~ホール~
「My rifle, without me, is useless. Without my rifle, I am useless. I must fire my rifle true. I must shoot straighter than my enemy who is trying to kill me. I must shoot him before he shoots me. I will …♪」
我がライフルは、我無くしては意味が無い。ライフルを持たぬ我もまた無益。我は正確にライフルを撃つ。我は我を殺そうとしている敵よりも勇猛に撃つ。敵が我を撃つ前に、我は敵を撃たなければならない。
ルナは小声で歌いながら銃を組み立てていく。
[何の曲ですか?聞いたことのない歌ですけど]
「ん~~適当にメロディーつけただけの…誓いの言葉?」
紫色の液が付着し、明らかに汚染されてます!と言わんばかりの93Rを分解、洗浄、組み立てしたルナ。
[それより、あの人を一人で行かせて大丈夫だったの?]
「大丈夫大丈夫、あの人は後のアクションヒーローよ。簡単には死なないから!」
[でも、感染したらお仕舞いじゃない?]
レオンやクレアは奇跡的にもTウイルスの抗体を先天的に持っているので、噛まれたところで感染することはない。しかしそれは後に分かることであり、原作知識のあるルナと違い出会って間もないエマが知るはずがない事だった。
(レオン君は単独で、寄生虫に支配された軍事施設に殴り込み壊滅させたり、リッカーを簡単に排除出来るし問題ないでしょ~)
(いや……それはラクーン脱出後、エージェントの訓練を受けた後の話だったね……っ)
大丈夫とエマに伝えようと思ったが、言葉を詰まらせる。
「…もしかして、ヤバい?」
[まぁ、普通に考えたら危険よね。]
慌てて組み立て直したベレッタを片手に、レオンを迎えに腰を上げる。
(レオン君はリッカーごときじゃ死なない筈!…でも、ダムネーションでは、訓練した特殊部隊がリッカーに簡単に壊滅したし…レオン君とは言えども、一般人。もしかすると……)
などと考え事をしながら、西側オフィスの扉を開けようとしたのがいけなかった。運悪く戻って来たレオンと鉢合わせになり、抵抗なく開いた扉に吊られる形でレオンの腕の中に飛び込んでしまったのだ。
「……えっと…先輩?お待たせしました。」
「遅い!…………お帰りなさい。[ツンデレ乙!]うるさい!」
「え!?」
無線から聞こえる茶々に即座に反応してしまったルナ。レオンの困惑した表情が見える…当たり前だ、エマとの無線はレオンは知らない。
「…と…とにかく、怪我してないならよかった。」
真っ赤になった顔をそむけて誤魔化すルナであった…
「何か手に入りました?」
「はい!フルストックとソードオフの散弾銃が1丁ずつと、大口径拳銃、あと俺の銃のカスタムパーツ…先輩、ありがとうございます!」
「いえ、そのお礼はこの街を脱出して、他の先輩達に直接言いなさいな。」
そう、用意したのはルナではない。
(入社祝いに愛銃のカスタムパーツ…粋な先輩達ね。)
少し羨ましいと思う、何せ私の先輩や教官は優秀だが、精神的には故障した人達が多かったから…
「その銃をカスタムしてから隠し通路の探索を始めましょう。」
・
・
・
・
レオンが愛用しているマルチダを改造しているのを横目に、彼から受け取ったM870にバックショットを装填していく。
(散弾銃は反動が強いので、先輩がストックのある方を使ってください…なんてね……気を使わせちゃってるね。嬉しいのだけどね…)
正直な話、ルナの方が銃は使い慣れていたりするのだが、下手なことを言って怪しまれないようにと素直に提案に応じた。装填が終わり、今度はスラッグ弾を筒状にした画用紙の中に詰めていく。
「それは何に使うのですか?」
見慣れない光景だった為か、レオンが思わず口を挟んだ。
「これは予備です…備えあれば憂いなし、と日本のことわざであります。使わないならそれでよし、いざ必要になった時に無いよりはマシってことです。警官は通常、予備弾薬を1~2マガジンほど携帯してます。それと同じですよ。逆に聞きます、会った時から思ってたのですが、貴方…この街に来るときに予備弾薬持ってきてました?」
「……」
(其所は原作通りなんですね~)
「貴方は
ため息混じりにお説教を溢す。
「勿論です!」
心外です、と言いたげな表情で此方を見るレオン君だが…(近いうちにやらかすんでよね~これが…例えば寄生虫に乗っ取られた村に行くときとか~)
