消えれば全部私のモノなのに!」
適当に近くにあった物の『目』を掴み、破壊する。いつも通りの発散方法だけど、それだけじゃ満足できないから、思い切って壁を殴る。流石に壊せはしないけど、大きなヒビは入った。だけど、それでも気持ちは収まらない。気持ちは高ぶる一方で、どんどん怒りが湧いてくる。
「なんで私が! あんな奴の妹なんか! どうして私が遮られて、妨げられて! あんな甘えん坊で⋯⋯かまってちゃんな妹の⋯⋯うぅっ」
言葉にしてみてようやく理解できた。やっぱり、私にはレミリアしかいない。優しく接してくれて、私を唯一吸血鬼として、姉として慕ってくれたレミリアしか。それ以外の誰も、私を生き物としてすら見てくれなかった。
「そう言えば、ずっとレミリアだけだったなー⋯⋯。私を見てくれて、私を好きでいてくれたの。⋯⋯レミリア、早く来てよ⋯⋯。なんで私が寂しい思いをしないとダメなのよ⋯⋯。レミリ⋯⋯あっ、ようやく⋯⋯!」
話をすれば何とやら。外から小さな足音と何かを運ぶ音が聞こえた。こんな場所に来る物好きな人はレミリアだけだ。彼女だけが私に安らぎを与えてくれる。私を安心させてくれる。
「早く⋯⋯早く行かないと⋯⋯」
半ば強迫観念にも似たものに取り憑かれながら、この
「ねえ、お姉ちゃん」
「んー、どうしたのー?」
「1週間後、私の誕生日があるの。来てくれない⋯⋯?」
ご飯を食べ終えた後、レミリアが恐る恐るそんな事を聞いてきた。レミリアの誕生日と言えば、紅魔館の中でも一際大きなパーティーホールで行われる誕生日会かな。今年はレミリア500歳とキリがいいし、人もたくさん集まりそう。という事は、私の噂も知ってる奴が多いというわけか。
陰口や悪口なんて日常茶判事だし、今更気にする事もない。ないけど、絶対に腹立つ。昔の事を思い出すから殺意も湧く。本当は絶対にそんな場所に行きたくない。
「⋯⋯レミリアのためならいいよ。可愛い妹の頼みは断れないからね」
「本当に!? ありがとう、お姉ちゃんっ!」
でも、この可愛い顔が見れるならそれも悪くないかもしれない。レミリアに必要とされる事が、私の生きる意味だから。彼女が居なければ、生存意欲なんて湧く事もない。だから、もっと妹に必要とされたい。
「約束ね、お姉ちゃん。ほら、指切りげんまんしましょう?」
「⋯⋯うん。指切りげんまん⋯⋯」
小指同士を絡め、上下に振って約束を交わす。
「それじゃあ、もう戻るね。お姉ちゃん、また明日も来るから!」
「うん、待ってるね⋯⋯」
レミリアは私に別れの挨拶を告げると、食器をワゴンに乗せ、扉を開けて立ち去った。扉を閉じる最後まで、私に笑顔を見せてくれながら。
「⋯⋯いいなー、誕生日を誰かに祝ってもらえるなんて」
レミリアが完全に地下から出ていった後、ふとそんな事を思った。私は誰にも祝われた事がないし、ましてや生まれた日なんて教えて貰った事がないから自分の誕生日すら知らない。だから、レミリアに祝ってもらう事もできない。
「羨ましい⋯⋯妬ましいわー⋯⋯。いっつもあいつだけ、いい思いができてさー⋯⋯」
思い返すと再び怒りが湧いてきた。どうしてさっき目の前に居たのに、私は何も言えなかったのか。何もできなかったのか。全く以て理解不能、意味不明だ。
「⋯⋯傷の1つでも付ければよかった。そしたら、あいつも後悔してくれただろうに。⋯⋯ああ、でも。そうしたら、一生私なんか相手してくれないか。⋯⋯それは嫌だなー。ん? あれ、私ったらどうしたんだろ⋯⋯」
何故か分からないけど、涙が流れてきた。理由も意味も原因さえも、全く分からない涙が。
「⋯⋯目にゴミでも入ったのかな」
分からないからこそ、私はそう自分に言い聞かせる。そうして意味を持たせる事によって、自分を無理矢理安心させた────
姉は妹の前以外だと情緒不安定。
それでも妹への愛は忘れずに。ただ嫉妬心も忘れずに。
ただ、妹がいないと不安なのです。だから、不安定にもなるのです。