比企谷くんと小学生な彼女   作:青木々 春

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ほんとありがとうございます。


どうしても、比企谷八幡は変化が嫌いだ。

由比ヶ浜さんや比企谷くんとららぽへ行った帰り道。

私、綾瀬綾音は二人と別れた後トボトボと帰路についていた。

 

『人間がそんな簡単に変われるはずがない。趣味、センス、好み。それらの感性を捻じ曲げたところで、それこそ悪手だ。実際問題、綾瀬は自身の感性を捻じ曲げてまで達成したい依頼なのか?』

 

一瞬、依頼をしに行った時に比企谷くんに言われた言葉がフラッシュバックする。

私は誰なんだろう。子供っぽい小学生な高校生。それが私。

それなのに私はそれを捻じ曲げようとしている。その先のいるのは、本当の私なの?

 

比企谷くんの言う通りなのかもしれない。

それじゃあどうすればいいんだろ。

 

比企谷くんの言うように、表面だけ作って偽っちゃえばいいのかな。

でも、それじゃあ奉仕部の3人みたいに、本当のお友達が作れないかもしれない…。

 

…それはイヤっ!

 

「お姉ちゃん?なっ、なにその服!?」

 

ふと話しかけられた方へ顔を上げると、そこには妹の『綾瀬 小園』がいた。

いつのまにかおウチの前まで来てたんだ、気づかなかった。

 

「お姉ちゃん!そんな服持ってたの!?」

 

もう、小園はさっきから何騒いでるんだろう。

…あ、そういえば今日は服を買って着替えたんだ。

ちょっと大人っぽいって思ったけど、由比ヶ浜さんがそんなことないっていうから、つい買っちゃったけど…。

 

ほほぅ、なるほどなるほど。小園はすっかり大人になったお姉ちゃんに度肝を抜かれたわけですな?ふふん、今日から私はニューお姉ちゃんなのだ!

 

「えへへっ、大人っぽいでしょぉ〜?」

 

小園の前でくるりと一回転して見せる。

これやってみたかったんだよねっ、テレビでよくモデルさんがやる奴!

 

「………あ、あわわ」

 

小園ったら、驚いてる、驚いてる。

ちょっとはお姉ちゃんのこと見直したか〜?

お姉ちゃんのことをもう子供っぽいとは言わせないよっ!

 

「おかあさ〜ん!お姉ちゃんが頭打ったかもしれない〜!」

 

んなっ!?失礼な!

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「もぉ〜、びっくりしちゃった」

 

時は変わって夜7時。私たち四人家族は食卓を囲んでいた。

小園はすっかり落ち着いたみたいだ。

 

「ふふん、お姉ちゃんだってもう大人なのっ。もうバカにはさせないよ〜だ」

 

小園に向かって軽くデコピン。

散々子供っぽいって言われたお返しだ、このこのっ。

 

「あたっ、もう、ちょっと服変えたからって調子に乗って〜…」

 

小園は呆れた様子で私をジト目で見る。

 

「でもちょっと大人っぽすぎじゃないかしらぁ〜?」

 

するとママが、いつもの様にまったりした声で心配してくる。

私のママは極度の心配性だ。

今思えば、私が子供っぽい性格になった原因の一端は、ママにもある。

ママはいつも過保護で、なにかがあるに連れて、私たち娘を酷く心配する。

でも叱ってくれる時は叱ってくれて、私たちの自慢のママだ。

 

「もう、お母さん!お姉ちゃんの歳ならあれくらいが普通なのよっ!お母さんがそんなんだからお姉ちゃんが子供っぽくなったんだからね?」

 

「お姉ちゃんはもう子供っぽくないよっ!」

 

小園がママに向かって焦ったように言う。

聞き捨てならないなぁ、もう。お姉ちゃんはもう子供を卒業して大人になったんだからっ!

