比企谷くんと小学生な彼女   作:青木々 春

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文字数少なめ。
綾瀬小園ちゃん目線。


いつまでも、綾瀬小園は夢を見たい。

夏も終わり、秋の冷たい風が私の頰を叩く。流れていた涙はすっかり乾き、頬が突っ張る。

なにかを考えようとしてもぼーっとして、なにも頭に入ってこない。

ただただ河川敷の土手の上で、頬杖を立てながら空を眺めているだけ。

私の頭の中は、この薄暗い空と同じように空虚だった。

理由を話すと単純明快で、くだらないことなのかもしれないが、

 

今日、久しぶりにお姉ちゃんと喧嘩した。

 

きっときっかけは小さな事だったと思う。

そこまで大きな喧嘩ではないのだと思う。

それでも私は、私自身に一番腹が立った。

 

『じゃあ、変わらなくていいんじゃない?』

 

あの時言った言葉は、ただ私の考えを押し付けるものでしかなかった。

お姉ちゃんに変わって欲しくないと言う自分のワガママの為に、お姉ちゃんの混乱に乗じて利用しようとした、最低の言葉だった。

 

なんであんな事言っちゃったのか、自分でも分からない。

 

いくら変わって欲しくなかったって、絶対に変化は訪れる。

それを分かっているはずなのに、見て見ぬ振りをして、お姉ちゃんに押し付けた。

今の私の心の内は、後悔で埋め尽くされている。

それでも、これを機にお姉ちゃんが心変わりしてくれるかもという期待を、少しでも持っている自分がいるのは確かで、そこにもまた腹がたつ。

 

そんな事を考えていても、やはりまた頭が空っぽになってゆく。

今はなにも考えたくないや。難しい事、ぜ〜んぶ丸投げしたい。

 

考える事を放棄して、ゴロンと草の上にねっ転がった。

白い制服が汚れるのも御構い無しに、もぞもぞと動き回る。

すると頭上から誰かが近づいて来る足音。

 

「全く…ま〜た服汚して。女の子がそんな事でどうするのぉ」

 

間延びした気の抜けるような声。そんな聞き慣れた声が聞こえてくる。

そう、私の母である、『綾瀬 愛』だ。

なんでここに!?…って、お母さんのことだ。きっと心配で飛び出してきちゃったんだろう。

腕時計をちらっと見ると、既に7時半を過ぎていて、心配性な母ならすぐにでも飛び出してきていい時間だ。

 

「別にいいでしょ、、私が洗濯するから」

 

いつも通りのはずの母の心配性が、なんとなく恥ずかしくなって素っ気なく返す。

 

「門限とか堅苦しい事は言わないけれど、一報くらい入れなさいよぉ〜?」

 

そんな事も気にせず、マイペースな喋りのまま、私の隣に腰をかける。

そうなるとなんだか寝っ転がっているのが少し恥ずかしくなって、私も座り直す。

ふとお母さんの顔を見ると、いつも通り穏やかで、薄っすらと優しい笑みを浮かべている。

 

それでもきっと心配性な母だ、心配しすぎて胸が張り裂けそうだったに違いない。

しかしその事を決して表情に出す事なく、ここまで探しに来てくれた。

私たちに心配させまいとずっと顔に出さずに。

一番心配しているのはお母さんなのに。

 

「ふふっ、相変わらずねぇ〜」

 

相も変わらず優しい笑みを絶やさずに、泥で汚れた私の頰を、可愛らしいハンカチで優しく拭ってくる。

 

「ちょっ、やめてよ恥ずかしい!お姉ちゃんじゃないんだから…」

 

そんな事をされるのが子供みたいで、つい強引に手で追い払う。

恥ずかしいというのもあったが、それ以上に懐かしさを感じたのだ。

 

「昔からあなたは事あるごとにやんちゃして、毎日買ってあげた服を泥で汚して帰ってきて…」

 

そう、昔はいつも公園で走り回って、泥まみれで家に帰ってきていた。私はそんなわんぱくな少女だった。

そんな時いつもお母さんは可愛らしいハンカチで、私についている泥を拭ってくれた。

それが嬉しくて嬉しくて、わざと泥まみれになって帰ってきたこともあったけな…。

 

