川神戦役から数日が経った川神の沿岸部。町の噂では夜にチンピラが殺した相手の遺体を捨てる場所として有名であった。
そんな場所で死体とを乗せた無人の車が捨てられるという怪奇事件が発生していた。財布などの所持品がその場に捨てられていることが多々あり、今は誰も近づこうとしない場所である。その場所を屋上で見つめている一人の女性がいた。九鬼揚羽である。場所は大和たちの結界で封鎖されているが百代などの武人が入って来るかもしれないためここにいる。
「まさか四天王の人が一緒に見学とは思わなかったわ。」
揚羽に猛竜が話し掛ける。
「この地を護りたいものにとってこうやって貴様らに力を貸すのは当然だ。それにしても貴様の右腕・・・・・義手か?」
「いいや、これは符礼法師がくれたんだ。俺の失ったこの右手の変わりに。」
「ほう。その符礼という人は生きているのか?ぜひ会ってみたいものだ。」
「・・・・・・・すまねえが、符礼法師はもうこの世にはいない。死んじまったんだ。」
「っ!・・・・・すまない。」
「気にしないでくれ。この職業をしていると何時死ぬか分からないんだ。法師もそれは覚悟していた。それよりそろそろ元凶が出てくるぜ。」
猛竜が指を指す咆哮を向くとそこには大きな獣のようなホラー、・チェカリがいた。揚羽は驚く。
「なっ!あれもホラーなのか!?」
「ああ。ホラーには大きく分けて二種類ある。人型と獣型だ。今回は獣型だったな。今から大和が倒すからよく見とけよ。」
二人の見る先には薄っすらではあるが大和の姿があった。暗闇の夜に黒い服、見つけるのは大変である。
大和はチェカリの前に立つと剣先を天に向け空間を裂き、円を描き振り下ろす。描かれた円から光が漏れ、牙狼の鎧と共に魔導馬・轟天も召喚される。
「あれは!?」
「ん!お前でも驚くのか?」
「ああ・・・・・・あれは魔導馬だ。俺よりも早く使えるようになってるなんて・・・・・羨ましいぜ。」
「そんなにすごいのか?」
「ああ。あれはホラーを百体を浄化しないと使うことを許されないもんだ。俺らの年齢であれを召喚できるのはほとんどいない。」
「つまりあいつは魔戒騎士の中で選りすぐりである・・・・・・・・・・と?」
「まあそうなるな。おっ、仕掛けた!」
牙狼は轟天をチェカリに向けは知らせる。チェカリは雄叫びを上げるが轟天は怯む事無く、ただ主人の意思に従い突き進む。牙狼はチェカリの周りを轟天に走らせながら牙狼剣を振り、斬る。チェカリは悲鳴を上げるもかすり傷程度、あまりに効果が無い。牙狼はチェカリと距離を置くと轟天の名を叫ぶ。轟天は雄叫びを上げながら前足を振り上げ地面に足を叩きつける。叩きつけられた足元から波動が発せられると牙狼剣が輝き、徐々に形を変え大きくなり、牙狼斬馬剣になる。
「あれは・・・・・・なんなんだ?」
「おそらく魔導馬を使えるものの特権だな。俺もよく知らないんだ。あと二体で百体だけど。」
轟天は跳び、一気にチェカリとの距離を詰める。牙狼は雄叫びを上げながら牙狼斬馬剣を振り、チェカリを二つに切り裂き、チェカリは消滅する。大和は牙狼の鎧と轟天を召還する。
「終わったのか?」
「ああ、今日のは終わった。でも久々にあんなのが出てくるとは思わなかったぜ。」
「そうなのか?」
「ああ。なんか意図的にここに出たと思ってもおかしくねえ。」
「そうか。こちらでも調べてみると伝えておいてくれ。」
そう言って揚羽は去っていった。
「こうやって表で協力出来たらどれだけ楽なことか・・・・」
猛竜はそう呟く。
朝の川神学園2-F、大和多胎は昨日の報告会を行っていた。
「お前も魔導馬を使えたんだな、哀空吏。」
「ああ。だがまだ数回だ。」
「俺はあと二体で召喚可能だぜ。で・・・・・・・・あれ大丈夫か?」
猛竜が指を指している方向には机に頬を付け入る小雪の姿があった。追加言うと元気が無い。
