魔法少女育成計画YAMINABE   作:どるふべるぐ

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N市のマジカルキャンディー争奪が始まる前のお話だよ。
オリキャラが暴れるよ。
みんな大好きそうちゃんがビョーキ一歩手前になってるよ。
みんな大好きラ・ピュセルが色々ピンクもといピンチになるよ。

それでもいい人だけ読んでね☆


女騎士と男子中学生の超孤独な戦い
二等分の女騎士


 ◇ラ・ピュセル

 

 

 朦朧とする闇の中で、ふと温もりを感じた。

 微睡(まどろみ)の底、意識の暗く深い場所で揺蕩(たゆた)いながら、私は声を漏らす。

 

「うぅ……」

 

 開かない瞼がひどく重い。頭がぼうっとする。

 まるで全身が鉛になったかのような気だるさと、そして……なんだろう、このぽっかりと胸に穴が開いたような……まるで欠けてはいけない何かを失ったかのような虚脱感は。

 

 分からない。

 というか……なんでまだ意識があるんだ? 私は、確かに『あいつ』に……。

 

 半ば夢の中にいるような状態で戸惑う私はその時、身体の上にずしっと圧し掛かる重みを感じ、思わず呻いた。

 

「う…おもぉ……っ」

 

 それは冷たい土塊や瓦礫のような無機物とは異なる、温もりのある肉の体の感触。紛れもない人体の重みだ。

 

 誰かが私に覆いかぶさっているのか?

 いったい誰が。いや、なんで私に……?

 ますます困惑する私は、だが次の瞬間、裏返った声を上げる事となる。

 その何者かにいきなり胸を掴まれたからだ。

 

「ひゃん……っ!?」

 

 乳房が熱い掌に包まれる感触。びくっと揺れる乳肉に押し込まれる指は、硬く、力強い――男の手だった。

 その五本の指が、私の乳房にむにゅんと沈み、ゆっくりと撫でるような手つきで力を加えてくる。

 

「ゃ……ちょっ……誰だ? なに、揉んでぇ……っ」

 

 決して乱暴ではない、むしろ優しく愛でるような力加減でも、その指先に押された場所から熱い電気のようなものが走って、頭の奥を甘く痺れさせる。揉まれれば揉まれるほど肢体はびくんと震えて、胸の先から熱く火照っていく。

 抵抗したいのに、相変わらずひどく気だるい体には録に力が入らなくて、歯を食いしばり刺激に身をよじって耐えていると、くんくんと鼻を鳴らす微かな音が聞こえた。

 

「今度は臭いを嗅いで……っ!? くっ……、この変態めぇ……っ」

 

 胸を揉まれ、あろう事か体臭まで嗅がれた。誰ともわからぬ男にこの身を好き勝手にされる怒りと屈辱に、目の端が熱く潤む。

 

 許さない。

 

 満足に動けない女を欲望のままに蹂躙するケダモノ。疑いようもない女の敵。

 こんな奴を野放しにしておいちゃいけない……でないとあの子が……スノーホワイトが……!

 

 大事な、何よりも大切な女の子にこの魔手が伸びる事を想像した瞬間、身体の奥がカッと熱くなった。守らなければ。そう思うほどに鉛のようだった身体に力が戻ってくる。

 

 大丈夫。もうすぐで体が動かせる。

 そうしたら泣いて土下座されようとも許してやるものか。絶対に。こいつだけは……ッ!

 

 

 

「そ、そうちゃん……?」

 

 

 

「「――ッスノーホワイト!?」」

 

 どこかポカンとしたようなその声に、意識が一気に覚醒する。

 ハッと我に返った私は相棒の名を叫び、全く同じ……いや、ほんの少しだけ低い声を聞いた。

 それは本当に近く、胸元から聞こえた声で、私は思わずハッとそちらへと目を向け――絶対に目にするはずの無い顔に、言葉を失った。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ■分前

 

 

 ◇ラ・ピュセル

 

 

「ふぅ……今日の魔法少女活動はこれくらいかな」

「今日もいっぱい人助けできたね。そうちゃん」

 

 僕、岸辺颯太は魔法少女だ。

 幼稚園の頃に幼馴染と一緒に魔法少女のアニメを見てから魔法少女が大好きになった。特に憧れたのは、テレビの中で活躍する戦う魔法少女だ。必殺のデイジービームを放つマジカルデイジーの雄姿に歓声を上げ、キューティーヒーラー達の友情に胸を熱くして、悪役であるダークキューティーのクールさに痺れた。

