(でも、あともう少し!
~下水道 クレア~
汚水を掻き分け前へ進む。
「糞みたいな状況ね…文字通り。」
クレアは悪臭に思わず悪態が出る。だが、引き返す事など出来はしない。
(彼女が襲撃者から時間を稼いでいるうちに、シェリーを安全な所まで連れていかなければ!)
5分もない短い邂逅だったが、襲撃者の異常性は身に染みる程理解している。感染者と同じ様に白濁した瞳、3mはあるであろう巨体、拳は家具を軽々と破壊し、銃撃をもろともしない。その巨体の質量は重すぎる足音が物語っている。
(追い付かれたら命の保証はない。幸い、あの巨体なら通れる通路は限られている……最悪の状況ではシェリーだけでも、子供が通れる程度の配管に隠れさせて難を逃れるか…)
シェリーを避難させた後、クレア自身も襲撃者から逃れないとならない。それに加え、まるで迷路のように張り巡らされた下水道。初めて訪れる場所でありマップなど知る訳がない…その状況ではぐれてしまうのは得策とは言えない。
(あくまでも最終手段ね。)
そう結論付けたクレアだが……
その手段を使わざるえない状況は、無情にも早く訪れる。
Y字路の様な下水道の分岐点、柵で封鎖された側を新たな襲撃者が破壊し、クレア達の前に姿を表す。
肩に大きな瞳、上半身が肥大し逆三角形の様な体型、両手には鋭い爪、頭部はとても人間の物とは思えない顔。千切れ落ちそうになっている白衣の胸元には[ウィリアム・バーキン]と名札がぶら下がっていた。
「パパ……」
「…………………。」
冗談も程々にしてもらいたい。前門の虎後門の狼とは正にこの事だろう。
「シェリー!耳を塞いで目を閉じて!」
クレアは閃光手榴弾のピンを抜き数秒数えた後、Gの眼前に投げ渡す。下水道に反響する強烈な爆発音と閃光。怯む巨体の横をクレア達が通過する。
「GAAAAAAAA!」
怪物の怒りの咆哮が鬼ごっこの第二ラウンドの開始を告げた。
~ラクーン大学 ケビン~
署を共に脱出した市民と警官達は、署で別れた少女の言葉を信じて大学へ訪れていた。黒のロングコートに顔を覆うガスマスク、ニュースで見かける不審者よりも怪しい格好をしていた彼女だが、提供してくれた情報は確かなものだったと言える。
(ガセで有ろうが無かろうが、どのみち選択肢なんて無かったしな。)
幸運にも教授達がウイルスの特効薬の研究を行っていた、そして今回のバイオテロ、主犯グループの一人と思われるグレッグ教授の諸行も。そのレポートを元に特効薬[ディライト]の作成し、容疑者として[タナトス]を起動寸前の教授を取り押さえる事に成功した。
後は彼女を信じて救助部隊の到着を待つだけとなった。
「あそこ!ヘリが見えるぞ!」
「発炎筒を焚け!」
上空には自身の存在を示す夜間灯が輝いており、ヘリの存在が確認出来る。徐々に近づいてくるヘリの騒音で感染者が集まることが予想されるが、その頃にはこの街をおさらばしている頃だ。問題はない。
更に近づくヘリ。目視で確認できる距離になったとき、ケビンは違和感を感じた。生存者を全員乗せるにはヘリ一機では足りない、闇に溶け込む様に黒に塗装されたヘリの下部には大きなタンクの様な物が5つ程固定されている。