川神戦役で勝利したことにより小雪は強制的にFクラスメンバーに入った。他の奴なら不本意だとか文句を言うが小雪の場合根っからの天然動物。飼い主の冬馬と準がいないと元気が出ない体質だ。将来この人がどういう社会人になるかは不安で仕方が無いが今は元気がないのが心配だ。
「どうする、あれ?」
「いや俺に言われても・・・・・」
「解決策は今のところ無いな。しばらくS組の誰かがきっかけを作ってくれるまで待つという案を提案する。」
「「異議無し。」」
そう話していると準がF組に入ってくる。
「よう。」
「あーっ!準!準だー!」
小雪は喜ぶ。
「今日は特使としてここに来た。話をさせてくれ。」
「それはお役目お疲れ様です。」
「あー、これはどうもF組委員長!これつまらないものですけどもー!」
「話しろよ。」
委員長を見て準は菓子折りを出す。その状況に大和がツッコミを入れる。
「んっ!んー!」
順は咳払いをして気を引き締める。
「ユキを返してもらいたい。条件は可能なかぎり飲む。」
「それはS組相違の結果か?」
「ああ。確かお前は哀空吏だったか?」
「ああ。」
「そいつは聞けねぇ相談だな。見苦しいぜ。」
そう言ったのは人差し指を立てているガクトであった。
「見ろ!このクマちゃん推薦の高級マシュマロを!この味を知ったらもうもどれねぇぜ!」
「いや、ないから。」
「ムサイお前がいる時点でな。」
「てかお前が言っても説得力無い。」
「グハァ!」
ガクトは大和たちに言われてショックを受ける。
「まあこちらでも皆と会談をしておくことをする。
「じゃあよろしく頼む。」
そう言って準はF組を出て行った。
朝のSHR,児島先生が教卓に立って小雪をどうするか考えようと皆に語り掛けた。
「さて、どうするかは皆で話し合え。」
児島先生がそう言うと大半のギャラリーが反発する。
「返す必用ねーし。」
「なぁに、もうすぐ馴染むさ。」
「でもちょっとかわいそうよ。」
「返してもいいけどさ、S組のヤツら困り顔を拝みてぇー!」
そんな中クリスが手を挙げ自分の意見を発表する。
「意見だが!自分は榊原小雪は返すべきだと思う。弱ってみていてかわいそうだからな。」
「その意見に俺も賛成。」
「右に。」
「同じく。」
大和が手を上げてそう言うと哀空吏と猛竜も同意する。
「もし皆がタダでというのがイヤなら条件にすればいい。」
「大和の言う通りだな。向こうの特使も可能なかぎり飲むと言ってたし。」
「だな。ここで一回終了にすることを提案する。」
哀空吏がそう言うと先生は承諾した。
自習時間になり皆は勉強せずにのんびりしていた。そんな中大和はワン子に着目した。ワン子は重りをつけたダンベルを両手に持ちトレーニングをしていた。
「ワン子ちゃんはどうしてそんなにトレーニングするんだ?」
「ふっふ~ん、猛竜、アタシは叶えたい夢があるんだよ。」
「夢?なんだそれ?」
「川神院の師範代になってお姉さまをサポートするの!すごいでしょ!」
「でも家のものだったらなれるんじゃないのか?」
「ところがどっこい!」
「猛竜、ワン子の言う通りだ。身内びいきなしで実力で選ぶんだ。」
大和が説明をする。
「ちなみに体育科のルー先生は師範代だが何度も試験に落ちたらしい。」
「というわけで!アンタいい脚しているから武道むいてるかもよ?ダンベルどう?」
ワン子が小雪に勧誘をしようとする。
「興味ないー。くでー。」
「目指せ川神院師範代!」
「しはんだい?」
小雪がワン子の言葉に反応する。
「ルー先生みたいなかんじかな?」
「よく知っているじゃないの!そうよ。あのくらい強くなきゃなれないんだから!」
「おー、そっか。・・・・・じゃあ。」
小雪は立ち上がるとワン子に衝撃の一言を投げかける。
「それねー、無理だと思うよ。」
「無理って・・・・・・ど・・・・・どういうこと?」
あまりの言葉に驚くワン子。ワン子は小雪が何故その言葉を言ったのか