 

「ふ〜ん…そんなうさ耳がついたパジャマ着てる人が?」

 

小園は私のうさ耳付きフードをヒラヒラさせる。

今一度私のパジャマを見てみると、淡いピンク色のうさ耳付きフードパーカーに、同じ色のズボン。そうだ、パジャマはこういうのしかないんだった。

 

「ぐっ…これは、仕方なく…着てるだけで…」

 

そう、これしかないから、仕方なく着てるだけであって。決して私の意思とかは関係ない。

ホントのホントに関係ないからね?

 

「じゃあ捨ててもいいんだ?」

 

すると小園が勝ち誇ったようにニヤニヤとする。

 

「……っ…うぅ」

 

小園のイジワル。イジワルイジワルイジワルっ!

 

「どうなの?」

 

「…うぅ…小園ぉ〜、パジャマ貸して〜」

 

「ちょ、ちょっと、いきなり抱きつかないでよっ!…もう、仕方ないなぁ〜」

 

 

 

 

「うふふ〜。今日も姉妹は仲がいいわねぇ。あなた、おかわりはいらない?」

 

「ン…今日も美味しかったよ、ありがとうママ」

 

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

こうして今日も綾瀬家の日常が終わる。

いつも通りに夜の帳が下りた。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「失礼します…」

 

放課後の部室。いつも通り奉仕部に来た俺は、静かにライトノベルを読んでいた。

すると少し前にも聞いた、遠慮がちな声が聞こえてくる。

 

「あ、比企谷くん!」

 

そう、綾瀬綾音だ。部室を見回した後俺を見つけると、子供のように微笑む。

顔が童顔だから本当に小学生みたいだな…。

 

「うす…」

 

「比企谷くん一人?」

 

「いや、今二人で鍵を借りに行ってる」

 

今日も百合百合しながら鍵借りに行ってたよなぁ…あいつら。

雪ノ下は一人で十分と言っていたが、由比ヶ浜が二人の方が早いっつって無理矢理ついて行ってただけだが。

果たして二人で行く必要はあったのかを疑う。女子ってのはトイレも大人数で行くからな。

 

「そっか…」

 

そう言いながら綾瀬は、俺の近くに椅子を運んで座る。

やめろよ、なんでわざわざ近くに座るんだよ。勘違いしちまうだろうが。

 

「ねぇ比企谷くん。私さ、」

 

そんな語り口で始めた綾瀬の表情は、すごく不安そうな顔をしていた。

その深刻そうな表情に、ついこちらも改まってしまう。

 

「お友達が欲しいんだ」

 

「……………はぁ?」

 

おっといけない。間抜けな声がでてしまった。

それでこいつはなんと言った?友達が欲しい?

お前、それ俺にする相談じゃねぇだろ絶対。

 

「普通に友達いただろ、確か。なに?ぼっちの俺への当てつけ?」

 

「そっ、そうじゃなくって!…その、比企谷くんも言ってたけど。私を捻じ曲げて作った私に、本当のお友達が出来るのかなって…心配になっちゃって」

 

焦った様子で、どこか幼い言葉づかいで言う彼女の目は、真剣そのものだった。

それにしても小学生みたいな悩みだな。

 

「…だったら依頼やめればいいだろ。それで友達作って終わりだ」

 

「で、でもっ。この性格のせいで…迷惑がかかってる訳で…その…」

 

目が泳ぐ。彼女が言葉を発する度にしどろもどろになっていく。

 

「前にも家族が〜って言ってたが、そいつらに自分の性格を否定でもされたのか?」

 

「それは…ないけど」

 

「だろうな」

 

本気で迷惑をかけたくないと思った奴が、その原因を解決しに赤の他人にまで頭を下げに来たのが綾瀬だ。

しかし、そんな依頼をしたのにも関わらず、自身の変化に今更怖気付いたのも綾瀬だ。

 

いや、彼女は最初から分かってなかったのだ。環境の変化というものを。

出会いが来れば別れが来て、別れが来れば出会いが来るのが世の常。

しかしまるで子供のように今だけを見て楽しむ彼女は、それを知らない。

 

そんな環境の変化に今こいつは気付き始めている。

 

「え…?」

 

綾瀬が泣きそうな顔でこちらを見つめてくる。

まるで縋った藁に避けられたかのような表情だ。

 

