俺の兄貴は赤井秀一という悪党に殺されました   作:善吉

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第5話

side とあるドクター

 

「楠田の異母兄弟は数奇な運命をたどる星に生まれたんだろうね」

 

「生まれも悲惨だ。彼の母親とやらは、一人で生きるどころか、おしめも取れていない幼い彼を置いて夜逃げしたらしい」

「ふうん、名づけは母親ね。ただの偶然にしても、皮肉めいたイイ名前を付けられているじゃないか。もっとも、彼のことを唯一名前で呼んでいた兄は死んでしまったけど」

「これぞロクデナシのお手本という父親は典型的なDV夫で、趣味は競艇にパチンコ…。女を孕ませては愛想をつかされて出ていかれている。父親もいまだ存命…だけど、彼にとっての家族は兄だけだろうから、まあ、どうでもいい」

「あはは。リクミチの母親も、同じように出て行ったから、ここは喜劇的だと笑うべきなのかな」

 

「リクミチはよくやったよ。血のつながらない弟のことを、ろくでもない父親から守った」

「ふうん。中学生で夜逃げねえ。しかもそれが成功しているのだから、リクミチも相当苦労したんだろうよ」

「一般家庭とは程遠い家庭環境だけど、リクミチと彼にとってはやっと手に入れた安寧だ。気に食わないからと灰皿を投げつけられることもなくなった。冬の寒い日に冷たいシャワーを掛けられることもね」

 

「けれど、もっと悲惨なのはここからさ。ハンカチの用意は出来ているかい?」

 

「リクミチが弟くんの中学入学のために制服を用意した矢先さ。弟君はそれはもう重たい病気にかかった。ゆるやかに、若い魂を死へ導く病だ。彼らはただ生きているだけなのに、何の罪があってこんな仕打ちを受けているのだろうかね」

「余命いくばくか。とてもじゃないけれど学校なんて通うこともできない。ふうん、弟くんのこのころのカルテまで用意してるのか。ああ、よかった。電子カルテか。医者の悪筆は万国共通だからね。解読不能の落書きを渡されたらどうしようかと思ったよ。ちょっと前なんて、医者の悪筆が原因で、間違った治療をほどこされて命を落とすものも少なくなかったからね。あはは。僕の字は綺麗だから大丈夫。ああ、話がそれてしまった。それで、そう。徐々にむしばんでいく病を退治するにはどうすればいのか」

 

「金さ」

 

「とにかく働いた。リクミチは真面目に働いた。たいせつな弟くんの魂にかけられた天秤が沈み切る前に、遊びたい年頃だろうに、弟くんのベッド代を稼ぐために働いた。ああ、このあたりで弟くんの反抗期か。たしかに、自暴自棄になってしまうだろうね。カワイソウに」

 

「まあ、あとは知っての通りさ」

 

「弟くんは年単位のベッド生活。リクミチはお金のために、僕も所属するかの尊い組織に所属することになったんだ。金払いだけはいいからね、ここ」

「リクミチは組織の中でも真面目に働いたよ。地頭がいいんだろうね。それに度胸もある。まさかこの僕が人に借りを作るとは思いもしなかった。

そう、その日は雨だった…おいおい、違うよ。僕がこの話を君にするのはこれで12回目だ。20回も話していないって。あは、それくらい衝撃的なんだって。

まあ、話題を戻そうか。コードネームこそ与えられなかったけど、コードネーム持ちと一緒に仕事するくらいには有能だったんだ。もしもコードネーム持ちになっていたら、どんなものを与えられたんだろうね」

 

「でも真面目に仕事をしていたリクミチは死んだ。自殺だ」

 

「仕事を失敗して、責任を取って。君の知っての通り、杯戸中央病院からの逃走中にね。しかもその遺体は裏のルートで保存され、死に装束にしてはナンセンスなものを着せられてしまった、と。ああ…名前は知っている闇医者だ。それにしても、もう一度死ぬだなんて、なかなか不幸なやつだ」

「はーあ。この組織の仕組みも、もう少しまともにならないと、人が死んでばかりで成り立たないねえ。疑われたら死、だなんて中世の魔女狩りじゃないんだから。優秀な奴ばかり脱落していくのだから、上層部も人員不足でヒーヒーいってるだろうね。僕には関係ないけど」

 

「それからようやく、人形の夢と目覚めさ。借りを返すために、生前リクミチが望んでいたことを僕が叶えてやったのさ。命を吹き込むにしては、刺激が強すぎたけど、そんなの知ったこっちゃない。上手なゼンマイの巻き方が知りたいのなら、幼児からやり直さないとね。