「此方だ!」と必死に発炎筒を振り、存在を示す警官達を横目にヘリはタンクを投下した後去っていく…
「何だよ!今必要なのは物資じゃなくて救出なのに!」
選抜警官隊の一人が毒づく。
「何も無いよりはマシだ、調べてみよう。「待て!」」
タンクに近付く警官を止めるマービン。
それにはケビンも賛成だ。残り僅かとなった残弾を確める。
(本当にこの街は退屈しないな…)
まるで墓標の様にそびえ立つ不気味なタンクを、持ち前の楽観思考を発揮しながら注視する。
「まぁ………どうにかなるだろう。」
・
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~アンブレラ支部 臨時作戦本部~
「タイラント5体ラクーン大学に投下完了。」
「宜しい、ナイトホークはその場で待機。戦闘データを収集せよ。」
本来、合衆国特殊部隊の救出活動を妨害する為に、焼却施設へ投下される予定だったタイラント5体。戦闘データを収集する予定だったが市民の生存者がいるとなれば話は別だ。
世界有数の国際企業、アンブレラコーポレーション。突如街に蔓延した未知の感染症から市民を守るために、自らの財源を使い傭兵部隊を雇い、救助活動を行った……それがアンブレラの書いたシナリオだった。アンブレラの研究施設や証拠となるデータは滅菌作戦でロスト、救助活動をした記録だけが残り真実は闇に葬られる。自身も災害にあった被害者として誰もアンブレラを疑う事はない。
……街の生存者が口を揃えてアンブレラを糾弾しなければの話だ。
特に、特殊部隊STARSが持ち帰った情報は有害で其を聞いたであろう、ラクーン市警の職員達を見逃す事は出来なかった。
仮に全土に噂が知れ渡った所で笑い飛ばす事は出来る。だが、物好きなジャーナリストに嗅ぎ廻られれば、今後の活動が大きく制限されるだろう。故に、害となる芽は徹底的に摘み取る。
「オーダーをどうぞ。」
「見つけ次第殺せ。」
「復唱、サーチ&デストロイ」
「起動シーケンス完了、タイラント起動、ハッチを開放します。」
命令を一言伝えるだけで、オペレーター達が一斉に動き出す……まるで私が生態系のトップに君臨しているようで、とても気持ちがいい。
「さぁ、最高傑作達よ。愉快な喜劇を見させておくれ。」
これから始まるのは戦闘ですらない。圧倒的な暴力による一方的な虐殺だ。市民の希望が絶たれ、絶望に染まる。泣きながら逃げ惑う姿はさぞや滑稽だろう。
身を乗り出す様にモニターに映るタイラントのコートに内臓されたライブカメラの映像を見る司令官。
「タイラント2号、生体反応ロスト」
「なんだ、センサーの異常か?確認しろ!」
「いえ!センサー感度良好。異常ありません」
「なら何が起こってるんだ「5号ロスト」」
センサーの異常でないならば、瞬く間に2体のタイラントの生体反応が消失したということになる。全世界最強と噂される合衆国特殊部隊をも圧倒出来るとされているタイラントがだ。
「ナイトホーク!情報を説明しろ!」
[乱入者です。戦闘車両が大学敷地外から侵入しました。あれは…連邦の車両!?]
