笑顔の法則 作:lotus
波乱万丈なバイトを終え、目覚めた朝。
うん、最高に気分が悪い。
もともと寝起きはいいほうではないが、昨日のバイトのあとにやつに出会ってから理解ができないまま物事が進み気づいたら友達になってましたと。
……なんでこうなった。
昨日のことは夢じゃないかと思い、アプリの友達欄を確認する。
幸い友人が多くないおかげ(?)かすぐに誰かを探すことができる。
最近追加されたユーザーにあるクマのアイコンが目に入る。
「夢じゃないのか……」
そこには確かに『こころ☆』と書かれたユーザーがいた。
気持ちを切り替え制服に着替えて身支度を済ませる。
朝ご飯を食べ始めるころには憂鬱な気分も幾分が和らぎ、だいたいいつも通りになっていた。
雀の鳴き声をBGMに歩きなれた通学路を歩く。
普段より少し早いため歩いてる生徒もそこまで多くなく、すがすがしい気分で登校し昇降口へとたどり着く。
「おはー、柊斗はやくね?」
「たまには早く来ようと思ってさ。おはよ」
同タイミングで陽人が靴を履き替えていた。
いつもと少し違う感じがするのは陽人も俺も感じている、だからか挨拶が少しぎこちない。
教室までの階段を上がりながら陽人が質問を投げかけてくる。
「そういや昨日の予定ってなんだったん?」
「あーあれはバイトだよ。誘われたから行ってただけ」
「お前にバイト誘う人いたのか。ちなみに誰?」
「お前多分知らないけど3年の山田先輩だよ」
「え、あの地味で五月蠅い人?」
「お前その言い方は流石に……」
「少年!来ていたか!」
陽人と教室の目の前で聞き覚えのある声で呼ばれる。
話の中心である先輩本人が登場。
だがこのタイミングというのもなかなかに悪い。
「あ、お疲れ様です」
「これ昨日のバイト代ね。それでどうだね調子は」
「といいますと?体はちょっと筋肉痛ですかね」
「あーそっちじゃないよ。昨日弦巻譲と会ったのだろう?」
「え?なんでそれを」
「なに、君の顔がやけに疲れていたのでな。彼女に振り回されればそうもなるから、もしかしてと思ってね」
先輩は俺が彼女に会ったことを聞くと苦笑いを浮かべる。。
そしてもう一度俺の顔をまじまじと見つめ、うんうんと頷きながらそっと呟く。
「多分君の心を一番理解してくれるはずだ。だからこころとこれからも仲良くしてくれ」
「え?」
普段の先輩からは見て取れないあまりにも真剣な顔に驚きを隠せなかった。
しかしその顔も一瞬でいつもの笑顔に戻る。
「さて、話も終わったし私は戻るよ!では少年、また今度バイトがあったら連絡するから来てくれよ!」
そう言い残して先輩は上の階へ続く階段を上って行った。
さて、話が終わったのはいいがここで隣を確認する。
話に全くついていけてないうえに、地味で五月蠅い先輩と俺が仲良く話しているもんだからそれはそれはひどい顔をしている。
「柊斗、いつからそんなにあの人と仲良くしてたん?それと弦巻って誰?」
お前は俺の彼女か。
なんて言ったところでまた面倒なことになるのは経験上わかりきっている。
幸いもうすぐチャイムが鳴りそうだ。
「まあ後で説明するわ。ほらチャイムなるから座るぞ」
納得はしてないようだったが、とりあえずこの場はしのげた。
あとはあいつが忘れてくれればいいのだが、多分必要以上に聞いてくるんだろうな。
そんな未来が浮かんできて少し頭が痛くなってきた。
なんとか逃げ切ることで陽人より先に教室を出ることに成功した俺は、とりあえず使われてない空き教室であいつが部活に行くまで待機することにした。
あのあと昼休みも来るわ休み時間も来るわで体も心もかなり磨り減ってる。
悪いやつではないがどうしてもあいつの過剰レベルの執着にはさすがにキツい。
これが長い付き合いじゃなきゃ即座に縁を切るだろう。
というかあいつとはそういう付き合いだからこそ切ることができないってのもあるかもしれない。
なんで俺がこんなことをしなければならないのかなんて思いながら窓から外を覗く。
なにやら人集りができているではないか。
有名人が来る予定なんて何も無いはずだが、なんか変なものでも見つけたんだろうか。
しかしこれはチャンス、あの人ごみに紛れれば俺はこのまま帰ることが出来る。
カバンを持ち、教室を出た途端誰かにぶつかる。
「すみません、余所見してました」
「いえ、お気になさらず。貴方が浪川柊斗さんですね?」
「はい、そうですけど。どこかでお会いしましたっけ?」
よく分からない黒服さんに覚えられるほど目立つことしたかなと過去を振り返ってみるも、昔やんちゃしたり喧嘩したことしか浮かんでこない。
もしかして知らぬ間にファンクラブ出来た?
