嫉妬深い姉と甘えん坊な妹   作:百合好きなmerrick

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中「姉は失態を犯す」

 ──フラン⋯⋯紅魔館にて──

 

「⋯⋯そろそろ行くかー」

 

 誰にともなく呟き、ベッドから立ち上がる。

 

 明日はいよいよレミリアの誕生日会。今日はそのための下見と、ついでに上に慣れる練習だ。陰口や悪口が日常茶判事だから、それに耐えながら過ごさなければならない。今の状態なら余裕だけど、私は情緒不安定なせいかその時々で結構性格も考え方も変わるのを自覚してるから、慣れないと絶対に逃げ帰ってしまう。

 

 逃げ帰る、つまりはその陰口や悪口を認める事になると知ってるはずなのに。それでまたその悪い噂が広まって、余計に住みにくくなるのに。私は常々弱い吸血鬼だと思う。レミリアの姉なのに、見本となる存在のはずなのに。逃げてばかりで、本当にレミリアよりも弱い立場みたいな事して。

 

「すぅー⋯⋯はぁー⋯⋯。よし」

 

 でも、今日でそんな私とはおさらばだ。これ以降は、レミリアの手本となるような振る舞いで、姉としてリードしていこう。

 

 扉の前まで行くと深呼吸して、服の身だしなみを確認して、その暗くて冷たい世界から抜け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯やだ。あの人、あのフラン様なんじゃ⋯⋯」

「やだ⋯⋯本当よ。あの歪で汚らしい翼はお嬢様の妹様よ⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 地上に出た瞬間、廊下ですれ違う妖精メイド達がヒソヒソとそんな話を繰り返す。みんな揃って私の事なんか噂でしか知らないくせに、何故悪口なんて言えるのか。それは恐らく、父の代からここで働く妖精が居るからだろう。それが伝えた噂が他の妖精達に伝達し、今も尚、仕事に不満を持ったり、何かに嫌気がさした者達の鬱憤晴らしとして役目を果たしてる。

 

 それはそれはご苦労な事で、と思うが、何故ここの主であるレミリアの──表向きの──妹にそんな事を言うのか。それだけは間違いなく私の責任だ。私が何も言い返さないから、ただ噂だけの危険人物としてしか見られてないからだろう。そういう者はストレス発散のはけ口として対象にされやすい。今まで生きてきた中で得た、1つの教訓だ。

 

「うわっ⋯⋯また妹様が地上に出てるわ。あんな危険人物、レミリア様も早く殺しちゃえばいいのに⋯⋯。そうした方がきっとみんな幸せよ」

「そうね⋯⋯。情緒不安定なんでしょ? なら、地上にも出さないでほしいわ⋯⋯」

 

 よく言われる事、単なる噂でしか人を見れない愚かな連中だ。自分にそう言い聞かせて何とか耐え凌ぐ。今ここで、それもまだ部屋にまで辿り着いてないのに帰るなんて、もっと長い時間を過ごす事になるであろう明日が思いやられる。そもそも、陰口や悪口の1つや2つで私が──

 

「この館の質も落ちぶれたわね⋯⋯。当主も先代より知識があるわけでも、強いわけでもないし⋯⋯。増してやあんな妹を野放しにするなんて。妹も妹なら姉も姉。それにあの姉も⋯⋯」

「⋯⋯は?」

 

 最後まで聞き取れたわけじゃない。最後までその意味を理解できたわけでもない。ただ分かった事は、妹が⋯⋯私を唯一1人の吸血鬼として見てくれた妹が馬鹿にされたという事だけ。

 

「えっ? な、何──」

「私を馬鹿にするのは百本譲っていいよ。ただね、レミリアを知らないくせに、彼女を知ったふうに話すなよ!」

「あっ、な⋯⋯ぇぐっあ⋯⋯!」

 

 次の瞬間、大きな破裂音とともに、その場に居た妖精はただの肉片と化していた。自分でも気付かず、無意識に相手の『目』を握っていたらしい。最早原型は分からず、その廊下は一面、血で真っ赤に染まっていた。

 

「⋯⋯あっ⋯⋯ああああ⋯⋯」

 

 自分のその行為を理解するまで数秒とかからなかった。慌てて何とかして隠そうとするも、何をしたらいいか分からない。状況を整理しようにも「また殺してしまった」という事だけしか分からない。

 

「何かしら、今のお、と⋯⋯フラン⋯⋯?」

「あ⋯⋯れ、お、お姉様⋯⋯」

 