 

 彼女達はどんな危機にも諦めず、どんな敵にも勇気を燃やして立ち向かった。

 そして今、念願の魔法少女となった僕は彼女達と同じように途轍もない敵と戦っている。

 だがそれは、とても辛く、苦しく、そして終わりの無い戦いだ。

 誰にも頼れず、抗えるのは己の精神力のみ。その上、打ち勝つべき敵は何度退けようとも蘇り、更に激しく強大になって襲いかかるのだ。

 

 今まではどうにか耐えてきたが、それもギリギリでの一時的な勝利に過ぎない。

 いつかこの恐るべき敵に身も心も屈しそうになるかもしれない。いや、そうでなくとも相棒であるスノーホワイトにこの孤独な戦いの事が知られたら、そして嫌われでもしたら、僕はもう魔法少女としてやっていけないだろう。

 

「そうちゃんはやめろって言ったろ」

「あ、ごめん。気を付けようとは思ってるんだけどつい呼んじゃうんだよね」

 

 いつもの魔法少女活動(パトロール)を終えてから、拠点のようにしている鉄塔で過ごす二人きりの時間。たとえ誰よりも大切な女の子との何気ない会話の最中でも、油断などできない。

 一瞬でも気を緩めれば、たとえばスノーホワイトがてへりと出した小さな舌が色っぽく濡れていたのにドキッとした瞬間、そいつは牙をむく。

 

 

 

 可愛いエロい吸い付きたい。ディープキスして舌を絡めたいなあ。

 

 

 

「うッ……!?」

「どっ、どうしたのラ・ピュセル!? 顔がすごいことになってるよ!」

「な、何でもないよ。ちょっとそう……心臓が破裂するかと思うくらいの発作が起こっただけだから」

「それは何でもなくないよ!?」

「大丈夫だって。もう落ち着いたから!」

「ほんとうに……?」

 

 ペロペロしたい。むしろペロペロされるのも可。え? どこがって? 言わせるなよ恥ずかしい。

 

「うんほんとほんと……だから安心してよ、ねっ」

「むぅ…………」

 

 いきなり顔を強張らせ目を泳がせた僕に心配げに詰め寄ってくるスノーホワイトを必死に誤魔化しつつ、僕の脳内では荒ぶるそいつとの孤独な戦いが始まっていた。

 鎮まれー。鎮まれー。しきそくぜーくうくーそくぜーしき……(以下リピート)

 

 それはけして逃れる事敵叶わぬ、男ならば誰もが戦わなければならない最強最悪の敵。

 その名は

 

 

 

 煩悩(リビドー)

 

 

 

 正直に言おう。僕、そろそろ限界かもしれない。

 

 理性を侵すピンク色の煩悩を振り払うべく心の中で般若心経を唱えてみても、自然とスノーホワイトの可憐な衣装の隙間から覗く白い肌に目が行く。どころか自分の胸が揺れただけでおおっと思ってしまう。どんなに平静でいようとしても、気が付けばすぐにいやらしい感情を抱いてしまう僕に、清く正しくあるべき魔法少女を続ける資格が有るのだろうか…。

 辞めたくない。けど、人一倍敏感な中学生男子の煩悩からはどうしても逃れられなくて、

 

 逃れられないのならいっそ身も心も委ねちゃいなよ。

 

 そんな苦悩する僕を容赦無く誘惑する、肥大化しすぎて遂には幻聴レベルになってきた煩悩……ッ。

 

 ケダモノになって念願の童貞卒業!! スノーホワイトなら壁ドン一発で落とせるって。僕には分かるんだよね。

 

 ええい黙れ黙れ!!  僕は清く正しい全年齢向け魔法少女なんだ。18禁方向はお断りだ!

 

 スカート無し下半身丸出しで全年齢向けとかw w

 

 

 パンツじゃないからセーフだもん!

