俺の兄貴は赤井秀一という悪党に殺されました   作:善吉

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第11話

 

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赤井秀一という悪党

 

 

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「ああ、君か」

 

「定期報告。ミステリートレイン内で起こった爆発事故先日、組織が対象に接触を図ってきた。どうやらベルモッド以外は彼女のことは知らないようだ。あの女は漏洩を恐れている。彼女の存在が明るみになる前に、強引にコトを済ませようと強硬手段をとってきた」

 

「ええっ…。赤井君、困るよ。そういうのはもうちょっと早く教えてくれないと…。それに、物騒なモノも使ったでしょう。悪い噂なんてすぐに回ってくるんだからね。武器調達にジャパニーズマフィアを利用するのもいいけど、そろそろ関係も切っておいてね。君のことだから痕跡は残っていないだろうけど…」

 

「それと、もう一点知らさなければならないことが」

 

「ええ、まだあるのかい…」

 

「バーボンに接触しました。沖矢昴としてではなく、赤井秀一として」

 

「……。君は興味があるものには、とことんまっしぐらだからね。バーボンも可哀想だよ。きっと血眼になって君のことを探すだろう。君はバーボンのことが大好きなんだろうけど、もうすこし追いかける立場の人間になってあげなさい。正直、楽しんでいるだろう、こういうの。悪い癖を出してはいけないよ。スクールでも習っただろう。相手の立場になって、考えることを少しは心がけるべきだ。務武くんだって…」

 

「ジェイムズ、あなたには感謝をしている。あなたが俺を信頼して、任せてくれるからこそ俺は自由に動ける。最良の結果を残せるように、引き続き任務にあたります」

 

「君が僕に感謝をするのは、話を続けたくない時だね。まだ僕は、君と話をしたいから続けるよ。沖矢昴は大学院生だけど、本当に大学院に通う必要はない。なぜならそれは、作られた設定で、偽装した学籍なのだから。それなのに君はよく足を運んでいるね。そして、特定の人物と会っている。――あれは誰だ?」

 

「あなたも人が悪いな、ジェイムズ。あなたのことだから、もう知っているんでしょう?わかりきっている答え合わせはナンセンスだ」

 

「様式美だよ。…もう、あの子と会うのはやめなさい。君は自分の欲望に従って、我慢が出来てきない。そんなことをしなくても、FBIの赤井秀一は優秀な人物だし、多くの人から求められている。悪戯に、自分の快楽で他人の人生を乱すのは良くないことなのは、もうわかっているだろう?」

 

赤井秀一は、きわめて優秀なFBI捜査官だ。しかし、彼の体内に巡り流れている血はきっと、青か、黒か。常人と同じように、赤い血が流れているかは誰もわからない。

そして、ある意味では責任感の強い男であった。一度、己の懐にいれたのなら、大事に、大事に。人並み以上に、それを大切にする。

 

赤井秀一は、愛の深い男なのだ。

だからこそ、それ以外は彼にとっては些細な問題だった。それが生きていようが、死んでいようが。どのように生きようと、何を考えていようとも。どうでもよい。

 

だけど、稀に些細な問題たちは予想もしないような行動をするのだ。それはまるで、何度も読み込んで答えのわかりきったはずの推理小説内で、突然化学反応が起きたかのような。まるで予想もしなかったところで、秀一を楽しませる。

 

赤井秀一もまた、地獄のような男だから。

 

「次に会ったら大学院も除籍させるよ。可哀想に。彼に必要なのは、全てを知りながら近づいてくる凶悪なFBIではなく、心の傷を癒してくれる友人だ。君が永嶺のトコの男に頼んで、世話を焼いていたのも知っているけど、もう必要ないだろう。中途半端な罪滅ぼしは多くの人を傷つける。バーボンをくすぶらせたんだ。あんな子供を振り回すくらいなら、大人同士で仲良く喧嘩をしていなさい」

 

「…わかりました。そろそろ、バーボンも動き出して忙しくなりますし、これくらいにしますよ。それと、永嶺が動いていたのは初めこそ俺がきっかけですが、今じゃ彼の味方ですよ。いつの間にか肩入れして、かわいがっているんだか、面白がっているんだか。きっと情報が漏れたのも永嶺からです。どうにも私は昔から人心掌握というものが、あまり上手くいきませんね。ジンにもひどい振られ方をしたものですし。……彼は優秀ですよ。永嶺を引き入れたのも、彼自身の功績です。たしかに世話はほんの少し焼きましたが、あとは彼自身の力だ。それは、訂正させていただきます」

 

「いいや、君の場合は…。いや、やめておこう。この話は、今、すべきでない。とにかく、取り返しのつかなくなる前に会うことをやめなさい」

 

上司は気が付いていた。スピーカーから聴こえてくる声色が、存外に楽しそうなことを。

赤井秀一は、強欲なのだ。気に入ってしまえば、それが針の筵であろうが、己に噛みつく存在であろうが、抱えてしまいたくなってしまう。

 

だから、そうなる前に二人の関係を終わらせたかった。

 

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風見裕也は、上司である降谷零の多くの顔を見てきた一人である。

 

国家を背負う公安警察として、悪を許さない顔も。喫茶店で働く善良な市民の顔も。弱きものを守ろうとする姿を見たこともあれば、取り調べ相手を自殺に追い込んだときの顔だって見たことがある。

多重人格ではない。どれもが公安警察の降谷零で、喫茶ポアロの安室透で、黒の組織のバーボンなのだ。

隠し方が人並み以上に上手なのだろう。だから、多少の残虐性があったとしても驚くことはない。その場に必要な顔の演じ分けが出来ればそれでよいのだ。

 

しかし、風見裕也はそうではない。志高く警察官に志願した者としては、耐え難い状況だった。

 