 そこに運悪く、破裂音でも聞き付けたのかレミリアがやって来た。その目はいつも見る優しくて可愛い目じゃない。他の人がよくする目だ。恐怖に支配され、私という『バケモノ』を恐れる目。それでも、そんな目をしながらも、他の人とレミリアは違ってた。

 

「ふ、フラン、何が⋯⋯」

「⋯⋯っ! ち、違う⋯⋯私は⋯⋯っ」

 

 本当は私を恐れてるはずなのに、それでも必死に寄ってきて、頑張って声に出そうとしてる。でも、私には逆に怖かった。

 

「ごめん⋯⋯っ。レミリア、本当に⋯⋯ごめんなさい⋯⋯。大丈夫⋯⋯貴女だけは傷付けないから⋯⋯」

 

 そうまでして、私に接しようとしてくれる妹を⋯⋯傷付ける事が。

 

「え⋯⋯? ふ、フラン?」

「でも、もう⋯⋯私に会わないで⋯⋯」

「待って! フラ⋯⋯お姉ちゃんっ!」

 

 だからこそ、私は逃げ帰るようにその場を立ち去った────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──レミリア⋯⋯紅魔館、地下にて──

 

「⋯⋯フラン、そこに居るんでしょ?」

 

 急いでフランを追いかけるも、既に扉は固く閉ざされた後だった。開けように鍵はかかり、無理矢理開けようものならフランを刺激しかねない。要は八方塞がりだったので、中に居る姉に呼びかける他なかった。

 

 だが、中から物音はしても返事はない。完全に、姉に拒絶されていた。

 

「⋯⋯何があったか知らないけど、明日だけでも来てくれない⋯⋯? 私、楽しみにしてたから。お姉ちゃんとの誕生日会⋯⋯。だからね──」

「レミリア。もう、ここに来ないで」

 

 扉を挟んで、フランの声が聞こえてきた。悲しそうで、辛そうな声。まるで、私と会わない事が本意ではないような、そんな声。いや、本意ではないのだろう。少なくとも、姉にずっと接してきた私はそう思ってる。

 

「なんで⋯⋯なんでそんな事言うの? 私、何か嫌われるような事でもしたの⋯⋯?」

「⋯⋯違う。そんなわけないじゃん」

「なら、どうして⋯⋯!」

「⋯⋯怖いから」

 

 どういう意味か分からない。フランなら私を文字通りひと握りで殺せるはずだから脅威と思うはずがない。それに、私がフランを⋯⋯お姉ちゃんを拒絶するわけない。もしかしたら、それがちゃんと伝わってなかったのかもしれない。

 

 そう思ってた私だったが、次に発せられたお姉ちゃんの言葉に予想を全て崩された。

 

「私はおかしいの。バケモノなの。⋯⋯だから、いつレミリアを傷付けてもおかしくない。それが怖い。レミリアを傷付けて、嫌われるのが怖い⋯⋯」

「そ、そんな⋯⋯そんな事気にしなくても私は⋯⋯!」

「もしかしたら貴女を殺してしまうかもしれないんだよ!? ⋯⋯能力は私に制御できない。今日、それが分かった。意識しなくても『目』を掴んで、思わず握っちゃうかもしれない。そんな簡単な事で、私は人を殺せるの。同じ吸血鬼である、レミリア。貴女もね」

 

 だからなのか。ようやく、私を拒絶した理由が、私から逃げた理由が分かった。やっぱり⋯⋯いや、そんなの分かってた事だけど、私のためだったんだ。

 

「⋯⋯お姉ちゃんって、やっぱり優しいよね。そんなお姉ちゃんが私、好きだよ。だからね──」

「レミリア! ⋯⋯もう一度だけ言うけど、もう来ないで」

「え、うー⋯⋯」

 

 思った以上に深刻らしい。これ以上刺激したら、もっと怒るかもしれない。それだけは、避けないと。これ以上仲を悪化させるわけにはいかない。

 

「⋯⋯分かった。今日は一旦帰るわね。でも、お姉ちゃん。明日は絶対来てよ。ちょっとだけ、本当にちょっとだけでいいから⋯⋯私との約束だから」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 返事は返ってこなかった。だけど、私はお姉ちゃんを信じて、一度上へと戻った────




「嫉妬深い姉」から「依存気味な姉」に変更してもいいかもしれない(今更)
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