お人形遊びなんてしたことなかったけど、あれはあれで気持ちのいいものだね。外界とのつながりがなかった見目の麗しい彼が、痛い目を見ながら世界の成り立ちを徐々に学習していくのだから。それに、着せ替え遊びも悪くない」

 

「病院を出た彼は、呆然と立ちすくんでいたよ。最愛のお兄さんがいなくなったと思ったら、怪しげな白衣の男に、お兄さんが自殺したとまで言われたんだから。おお、恐ろしい」

「今じゃああだけど、彼をなんとか人として動かしているのは怒りのエネルギーだろうね。ええ?素行は問題ないし、穏やかな子に見えるって?馬鹿いえ。怒っている人がいつも眉を吊り上げて、荒い息をしているとは限らないだろう。静かに、静かに、小さな火種は消えることなく燃焼しているのさ。腹の中に生まれた魔物は確実に育っているよ」

 

「そのあとは、僕が紹介してあげたしょうもないサクラのバイトでなんとか食い扶持をつないでいたようだね。そこから職を変えて、新宿の黒服だね。すごいじゃないか。某暴力団の関係者にも気に入られていたのか。そんなこと彼は教えてくれないからなあ。ずいぶんいい部屋も与えられて、まさに愛玩人形だね」

「ああ~永嶺ってやつか。あの子に余計な情報を渡したのは。ズルはいけないけど、これも彼の実力ってことにしてあげよう。この人から来葉峠とFBIと楠田陸道の点をつなげる情報を与えられたのか。これ、そろそろ元凶と結びつくのも時間の問題じゃないか?」

 

「リクミチが死んでから、よっぽど運がいいんだか、わるいんだか」

 

「おや、資料はここまでで止まっているのか。優秀な君のことだから、未来の情報まで用意してくれるとばかり。ああ、そうだね。君はあくまでも情報屋さまだものね。未来予知までは仕事じゃないか。ええ?最強のハカーと呼べ?やだよ」

 

「ありがとう。やっぱり自分が世に送り出したからか、その後の足取りは気になってね。もちろん今でも連絡はとっているよ。先週だって、焼肉を奢ってやったし。恥ずかしがってすべてを話してくれるわけではないから、こうして定期的に観測しているのさ。ふふ。これからが楽しみだねえ」

 

「ああ、交友関係も洗ってくれたのか。仕事先の従業員に、その客。サクラのバイト先で知り合った先輩。それに警察関係者。先週に話していたんだよ。どこかの図書館で顔見知りを作ったって。勉強を教えてくれるんだと。うんうん、学ぶことは大切だからね。いざというときには武器にもなる。次の資料にはそいつの情報も入れておいてくれよ。どこの馬の骨かもわからないじゃないか。そいつがただの親切な善良な市民ならいいんだけど」

 

「リクミチのカタキを取るために、毎日地道に努力を続けて偉いじゃないか。いつもさあ、僕に聞きたそうにするんだけど、聞かないんだよ。あくまでも、自分の力でたどり着きたいんだろうね。えらいじゃないか。今の若い子たちはゲームだってすぐにインターネットの攻略サイトで答えを確認してから、最良のキャラクターを調べてからやるんだから。まあ、彼が答えを聞いてきた時点で僕は興味を失ってしまうだろうけど、そういうところもリクミチに似て人を見る目があるんだろう。リクミチに運はなかったけどね」

 

「彼はいったいどうするつもりなのだろうね。カタキを見つけたときに、許すのか。殺すのか。そもそも、元凶にたどり着けるのか。

腹に飼ってる魔物は何を望むのだろう。魔物はいずれ彼自身をも飲み込んでしまうのか、それとも食い破るのか…とにかく、狂気にのまれたとき、どう変わるのかが楽しみだ。間違っても、時間の解決で今の状況を受け入れて、ツマラナイ道は歩んでほしくないなあ。

復讐劇にトモダチの仲良しごっこはいらないだろう?図書館の善良市民とやらに影響されてフツーになったらやだなあ。あはは」

 

「さて、最後になってしまったけど、君が送ってくれたオレンジもおいしかったよ。親戚がつくった奴なんだっけ?USPSの面倒な植物検査までごくろうさま。最強のハカー様」

 

「はいはい、わかったって…。あんまりハメは外さないからさあ…。僕も君も、普通を語るにはちょっとイカれているんだから、苦手なことはやめておこう。君に普通を語られるのは心外だ。あはは、心配のし過ぎは嫌われる?いいんだよ。」

 

「楽しいか、そうでないかが僕にとっては重要なのだから」

 

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