廃倉庫の裏側。聴こえてくる音は、とてもじゃないけれど聞き続けるには不快なものだった。複数の人間の音。誰かが、誰かを殴る音。怒声。骨を打ち、荒い息がもれ、苦しそうなうめき声と、たまに聞こえる絶叫。

 

「…自分に、こんなものを聞かせてどうしたいのでしょうか」

 

「珍しいな、君ならすぐにでも倉庫の中に乱入して、この狼藉を止めるとでも思ったのだけど」

 

「…あなたがお望みならば、そうしますが。そんなことをしては、どこかの捜査局の二の舞になってしまうのは望まないでしょう。わたしを試すだけなら、こんな手の込んだことはしないとの判断です。いったいどうしたんです?……降谷さん」

 

庁舎でみるスーツ姿とはまるで正反対。真っ黒なパーカーとスキニージーンズ。キャップまで真っ黒なものを選び、暗闇にいればそのまま飲まれてしまいそうな格好をしているのだから「バーボン」としてこの場にいるのだろう。

 

 

「君に直接渡したいものがあってね。これ、調べておいて」

 

「は。たしかに、受け取りました。…あなたは、これを止めないんでしょうか」

 

受け取ったUSBメモリを胸ポケットにしまい、一度、二度、手のひらを抑えて、その存在を確かめる。翳した手のひらから、心臓の動きまで拾ってしまったが情けないことに、ずいぶんと早いものだった。

 

「止めるよ。でも、まだだ。叫び声を挙げる余裕もあるみたいだし、もう少し消耗してからだ」

 

「……前に話していた少年でしょう。気の毒です」

 

「はは。確かに、こんな男に目を付けられた彼は気の毒だよ。ほんと。……風見、お前にとって迷惑なものとはなんだ?」

 

「迷惑なものですか…。年を重ねると、煩わしいと思うことは増えました。それが悪意からくるものであれば、はっきりと断れますが、好意からくるものは苦手ですね。とくに、自分はあまりサプライズが得意ではないです。我々の立場を知らない方からの、食品類の差し入れは結局捨ててしまいますし…。日本ではあまり聞いたことはないですが、フラッシュモブなんて最悪ですね。胃が痛みます。押しつけの善意は、ときには暴力的ですから」

 

公安警察は他人から渡された食事には手を付けない。自らが望んで購入した、金銭が発生するものならまだしも、他人が心を込めたという手作りのものなら絶対に、だ。心以外にも、どんなものが込められたか分かったものではない。

 

「そう、そうだよ。サプライズ。君の喜ぶ驚いた顔がみたい、あなたのためを思って、だなんて言われた日は最悪だ。そういう輩は、いつか絶対にこちらの手を噛む」

 

「……」

 

「そして、行き着く先は責任転嫁さ。なんで、どうして。あなたのことを思ってやったのに、だなんて怒りの矛先をこちらに向けてくるのだから始末が付かない。」

 

上司の表情はとても苦いものであった。どうやら、すでに手ひどい経験を犯したことがあるらしい。風見裕也は優秀な部下であるので、深く踏み込むことはしなかった。

 

「そうならないための調教をしているんだよ。アレはどうやら僕に興味があるらしい。一目ぼれだなんて、手っ取り早い小賢しい真似を使って近づいてきたから、こき使ってやろうと思ってね。テストがてらいろいろ試してやっているんだよ」

 

「窮地に陥った時に現れるヒーローだなんて、最高だろう?」

 

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その日の仕事は、爆薬の調達だった。

ギンからの指令ではない。女幹部のベルモッドからだった。

 

とある廃倉庫に、待ち人がいるので指定された金額を渡して取引成立。

濃艶な声で告げられた仕事は簡潔なものではあったが、待ち人自体に難があった。

待ち人は複数人。その誰もが、数週間前に見た顔だ。ただ、数週間前より人数が数人減っているが。その時点で、俺がこの仕事に選ばれた理由を悟った。帰りたくなったけれど、今から別のルートで爆薬を用意することも難しい。木箱に詰められた爆薬をワゴン車に丁寧に収納(輸送の時点で事故でも起こしたら周囲一帯が吹き飛ぶ)し、現金を渡すまでは口数も少なく、穏やかだったが、そこまでだった。

 

「…よくも、まあ、俺らの前に顔を出せる気になったな。あの女狐の手下が。あの女の手のひらで転がされるのも、ムカつくが、やっぱり腹の虫がおさまらねえ」

 

「……」

 

取引はつつがなく。報告すべきはそれだけだ。

数人減っているのは、完全に彼らの落ち度だ。組織が責任を取る必要もない。互いに納得するだけの金銭のやり取りはあったのだから。

たとえ数人が塀の中に送り込まれたとしても。それが、ベルモッドが仕組んだことであったとしても、組織が彼らに対して誠意をみせることはない。

 

それを理解しているのだろう。だから、忖度として俺が送り込まれた。手を切るのは簡単だが、どこかでガスを抜かなければいつどこで爆発するのかもわからない。

 

彼らの仲間内が、ムショ送りにされる一件に噛んでいる中で、一番序列の低いのは俺だ。そして、兄貴と二人だけの世界だったころには知るはずもなかった、金と暴力と権力の世界で生きる彼らにとって俺は体よく提供されたサンドバッグというわけである。もちろん、今回渡した金額は相場よりずいぶん多かったのもそういうことなのだろうが、それで手を打つかどうかは彼らが決めるのだ。

 

だから、黙って身を差し出すことしかできない。そのように、言葉のない支持をされたのだから、受け入れるしかない。私刑については、自分の中で消化するほかない。俺が選んだ道だ。あにきはいない。守ってくれる人は、もういない。だれも、おれをたすけてくれないのだから。

 

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