「んー・・・・・・・・・・・・世の中にはがんばっても無駄なことがあるのだー。ドンマイ☆」
『っ!!』
その言葉に大和たちは怒りが心の底から出てくる。
「あははっ!うんなるほどって何よそれ―――っ!」
「わー、怒ったー!」
「ちょっと冗談でも聞き捨てなら無いわ!アタシは真剣なのよ。」
「でもホントのことだよー。君は武道はむいていないよ。無責任な応援はイカだー。」
「そっ・・・・・そこまで言うなら試してもらおうじゃないの!!アタシが武道が向いていないかどうか!次の休み時間で決闘よ決闘!」
「いいよー。」
大和たちは薄々気付いていた。彼女の発言に作為的なものがあることを。そしてそれを言い出したのが誰であるかを。
「じゃあワッペンを・・・」
「その決闘、ちょっと待ってください。」
その声が聞こえた方向を見るとそこには扉にもたれかかっている冬馬の姿があった。
『葵冬馬!?』
「こんにちは、F組の皆さん。」
「葵冬馬、授業はどうした?」
「楠神くんでしたか?お隣がおもしろそうだったので抜けてきちゃいました。」
えへんと冬馬は威張った。
「話は聞かせてもらいました。ひとつ提案があるのですがその決闘・・・・もしユキが勝ったら彼女をS組に返していただけませんか?」
『!?』
大和たちはこの言葉を聞いて確信した。最初から誰かがS組に入ったとしてもこうなるのだと。
冬馬の提案にガクトは反対の意を表した。
「おいおい。一応この決闘はF組の問題だぜ?S組が絡むことじゃねーだろ。」
「わかっています・・・・・ですがF組からの引渡し条件もまだ届いていませんし、どうでしょう。ユキが負けた時は私もF組に編入するという条件は?」
その言葉にまた衝撃が走った。
「私も川神戦役の交換候補だったと聞いていますから悪い話ではないと思います。ユキも私がいれば寂しくないでしょうし、返還の必要もなくなります。」
冬馬のその言葉を聞いて千夏と黒子は喜ぶ。
「えっ!冬馬くんがウチのクラスにっ?」
「エレガント・クワットロがF組に三人とかすげくね!?」
「はぁ?何言ってんの?いらねぇよ男なんて!」
「だよなぁ!」
ヨンパチとガクトが思いっきり嫌がる。
「おだまり男子!もとはと言えばアンタらが勝手に決めたせいで榊原さんがよわってたんでしょうが!この条件は飲みましょ!ねっ!」
千夏の押しにモロと委員長も納得する。
「どっちにしろ返す予定だったんだしいいんじゃない?」
「それはたしかに・・・・」
「今なら不死川さんもお付けします。・この件は英雄から私に一任されていますので問題はありません。」
「不死川!?あの女をF組の奴隷にできるのか!」
「まじかっ?飲む飲む!その条件!」
ヨンパチとガクトは承諾する。
「大和、これって・・・・」
「ああ、確実に相手の思惑通りだな。この状況を奪回しようにも・・・・」
「不可能だな。一時この場をワン子に一任しよう。」
『これより第一グラウンドで決闘が行われます。対戦者は2-F川神一子対、同榊原小雪。内容は武器使用可の格闘戦です。』
「しゃー!いくわよー!」
「ワン子ちゃんがんばれー!」
「~♪」
「榊原ちゃんもがんばれー!」
委員長がどちらも応援する。
「大和、どっちが勝つと思う?」
「哀空吏、おそらく今のワン子は負けるな。ルー先生のように強くなりたいと言う考えではそこまでだ。」
大和には分かっていた。今の彼女が負けるということが。
「アタシは薙刀を使うけどいいわね?」
「んー。じゃあ僕は~。」
小雪は辺りを見回すと剣道部の女子に目がいき、歩み寄る。
「!」
「これ借りるねー。」
「え、あ、はい。どーぞ。」
小雪は鼻歌を歌いながら小太刀の木刀を振る。
「木刀・・・・小太刀?剣術使いね・・・・おもしろそう!」
「では、ワシが立会いのもと決闘を許可する。」
今回の立会人は学園長自ら。自分の娘の試合だから立ち会うのか?