そんなんだった私が今それを『恥ずかしい』という理由一つで拒んでいる。

そう、つまり私は既に『変わった』。

いや、変わらない人間などいないのだから、当然のことなんだろうけど。

そのくせしてお姉ちゃんの変化を否定している自分はどうなんだって話だ。

 

私が変わった時。そんな事覚えてないけれど、お姉ちゃんもきっと寂しさを感じていたと思う。

 

だってお姉ちゃんは昔っからどこか危なっかしくて、可愛いものが大好きなThe女の子のような少女だったから。

それでもお姉ちゃんは我慢して、妹の変化を見守ってくれた。

本当に、自慢の姉だ。

 

それでも──

 

 

──やっぱり私は変化を求めない。

私のワガママなのは分かっているし、おこがましい事なのも分かっているけれど。

それ以上に私は今が大好きだから。

 

「む、昔の話でしょ!?恥ずかしいから思い出させないでよっ」

 

頭をブンブン振りながら余計な考えを捨てる。

なんだか、私の方が子供みたいなのはきっと気のせい。

 

「今もそうじゃない」

 

「……」

 

お母さんに痛いところを突かれ、苦い顔をしつつも、その目線は河川敷の向こうを見つめる。

きっと今の私の目は、酷く空虚なものなのだろう。

私が黙っていると、お母さんは一息といった風に息を吐く。

 

「そう、昔から…あなたも綾音も。昔っから変わらない」

 

そう呟いた母の言葉に、少しムッとする。

人の気も知らないで…。なんて自己中な感情をお母さんに向ける。

 

「そんな事ない…。少なくとも私は、きっともう変わってる」

 

「…そうねぇ、、子供の成長はあっという間だもの。私たち親が気づかないうちに色んなことを学んでいるもの」

 

「そ、だからお姉ちゃんも、きっといつか変わっちゃう」

 

そんな言葉を自分で口にして、自分で寂しくなる。

なんとなく惨めになって、お母さんの視線から逃れるように目をそらす。

目線を逸らすと、自分の吐息が白くなっている事がわかった。

 

今日は、、寒いもんなぁ…。

 

秋が始まり、温度がぐんぐんと下がってきているこの頃。

土手にいる私たちの背中を、冷たい風が容赦なく叩いている。

すっかり冷え込んだ体を一瞬震わせると、お母さんは自分の着ていた上着を私にかけてくれる。

 

「…きっとお姉ちゃんに憧れてるのねぇ」

 

少しばかりの沈黙が続いた後、夜に包まれている街並みをぼーっと眺めていたら、突如としてお母さんが口を開く。

しかしその言葉はあまりに的を得ている気がしなくて、自覚もなくて。

まるで素っ頓狂な言葉だった。

 

「憧れ…?」

 

ついつい聞き返すと、母は微笑みながら語り始める。

 

「えぇ、憧れ。いつもやんちゃだったあなたに対して、女の子らしい綾音。覚えてないかもしれないけど、あなた、よくお姉ちゃんに嫉妬してたのよぉ」

 

「私が?お姉ちゃんに?」

 

全然覚えがない。

…いや、覚えがないというわけではないのかもしれない。

ただ、気づかないふりをしているだけなのかもしれない。

 

「えぇ、それはもう。気が強くて、いつも男の子に混じって遊んでいたあなたの目には、きっとお姉ちゃんみたいな娘は羨ましく映ってたのかもしれないわねぇ」

 

そうだ。その通りだ。いつも女の子らしいお姉ちゃんが羨ましくて、気に入らなかったんだ。

お母さんの言うことがあまりにしっくりきて、幼かった時の感情が今のように鮮明に思い出される。

 

そう、本当は私だって女の子っぽい事をいっぱいしたかった。

プリキュアだって見てみたい。おままごとにだって混じりたい。

なのになぜか恥ずかしいという感情が邪魔して踏み出せなかったんだ。

 

いつしか私は、キラキラした可愛らしい世界に憧れるようになっていた。

夢のようなお話の童話を読んだり、恋愛漫画で恋愛を妄想したり。

そして今もキラキラで可愛いアイドルを追いかけて、私に持っていないなにかを求めている。

 

