何故夜中に書いてしまうのか。
「えっと…」
奉仕部に突如舞い降りた依頼。
その依頼者、綾瀬綾音の口から出た依頼は、彼女には似つかわしくないものだった。
子供っぽいところを直したい?
この綾瀬を見て誰が子供っぽいと感じるのか。
俺のようなぼっちにも気が使えて、仕事もそつなくこなせる。
彼女のどこが子供っぽいというのだろうか。
「私、昔からずっと子供っぽいらしくて。それを直したいって思ってるんだけど。やっぱり難しいかな?」
ただ奉仕部とかいう謎部活に依頼をしてくるということは、彼女の中で大きな問題である可能性がある。
こんなチンケな部活にまで縋ってきたのだ。友人や家族に相談できないのか、はたまた…。
ただ勿論その逆も然りなんだがな。
「あややってそんなに子供っぽいかなぁ?今話してる感じだと、どっちかというと大人って感じがするけど」
由比ヶ浜が綾瀬に尋ねる。
これに関しては由比ヶ浜に同感だ。
「う、うーん…。私も子供っぽいって自覚がなかったからなんとも…」
どうやらそれは綾瀬本人も自覚したのは最近らしい。
「…そうね。綾瀬さん本人が分からないのなら私たちも考えようがないわ。ひとまず別の方法を考えましょう」
雪ノ下が顎に手を添えながら話し始める。
確かに具体的なことがわからないのであれば、俺たちもやりようがない。
最終的な目標が綾瀬の『子供っぽい』を直すとするならば、まず何をやるべきなのだろうか。
「取り敢えず、子供っぽいって思う趣味を我慢してみる、とか?」
「バッカお前。そんなんじゃいつまで経っても終わらねぇだろ」
否、大人な綾瀬綾音という表面だけ作っちまえばいい。
「大人な趣味をいくつか作れば、いくらでも誤魔化しはきく」
「…比企谷くん。それは根本的な解決になっていないんじゃないかしら?」
「確かにそうだな。お前の言うことは最もだ雪ノ下。しかしな…」
その通り。この方法は俺の十八番である問題の先送りでしかない。
ただ今回に限ってはこの方法が一番の得策だ。
「人間がそんな簡単に変われるはずがない。趣味、センス、好み。それらの感性を捻じ曲げたところで、それこそ悪手だ。実際問題、綾瀬は自身の感性を捻じ曲げてまで達成したい依頼なのか?」
綾瀬本人を捻じ曲げて作ったもの。それは綾瀬綾音と言えるのだろうか。
そしてそれを綾瀬は分かっているのだろうか。
そんなにコロコロと自分を捻じ曲げていいはずがない。それならどこぞの陽乃さんのように仮面をつけた方がマシだ。
いつだって偽れて、いつだって本音を言えるのだから。
「…私のせいで迷惑がかかっているのは確かだから。出来ることならなんでもしたい」
っとおぉっと…予想外の答えなんだが。
「だ、そうよ?比企谷くん」
ぐっ、こいつ煽ってきやがる。かっこよく雪ノ下を論破するつもりが…恥ずかしっ。
だいたい綾瀬も綾瀬だ。漫画の主人公みたいなこと言いやがって…。
おい、雪ノ下。哀れみのめを俺に向けるな…!
「で、でもヒッキーの案もいいと思うなぁ。あややが大人な趣味を作れば、最終的な依頼の解決につながるわけだし!」
俺と雪ノ下がバチバチ睨み合っている間に、すかさず由比ヶ浜がフォローを入れてくれる。
さすがビッチの神様、雪ノ下を論破し損ねた哀れな俺を救ってくれるのか…!さすがビッチの神様!!