「いざ尋常に・・・・・はじめいっ!」
「はああああっ!」
「~~~~~♪」
ワン子が勢いよく仕掛けていく。だがいつもと違い動きが単調な上に大振り。脇が空きまくっている。
「アレじゃあダメだ。攻めの型と守りの型がなっていない。」
「白夜騎士でもあんな攻めはしないぞ。」
流石の哀空吏も呆れる戦い方である
「もらったわ!」
「よいしょっ!」
ワン子が小雪の胴に一発叩き込もうとする横に薙刀を振るが小雪は膝を曲げ回避する。
「今の避けたのはやるわね!でも次はないわっ。」
「大和・・・・・」
「ああ。読まれている。完全に遊ばれてるし攻撃される前に回避行動をとっている。」
「やっ!はぁっ!」
ワン子は幾度も攻撃をするがことごとく避けられている。
「どうしたの?避けているばかりじゃ勝てないわよっ!」
小雪はステップを踏んで後ろに下がる。
「おや・・・」
冬馬が声を出す。
「これはもしかしてマズイのでは?」
「それはワン子のことか?」
「おや、大和くんは気付いてましたか?」
「どうせ誰かがF組に入ったとしてもこうする予定だったんだろ?」
「何のことでしょうか?」
「しらばっくれるのならそう受け止めるけど・・・・・あまり調子に乗るなよ。」
「っ!」
殺気のあるその言葉に冬馬は背筋に恐怖が走った。
「ん~・・・・ほいっ。」
「わっ!」
脇が空いた隙を小雪の左足キックが炸裂する。その威力にワン子は後ろに弾き飛ばされる。
「くっ!やるわね!蹴り技が来るとは思わなかったわ!木刀じゃなくてそっちが本職と見た!」
ワン子の読みは間違っていない。だがもうひとつ気づくべきであることを忘れている。彼女の動きにおいて一度も隙を見せていない。それだけでなく本気でない事も。
「でもこんな浅いのじゃ効かないんだから!」
ワン子は無闇に突っ込み連続して突きを繰り出す。
「あれではすぐに体力を消耗する。感情に流されすぎだ。」
「なんだか昔の俺たちを見ている気がするな。」
ワン子が突きを繰り出す中左足、右内股、左足外股に軽い蹴りが入れられている。
「猛竜、分かるな。」
「ああ。尊士にやられたあの時だ。」
「遊ばれている・・・・」
ワン子は薙刀で何度も何度も小雪に当てようとするが右足で全て相殺されている。
「っ・・・うううっ!」
ワン子の顔に汗が流れているのに対して小雪は汗ひとつ掻いていない。
小雪とワン子の武器がぶつかり合い二人の間に距離が生まれる。
「はぁっ、はあっ。な・・・なんなのよアンタ・・・。まともに攻撃打ち込んできなさいよ!バカにしているの!?」
ワン子が向きになってそう言うと小雪はステップを踏みながらこう言った。
「してないよ。でも・・・・・怪我すると痛いしよくないよー。」
『っ!?』
大和たちの怒りが溢れんばかりの言葉を発した小雪。それは戦うものにとっての侮辱以外の何ものでもない。
「け・・・・怪我・・・・・。」
ワン子は薙刀を強く握る。
「手抜きされるなら大怪我した方がマシよっ!」
怒りにより与えられた力がワン子の肉体を一時的に強化し、先程までと比べ物にならない突きを繰り出した。突きの一撃が小雪の右頬を掠める。
「当たった!たたみかけるわ!」
ワン子は薙刀を上に上げ回す。
「ここで勝負を仕掛けるか・・・・・・だが。」
「ユキ・・・・・・!」
準が心配をする。流石の小雪の警戒をし構える。
「これで決めてやるわ!川神流・・・山崩し!」
上段から薙刀を振り下ろす。小雪は振り下ろされる薙刀を木刀で受け止めようとする
が、しかし!