 

 「ラ・ピュセル、なにか悩み事があるんじゃないの?」

「えっ!?」

 

 小癪な煩悩との舌戦を止め、思わず目を向けると、いつになく真剣な表情のスノーホワイトがいた。

 

「最近ずっと表情が硬いし、ため息ばっかりしてるし」

「そ、そんなことないよ。小雪の気のせいじゃないか?」

「嘘。これでも幼馴染なんだよ。ラ・ピュセルが元気ない事なんて心の声を聞かなくて分かるんだから」

 

 真っ直ぐな瞳が、はぐらかそうとする僕の瞳に、その奥のやましい心に突き刺さる。

 

「私、ラ・ピュセルみたいに戦えないし、気が弱くて頼りないかもしれないけど、それでも相棒(パートナー)なんだよ。ラ・ピュセルが困ってるのなら助けてあげたいのっ!」

「う、あ……っ」

 

 少し潤んだ、でも強い眼差しで僕を見詰めるスノーホワイト。

 胸が高鳴り、同時にずきりと痛む。

 心から僕を案じてくれる幼なじみの優しさが嬉しくて、でも己の不甲斐なさでそんなに思い詰めさせてしまう罪悪感に胸が絞めつけられるようで。偽り続ける苦しみに苛まれ、でも打ち明けた結果スノーホワイトに嫌われでもしたらと思うと呻く事しか出来ない僕は――その時、彼女の背後の夜闇に煌めく刃の輝きを見た。

 

「危ない!」

「えっ――きゃっ!?」

 

 咄嗟にスノーホワイトへと腕を伸ばし抱き寄せる。まさにその一瞬後、突然の事に目を丸くするスノーホワイトが立っていた位置に刃が描く銀の軌跡が走った。

 

 

 

 

 「――ちょきーん」

 

 

 

 

 ひゅんと鋭い刃物が風を切る音と同時に響く、奇妙な台詞。突然の襲撃に驚愕する僕達の前に、襲撃者は軽やかに降り立った。

 その姿に息を飲む。

 それは拘束服のようにも見えるコートに身を包んだ、異様な少女だった。

 痩せてもなく太っている訳でもなく、均整がとれすぎていて美しいというよりもマネキンめいた不気味さを感じさせる体付き。頭の両サイドで髪を輪っか状に括ったその顔も、無邪気な笑みを浮かべた淡い唇も可憐と言えるほどに整っているが、やはり生物的な温かみが無くどこか無機物じみている。

 

 「ちょきーん」

 

 だが僕達が思わず息を飲んだのは、そこではない。

 半ばまで衣装に包まれた彼女の腕。その肘から先が――人間の物ではなかったのだ。

 そこに在ったのは血の通った肌の艶とは異なる、銀の光沢。だらりと下げれば足元まで届く長さを持つ鋭い刃が、月明りを浴びて冷たく光っていた。

 

「なんだ、こいつは……っ」

 

 人間離れした異形に顔を強張らせながら、僕はスノーホワイトを守るべく背後に庇い、構えた大剣を謎の少女へと向ける。

 

「動くな。少しでも動けば容赦はしないぞ」

 

 警告と牽制のため出来るだけ厳しい声と表情で言いながら、相手の眼前に突き出した切っ先は、わずかに震えていた。

 人に剣を向けるのは初めてだ。組み手や鮫相手とは全く違う緊張感と得体の知れない存在への怖気で乱れそうになる心を、だが背中に感じる幼馴染の存在で引き締める。

 

 スノーホワイトは怯えていた。当たり前だ。争い事が嫌いで、子供のころは自分に関係のない喧嘩でも泣いてしまうような子なのだ。

 だからこそ、守らねばならない。僕は彼女の友達で、相棒で、魔法少女なのだから。

 守るべき者が、誰よりも大切な女の子が後ろにいるのに臆してなどいられるか。

 

「答えろ。お前は魔法少女なのか? もしそうなら何故こんな――ッ」

 

 決意と共にかけた問いは、だが刃の一閃によって断ち切られた。

 邪気の無い笑みのまま、あまりにも軽やかに振るわれた右腕から伸びる刃。咄嗟に顔を後ろに逸らす事で回避するも、掠めた一閃によって斬られた数本の髪が宙に舞う。

 文字通りの間一髪。だがもし一瞬でも遅れれば、髪ではなく首が飛んでいただろう事実に背筋が凍りついた。

 

「ちょきんっ」

「くっ――!!」

 

 動揺を押し殺し、間髪入れず反対側から来た左の刃を大剣で受け止める。

 甲高い音と火花を散らして魔法の大剣と鎬を削る、剣とも刀とも異なる独特の形状を持つ片刃の刃。その太く厚い刃は鋭く、そして速い。

 左が防がれたと知るや今度は右腕が閃き、襲い掛かる新たな斬撃。

 それを上体を反らして躱した次の瞬間には、胴を貫かんとする右腕の突きが迫る。

 

