とある休日、燕は公園を散歩していた。
「ん!大和君?」
燕の目に入ったのは大和の姿であった。大和は気付き燕の方を向く。燕は大和に歩み寄り隣に立つ。
「何しているの?魔戒騎士の仕事?」
「いえ。今日は霊獣が見れる日なのでここにいるんです。」
「霊獣?」
「はい。」
大和は魔法衣の中から魔導筆を取り出す。
「この魔導筆の毛の部分に使われているこの部分が霊獣の毛なんです。」
「じゃあそれを狩るの?」
「霊獣を勝手に狩ることは禁じられています。なので見るだけなんです。」
「その霊獣って普通には見えないの?」
「人間とは別の時間を過ごしているので不可能です。ですが今日は見れるので。」
「そーなんだ。ねぇ、私も見せてもらってもいい?」
「いいですけど・・・・・その代わり時間掛かりますよ。霊獣が見えるところに行くまで。」
「へ?」
燕は大和の言葉に間抜けな返事をしてしまう。
「霊獣を見るにはその身に邪気を纏わないように気の流れに沿って進まないといけないんです。ここは邪気を浄化できるポイントなのでここからスタートになります。」
「そうなんだ・・・・・・・でも見たい。」
「わかりました。ではこれを。」
大和は燕に小瓶を差し出す。
「これを飲んでください。」
「これは?」
「一日だけ五感が鋭くなる薬です。」
「大和君のは?」
「大丈夫です。ここにあるので。」
そう言って大和は同じ小瓶を見せる。二人は目を閉じ、そして同時にそれを飲んだ。燕は閉じた目を開けるとそこには今まで見ていた風景に小さな精霊のようなものがあちらこちらに飛び交っていた。
「わぁ~~~~~!」
「町と町、人と人の間を流れる小さな木の塊です。下手に動かないで下さいね。ちゃんと手順があるんですから。」
「はーい。」
「じゃあまず最初の一歩は左足からです。いいですか?」
「なんだか冒険みたいでドキドキしてきた!」
「せーの。」
二人は同時に左足を出し、歩み始める。二人が歩いた後には小さな気の塊が元気に飛び交っていた。
大和が魔針盤を持って街中を歩いていると魔導火が魔針盤から出てくる。大和はそれを見ると立ち止まってしまう。それに気付いた燕は大和の方を向く。
「どうかしたの?」
「少し困ったことになって。あそこを見てください。」
大和が指差す方向には橋があり、橋の下には黒い化け物のようなものがいた。すぐ側には老婆が杖を突いて歩いていた。
「あの黒いのは?」
「邪気の塊です。メモっとこ。」
「いやいやいや、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ!あれ明らかにあのおばあちゃん襲おうとしているよね!助けないと!」
「大丈夫です。俺たちみたいに五感が鋭い人には危険で襲ですが見えてない人にとってはなんら害はありません。」
「そうなんだ。で、何か問題が出たの?」
「ええ。あそこを通りたいんですけどあの邪気が邪魔で通れません。」
「他に方法は?」
「あります。ただ遠回りになります。」
「いいよ。」
大和の指示に従い燕は動く。
「そういや聞いていなかったんだけどその霊獣をどうして見たいの?」
「何でも見た人に幸せが訪れるって言い伝えがあるんですよ。まあ俺は個人的に見て見たいんですけど。」
「へ~。じゃあ私の場合はお父さんかな。」
「お父さん?」
大和は燕の言葉に疑問を持つ。
「ウチのお父さん今九鬼財閥の開発部門で働いているの。と言っても副業で作っている納豆の方が収入がいいんだけどね。」
「納豆?」
「これこれ。」
燕はベルトの鞄から納豆を取り出す。
「一つどうぞ。」
「どうも。」
大和は燕から納豆を受け取る。
「そういや精霊って何を食べてるの?」
「さあ。精霊は生きている時間が違うので観測が出来ないんです。」
「そういえばそう言ってたね。」
しばらく移動しすると町の風景は変わり何処か昭和を感じさせる雰囲気が出ていた。大和は魔針盤を見ると立ち止まった。
「どうしたの?また邪気?」
「いえ。こっから先に進むにはちょっとした条件があるんです。すみませんが燕さん、ちょっと協力をしてもらっても構いませんか?」
「いいけど・・・・・・何を?」
燕は大和に協力する。
「―――――て、手を繋いで歩くだけじゃん!」