「映像をヘリのものに切り替えます。」
切り替わったモニターには合衆国にはない車両が、タイラントを蜂の巣にしている映像が映し出されていた。
BMP-T…戦車支援戦闘車、技術発達により歩兵でも戦車装甲にダメージを与えれる様になった近年。戦車の敵は戦車だけ、とはいかなくなった。建物が乱立する市街地戦、突発的に発生する戦車の死角からの攻撃に対処する為に作られた車両であった。
歩兵を排除するのに必要なのは150mm滑空砲か?否。必要なのは構造物を貫通する程度の威力を持つ機関砲、装甲車両や立て籠った陣地を吹き飛ばす誘導ミサイル、如何なる状況下でも迅速に行動出来るように装備された暗視装置他、各種レーダー。
御察知の通り、対人に特化した車両だ。7.62mm、12.7mmとは一線を画する30mm機関砲は、タイラントの強靭な肉体をも抵抗なく貫通し、その背後に集まりつつある感染者達をも凪ぎ払う。
「何であんなものがこの国にある!あのイカれ野郎を仕止めろ!」
指示の元、左右から接近するタイラントを次の瞬間、L-90の35mmが貫く。
2門合わせて毎分1100発、怒涛の射撃の前に一瞬で原型を無くす標的。
「何なんだ…あの化け物は……」
重量6tにも及ぶ兵器を軽々と扱う生身の男。
[土産だ、とっておけ。]
BMP-Tから発射されたミサイルによりヘリの映像が途絶え、全てタイラントの生体反応が消える…僅か2分にも満たない時間だった。
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~マービン~
乱入した2人の活躍により、驚異は排除された。
打ち上げられ周囲を照らす照明弾、到着した複数のヘリに乗り込む生存者達。
「やっとこの悪夢から抜け出せるですね!」と喜ぶリタを横目にマービンの気分は晴れない。
タイミング良く選抜警官隊を救出し、警察署を制圧した黒衣の少女。教えられた救出地点で都合よく手に入った特効薬と、この災害の黒幕の証拠。
例えるなら、まるで舞台の上で踊らされてる様なモヤモヤとした違和感を感じる。
「どうなるかは分からない。まぁ、一寝入りして起きてから考えるさ。」とケビンの言う通り。答えなんて最初から用意されていないのかもしれない。
マービンはヘリの窓から眼下に広がる、滅び行く街の様子を眺める。時刻は午前4時、もうすぐ日の出の時刻だ。[ディライト]…この絶望に対抗する唯一の希望を握りしめ、街を後にした。
~孤児院地下 ルナ~
装備回収の為に警察署への往復40分、補給物資を得て準備する事10分。先行したクレア達にかなり遅れをとってしまったが、やっと後を追える状態になったということだ。
Gやタイラント、変異個体が蔓延る地下やアンブレラ施設に、拳銃一つだけで殴り込みに行く勇気など最初っからない。
……かといって、今のルナの装備も過剰戦力と言わざるおえないが。
ペイロードライフル重量10kgオーバー+弾薬その他装備で20kg、更にガジェットを複数入れた武器ケースをズルズル引きずりながら孤児院地下の隠し通路を進んでいく。
「何ですかこれ!また鍵が掛かってるじゃないですか!」
目の前には金属製の頑丈な扉、勿論合鍵など持ち合わせていない。
[つくづく運がないね~ルナちゃん。今度はC4でも用意しとく?]
「本当に…1ダースあってもたりないですよ……」
[構造物をスキャンした結果、この先に下水道らしからぬ広い空間があることが分かってるけど……どうする?さっきの下水を通って迂回する?]
「笑えない冗談ですね……」
付近に漂う悪臭が示す通り、近くに下水が流れている。その中を進むことには異論はない…通常であれば……
感染し、発症する前の人々が流しただろう…尿、吐瀉物、吐血などで構成された汚水の川。マップやレーダーを表示することが出来るコンタクトレンズのディスプレイには、ウイルスの存在を示す赤い点が、汚水の川を赤く染め上げる様に表示されている。
私にTウイルスに対する抗体があるかは分かっていない。その状況で中を進むのは自殺行為だろう……
「研究施設ということですが消耗品や物資を搬入するには、この入り口は小さすぎます。スキャンデータを元に他の入り口を探します。」
[懸命ね。おそらく企業の幹部などの重役、顧客等のゲストも施設に招く事がある筈。悪臭漂う通路や、汚水の中を進ませる事はないでしょう。2箇所地上に繋がる搬入口らしき場所が確認出来るから其所へ向かって。]
「了解」
(この街に来てから、鍵やギミック、通路で悩まされる事が多いわね…)
トボトボとケースを引きずりながら来た道を引き返すルナであった。
マクレーン&メイトリックス+市民が脱出!
残り2話で完結予定…所々飛ばしつつ戦闘多めで頑張りたいなと
(ばら蒔いたフラグを回収しなきゃ