「…ヒッキーなんかシツレーなこと考えてない?」
「考えてない考えてない。んで、結局なにすんだ?」
由比ヶ浜を適当に押しのけながら、話の脱線を元に戻す。
「誠に遺憾ながらも由比ヶ浜さんの言う通り、比企谷くんの意見も最もだわ。由比ヶ浜さんの言う通り」
なんで二回言ったんだよ。どんだけ負けず嫌いなんだよ…。
「ひとまず大人な趣味を考えましょう。それを実行に移して、大人な趣味を作る。偽物ではなく、本物のね」
あぁはい、分かった分かった。あくまで俺の案には従わないのね。
「っつったって学校でできることは限られてるだろ」
休日なんかは多少自由がきくが、平日は基本学校の中だ。
大人な趣味っていうと、ダーツとか、ビリヤードとかか?一つも学校で出来ないな…。
いや、ダーツなら遊戯部にあったような気がしないでもないが…。
「うーん…。まずあややはどんなのが好きなの?」
確かにそれも重要だな。あくまで俺が論じたように趣味を偽るのではなく、本当に大人な趣味を作るのだから、綾瀬の好みを知っておくべきだ。その好みから趣味を割り出すって方法も出来るしな。
「え、私?私は……
プリキュア…………とか?」
「「「…………」」」
なるほど。
〜〜〜
「まずは料理よ」
プリキュア好きらしい綾瀬と語り合うのは後にして、思った以上に綾瀬の好みが使えなかったので、取り敢えず家庭科室で料理をする事にした。
料理といえば、子供から御老人の方まで、幅広く趣味として使えるコンテンツだ。
大人っぽいと言われればそうではないが、1回目としては十分かつ、定番だろう。
ちなみに家庭科部顧問の鶴見先生協力のもとだ。
「なんだか放課後に料理作るのって新鮮で楽しいよね!」
由比ヶ浜はいつものごとくお遊び気分。
雪ノ下は調理器具を出していて、綾瀬は由比ヶ浜の相手をさせられている。
「何つくろっか、あやや!」
おい、あんまりグイグイ行ってやるな由比ヶ浜。綾瀬困惑してるぞ。
「そうね。料理内容はなんだっていいわ。綾瀬さんの好きなものを言ってちょうだい」
料理器具の準備が終わったのか、雪ノ下が顔を上げ、綾瀬に尋ねる。
「それじゃあ…エビフライとか?」
「さすがにエビはないわね」
家庭科部が盛んだとはいえ、エビを置いている学校なんてなかなかないだろう。
「ほかに好きなもは?」
「うーん…ハンバーグとか、オムレツとか、唐揚げとか、コロッケとか…あ!あとプリン大好き!」
…………なるほど(2回目)
さっきのプリキュアの件と言い、今のことといい、だいたい分かってきた気がする。彼女の子供っぽさが。
今あげた好物。全て子供が好きなものランキングに載っているような料理だ。
いや、それぞれの料理が大好物だって人はたくさんいるだろう。ただピンポイントに全部当てるだろうか。
つまり、彼女の小学生力は思ったより凄まじいかも知れないという事だ。
「…………簡単に鮭のムニエルにしておきましょう」
それを察したのか、雪ノ下がさらっと軌道修正する。
「えぇ!?私の好物参考にしてくれないの!?」
「い、いえ。参考にした故にムニエルになったのよ?ほら、あなたの言う好きな食べ物をこう…総合するとね?鮭のムニエルになるというか」
雪ノ下頑張ってるなぁ…。
「どう総合したらムニエルになったの…?」
「あら?綾瀬さんの好きな食べ物って鮭と小麦粉じゃなっかたかしら?」
「違うよ!プリンだよぉ!プリン食べたい!プッチンプリンしたいよぉ〜!」
突然綾瀬が手足をばたつかせながら、駄々をこね始める。
いや、キャラ変わりすぎだろ…!?
しかも作ったプリンじゃプッチン出来ないんだよ、駄々こねるな!