「スノーホワイト! こいつの心の声は聞こえるか!」

「う、うんっ。聞こえるよ」

 

 次々と繰り出される二つの刃を大剣を振るい防ぎながら、スノーホワイトに問う。

 とてもじゃないがコミュニケーションが通じる相手じゃない。でも、『困っている心の声が聞こえる』魔法のスノーホワイトならばあるいは。そして襲い掛かってくる理由が分かれば戦いを止める事もできるかもしれない。

 そんな淡い期待は、だが可憐な顔を青ざめさせた彼女の答えで潰えた。

 

「けど『早く断ち切りたいのに出来ない』とか『真っ二つにしたいのに抵抗されて困る』って……それだけしか聞こえないのっ」

「つまりそれしか頭にないってわけか……ッ」

 

 苦々しく呟いた僕の台詞を肯定するように突き出される左右の刃。それらを弾き、防ぐ大剣。互いの刃がぶつかり合うたびに散る幾輪もの火花が夜闇に咲いて、緊張に染まる僕と、不気味に笑う少女の美貌を照らし出す。

 僕はそうして何合と打ち合い続け、刃を交わすも、心には徐々に焦りが募っていった。

 

 踊るように軽やかに両腕と一体化した刃を振るうこの少女の動きには、よく組み手に付き合ってくれるウィンタープリズンの戦い方にある理性的な思考や武術の理という物が一切無い。何の考えも無くただ感情に任せ思うがままに力を振るうそれは、人というよりも獣の戦い方だ。だが、ゆえに――早い。

 思考というワンステップを挟まず即行動に移すために、その攻撃は素早く、そして思考など無いため予測出来ないのだ。加えて、

 

「ちょきちょきちょきんっ」

「まずっ――痛ぅっ!?」

「ラ・ピュセル!!」

 

 左右からの二方向同時攻撃。肩口を狙った右は何とか大剣で弾いたものの、左は避けきれず頬を掠めた。熱い痛みと共に噴き出た血が、僕の名を叫ぶスノーホワイトの顔に僅かにかかる。

 清らかな顔を穢してしまった事を謝りたいが、続く連撃がそんな間すらも許さない。

 

 左の刃が肩を掠めた。右の刃で脇を浅く切られた。

 両腕の刃が閃く度に、小さくも鋭い痛みと共に肌に新たな傷がつけられて、血の滲んだ衣装の切れ端が夜闇に舞う。

 むろん僕も大剣を振るい対抗するも、片方の攻撃を刀身で受け止めれば残る一方が防御の隙を突いて攻め立てるのだ。

 

 あるいは、いったん飛び退き距離をとって、少女の間合いの外から剣を伸ばして攻撃すれば状況が変わるかもしれない。

 が、それはできない。してはいけない。

 僕の後ろにはスノーホワイトがいる。僕が盾にならなければ、彼女に刃が届いてしまう。

 ……だが、このまま防戦一方では勝ち目がないことも確かで

 

「逃げろスノーホワイト! こいつは私が抑えておくから、早く……ッ」

「ごめん……無理だよお……」

 

 せめてスノーホワイトだけでも逃がせればと声をかけるも、背中越しに答えた震える声は、どうしようもない怯えに染まっていた。

 

「足が(すく)んで………動けないの……ッ」

「くっ……そぉ……ッ」

 

 自分の愚かさに死にたくなる。初めての戦い。初めての自分に明確な害意を持つ相手への恐怖に、ぶつけられるその殺意に、戦いどころか争い事すら嫌いなスノーホワイトの心が耐えられるはずないじゃないか……ッ。

 

 「ちょきききききっ」

 

 そんな僕達の窮状を嘲笑うかのように、更に速度と密度を増していく双刃。

 もはや視界全てが銀の軌跡で埋め尽くされるほどの猛攻に、だが僕は一歩も退かぬと踏ん張り、スノーホワイトの盾となってそれに抗う。

 閃く双刃と奔る大剣。夜闇に咲き誇る幾輪もの火花。

 人ならざる力と速度で互いに刃を振るいぶつけ合う人外の剣戦は、だが徐々に、――少女の側へと趨勢は傾いていった。

 

「はぁっ……はぁ…っ!」

 