毎回、ゲーム開始直後は弾薬の少なさに頭を悩ませたものだ。現実となった今、現地で自身の使う銃の弾薬を確保出来る可能性は低い。コンテニューなんて出来ないので無謀なことをするなとこの場で釘を打っておく。
(毎回出直し出来る保証は無いですからね~)
自身も最近出直したということは当然、彼には秘密である。
・
・
・
「さぁ行きましょうか…」
石像にメダルを嵌め込むことで姿を表した隠し通路。思えば、ここまで長い道のりだった…生存者の救出任務から始まり、署内の探索、キーアイテム集め…署長が生存者を分断して全滅させる事が目的だった為か、鍵もアイテムも突拍子の無い場所に置かれているものばかりだった。
(やっと新しいエリアを探索出来る…あと、アイアンズ!貴様は許さん!)そっと心に誓うルナであった。
タイプライターが置いてある自動感知照明の備えられている隠し部屋を抜けて、地下道へ続く通路を懐中電灯の明かりを頼りに警戒しながら降りていく。建物の構造を簡単に言うならばB1・B2と言うべきだろうか…B1は横へと続くグレーチング状の床材の通路。B2へ進むであろう、下へと降りる階段からは数人の足跡が残されており、風にのって仄かに悪臭が漂ってくる。おそらくB2は下水道に繋がっているのだろう。B1、B2のどちらかがアンブレラの施設に繋がっていると予想できる…それは電子ソナーを放ちスキャンを行えばすぐに分かることではあるのだが……ルナがSHDウォッチを操作してスキャンを行おうとしたときだった、B1の通路の奥から走る足音が聞こえた。
「生存者か!?」
「レオン君!待って!」
足音を追って走り出すレオンを慌てて追いかける。
(足音の主…あの速度なら感染者ではないと思うけど、生存者とも思えない。それに、このマップ…)
通路を抜けた先には機械室と言うべきだろうか…今居る通路の下にはボイラーや機械、太いパイプが交差した空間がある。そして、追いかけたレオン君も音の主を見失っているようだった。
(ボス戦ですね…あまり弾は無いのですが…)
こんなところに生存者が居るとは思えない。ゲームでよくあるボス戦前の静けさ、専用マップ…ルナの知らない展開だが、この後何があるかは予想できる。ガバメントをホルスターにしまい、G36に持ちかえる。警戒度を上げ、すぐに交戦出来るように身構えた。
前方の部屋、レオンが倒れて入口を塞いでいる棚をどけて中に踏み込もうとした時だった。足音の主が部屋の天井を破壊して落下してきた。大半の部位は人間とかわらないが、右側の腕は異常に肥大し、筋肉繊維や腫瘍の様なグロテスクな外観を晒している。髪は金髪、ジーンズと左側に残っている血だらけの白衣。アウトブレイクの原因となった人物の一人、Gウイルスを自らに注入したウイリアム・バーキンの成れの果てだった。
これまでのTウイルス感染者…歩く屍達とは比べ物にならない速度でレオンに掴みかかる
「レオン!怪我は?」
「大丈夫です。何ですか!あれは…」
「何でもいい…相手が脅威となるなら速やかに排除するのよ!」
ルナが口にしたことは日本以外の警察では当たり前の事だ。相手が此方に銃口を向けるなら、即座に脅威を排除しなければならない。自分が倒されれば次は同僚、付近の市民に被害が及ぶ。其処に感情をはさんではならない。……それが…治安を守るのが[仕事]だからだ。
助けて、苦しい、と呟くGにライフルを発砲する。
「先輩!俺が引き付けます。その間に逃げて「却下!」」
確かにルナ一人ならば逃走は容易だろう。頭上のパイプを伝い上の通路へ先に登り、梯子を下ろしレオンを援護して共に逃げる。だが、それでは…
「逃げた先が行き止まりなら、此処で戦うより状況が悪化する。」
「分かりました、交戦します。」
レオンの散弾銃が次々と火を吹いた。
・
・
・
戦闘が始まって既に1分。始めは2対1の正面火力で押していたが、次第に頭部への銃撃の痛みに馴れてきたのか、銃撃を受けながらでも此方へ間合いを詰めるようになっていた為、戦法をかえる。レオンが正面から頭部を銃撃して引き付ける。ルナが側面に回り込み腕部にあるG特有の大きな眼球を潰す。リロード時はお互いにカバーするようにGの注意を引き付ける。…ルナのチームメンバーは
2分経過…既にライフルのマガジンを2つ消費した。ルナは連結したG36のマガジンを使用していない物に切り替える。最後のマガジンだ。Gも流石にダメージが蓄積されたのか、動きがぎこちなくなっている。足掻きだろうか…鉄パイプを振り回しながら突進してくるGに狙いをつけるルナ。だが発砲する前に通路のボイラーへと繋がるパイプに、Gのもつ鉄パイプが衝突して破損、辺り一面を蒸気が覆った。
(視界回復まで後何秒?此処に止まるのは危険、場所を移すべきね。Gは蒸気で視界が覆われる前に何処を見ていた?)