「女性にとっては簡単に思われますけど男性が異性に手を繋ぐの頼むって結構度胸いるんですよ。」
「そうなの?」
「多分。」
しばらく手を繋いで歩くと大和は立ち止まった。
「ここでもう大丈夫です。ありがとうございました。」
「うん。」
大和は繋いでいた手を離す。
「そういえば大和君って女性と手を繋いだことあるの?」
「燕さんが始めてですね。無人島にいた頃は羅号だけでしたし。」
「無人島?らごう?」
大和は歩きながら説明をする。
「俺、昔牙狼の鎧をこの手に掴むために羅号って言う魔戒獣と一緒にその無人島で過ごしていたんです。」
「何年くらい過ごしたの?」
「ん~・・・・・五年くらいですかね。」
「五年!?そんなに過ごしたの!」
「ええ。最も、最後の試練が結構心に来ましたけど。」
「最後の試練?」
大和は頷くと首から提げている金属製の牙のペンダントを手で掴み、燕に見せる。
「これって・・・・・・まさか・・・・」
「羅号の牙です。俺の師匠、符礼法師が牙狼剣を抜く際に羅号を斬れと言いました。おれは牙狼剣を抜いて羅号を斬りました。魔戒騎士にとって優しさは時に死を招くと符礼法師に言われたので。」
「・・・・・」
「あの時は辛かったです。でも、あの時のことがあったから俺は牙狼剣を抜くことが出来て、牙狼の称号を受け継いだんです。」
「・・・・・・大和君は凄いね。」
「へ?」
燕の言葉に大和は間抜けな声を出す。
「何でも出来るみたいで羨ましいよ。」
「そんなわけありません。」
「?」
「俺にだって出来ることはあります。例えばこの手。」
そう言って大和は両腕を伸ばす。
「俺の手の届く範囲はここまでです。仲間の手を借りないとこの手を伸ばすことが出来ません。俺は一人で戦っているんじゃなくてかけがえのない仲間と共に戦うからここまでしか伸びない手を更に伸ばせるんです。」
そんな大和の言葉を聞いた瞬間燕は吹き、笑った。
「・・・・・・・ぷ、あはははははははは!」
「どうかしましたか?」
「いや、大和君ってホントに凄いね。自分にうぬぼれないところとか。」
「はい?」
「わかってないならいいや。ねえ、次はどっちに行くの?」
「こっちです。」
「げっ!そこってこの前飛び降り自殺があった場所ジャン!」
「そうみたいですね。」
二人が見る先には病院の陰になっている場所に佇んでいる大きな邪気を纏った女性が立っていた。しかもその身体も大きかった。
「そっと行きましょ。そっと。」
「う、うん。」
燕は大和の指示に従いそっとその場を通り過ぎる。
「そういや前々から思ったんだけどっ。」
「なんですかっ。」
「どうして魔戒騎士のしながら学校に通ってんのかなっ。」
「わかりませんっ。」
「へ?」
「元老院からの指示で行っているんですっ。」
二人は人間跳び箱を交互に行いながら話していた。
「第一っ。」
「うんっ。」
「俺は八歳までしか学校に通ってませんっ。」
「マ・・・ジッ!」
「マジで・・・すっ。」
跳び箱をしながら大和は答える。
「でもさっ。」
「はい?」
「よく一人で生きてきたねっ。」
「無人島での経験とっ。」
「経験とっ?」
「ホラーを狩っていた所であった人たちから食べ物とか貰ってましたからっ。」
「人徳だねっ。」
ある程度の場所まで来ると人間跳び箱を止め、歩き出した。
そこから裂きも色々なものを二人は見た。
杖を手に傘を被って歩いているスーツ姿の精霊の行列、風車で歩かないといけない場所、
橋の下から降り注ぐ気を傘を差して歩かなければならない場所。流石の燕の歩き疲れていた。
二人が階段を降りていると急に大和が階段に座り込んだ。
「休憩?」
「いいえ。アレが通り過ぎないと通れないんです。」
大和が指差す方を燕が見るとそこには白い竜を催した被り物や神輿が通っていた。
「アレは?」
「分かりません。霊獣が現れる日には必ずアレが出て、通り過ぎないと見れない決まりになっているので。」
「なんだかお祭りだね。」
「そうですね。霊獣って一見すれば神様みたいに見えると言っても過言ではないですね。」
「じゃあ大和君の神様は何かな?」
「ん~・・・・・やっぱりあの人ですかね。」
「あの人。」
「冴島鋼牙さんです。」
「さえじまこうが?」
「それについては俺が教えるぜ。」
ザルバが口を開いた。
「いたんだ。」
「ぅおい!お嬢ちゃん酷くないか!」
