余計だと思う人はバックを。
これは少し寂しくなった季節の話。
花の色づく季節が過ぎ、新緑の萌ゆる季節が過ぎ、紅葉が生える季節が過ぎた季節。
ただ、大地の色が褪せる代わりに輝きが強くなる季節。
夜空に輝く星々が一層明るく輝く季節の話。
春から始まり、夏を過ごし、秋を感じ、冬が来た時、彼らが見つける色は、一体何色だったのであろうか。
一人暮らしのアパートから電車で揺られ、帰ってきた地元。
4か月前の盆の時期に帰ってきた時以来である地元は、とても冷え込んでいた。それも夜となれば格別である。
気候はその日と正反対ではあるが、変わらないことが1つ。
「おかえりなさい!」
「ただいま」
4か月前と同じ場所で迎えてくれた彼女に笑いかけながらそう返す。
彼女は彼の微笑みに一片の曇りもない笑顔で返し、隣に並び立つ。
「まぁ、明日には帰っちゃうんだけどね」
「その代わり今日はいっぱい楽しませてね!」
「そこは保証するよ」
未だ街灯が多く、華やかとは言えない星空の下を二人が歩く。
頻繁には会えない二人だからこそ、こうやって会える日を大切にできるのだろうか。
「今日は寒いねぇ~」
「そうだね。そういえば、夜は晴れてる方が寒くなりやすいらしいよ。」
「へぇ~そうなんだぁ。でも何で?」
「地球の熱が宇宙に逃げるとか何とかって教授が言ってたなぁ」
「あ、今の大学生っぽい!」
「そりゃあ、大学生だし」
などと、他愛ない会話が続く。
互いに片想いをしていた時ではあり得なかった距離感で。
時折、手が触れて二人とも顔を赤くしている。
なぜ手が触れるのか。
それは、互いが手を繋ぐタイミングを探していたから。
近づけては引っ込める。もどかしさと、気恥ずかしさ。されど少しの幸福が混ざり合ってなんとも言えない感情が浮かび上がる。
繰り返すこと数度。彼の左手が彼女の右手を取る。
「寒いし」
と、顔をそらして必要のない言い訳をしながら。
「でも、これであったかいね」
と彼女は半歩また距離を縮める。
ただ握っていた手の指と指を絡ませながら。
腕と肩が触れる距離。こんなに近く触れ合ったのは、あの桜の日以来だろうか。
心に火が灯る。それは以前のような激しく身を灼くものではなく、穏やかに心を温めてくれる。
「うん、あったかい」
そう言って彼も愛おしそうに手を握り返す
少しだけ力を入れて、ただ彼女を傷つけないような力具合。
そうしてまた歩みを進めていく。
「そういえば今日はどこに行くの?」
「んー、秘密の場所?みたいな」
「えっ、なにそれすっごく見たい!」
「ご期待に添えるかどうかはわからないけどね」
と、少し肩をすくめる。
秘密の場所と言っても、別に山に登ったり海沿いを歩いたりするわけでは無い。ただ高校時代に友達と見つけたちょっとした穴場スポットだ。今日、この日ならその彼も来ているかもしれない。
「そろそろ着くよ」
神社の入り口まで来て、彼はそう告げる。
この神社の裏へ抜け、少しだけ木々の間を歩く。
すると
「うわぁ!」
木々をかき分けて進んだその先はちょっとした広場になっていた
その空間の中心にに一本の木が立っている。今は葉も落ちてさながら裸の王のような様相だったが。
その秘密の場所を香澄が目に焼き付けている横で、なにやら彼は持ってきた荷物を広げていた。
「レジャーシート?」
「あんまりオシャレなもんじゃないけどね」
自嘲気味に笑う彼は、シンプルな柄のレジャーシートを広げて、小さな毛布を渡した。
「冷えると悪いから」
彼女は頭の上に疑問符を付けてこちらを見つめている。
それもそうだ。ここまでほとんどなんの説明もしていなかったのだから。
彼はその広げたシートの上に仰向けになって一言。
「綺麗だよ?」
と、珍しく彼にしては得意げに言いながら指を天に向けた。
その先には
「あ…」
数多の一等星が輝く冬の夜空があった。
都合8個の一等星が同時に視界に収まる日本一にぎやかな夜空。
これが、彼の見せたかったものなのだろうか。
「ほら、隣おいでよ」