ルナはGの次の行動を予測する。
(正面の私を見ていなかった…事実、此方へ突進する足音は聞こえて来ない。撤退した?考えられなくもないけど…違う気がする。Gが最後に見た物……)
Gは見上げた…頭上には太い…ボイラーの高圧の蒸気に耐えられる頑丈な太いパイプ。
「レオン、上よ!逃げて!」
「えっ!?」
離れた場所から重い物体が落下する音、金属同士がぶつかり合う甲高い音、そして、壁に叩きつけられる音が聞こえた。
蒸気がはれ、視界が開ける。床には真っ二つに折れた散弾銃、壁からずり落ちる様に倒れ込むレオン。Gはとどめを刺そうとパイプを頭上高く振り上げている所が見えた。
「…………」
ルナは無言で、Gの振り下ろされるパイプを持つ手の親指をライフル弾で吹き飛ばす。親指という支えが無くなり、握力が低下したことで鉄パイプを保持出来ずに、振り下ろす場所とは違う、明後日の方向へパイプが飛んでいく。
「襲撃者に復讐出来て、さぞ満足でしょ?なら、もう思い残す事もないだろう?既に棺桶に片足突っ込んでるんだ……大人しくそのままクタバレよ出来損ないが!」
G36をフルオートで頭部を蜂の巣にしながら、ゆっくりと
(進化を繰り返す…Gはウイルスとしては完成しているかもしれない。だが、兵器としては及第点とは言えない…人間は知識があることで生態系の頂点に君臨した。己の非力さを知り、補う為に武器を作った。個人では敵わないと知ると徒党を組むようになり、連携して駆り立てる事を覚えた。罠を張り、戦術を学び…やがて敵となるものは同族しか居なくなった。)
次々と銃口から吐き出される散弾、圧倒的な弾幕にGは押される。00Bを使い果たしたM870を空中で反転させ、銃身下部のローディングポートが上にくるように持ち直し、ライフルドスラッグが入っている画用紙の筒をローディングゲートに押し当ててマガジンに弾を流し込む。空になった筒が落下する……初弾を薬室に装填し引き金を引く。その間も決して歩みを止めない。
(確かに怪力、高耐久……だが、自我を…知識を失い、繁殖するだけの生物など兵器にはなり得ない。)
ライフルドスラッグ…ショットシェルに小弾を数発詰め込んでるバックショット
弾切れになった散弾銃を床に放り投げ、ガバメントで銃撃しながらGへ更に接近する。
「だから………」
フラググレードのピンを抜き、穴だらけになったウイリアムの口に押し入れ、蹴ってGを突き放つ。
「人間を嘗めんなよ?化物が!」
グレネードが内部で炸裂して、Gを機械室の端の手すり付近まで吹き飛ばした。Gの背後、手すりの向こうには下水道へと繋がるであろう、谷の様な深い落差と闇が広がっている。
「レオン…?」
動かなくなったGを横目にレオンの様子を伺う。蒸気の向こうで何があったかは正確には分からないが、おそらく打撃を受ける寸前で銃を盾にしたのだろう…レオンに外傷はなく、呼吸と脈も安定している。
(壁に叩きつけられた衝撃で意識を失っているだけか…)
安堵するルナ。その時、視界の端で何かが動くのを察知した。頭部が無くなったGがヨロヨロと立ち上がる所だった。
(薄々気付いてたけど、既に生命維持の器官が別の場所に移動してるのか…)
人間にとって脳幹を破壊すれば即座に行動不能となる。Gにも同じような器官があるとは思うのだが、具体的な場所など分かるわけがない。此方に向かい歩きだすG……腕部にある唯一の目にガバメントの標準をつける。
「
銃声と共に45口径の重い弾頭が眼球に着弾する。足を通路から踏み外し、腕を振り回しながら手すりの向こうに落下するG。
[まさか、あんな生物が存在するなんて…ルナ、大丈夫?]
「問題ないです。」
(この程度なら負けませんよ…少なくても
弾を使い果たした銃達…再び現れるであろう進化を繰り返す生物、気を失ったレオン…ルナの頭痛の種は増える一方であった……