「プッチンプリンしたいよぉ!プッチンプリンした…………ごめんなさい」
ぴたっと動きが止まったかと思うと、顔を赤くしながら謝ってくる。
いや、なんだこの可愛い生物。そしてまた綾瀬の小学生な部分が垣間見えた。
さっきのは自分自身も子供っぽいと理解しているようだったがな。
「む、ムニエル!ムニエルつくろっ!」
話は終わりとばかりに、不自然に綾瀬が手を叩く。
「え、えぇ。そうね…」
「う、うん。つくろっか」
苦笑いしてる彼女らは一体何を考えているのか。
俺が言えるのは…とんでもない依頼を受けたかもしれないということだ。
こういう場合料理シーンを描写するのが普通なのだろうが、あまりにも普通だったのでここに綴る。
綾瀬 綾音の小学生力の高さえを見た後だ。料理の腕が心配だったが、別にそんなことはなかった。
確かに普段から料理はやらないらしく、慣れない手つきでノロノロと野菜を切る姿は小学生………というより単純に料理スキルがなかったが、別段下手くそという訳でも、由比ヶ浜のような木炭錬成者でもなかった。
雪ノ下の指導のおかげでだいぶ良くなって、今じゃ包丁さばきもスムーズだ。
ただ…。
「ひ、比企谷くん。私お野菜ダメなの!」
出来上がったムニエルを彩りの野菜と共に盛り付けようとしたところ、全力で止められた。
どうやら野菜が苦手らしい。特にゴーヤとセロリとピーマンがダメらしい。
小学生かっ!?
余談だがキノコなどの菌類もダメみたいだ。
「「「「いただきます」」」」
そして盛り付けが終わり、あとは食べるだけとなった今。
しっかりと食材に感謝して料理を食べ始める…前に。
「綾瀬、フォークの持ち方…」
ふと綾瀬を見て気づいた。右手でフォークを握る手。
それが所謂グーの形をしているのだ。
「変なのは分かってるんだけど…持ちづらくて」
だからといってグーはないだろグーは。もはや小学生でもしないんじゃねえの?
いや、それ以前になんで箸じゃなくてフォークなんだよ。
「綾瀬さん。さすがに高校生がそれはマズイと思うのだけれど…」
「うっ、しっかり治します…」
雪ノ下に指摘され、落胆する綾瀬。
どうも遠目じゃ分からないが、関わってみて初めて分かる。綾瀬の小学生力を。
依頼に来てまだ1時間程度しか経っていない。それなのにこのボロのだしよう。
「なぁ、純粋に気になっただけなんだが。友達とかに指摘されたりしないのか?」
綾瀬は一般的には美少女の部類だが、あまり目立つタイプでもない気がする。
しかし俺のようにぼっちって訳でもないだろう。
そんな友人が綾瀬に指摘したりしないのだろうか?