あの時とは逆にこちらから促す。
その言葉に納得したのか彼の隣に仰向けに横たわる。
手渡された毛布を、自分と彼に掛けながら。
「本当、綺麗」
「でしょ?まぁ、山奥ほどではないけど」
「十分綺麗だよぉ!キラキラドキドキしたもん!」
「それ、香澄っぽいね」
必死に答えてくれる彼女が愛らしくてそんなことを口にする。
名前で呼ぶようになったのもいつからだったか。
きっかけは、その時はまだ彼女からだった。そろそろ名前で読んでほしいと言われて。当時はとても照れくさかったのだが今ではこの響きの方が自然と口にできる。
そして、そろそろ本題を切り出す。
「今日って何日だかわかる?」
「えっと、12月の14日だよね?」
「正解」
と、彼は言いながら彼はまた指を空へ向けた。赤と青の星が隣り合って輝くその間から少し離れた場所を指差して。
「3、2、1…」
カウントダウンが終わったその時、
星が、流れた。
まるで彼の意図を汲み取ったかのように、その指の先から一条の流星が煌めいた。
偶然にしてもできすぎるほどの奇跡が今、確かに彼らの目の前に現実として起こった
「今日はふたご座流星群が一番綺麗に見える日だから」
こんなに上手くいくとは思ってなかったけどね、と彼は続ける。
「香澄…?」
返事がないことに疑問を感じて隣に目を向けると、
「えっ、どうかした?」
「いや、なんで泣いてるのさ」
その目から流れる涙を見て、奇しくもあの日と似たようなことをを口にする。
ただ、返ってきた言葉はその時と同じものではなく、
「あんまり綺麗だったのと、ちょっとだけびっくりしちゃって、つい」
と笑いかけてくれた。
その涙は、あの時のように溢れ出る
「連れてきてくれてありがとう」
と、言いながら毛布の中の手を絡めてくる。
彼女の涙を拭こうと思った彼だったが、それは無粋なことだったのかもしれない。
なぜなら、彼女は今笑っているのだから。
それでもやっぱり彼女には涙は似合わない。だから、
「はい、ハンカチ使って?」
と、反対の手で彼女の胸元にハンカチを置く。
彼女は、ありがとう、と返しながらもそのハンカチで涙を拭うことはなく、時たま輝く流星を見続けていた。
そんな彼女を見て、ふと気づく。
今目を閉じれば聴こえるのだろうか。
彼女の聴いたものが。
星の鼓動が。
それは、確かに聴こえた。
そしてそこに彼が視たものは。
おそらく、愛。
あの時は一人だったから、あの胸の火はただ心を灼くものだった。
いまこの時は二人だから、この胸の火は互いを温めるものになった。
たったそれだけのこと。されど伝えた想いは確かに繋がって。
やっぱり、今でも彼女のことが好きだと思えた。
その星の鼓動に聴き入っていると、
「ねぇ、流れ星いっぱいだよ?」
と、彼女がこちらを覗き込んでいた。
「もしかして、寝てた?」
「まさか、ちょっと考え事してただけ」
全く見当違いの心配をしている彼女に、笑いかけながらそう伝える。
「どんな事?」
「秘密」
「え〜」
未だ面と向かって好きと言うのは恥ずかしいもので、胸に秘す。
それでもこの気持ちは伝わっていると信じて。そう思うのは独りよがりだろうか。
そんな事を考えながら、また夜空に目を移す。
「また来年も連れてきてね」
「うん、絶対連れてくるよ、次も、その次も必ず」
月のない冬の夜。星々はその光の全てを大地に降り注ぐ。
この夜空を隣にいる彼女と見上げられると言うのは、なんとも幸せな事だと噛み締めながら、無数に流れる星達に一つだけ願い事をする。
このモノトーンの季節の色を感じながら。二度目の春はまだ遠いけれど、何度も彼女と一緒に迎える為に。
隣にいる彼女に想いを馳せて。夜空の彩りに願いを込めて。
(どうか、この先もずっと、香澄と一緒にいられますように)
その願いは、きっと、叶う。
投了です。
この2人の物語はこれで終わります。
次は多分連載1話を上げると思います。
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