いやそんなこともあるはずがない。そもそもそんなのあったら陽人が何かしらやってると思う。
「こころ様からお話は伺っております。とりあえず私についてきてください」
「はい……え?こころ様?なんであいつが?」
「こころ様が貴方を連れてきてほしいと仰っていたので我々がこうして貴方を迎えに来ているのです」
「はい?俺を迎えに来た?それじゃあの人集りって」
「貴方の思っているとおりです。とりあえずこころ様の所へ行きましょう」
「はぁ。ところでなんで俺がここにいるって分かったんですか?」
黒服さんは最後の質問には答えてくれず、足を止めることなく進めていく。
俺は置いてかれないよう駆け足で追いかけた。
「あー柊斗そこにいたのね!こっちよー!」
昇降口から黒服さんとともに出てきた俺を見つけると、こころは飛び跳ねる勢いでこちらに駆け寄ってきた。
「ありがとう黒服のみなさん!ところで柊斗は今日も笑顔じゃないわね?何か嫌なことでもあったのかしら?」
「こんな顔はいつもの事だよ。ところで何しにこんなところに来たんだ?」
「それはもちろんあなたを笑顔にするために決まってるじゃない!昨日言わなかったかしら?」
不思議そうに顔をかしげるこころ。
なんだよその感じちょっと可愛いじゃん。
いや、そうじゃない。俺が気になっているのはそんなことではなくてだな。
「それは明日の話なんて言ってなかったし俺は別に頼んでいない。それよりなんで俺がここにいるのがわかったんだ?」
「あなたの特徴を教えたらそこの黒い服の皆さんが教えてくれたの!それにあたしは世界のみんなを笑顔にしたいの!だから一番身近なあなたのところへ来たの!」
ただ思っていることを言ってだけなのだろう。
俺にはあまりに眩しい、こんなにも純水で真っ直ぐな彼女が。
彼女は恐らく見返りも何も求めず、ただひたすらに世界を笑顔にするそのために行動しているんだろう。
その時点で俺とは違うんだ、強く思った。
こころと会話している時は気づかなかったがギャラリーがやけに騒がしくなってきた上に、周りを囲まれている。
うーんこれはあまりよろしい状況ではない。
とりあえずこの場を脱出するのが先決だ。
俺はこころの手を引き、校門の外に見える黒服さんたちがいる方へと向かう。
そこへ彼女を乗せれば一件落着だったのだが、世の中そんなに甘くはないのだ。
「お?柊斗?」
できればこの状況で一番会いたくないやつと出くわしてしまった。
「陽人、どうしてここに?お前部活は?」
「なんか外がやけにうるさくてなんかのイベントかと思ってここに来たんだよ。そしたらお前が別の学校の女の子と歩いてるの見かけてな。
ところで、そいつは?」
俺の腕の先にいる少女へと視線を移す陽人。
その目は明らかに怪しいものを見るような目で、瞳の奥からは敵意のようなものすら伺える。
俺は逃げるのを諦め、素直に彼女を紹介することにした。
「こいつは弦巻こころ、先輩の言っていた弦巻嬢ってのはこころのことだよ」
「あたしは弦巻こころよ!柊斗とはお友達なの!」
「へえ、あなたが弦巻さんですか。柊斗の昔からの友人の西元陽人と申します」
やけに昔からを強調する陽人。
いや、なんでそこを強調するの?なんで?
「そうだったのね!でも柊斗はこれからあたしと笑顔になるために行かなくちゃいけないの!」
「へえそうなんですか。それは柊斗本人に聞いたんでしょうか?」
「あ、たしかに柊斗本人には聞いていなかったわ。ねえ柊斗、あたしと一緒に楽しくなることをしない?」
「楽しくなること?」
なんか具体的なことが出てこないせいか、状況が酷くなっていってるのは気のせいでしょうか。
うーんそんなことありませんねぇ。
明らかに陽人君のお目目が細くなってますもん。
「そう!あなた今日も一度も笑ってないじゃない。昨日もそうなっていたんだから何か楽しいことをしたらあなたが笑顔になるんじゃないかと思って、これから楽しいこと探しに行こうと思うの!」
「はい?」
まさかこれから出かけるというのか?そのリムジンで?俺とこいつが?
全く頭がついてこないが何か返事を返さねば。
「ま、俺がここで断っても明日もここに来るつもりなんだろ?」
「ええ、あなたが迷惑と思わないならそうさせてもらうつもりよ!」
つまり拒否権はないということか。
ここは陽人に断りを入れてこころについていくのが丸そうだ。
「陽人、悪いけど俺こいつとちょっと出かけてくる。また明日な?」
「はぁ……わかったよ、俺も部活あるし。何かあったらすぐ連絡しろよ?」
「はいはい。んじゃあな」
渋々了承してくれて陽人を見送り、こころに指示を仰ぐ。
すると黒服さんたちが俺とこころをリムジンに乗せ学校を発った。
「ところでどこへ行くつもりなんだ?」
「そうね……あ!いいこと思いついたわ!うちへ来てもらうわ!きっとみんなに会えばあなたも笑顔になれるかも!」
沈みかけの夕焼けよりも眩しい輝く笑顔で少女はそう告げる。
え?こころの家?みんなって誰?
不安に駆られながら、俺とこころを乗せたリムジンはぐんぐん進んでいった。
てかなんでうちの学校にあんなので来たんだ……