「と見せかけて・・・」
ワン子は無茶な体制で薙刀を自分の後ろに持ってくると横から攻めようとする。だがしかし、小雪は煙のように消えワン子の頭上を跳んでいた。
「えっ!?」
そして小雪はワン子の首に蹴りを叩き込む。ワン子は転がり、そして倒れた。
『お・・・・大技返し――――っ!』
「そこまで!勝者、榊原!」
学園長の勝利宣言と共に歓声が湧いた。小雪は冬馬と準の方へ跳びつき喜んでいる。倒れているワン子に大和が歩み寄る。
「大丈夫か。」
「う~ん・・・・・・」
「ほら。」
大和は手を差し伸べるとワン子はその手を握り立ち上がる。
「最初から本気で戦えよ。」
「気付いてたの!」
「当たり前だ。それとなんだあの戦い方?守りの型がなってないぞ。」
「うう・・・・・・っ!」
ワン子の視線の先には百代に話しかけられている小雪の姿があった。
「あ、あははは・・・・・負けちゃったね。これから修行に精進しなきゃ!」
「・・・・・・・・」
ワン子は無理な笑顔を作って教室に戻っていく。
「・・・・・・・馬鹿野郎。無理な笑顔つくんじゃねえよ。」
大和はそう呟くと小雪の方に歩み寄った。
「小雪ちゃん。」
「ん~、な~に大和君?」
「まず勝利おめでとう。」
「どーもー。」
「・・・・・話は変わるけどいいかな?」
「な~に~?」
「夢を叶えられないてのは君が言うことじゃないと思うよ。」
「っ!どーしてそんなこというかな~?」
「簡単だよ。夢を持つ人にとって叶う叶わないかその人の運と実力。本人だって分かっていることだよ。でもね、それを無駄かどうかは君が決めることじゃないんだ。」
「知ったかのような口だね~。ど~して無駄に時間を過ごそうとするかな?」
「生きている間に無駄な時間は無い!一秒一秒その人にとって大事な時間だ。それを君がとやかく言う権利は無い!」
「ふ~ん、君ってそういう人なんだ~。ちょっとガッカリだね~。」
「勝手にそっちが思ってんだろ。いい加減にしておけ。それとね、君のいたF組に誰もが不可能といわれたことを成し遂げた人がいたよ。現実も見てないガキが知ったような口を言うな。」
「っ!・・・・・僕怒るよ!」
「勝手にしろ。」
小雪は今にも襲いそうな勢いだが襲わなかった。否、襲えなかった。隙の無い状態、本能的危機感。それが彼女を支配している。
大和は三人に背を向けその場を去る。
「驚いた。やっこさんあんなキャラだったか?」
「確かにそうですね。ですがユキの言葉は正しいと言えども言いすぎでしたね。」
「若までどうしたんですか?」
「ユキ、よかったですね。彼がまだ殺気を抑えていてくれていて。」
『え?』
冬馬のその言葉に二人は驚く。
「彼、結構な修羅場をくぐっています。楠神君と猛竜君も同じです。もし彼らのうちの誰かがユキと戦うことになったら・・・・・最悪負けてしまいます。良くて引き分けですね。」
放課後、ワン子はすぐさま川神院に向かおうと荷物をまとめていると大和が近づいてきた。
「ワン子。」
「何、大和?」
「ちょっと付き合ってくれ。」
ワン子は大和に言われるがまま付いていくとそこは人気の無い森であった。
「どうしてこんなところに?」
「人がいないからね。でだ。どうしてあの時泣かなかった?」
「っ!な、何のことかな?」
「とぼけなくてもいい。小雪が百代姉さんに話しかけられたときに思えは悔しがってた。泣きそうになる位にな。だがお前は泣かなかった。俺はそれを強いとは思わない。むしろなんであんな笑顔でいられた?お前はあんなこと言われて悔しいはずだろ!」
「・・・・や、大和に何が分かるのよ!あの時思い知らせてやろうと思ったわ!でも負けた!それどころかあいつは百代姉さまに声を掛けられた!こんなに悔しいことがあると思う?私にとって負ける以上に悔しいよ!」
ワン子は瞳から涙を流しながら言った。大和は近づき片腕をワン子の頭の後ろに回すと抱きしめた。
「っ!(温かい・・・・・)」
「今は泣け。誰もいないんだ。泣いて泣いて泣きまくれ。」
「う・・・・・・・うわああああああああああああああ――――――――――!!!!!!!」
ワン子は大和の胸で泣いた。抑えていた感情を解き放った。
しばらくするとワン子は泣き止んだ。
「ありがと、大和。」
「おう。涙これで拭け。」
大和はそう言うとハンカチを渡す。ワン子はそれを受け取り涙の跡を拭く。
「お前だけに話しておくがな、俺と哀空吏と猛竜は一回完膚なきまでに負けたことがある。」
「えっ!」
「俺はその時学んだんだ。どんなに強いと思ってもいつかは負ける。負けてからじゃないと勝とうという気持ちは生まれない。そこを分かれば人はまた前に進めるってな。」
「大和・・・・・・・」
「あと余計だが師範代より上の百代姉さんを超えるって目標が百代姉さんの力になれると思うぞ。」
「・・・・・・うん、わかった。アタシ百代姉さんを超えるほど強くなって見せる!」
「じゃあ戻るか。もう日暮れ時だ。」
「あっ!待ってよ~!」