魔法少女リリカルなのは、始まりません!   作:日λ........

2 / 3
始まらなかった物語の者達 ViVid編

「よし、今日も頑張ろうレイジングハート!」

『Stand by ready, setup』

 

その掛け声と共に『騎士甲冑』が展開されていく。逆賊達から聖王国の象徴であるゆりかごを取り戻した『英雄聖王』オリヴィエ・ゼーゲブレヒトも身に纏っていたとされる白と青を基調とした衣装が少女の身を包む。

オリヴィエがゆりかごを取り戻した際に、この世に一時蘇った初代聖王から褒美として下賜された宝玉、『不屈の心』はその姿を魔法の杖からオリヴィエが使いやすいように一対の籠手へと姿を変えたという逸話を持つ聖王家の宝物である。

 

彼女の名前はヴィヴィオ・イングヴァルト・ゼーゲブレヒト。

ベルカの大国である聖王国の王女だ。

 

 

「レイジングハート、今日のシミュレーターは誰にするの?」

『今のマスターの力量から考えてオススメとしては若き日のクラウス様か、同時期のオリヴィエ様辺りがよろしいかと』

「じゃあクラウス様で。そろそろ断空拳の対策をしたかったんだ。アインハルトお姉ちゃんにも負けられないよ」

『了解しました。シミュレーター、起動します』

 

 

レイジングハートがそう言うと、ヴィヴィオの前に一人の男性が現れる。

『英雄聖王』と共に戦場を駆け抜け、戦乱が蔓延りつつあった当時のベルカを武力を持って平定し、長い期間平穏を取り戻したとされる戦場の覇者『覇王』クラウス・G・S・イングヴァルトその人である。ただし、最も強かったとされる全盛期よりも若い頃の姿であるが。

 

「胸をお借りします、ご先祖様……行くよ!」

『いつでもどうぞ!』

 

 

ヴィヴィオはいつものように、シミュレーター機能によって再現されたクラウスとの戦闘を開始した。これは何時もの戦闘訓練。ベルカの民特有の戦闘力の追求の時間である。

ベルカの者達は武人気質な者が多く、強さが求められることも多い。身分の差とは別に強さを持つものは賞賛される文化があった。それ故にベルカの王族、貴族である支配階級の者達はその規範として皆ベクトルは違えども武術を身に着ける者が多かった。ヴィヴィオも例に漏れず、聖王家の血族の者達に扱いやすく改良された王家の武技を身に着けていた。

 

 

幻影でありながら実態を持つクラウスが動くと同時に、ヴィヴィオの聖王家特有の瞳が一瞬虹色に輝く。聖王家の血族の者達が長き闘争の歴史の中で編み出した『聖王の鎧』と呼ばれる能力の一つだ。無意識下でゆりかごに収集されたデータベースと繋がり予測された一手先の未来を予測する事も、対峙する相手や目にする戦法をその場で模倣する事も可能な特殊な瞳。

聖王家の血族の者たちは体内に生体型ナノマシンを生まれた時から保有しており、それによってゆりかごへのアクセス権限を得ているのである。オリヴィエが納めるまでは酷い戦乱が続いたというベルカで、より長く生存する為にその生体型ナノマシンは自己進化を行い、宿主の肉体の強化や機能拡張を行った。その末に得られたという、ヴィヴィオの先祖達の血の結晶ともいえる能力であった。

 

 

無意識下で受信した予測を元に、ヴィヴィオは動く。クラウスの拳を避けては駄目だ。魔力を折り込んだ衝撃波を返しの拳で食らうからだ。受けては更に駄目だ。彼が祖として成立した戦場武術『覇王流』の恐ろしさは親戚であるアインハルトから散々ヴィヴィオは味わっていた。防御の上から尚相手を粉砕するまさに覇王と呼ぶに相応しい破壊力をまともに受けては『聖王の鎧』のその名称の由来とされる防御能力すら貫通し致命打が成立するからだ。元々、クラウスが覇王流の原型となる戦闘スタイルを確立させたのはもしもオリヴィエがゆりかごの生体コアとして動かねばならなくなった後、ゆりかごが制御不能となってしまった場合を想定していたからである。結果的にはその拳がオリヴィエに振るわれる事は無かったが、その破壊力は変わらない。

 

故に逸らす。ほんの少しだけ相手の腕をずらし、直撃だけは避ける。

そうしてクロスレンジまで近づいたヴィヴィオはクラウスの胸に平手を置く。

次の瞬間、掌に圧縮、収束されていた魔力砲がクラウスの無防備な胸へと開放された。

 