 迫る刃を大剣で弾く。防げないなら身を反らして躱す。それでも避けられない一撃は鎧で受け、痛みと衝撃に襲われながら歯を食いしばり耐え、剣を振るう。

 そうして満身創痍となっていく僕を更に苦しめるのは――圧倒的な手数。

 

 単純に二倍。加えて速度も上。幸い膂力そのものはそこまででも無いが、もしこれでパワーすらも上回られていたのなら、今頃この身体は断ち切られていただろう。

 だがそれで安心できるかと言えば、否だ。今は何とか対抗出来ているとはいえ、僕のスタミナにだって限りはある。

 

 事実、重い剣を何度も降り続けた腕がだんだん重く、そして呼吸が苦しくなってきている。肌は汗ばみ上気して、息が上がりつつあるのだ。このままではいずれ疲労から動きが鈍くなり――二つの刃についていけなくなったその瞬間に、負ける。

 

 そして、僕の次に犠牲になるのは――

 

 

 

 

 

「たすけてぇ……そうちゃぁん…っ…」

 

 

 

 

 

「させるかああああ――ッ!!」

 

 心を侵そうとする絶望を、誰よりも大切な女の子が血の海に沈む未来ごと断ち切るべく大剣に力を込め、全力で振るう。

 

 ガキイイン!

 

 唸りを上げ奔る刃は今まさに僕らを貫こうとしていた異形の両腕と激突。夜闇を裂く最大規模の火花と共に、その凶刃を弾き返した。

 

「ちょきっ!?」

 

 ここで初めて笑みが消え、大きな目を丸くしてたたらを踏む少女。

 一瞬の隙がここに生まれ、これを最大唯一の好機と悟った僕は、振り切った剣を無理やりに引き戻し止めの一撃を放った。

 無理な動作に腕の筋肉がビキビキと悲鳴を上げ骨が軋むが構うものか。

 ただスノーホワイトの敵を倒すため、全力で振るった横薙ぎは――だが刃が肉を抉る寸前に少女が咄嗟に飛び退いた事で、その衣装を掠めるのみで終わる。

 

 躱された。不味い……ッ。

 早く。反撃が来る前に体勢を立て直さなけれ――――

 

 起死回生の一撃を躱された動揺の中、来るだろう反撃に備えるために少女へと目を向けた瞬間――時が、止まった。

 

 

 見開いた瞳に映ったその衝撃に、思考が真っ白に吹き飛ぶ。

 風の音も、鳥の声も、自身の荒い息遣いですら。全ての音が掻き消える。

 全身が硬直して、動けない。目の前のそれから、目が離せない。

 

 その丸くて。

 

 プルンと弾んで。

 

 人類誕生以来、生まれたての赤ん坊から死にかけの老人まで全ての男を惹きつけてやまない魅惑の双丘。

 

 

 

 おっぱいから。

 

 

 

 おっぱいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おっぱいから。

 

 

 

 

 

 

 大事なことなので三回言った。

 

 掠めた剣先によってざっくりと裂けた衣装の胸元から、ぷるんと零れ落ちる二つの果実。

 惜しげもなく晒されたそれは、白く、丸くて、僕の手でもすっぽりと包めそうなほど。けして大きいという訳ではない。だが魅力が無いかと言われれば断じて否。むしろ小さな分全体のバランスは整っていて、柔肌の白の中にぽちっとある小さな桜色が愛らしくも色っぽい、小ぶりの白桃を思わせる美乳だった(以上ゼロコンマ以下での思考)。

 

 むろん僕だって年頃の中学生男子だ。

 男友達で回し読みしたエロ本や親に内緒でこっそり見たエロサイトなどでおっぱいの一つや二つは見てきている。

 だがこれは、目の前のこのぷるんぷるんはそんな有象無象とは比べ物にならない魔法少女のおっぱい。人を超えた存在だからこその魅惑の生おっぱい!

 

 あざああああああああああっす!(全裸喜歓)

 

 肌色一色となった視界に轟く煩悩の歓声を耳にしながら、呆然と立ち尽くす僕。

 そんな隙を相手が見逃すはずもなく、ここぞとばかりに繰り出された一閃が大剣に直撃。衝撃と共に手から離れ、宙へと弾き飛ばされてしまう。

 

「しまっ――」

「ちょききっ♪」

 

 我に帰った時には、すでに少女の間合いの中。

 愕然とする僕の顔を映した二つの刃が、両肘を重ねクロスさせた形で、僕とスノーホワイトの左右から迫る。

 その独特の構えを目にして、交差した二つの刃という見覚えのあるカタチで、僕はようやく気づいた。

 

 おっぱいだ!