しかしそんな顔をしても、彼女は変化というものの恐ろしさを知らなくてはならない。

それを踏まえて彼女が出した依頼こそ、本当の依頼になるのだ。

 

「綾瀬が小学生の理由は、綾瀬の周りの環境にある。何も知らず、無知に育てられてきた綾瀬の環境にな」

 

「そ、そんなことないもん!」

 

子供のように怒鳴り声をあげる。

 

「ママは過保護で、パパは優しくて。それでもちゃんと叱ってくれて。色々な事を教えてくれたもん!」

 

「別に親とは言ってねぇよ…。ただ誰かに甘えられて、常に受け入れられる環境では、そりゃそんな性格になるだろ」

 

冷たく言い放つ。

我ながら感心するほどのクズっぷりだ。

 

「っ〜!っ〜!」

 

俺がそう言うと、綾瀬は顔を真っ赤にして足踏みをする。

家族の事をバカにされたと思ったのだろう。すごく悔しそうな表情を浮かべている。

 

しかし知らなくてはならない。彼女は彼女自身の無知さを。

 

変化というものの本質を知らなくては、この依頼の先に行くことは出来ない。

俺から見れば今の彼女は、死に急いでいるようにしか見えない。

自分のその性格を受け入れてくれる家族がいて、後は何がいるだろうか。

 

しかし彼女はそれを分かっていない。愛してくれる家族がいる故に、無知に育ってしまった。

変化というものの重大さを。今の自分の幸せを。全く知らずに育ってしまった。

それが彼女の小学生力の一番の原因だ。

 

「自分が変われば周りも変わるんだ。さっき言った通り、友達なんて作れない可能性もあるし、家族がそんなお前に愛想をつかす可能性もある」

 

環境が変わると言うのはすなわち、今が崩れると言うことだ。

 

「うるさいうるさいうるさい!!」

 

いつもの彼女からは想像出来ないような大声で叫ぶ綾瀬。

耳を塞いで聞く耳は全く持ってくれない。

失敗したか、少し突き放し過ぎたな…。

 

「やめてよヒッキー!」

 

すると教室の扉の方から声が聞こえてくる。由比ヶ浜だ。

一見泣きそうな表情にも見える、険しい表情をしながらずんずんと部室に入ってくる。

 

「そうよ比企谷くん、そのくらいにしておきなさい」

 

「雪ノ下…」

 

その後ろには雪ノ下もいた。

由比ヶ浜が足をふみ鳴らしながら入ってくるのに対し、雪ノ下は静かに部室に入ってくる。

耳を塞いでうずくまっている綾瀬に、それに付き添う由比ヶ浜。そして俺を見つめる雪ノ下。

なんだか悪いことした感ハンパないな…。いや、したんだけど。

 

「今のあなた、まるで依頼を妨害しているみたいよ?」

 

「いや、俺は…」

 

ただ綾瀬がちゃんと理解していないから言っているだけなんだがな…。

 

「ヒッキーのことだから、何か考えはあるんだろうけど、こんなやり方はやっぱりあんまりだよ」

 

由比ヶ浜が悲しそうな表情をしながら言う。

別に今回は文化祭の時のようなことをしたかったわけじゃない。

何度も言うが、ただ教えたかっただけだ。

 

「…………」

 

俺が黙っていると、由比ヶ浜は綾瀬を連れて部室を出て行く。

この空間には俺と雪ノ下だけになって、無言の気まずい空気が続く。

 

「どこいってたんだよ」

 

なんとなく話を逸らしたくなって、とぼけた質問を聞く。

 

「そうね、子供の成長というものは、何かしらのターニングポイントがあるものよ。あなたには分かる?」

 

「…?いや…」

 

急に素っ頓狂な質問をする雪ノ下に首を傾げる。

 

「思春期や、反抗期などよ。そしておままごとなどの子供趣味卒業のターニングポイントは、いずれそれを恥ずかしいものと認識し、離れていくというもの。だから彼女にそのターニングポイントを知ってもらうために、パソコン室の鍵を借りに行っていたのよ」

 

まくしたてるように言う雪ノ下。

結構鬼畜なことしようとしてましたね…。由比ヶ浜がそれを許したのか?