「多分気付いてない訳ないから。きっと気を使ってくれてると思う…」
しょんぼりと肩を落としながら答える。
なるほどな。確かに友人の立ち位置になったら、言いにくいかもしれない。
子供っぽいなんて言った日には怒らせてしまうかもしれないし、間接的に伝えようにも難しい。
友人のためを思って気を使うと難しい…か。やっぱ友達っていらないな。ぼっち最強。Q.E.D証明終了。
「安心しなさい。これからそれを直していくのよ」
またもや胸を張りながら言う雪ノ下。
そんな宣言しちゃって大丈夫なのかよ…。相当難しい依頼だと思うんだが。
「うーん…でもさあやや」
「ん?」
「あややのそう言うところ、あたしは可愛くていいところだと思うんだけどな〜?迷惑かけてるって言ってたけど、どうやって迷惑かけてるの?」
お、由比ヶ浜にしてはいいこと言ったな。
そこは間違いなく短所なんだろうが、長所でもある。彼女らしさでもある。
それを捻じ曲げるほど重要な理由が、俺には見つからない。
「ありがとう、由比ヶ浜さん。でもね、私のせいで恥をかかせちゃった人が結構いるの。特に家族とか。ほら、私って子供っぽいみたいだから。こんな人と一緒にいるんだーって。こんな人が家族なんだーって」
「「「…………」」」
そうかよ。そういうことかよ。
そんなもんなら俺だって味わった事がある。
中学の時も小町に風評被害が行ったり、由比ヶ浜と夏祭り行った時もそうだ。
でもよく考えれば、それで俺に文句を言う奴は俺の周りには居なかった。
由比ヶ浜も、小町も。
ただ彼女はどうだったのだろう。自分のせいで恥をかかせてしまった家族とやらには、受け入れられているのだろうか…。
「次の趣味、思いついた。さっさとムニエル食べて行くぞ」
「ヒッキー…?」
みんな怪訝そうな顔でこっち見てるが、今回の依頼、なんとなくやる気になった。
別に同情したとかそんなんじゃない。ただ俺のような奴ならまだしも、彼女のような人が蔑まれるのはお門違いだ。
こちとら文化祭の時の借りもあるからな。
裁縫(家庭科室)
「見て見て比企谷くん!うさぎちゃんの枕!可愛いでしょぉ〜」
「お、おう」
読書(図書室)
「私、活字苦手…」
「国語…というか全体の成績は良いわよね?」
「でも絵本の方が好きぃ…」
音楽(音楽室)
「あややなんか楽器できる?」
「トライアングルとカスタネットぐらいしか…」
ダーツ(遊戯部)
「ご、ごめんね?大丈夫?」
「なんで後ろにいる俺に矢が飛んでくるんだ…」
絵(美術室)
「どう、かな?」
「塗り絵をしに来たんじゃないのだけれど…」
「結局全部ダメだったな…」
一通り学校内での趣味になりそうなものを当たったが、むしろどんどん綾瀬の小学生力が垣間見えてくるだけで、逆効果まであるぞこれ。
「ごめんね、なんだかピンとこなくて。でも裁縫と美術は楽しかったよ!」
裁縫は作るものが作るもので、逆に小学生力高まってる気がしておススメ出来ないし。
美術はただのプリキュアの塗り絵だったし。結局成果はなしだな…。
「…そう」
ほら、雪ノ下も心折れかけてんじゃねぇか。
「楽しかった〜!またこういうのやりたいね、ゆきのん!」
由比ヶ浜は相変わらずだがな。
というかこいつは何か考えているのだろうか。
もはや楽しんでね?ってツッコミはもっと早く言うべきだったな…言う機会を逃しに逃して野放し状態だ。
まぁ俺ももう何も思いつかないがな。
「んで、もう手は尽くしたろ。結果はお手上げだ」
「えぇ!?さっきまであんな格好つけてやる気出してたのに!?」
おい、格好つけてとはなんだ、格好つけてとは…。
それに手の内全て出し尽くしちまったんだからしょうがねぇだろ。
学校の内だからやれる事には範囲はあった。外に出ればもっと選択肢があるのだろうが、よくよく考えれば小学生にスーツ着せた所で気に入らないのと同じなように、小学生の感性にどんな大人な趣味ぶつけてもダメな気がする。
つまり何が言いたいかっていうと、心が折れたって事だ。
「それじゃあ由比ヶ浜はなんかあんのか?」
どうせないだろうけどな…。
「むふふ〜。あたしにおまかせっ、だよ!」
あんのかよ!?(高速フラグ回収)
「あやや!土曜日予定ある?」
「ん?いや、特にないよ?」
「ぃよっし!ここから結衣プロデュース企画の始まりだよっ」
雪ノ下と同じように由比ヶ浜は自信ありげに胸を張る。
雪ノ下になかった胸が今はあるから頼もしく感じるな、ぅん。睨まないで雪ノ下さん…。
次回ッ!由比ヶ浜ッ!圧倒的始動ッ!