 

 (はさみ)だ。

 

 

 この剣でもなく刀とも異なる刃は、獲物を断裁し分離させる鋏の刃だったのだと。

 

 不味い。

 

 ならばこれからどうなるかなど考えるまでもない。もはや盾にできる大剣を失った僕とスノーホワイトは、このまま──

 

 

 

 「まっぷたつ☆」

 

 

 

「スノーホワイト!」

「きゃっ……!?」

 

 手を伸ばし、咄嗟にスノーホワイトを突き飛ばす。突然の衝撃に悲鳴を漏らし、鋏の届かぬ位置に尻餅を付いた彼女は、悲痛な声で僕の名を叫んだ。

 

「そうちゃん!!」

 

 大きな瞳に涙を浮かべ、スノーホワイトが僕を見つめている。

 今まさに逃れようの無い死が迫っていると言うのに、でも僕は一つだけ安堵を感じていた。

 

 ギリギリだったけど、間に合った。間合いの外に出せた。

 ああ、よかった。これでこの子だけは助かる……。

 僕はもう終わりだけれど、君が生きてくれるのなら、それでいい。

 ……けど、ああやっぱり

 

 

 

 

 

 もっと君と話したかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベッドでね。

 

 

 

 

 

 もっと君と触れ合いたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベッドでね。

 

 

 

 

 

 

 

 もっと君と、同じ時間を過ごしたかった。

 

 

 

 

 

 

 ベッドでね。

 

 

 

 

 

 

 もっと、君と──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラッキースケベしたかったなーもう!!

 

 

 最期くらい自重しろよ煩悩!

 

 

 

 

 

 迫る死にスローモーションとなった世界で、徹頭徹尾空気を読まない煩悩に怒りのツッコミを入れていると

 

 

 

 「ぢょっきん!」

 

 

 

 楽しげに弾む声で、異形の鋏が閉じられる。

 

 そして訪れる、僕自身の、肉体の、魂の、深い……とても深い奥底にある『繋がり(なにか)』が断ち切られる感覚を最後に、僕の意識はぷつりと……闇へと落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや落ちちゃ駄目でしょ!!

 

 

 

 なんだよ……最期くらい穏やかに逝かせてよ……

 

 イくのはいいけど逝くのはらめえええ! 男がイッていいのはベッドの中だけだい!

 

 もう何も見えない……聞こえないのに……煩悩だけは最後まで残ってるなんて、僕はほんとどうしようもないなあ……

 

 死なせはせん! 死なせはせんぞおおお! 僕が死ぬのはエロ可愛い魔法少女の上でだけだああああ!!

 

 うん死んだ方がいいね僕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うぅ……」

 

 

 

 どこからか、声が聞こえる。 

 

 

「う…おもぉ……っ」

 

 

 誰だろう……?

 なんとなく聞いたことのある気がするそれが、気になって……ゆっくりと伸ばした手が……ふにゅんと、暖かな感触に包まれた。

 

 「ひゃん……っ!?」

 

 なんだ……これ……?

 あったかくて、柔らかくて、触ってるだけで……すごく気持ちいい。

 滑らかな表面がほんのりと湿っているからか手触りは瑞々しく、柔らかだけど指を沈めれば、むにっと押し返してくるくらいの張りがある。

 

「ゃ……ちょっ……誰だ? なに、揉んでぇ……っ」

 

 それに、この臭い。

 血と、汗と……あとは、吸うだけで頭の奥が甘く痺れるような不思議な臭いが混ざり合ってクラクラしそうだ。

 でも、どこかで嗅いだことがあるような……?

 

「今度は臭いを嗅いで……っ!? くっ……、この変態めぇ……っ」

 

 そして身体の下に感じる、このぬくもり。

 一部の硬い感触は板か何かかな? 反対側の滑らかな手触りは布? 場所ごとに異なる感触はあるけれど、どんなベッドよりも心地よくて永遠にこうしていたくなる、このどこか懐かしいような温もりは、いったい……。

 

 

 

「そ、そうちゃん……?」

 

 

 

「「――ッスノーホワイト!?」」

 

 どこかポカンとしたようなその声に、沈んでいた意識が一気に覚醒する。

 ハッと意識を取り戻した僕は相棒の名を叫び、全く同じ……いや、ほんの少しだけ高い声を聞いた。

 それは近く、本当に顔のすぐ上から聞こえた声で、僕は思わずハッとそちらへと目を向け――見惚れてしまった。

 

