~ラクーンシティー~
その街は夜間に関わらず薄暗かった。時刻は21:00、住民が就寝するには早すぎる。乗り捨てられた車、路上に散らばる鞄や書類、ショッピングモールの中央吹き抜けに設置された女神像は今も尚、上から滴り落ちる液体で赤く染め上げられていく。その景色を見れば引き返し街を出ることを考えたかもしれない…だが、不幸にもラクーンシティーに到着したばかりの警察車両はそれらに気付くことなく人通りの無い通りをゆっくりと通過していく。
[市民の皆さん。大規模な暴動が発生した為、ラクーンシティー警察署への避難をおすすめします。必要な方には食糧や医療品を無料で支給します。]
「嘘でしょ…なんで誰も居ないの!?」
雨音の響く中、録音された避難案内が放送されていた。
「署に行けば何か分かる。もうすぐだ。」
「ええ、そうね。でも、生き残っているのが私達だけだったら?」
クレアが不安を口にした。街に入って時間がたつが、見当たるのは警察署に向かっているのだろうか…乗り捨てられた車の列、そして不思議なことに車の持ち主は疎か、人影すら未だに見かけていない。
「いや!他にもいるさ。でかい街だ、きっといる。」
否定するレオン。実は面接試験の為に一度、この街を訪れたことがある。7月末にテレビや新聞を賑わせた猟奇事件に興味を持ち、経歴書をもってラクーンシティー警察署へ赴いた時の、この街の賑やかさは今でも覚えている。
(警察署まで後2ブロックほど…もうすぐだ)
署が近くなるにつれて焦りが大きくなっていく…不安と焦燥で思わずアクセルに力が入りそうになった時、道をふさぐバリケードがドライブ終了を告げた。
「歩くしかなさそうだな。」
「走るの間違いじゃない?」
「ああ、そうだな」
道端で食事している人影を見てしまったクレアが、レオンの言葉を即座に訂正した。
エンジン音に気がつき食事をやめる人々…新鮮な肉の気配に気付き、警察車両を取り囲み始めた。
「レオン!早くバックして!」
レオンが包囲から逃れる為にシフトをRに入れて後方を見るが…
「何なの…」
猛スピードで後方から接近するタンクローリーの姿が見えた。脱出しようと試みるクレアだが、感染者が邪魔でドアを開くことが出来なかった。
(脱出は無理。ならば……)
「捕まってろ!」
衝撃に備えるレオン、最後までドアを開けようとしたクレア…この時の判断が2人を別つ。タンクローリーに追突されレオンを乗せた警察車両は大きく吹き飛ばされる…クレアは衝撃の瞬間、投げ出される形で車両から放り出された。
「クレア大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ貴方は?」
間一髪、タンクローリーが爆発する前に脱出したレオン。炎上するタンクローリーの向こうに居るクレアも無事そうだ。
(クソ…さっきの音で引き寄せられてきたのか)
先程までの人気のなさが嘘のように、周囲からは感染者が集まってきている。
「駄目だ、ここは危険だ」
「先に行って、警察署で合いましょう。」
レオンはH&K VP70[マチルダ]をホルスターから抜きセーフティーを外す。
(残り17発か…無駄には出来ないな。)
最大、弾倉に18発、薬室に1発の19発だが、常日頃から薬室に装填している人が居るのだろうか?既にクレアを助けるために1発消費している…感染者はざっと見、20人くらいはいるようだ。…とても相手にはしてられない。感染者と放置された車両などの障害物の間を縫って駆け抜ける。
(ゾンビ擬きは速度が遅いのが救いだな。反応が遅いから背後を走り抜けば掴まれる心配はなさそうだ。問題は……)
前方には感染者の群れがあるため路地を抜けて、迂回する形で警察署を目指した。路地は大通りの様に周囲を囲まれる事はないが、此方の逃げ道もない。そして、物陰など死角が多い為……
「shit!」
出会い頭にレオンは掴みかかられる。レオンは即座に銃底を感染者に叩き込み、怯んだ隙にその横を通り抜けた。警察署前にも感染者が多数いるが、そちらは道が広いため難なく掻い潜れた。
何とか警察署の門をくぐり抜けで閂を掛け、感染者が入り込まないようにロックする。噛まれることなくたどり着く事ができたが、この状況が長く続く様ならば、おそらく食い殺されていたかもしれない。
「ここは戦場か何かか?」
振り返って見た警察署の正面ゲートの景色は正に戦場の様であった。数多もの薬莢、動かなくなった死体の山、血のついた複数の足跡。まるで世界大戦の映画を見ているような光景だった。ふとクレアが言っていた[この街には私達しかいないかもしれない]という言葉を思い出してしまった。
(ここに生存者が居ないのなら、本当に俺達だけかもしれない…)
不安を抱きながら警察署の重い扉を開いた。
~警察署~
警察署内には外と同じように薬莢が散乱している。違う事といえば、死体を外へ引き摺って出したのか、赤い筋が警察署の床に描かれていた。近くの通路のシャッターは下げられていて、静寂と重い空気が署内を包んでいる。
「誰か、誰かいないのか?」
彼の声がホールに反響するが、それに答えるものはいない。
(クレアの言った通りだ…いや…交戦した後、署内から死体を片付けている。留まるつもりがないのならわざわざ片付ける必要は無い筈だ。)
気を持ち直し、辺りを探索する。カウンター裏には丈夫な金属ケースがあり、頑丈な南京錠で鍵がかけられている。
(開かない……しかもこの南京錠、鍵穴もダイヤルも無い。どうやって開けるんだ?)