いや、あいつのことだ。全く理解してないのだろう。

 

「なるほどな…」

 

俺に話を広げられる訳もなく、またしばらく沈黙が流れる。

その間、俺はずっとベランダを眺めていた。

グラウンドで一心不乱に猛練習する野球部やサッカー部。

それらの掛け声がこの特別練にまで聞こえてくる。

 

「…あなたの言いたい事も、少しなら分かる気がするわ。変化というものの本質を教えようとしたのでしょう?」

 

先に沈黙を破ったのは雪ノ下の方だった。

そして彼女には俺のことはお見通しだったみたいだ。

 

「あぁ…。変化を分かってないからこそ、今あいつは迷っているんだ。それを拭ってやるのも奉仕部の務めだろ?」

 

雪ノ下に向かってニヤッと笑いながら言ってやる。

今の彼女には知識が必要だ。判断というのは、知識を持って始めて出来る。

しかし知識を持っていない彼女は判断が出来ない。

変化によって起こる障害や、苦難。真っ直ぐで純粋な彼女にはそれが見えていない。

きっと世界の全てのものが希望に見えているだろう。

 

「確かに彼女は変化と言うものを分かっていない。大人になると言うことに憧れて、目を輝かせているだけの、子供にしか過ぎない。まるで本当の小学生よ」

 

雪ノ下は俺の隣に並び立ち、綺麗に掃除された窓のサッシを撫でる。

その意見は同感だ。だから雪ノ下は綾瀬に大衆の意見を見せようとしたのだろう。

 

俺も、きっと雪ノ下もこんな事は嫌いだが、集団の持つ力は凄まじい。

高校生にもなっておままごとをしている人間を、社会は一体どう思うか。

きっと前向きな反応はないであろう。そう、大半の人間が苦い顔をする。

そんな大衆の常識を綾瀬に見せる事で、子供趣味離れをさせるという目論見だったのだろう。

 

「そんな彼女に現実を直視させたら、それらから逃げようとするのは当たり前。結局、あなたの作戦も、私の作戦も、ダメだったみたいね」

 

「あぁ、そうだな。十中八九今の綾瀬は現実を見ようとはしないだろうな」

 

やはり根っからの子供だ、あいつは。

嫌なことには耳を塞いで見もしない。

今度こそ本当にお手上げかもしれんな。

 

「けれども、よ。その話は別。これは綾瀬さんの問題だもの」

 

すると雪ノ下は俺の顔を覗き込むように見る。

 

「さっきのあなた、まるで変化そのものを否定しているようだったわよ」

 

そしてそんな雪ノ下の言葉は、やけに胸に突き刺さった。

もしかしたら、俺もただ否定をしたかっただけなのかもしれない。

そしてそのエゴを綾瀬に押し付けようとしていただけなのかもしれない。

 

「…………」

 

俺が黙っているのを見ると、雪ノ下は部室の扉へ向かう。

雪ノ下が扉を開くと、冷たい風が入ってくる。

 

教室の扉を閉めることなく、雪ノ下は部室から離れていく。

 

 

 

 

 

「綾瀬さんだけでなく。あなたも私も、まだまだ子供なのかもしれないわね」

 

最後にこんなことを呟きながら。

 




綾瀬家の設定


綾瀬 綾音(長女)

4月1日生まれ 16歳
見た目・茶髪ショートボブ、童顔
性格・子供っぽい(底が知れない)
趣味・おままごと、ごっこ遊び


綾瀬 小園(次女)

8月11日生まれ 15歳(受験生)
見た目・黒髪ツーサイドアップ、ツリ目
性格・ツンデレ(デレ多め)
趣味・女性アイドルの追っかけ


綾瀬 愛(母)

9月30日生まれ 43歳
見た目・黒髪、タレ目童顔
性格・おっとり(心配性)
趣味・料理


綾瀬 綾西(父)

7月1日生まれ 44歳
見た目・茶髪、ツリ目
性格・紳士で寡黙(優しい)
趣味・家庭菜園
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