 夜風に撫でられ、さらりと揺れる亜麻色の髪。

 透き通るような柔肌は穢れの無い白に染まり、たとえ所々が小さな切り傷やそこから滲む血の赤に濡れていようとも、その白百合を思わせる輝きはいささかも損なわれず、むしろ戦う者としての清冽な美すら宿している。

 きょとんと僕を見つめる、その目鼻立ちがくっきりと整った顔立ちも、戦士の凛々しさと少女の可憐さを共に感じさせる、男なら誰もが振り返らずにはいられない美貌だ。

 そして何よりも僕の目を奪うのは、目元に入った紫のルージュが色っぽい切れ長の瞳。澄んだ中に烈しさと気高さを秘めた黄金に染まった縦長の瞳孔が、茫然と見詰める僕の顔を映していた。

 

 ――それはまるで、僕が思い描く最高の美を、理想の美少女をそのまま現実にしたかのような女の子。

 

 

 というか、え……うん!? この子って……――

 

 

 

 

 

 「僕?」「私?」

 

 

 

 

 

 僕と『僕』の唇が同時に動き、両方の目が見開かれ、そして――

 

 

 

 

 「「はあああああああああああ!?」」

 

 

 

 

 揃って驚愕し、シンクロする絶叫。

 

 え、なに? 何だこれ!?

 何で僕の身体の下に『僕』がいるんだっ!?

 

 謎の少女の鋏で両断されたはずなのに、目覚めれば仰向けで倒れている『僕』の身体の上に圧し掛かっている。

 一瞬夢でも見ているのかと思ったけど、触れ合う肌の温もりや衣装の感触、そして掌から伝わる確かな鼓動が、これが紛れもない現実であると突き付けてくる。

 訳の分からない事態。理解を超える急展開。動転する僕の思考は、先ほどから自分の手が握る二つの膨らみの正体を知った事で完全に吹き飛んだ。

 

 って、じゃあこのたゆんたゆんのばいんばいんはっ――

 

 

 

 おっぱああああああああああああい!!

 

 

 

「「っひゃああああああああああああ!?」」

 

 

 瞬間、目の前の『僕』の顔が耳まで真っ赤に染まり、僕もたぶん同じくらいに顔を赤くしながら半ばパニック状態で『僕』の上から飛び退こうとして、だがそうする前に『僕』の両手で突き飛ばされた。

 胸元を思いっきり押された僕は『僕』のすぐ横にどかっと尻餅をつき、呻きつつ強かに打ち付けた尻を摩ろうとして、

 

「あれ?」

 

 触れた尻肉が、柔らかくも張りのある女体ではなく、引き締まった男の尻であることに気が付いた。ハッと全身を見れば、目に入るのは馴染みのあるオレンジのパーカー姿。いつの間にか変身が解除されている。

 

 え? なら、目の前の――

 

 

「君は……」「お前は……」

 

「「――誰だ?」」

 

 重なる声。同じ問い。絡まる『僕』達の眼差し。

 白く差し込むスポットライトのような月明りに照らされながら、戦場となった鉄の塔で、これから巻き起こるだろう人生最大のトラブルの気配をひしひしと感じながら――僕、『岸部颯太』と魔法少女『ラ・ピュセル』は呆然と、『自分』と見つめ合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!(゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!(゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!(゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!(゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!(゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!

 

 

 うん煩悩はちょっと黙れ。

 

 




お読みくださりありがとうございます。
もう一つのまほいく二次創作を執筆する合間の息抜きに何か短編でも書きたくなったので、せっかくなら短編専門の作品を新しく投稿しようと思い立った作者です。

やっぱりたまの息抜きは必要ですね。今まで殺意がわくほどに重かった筆がスラスラ動いてびっくりしました。そうちゃんルートの方もこの勢いで動いてくれたらいいのにねー(死んだ目

あさて、このエピソードは中編程度を予定していますが、続きが何時になるかは完全に作者の気分次第です。というのもこの作品はその時その時に思いついた短編を投稿していくという形になるので、次に書くのもこれとはまた別のエピソードになるでしょう。ネタだけはまあそこそこあるので。

という訳でこの続きはどうぞ気長にお待ちください。たぶん忘れた頃に投稿しています。

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