極太な支柱に鉄の塊の様な本体、解除の為の穴やダイヤルは無い。早々に箱を開けるのを断念してカウンター奥へと足を向ける。応急処置用だろう…仕切りと簡易ベッドが設置されており其所には、銀髪の女性が横たわっていた。
「おい!あんた!」
レオンは銃を構えながら声を掛けるが返事はない。見たところ外傷はない様に見えるがその肌はとても白く、生きてるようには見えない…制服は血で汚れていないが、ベッドの下には血塗れの服と布が転がっていた。
(薬品で死亡したか…それとも…死後は血液が凝固する、綺麗な服に着替えた直後…おそらく服の下にあるであろうガーゼから血が滲み出る前に息を引き取ったのか…だが、瀕死の状態でわざわざ着替えるなんて余裕はあるわけがないし…)
レオンはこの街では不自然な死体に興味を抱く…否、死体と言う表現は合わないように感じる。それはまるで人形の様に最初から命のない完成された創作物と感じてしまうほどたった。
(リタ・フィリップスさん…自分よりも若く見えるけど先輩になる筈だった人…自分がもう少し早くこの街に着いてさえいればこの人を助けることが出来たのだろうか?)
暫く立ち竦んでいたが考えたところで答えは出ない、レオンは署内の探索を再開した。
ロビーの端末にアクセスして、監視カメラの映像から生存者を探す。カメラは署内の廊下しか設置されていないため部屋の様子はわからない。人影のない廊下の映像を切り替えること数回、署内を歩く人の後ろ姿を見つけた。
「生存者か!場所は東側オフィス近くの廊下、警備室付近」
端末からマップを暗記して、カメラで目撃した廊下へと向かう。シャッターで封鎖されているので解除レバーを上げるが、シャッターが上がる途中でヒューズが飛んだのか1/5程で動かなくなった。仕方なく血で濡れた廊下を、這いつくばってシャッターをくぐり抜け抜ける。
「泣けるぜ……この服お気に入りなのに」
血塗れになった服、状況は理解出来ているが愚痴を溢さないと正直やってられない。注意しながら水浸しの廊下を歩いていく、この水の出所をレオンが知ることがないのが唯一の救いかもしれない。
~警備室~
カメラで後ろ姿を確認できた廊下は、下ろされたシャッターの先にある。
[ガシャンガシャン]
「待ってくれ!今開ける!」
シャッターを叩く音に急かされながら、レオンは急いでシャッターを下から持ち上げた。シャッターの隙間から延ばされる血塗れの手を掴みとり此方側に引っ張ろうとしたが違和感に気付く。
「ツッ!」
握力が異常に強い…まるで自分の手を砕かんとするくらいの力で掴まれている。半ば自身手から振り払う様に勢いよく手を引き抜くが、その拘束を解くには至らなかった。続けて表れた頭部は案の定、頭皮が喰い千切られた様に頭蓋骨が露出している。人間ではないと判断出来たレオンはすかさず、拘束している腕に一発、頭部に二発撃ち込みやっと解放された。
[ドン!ドン!]
「今度は何だよ!」
レオンが入ってきた入口の扉から叩く音がする、十中八九感染者だろう。
[バン!]
遂に扉が破られ感染者が室内に侵入するが、レオンも黙って見守る訳ではない。開け放たれる扉を掴み、回し蹴りで扉の軌道上に居る感染者ごと文字通り締め出す。吹き飛ばされて倒れている感染者の上を難なく通過してホールへと戻ろうとするが、シャッターの下をくぐり抜ける時に感染者に追い付かれてしまった。足を掴まれて徐々に這い上がってくる感染者、銃は足を引っ張られた際に手から離れてしまって前方にあるのだが届かない。ホールから足音が聞こた…見上げるとホールで見かけた銀髪の死体…
(あぁ…リタ先輩に食べられるのか…)
レオンはまるで他人事のように己の未来を受け入れた。
マチルダはゲームでは12発でしたっけ?
性能は実銃を参考にしています