──フラン⋯⋯紅魔館、地下にて──
『やだ⋯⋯私達の
『お嬢様はどうしてあんな奴を⋯⋯』
『いよいよお嬢様も血迷い始めたのかしら。それか、あの悪魔に唆されて⋯⋯』
「ちっ⋯⋯ウザい⋯⋯」
思い返すと、ふつふつと怒りが込み上げてきた。無性に腹が立ち、陰口や悪口関係なく、私やレミリアを馬鹿にするような事を言った奴らを殺したい。
殺意は煮えたぎり、いつしかそれは破壊衝動へと変わる。
「あぁぁぁぁぁぁ!! ウザいウザいウザいウザいウザいウザいッ! あんな奴ら、レミリアが居なければ今すぐにでも殺し⋯⋯っ! そうだ⋯⋯レミリアさえ居なければ⋯⋯私はこんな辛い思いを⋯⋯!」
「お姉ちゃん!」
突如として扉が開かれ、誰かも分からない声が聞こえた。破壊衝動からか、半ば反射的に体が動いた。自分でも驚くほど素早くレミリアを押し倒し、両手でレミリアの首を抑え付けていた。レミリアは咄嗟の事に反応できず、苦しそうに涙目になって私を見つめていた。
「ぁぐっ⋯⋯お、お姉⋯⋯ちゃん⋯⋯」
「貴女さえ⋯⋯貴女さえ居なけれバ⋯⋯! どうして私ばっかりこんな目に遭うの!? どうして誰も私を見てくれないの!? なんで⋯⋯私ばっかり嫌な目に遭って、レミリアは幸せに⋯⋯どうして⋯⋯!」
目から熱いものが込み上げてくる。理由も分からないのに、視界が涙で遮られる。
「⋯⋯貴女さえ居なければ、私が当主になって、こんな目に遭う事も⋯⋯! だから、イマココで貴女を殺して⋯⋯」
「いい⋯⋯よ?」
「⋯⋯え?」
今、レミリアは何を言ったんだろう。有り得ない言葉が聞こえた。不思議と嫌な言葉が聞こえた。
「お姉ちゃんが⋯⋯私を嫌いなら、殺していいよ⋯⋯? その代わりにね、お姉ちゃんは⋯⋯幸せになってね? 私⋯⋯お姉ちゃんが幸せなら何でもいいから。⋯⋯だって、今までずっと、私を守って、見てくれていたから⋯⋯」
「⋯⋯なんでよ。なんで、怒ってくれないの? どうして拒絶しないの?」
そんな事を言われるなら、むしろ他の人みたいに拒絶してくれた方が良かった。そうすれば、簡単だったのに。簡単に──終われたのに。
「ん⋯⋯? だって⋯⋯お姉ちゃんの事、好きだから⋯⋯」
曇りのない瞳。今まで見てきた他の人とは違う、心の奥底からの本音。周りに左右されず、しっかりと私を見てくれてる。思えばそうだ。レミリアは今までずっと、私を見てくれていた。それなのに私はレミリアの思いを無下にして、勝手にレミリアを責め、自分で自分の首を締めていた。
「⋯⋯あぁ⋯⋯あぁぁぁ⋯⋯! れ、レミリア⋯⋯。ごめんなさい⋯⋯ごめんなさい⋯⋯!」
ようやく自分の過ちに気付き、慌ててレミリアの首から手を離す。レミリアは少しばかり咳をしたかと思うと、突然私の首に手を回して引き寄せてきた。
「あ、えっ⋯⋯!?」
レミリアにされるがままに私は倒され、すぐ目の前にはレミリアの僅かに涙目になった顔が映る。それを見て、余計に後悔の念に襲われる。
「あ、レミリ──」
「ううん。いいの。もう、いいよ、謝らなくて。少しびっくりしただけよ。私は大丈夫」
強がってる。私の目にはそう見えた。だって涙目だし、凄く悲しそうな顔してるし。翼は元気なさそうに萎れてるし。そんな事を考えて、改めて私はレミリアの事をよく知ってるんだな、って思った。少しの特徴から、今のレミリアの状態が分かる。それはレミリアの事をよく見ている証拠だろう。
何だかんだ言って私は、レミリアの事が──
「それにね、私はもう守られる立場じゃないよ。もう私は⋯⋯1人でも生きていける。だから、お姉ちゃんも自由にして。この館の主の座が欲しいなら渡すし、今までお姉ちゃんに悪口言ってたメイドが気に食わないなら全員追い出す。その代わり⋯⋯私とずっと一緒に居て! もう私から逃げないで⋯⋯!」