それでもその事を言う相手はいない。

 

だって恥ずかしいから。

私みたいな気の強い女の子がプリキュア好きで、恋愛漫画読んでて、アイドルの追っかけやってるだなんて。

そんな事恥ずかしくて言えないから。

 

だからそういうことを表だって言えるお姉ちゃんが羨ましくて。

いつまでも子供のように無邪気で可愛らしいお姉ちゃんが気に入らなくて

 

そしてそんなキラキラした女の子の夢を今もなお持っているお姉ちゃんに、憧れていたのだ。

 

「うん、うん…!お姉ちゃんが羨ましくて、私にはないものを持っているくせして、変わろうとしているのが気に入らなくて…お姉ちゃんに憧れていて、今のお姉ちゃんが大好きだから変わって欲しくなんかなくて…」

 

結局ワガママで最低野郎なのは変わらない…。

それでも大好きで、私の理想で、私と言う人格を作ってくれたお姉ちゃんだけは、変わって欲しくなかった。

ずっとお姉ちゃんの背中を追いかけてきて、ずっとお姉ちゃんみたいになりたいって思ってた。

きっとそんなお姉ちゃんが変わってしまったら、私は目的地を見失ってしまう。

 

「私にとっての一番のアイドルのお姉ちゃんが、、いなくなっちゃう…」

 

ポロポロと私が本音をこぼしている間も、お母さんは静かに聞いてくれる。

今お母さんはどんな気持ちなんだろうか。

自分の私情を押し付けているような真似をしている娘を見て、どんな気持ちなんだろうか。

 

軽蔑?失望?いや、そんなんじゃない。

だって今のお母さんの目には、確かな強い気持ちが宿っているように見えるから。

 

「それは違うわぁ。お姉ちゃんはね、今成長しようとしているのよぉ」

 

ゆっくり、気の抜ける声で喋る。

いつも通りのお母さんのはずなのに、どこか違う。

そこには確固たるものを感じられた。

 

「成長?」

 

「えぇ、成長。別にお姉ちゃんがグレちゃったり、犯罪起こしちゃったり、そう言うわけじゃないのよぉ〜?」

 

冗談めかしたように、お母さんが言う。

そんなお母さんを、ムッと睨むと、苦笑いしながら言葉を続ける。

 

「変化と成長は、一概には言えないの。きっと成長したお姉ちゃんは、もっともっと素敵になって、もっともっとキラキラしてる」

 

どこか遠くを見据えたように言うお母さんの言葉には、変な説得力があった。

 

「キラキラ…」

 

私がおうむ返しのように言ったその言葉、『キラキラ』

私の持っていないもの。でも私の大好きなものには絶対にあるもの。

白馬の王子様のキスも、イケメン転校生とのラブコメも、みんなに愛されるアイドルも。

みーんなキラキラして、ドキドキした。

 

そしてお姉ちゃんも。私とは違って、いつもキラキラしていた。

 

そんなお姉ちゃんが変わるのが嫌で。

キラキラがなくなってしまうのが嫌で。

私はとてつもなく不安だった。

 

でも、お母さんが言うように。もしお姉ちゃんが成長してもっと輝けるのなら。

もっとキラキラできるのなら。

 

それはきっと、素敵な事だなって。

 

「そうよぉ。だから小園も、そんなお姉ちゃんをもっともっと好きになれるし、もっともっと憧れる事ができる」

 

きっともっと好きになれる。もっともっと憧れる。

どこまでいっても、なにをしようとも。

私の理想であり、目標であるお姉ちゃんは、私の近くで輝き続けてくれるだろうか。

私の前のステージで、踊り続けてくれるだろうか。

 

ならいいや、、私だって推しのアイドルが幸せならそれでいい。

ちょっぴり寂しいけど、推しのアイドルが人気になるならそれでいい。

 

「だから小園。怖がらないで?」

 

そう、私の中の、一番のお姉ちゃん(アイドル)が。

 




シリアスが凄い長いわ。主人公(八幡)全然出てこないわで。
皆さんに楽しんでもらえてるのかなって心配になる。

私用のため来週は投稿出来ない「可能性」があります。
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