虹色に輝く魔力の奔流に、クラウスの体は吹き飛ばされる。が、全盛期には程遠い若い時とはいえ覇王と呼ばれる者がこの程度でやられる筈もなく、ノーダメージとまでは行かないが大したダメージは無いのが当然のように立ち上がった。咄嗟の判断で胸に展開したシールドが間に合ったのである。故に騎士甲冑が少々焦げる程度で今の一撃は終わった。

 

お互い牽制や肩慣らしの時間は終わりだ。本格的な打ち合いに備え、ヴィヴィオは拳を構えた。相手への迎撃、そしてカウンターを行う為の物だ。『英雄聖王』が最も得意としたとされるその構えを、ヴィヴィオは自身の先祖であるクラウスの猛攻に対処するために選択した。

奇しくもそれは、オリヴィエがクラウスに対して行った戦法と同じであった。

 

 

逆賊に奪われたゆりかごを取り戻し、その願いによってゆりかごの深部から本当のゆりかごの持ち主である初代聖王を蘇らせる事でゆりかごの真の力を開放したものの、その力を長きに渡る戦乱を断つことだけに使ったという『英雄聖王』オリヴィエと、その後も抵抗を続けた者達の尽くを打ち倒しベルカ全てを平定させた『覇王』クラウス。

彼らは戦乱で傷ついた国と民を守るために戦後結婚し、当時の聖王国とシュトゥラ王国は合併した。今のベルカの大国である聖王国はそれによって生まれたのである。

ヴィヴィオはその二人の子孫の一人だ。

王族として偉大な先祖に恥じない者となる為に、彼女を愛する家族の思いに応える為に、今日も一日ヴィヴィオは修練を続けるのだ。

 

 

 

 

 

 

「きゅー……」

『若い頃とはいえクラウス様を相手にするのはまだ早かったかもしれませんね。私の判断ミスです。申し訳ありませんマスター……』

 

結論でいえば今回のシミュレーターによる模擬戦にヴィヴィオはクラウスに完全敗北した。

一瞬の判断の遅れが命取り。カウンターの為に構えたヴィヴィオであったが裏の裏を読んだクラウスによって思いっきり態勢を崩され、シールドを構える暇もなく断空拳を叩き込まれたのである。一発ならまだ立て直せるが、情け容赦のない断空拳の乱打によってヴィヴィオは気を失った。十歳の少女に対してこの仕打ちは大人気ないと思うかもしれないがこの苛烈さこそが覇王流の特徴である。

 

初代であるクラウスのそれは特に荒々しく、恐ろしく隙がない剛拳だ。全盛期よりは若くとも戦乱の中で磨かれた確かな物であったが為に親戚であるアインハルトの女性特有の滑らかさが加わった動きに慣れていたヴィヴィオは対応しきれず押し切られたのである。

 

「うう……酷い目にあった……でも、色々と学べる部分があったから、反省会しよっか。レイジングハート」

『そうですねマスター』

 

ボッコボコにされたにもかかわらずヴィヴィオはケロっとした調子でレイジングハートと共に今回の模擬戦についての反省会をした後、日々のトレーニングへと戻った。

ヴィヴィオ・イングヴァルト・ゼーゲブレヒト。十歳。かつて両腕を失くしかけても痛みでは泣かず、愛する人と手を繋げない事で涙したオリヴィエに似てとてもタフな少女であった。

 

 

 




本来の歴史であれば滅んでいた筈のベルカですが、とある男が自らの子孫が全滅の危機に晒され一度目覚めていた結果ちょくちょくと様子を見に来るようになった影響と、大きな力を持った大国が成立しベルカを平定した影響で大戦や大崩壊と呼ばれる惨事からも難を逃れ現存しています。
その影響で今では次元世界でも屈指の治安と歴史を持つ、ミッドチルダの時空管理局に並ぶ抑止力の一つである。


この世界のヴィヴィオはクローンでもなんでもなく普通に産まれた子です。ドラえもんでのび太がジャイ子と結婚しても、しずかちゃんと結婚してもセワシくんは産まれるという話がありますがそれと似た感じでヴィヴィオも産まれてます。
ただ上記の通りベルカは健在なので王族の子で、オリヴィエとクラウスが無事結ばれた世界なのであの二人の子孫としてですので実質別人とも言えます。なので本来の歴史のヴィヴィオは消えたという意味で前回本来産まれる筈だった存在が一人消えた、と書かせて頂きました。
ハルにゃんとは正式に親戚の関係。武術ではライバルとして、年の近い親戚の姉と妹としていい関係である模様。
ちなみにヴィヴィオが持ってるレイジングハートは初代聖王が持ってた方の物です。オリヴィエの護身用に自分は使えないけど予備として内蔵してた杖を組み直して籠手にした物。代々聖王家は受け継いでます。


次元世界に持ち出された形跡のある無くなった方のレイジングハートを探す為に聖王国は管理局と協力してる感じで、ミッドチルダとは悪くない関係です。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。