溢れる思いが顔に表れたのか、レミリアの目から涙が溢れ出る。これほど私を好きでいてくれたレミリアを、どうして私は拒絶しようとしていたのか。今では逆にそれが分からない。
「⋯⋯レミリアは、私を嫌いにならないの? 私、レミリアを殺そうとしたんだよ?」
「嫌いになんかならないよ。だって、私はお姉ちゃんが大好きだから」
「⋯⋯⋯⋯え? えぇ? な、なんで?」
「好きなのに理由がいる? ずっと一緒に居たから、好きでもおかしくないでしょ?」
それはよく分からない。でも⋯⋯その言葉を聞けて嬉しい。今まで周りの事を気にしてた私が馬鹿みたいだ。最早、周りの事なんかどうでもいい。私はレミリアさえ良ければそれでいいんだ。そうだ。私は⋯⋯レミリアさえいれば⋯⋯。
「⋯⋯分かった。信じるね、その言葉。⋯⋯レミリア、地位や名誉なんてどうでもいいし、復讐なんてのも今ではもう興味無い。でも、ずっと一緒に居てあげる。もう貴女から絶対に逃げない。その代わり改めて約束して。私とずっと一緒に居るって」
「う、うんっ! 約束する! お姉ちゃんとずっと一緒に居るって⋯⋯!」
まだ涙目だが、決意の篭もった眼差し。他の誰よりも信頼に値する、愛しく守りがいのある⋯⋯いや、もうレミリアはそういう立場じゃないか。守られる立場じゃない、って自分で言ってたしね。だから──
「ふふっ、流石⋯⋯私のお姉様。約束したからには、簡単には破させないよ?」
──守る立場からも、守られる立場からにも卒業しよう。私もレミリアも、もう子供じゃないんだから。
「か、からかわないでよっ⋯⋯! 私は⋯⋯お姉ちゃんの──フランの妹だから!」
「ふふっ、はいはい。⋯⋯ほんと、レミリアって可愛いね」
その代わりに、いっぱい愛でよう。今よりもずっと可愛がろう。そうする事が、復讐や地位を得る事よりも、レミリアへの恩返しになると思うから。
「んっ、もう⋯⋯。ふふふ、お姉ちゃんが元気になって良かった。今度は絶対にお姉ちゃんの悪口を言わせないから、また上に来てくれる?」
「ん、いや、別にそんな事しなくていいよ。もう気にしないって決めたから。レミリアのためにもね」
逃げてばかりでは今と同じような事を繰り返してしまう。だから、今度は立ち向かう。もちろん相手にするつもりはないから、立ち向かうというよりは無視するんだけど。
「⋯⋯そろそろ上に戻ろうか。みんな心配するだろうしね」
「うん⋯⋯そうね。戻ろうか」
そう言って立ち上がり、レミリアの手を握る。そして、私は暗くて冷たい部屋に最後の別れを告げた。
「ねえ、もう朝だよ?」
「んぅ⋯⋯もう⋯⋯?」
あれから、私は地下には一度も行ってない。今はずっと上で暮らしている。もちろん部屋なんて無いから、レミリアと同じ部屋。レミリアの部屋のベッドは意外と広いから、2人でもかなり楽々と寝れる。ちなみに、地下の後片付けは咲夜という従者がやってくれたらしい。
「ええ、もうよ。さあ、早く起きてご飯食べるわよ、
あれからも私とレミリアの関係は相変わらず私が妹、レミリアが姉となっている。もし私が自分が姉だと主張すればレミリアの立場が危うくなるかもしれない、と思ったからだ。
だけど、私はそれでいい。
「お姉様、もう少し⋯⋯ふわぁ⋯⋯」
「もう⋯⋯仕方ない妹ねえ。⋯⋯もう少し、一緒に寝ましょうか」
「うん、そうしよう⋯⋯」
これからはずっと、誰にも邪魔されず、レミリアと一緒に居られるのだから────
はい、とまぁ⋯⋯一応今回で最終回でした。
フランさん、結局最後は姉妹に依存してしまう謎。どうしてなんだろうなぁ。最初の予定だとただ元気で健気な少女になる予定だったのになぁ(