「仕方ないだろ。おまえが口を開かなかったんだから。」
「まぁそうだが・・・・・・・・・まぁいいか。冴島鋼牙ってのは昔生きる伝説とまで言われた前の牙狼だ。」
「どういうこと?」
「ホラーには最凶といわれる使徒ホラーが七体いるんだ。過去に幾人もの騎士がそいつらに挑んだが敗れ去ったんだ。だがただ一人、その七体を封印した男がいた。それが冴島鋼牙だ。もうこの世にはいないがあいつは今でも魔戒騎士の中で知らない者はいない。」
「そんなに凄い魔戒騎士なんだ。」
「ええ。更に戯阿音を倒し、絶対に帰ることが不可能言われた約束の地からの帰還もしています。」
「なんだか分からないけど・・・・・・・スゴイ人ってのはわかった。大和君は冴島鋼牙さんのように強く、そして多くのホラーを狩って人々の笑顔を護りたいんだね。なれるように頑張って。」
「はい。」
大和が返事をしたすぐ後で行列は過ぎ去って行っていた。
「行きましょう。」
「うん。」
長い道のりと長い時間を掛け、二人はとあるビルの屋上に到着した。
「やっと着いたね。」
「ええ。でも少しここから準備をしないといけないことがあります。」
「まだ!」
「と言っても簡単なことですよ。それより燕さん、霊獣に間接的にですが触れて見たいって思いませんか?」
「え、出来るの?」
「ええ。と言っても筆を霊獣にかざすだけなんですけど。」
そう言って大和は魔法衣の中から筆を取り出す。
「いいの?」
「ええ。俺のはこっちなんで。」
そう言って大和は魔導筆を手に取る。
「霊獣に触れると触れたものに幸福が訪れるって言い伝えがあります。見るだけでも幸福なんですけどね。」
「へぇ~。そういや準備って。」
「少々お待ちを。」
そう言って大和は魔法衣の中から箱を取り出す。大和ははこの中から色々な魔導具を取り出し徐々に組み立てる。
「それって・・・・・・何?」
「霊獣と時間を合わせるための道具です。まあこれだけじゃないんですけど。」
そう言って大和は燕の周りに魔戒文字の書かれた半円状のサークルを広げるとそこに竹筒に入った水を流す。そして大和は魔戒剣を抜刀すると水の入ったサークリに剣先を突き刺し、サークルに沿って後ろ歩き歩く。魔導具に貼られていた札の文字が一つ一つ変わってゆく。一周すると大和はサークルのなか中に入り魔戒剣を横にして置くと大和は空を見つめる。燕をたんを飲みながら共に空を見つめる。
そして魔導具の札が定まった文字になった瞬間、空に変化が現れた。突如として白い光の塊から波動が発せられるとその光は形を作り、霊獣へと姿を変えた。
「はっ!」
大和は魔導筆の先を地面に向ける。その瞬間、サークル内にあった水が一気に上に上げられ二人を囲う。
すると霊獣はそこに引き寄せられるかのように二人の回りを飛び、そして二人の前に着地した。霊獣は全身が悪を全く感じさせない白で、後ろに向いて伸びている二本の角と額にある一本の角を持ち、馬のような脚に大きい羽と背中にはえた小さな羽が一対ずつあり、尻尾は長く先には毛が多く集中して、尻尾にも二対の羽があった。
(・・・・・・・・綺麗。)
燕はその瞬間心を奪われた。今まで見たことの無い霊獣を見て恐怖ではなく至福を感じた。神といわれた理由にも納得がいった。
霊獣は雄叫びを上げ二人を中心軸とするように飛ぶ。その瞬間二人の見えていた景色とは一転し、まるで雲の中にでもいるかのような白い風景が広がっていた。大和は魔導筆を上に上げると燕も気付き筆を上に上げた。
二人の筆が霊獣に触れた瞬間、大和の頭の中には笑顔で微笑んでいる波奏の姿と符礼法師の姿、そして薄っすらと見える茶色の髪の魔戒騎士の姿が見え、燕には笑っている自分の母親の顔が見えた。
霊獣は四対の羽を羽ばたかせながら空へと消えていった。
霊獣が過ぎ去った直後、燕は方で息をした。
「す・・・・・・すごかったね。今の。」
「ええ・・・・・・俺もこんな近くで見られるとは思いもよりませんでした。」
「俺様も驚いたぜ。正直今肝が冷えてる。」
ザルバですら肝を冷やすほど驚いていた。
「そういや大和君!私霊獣の羽を見てたら―――」
燕が続きを言おうとした瞬間大和は人差し指を立て、燕を黙らせた。
「霊獣を間近で見ると、とても大切な人の顔や場所が目に浮かぶと言われています。」
「しかしそれは見た人だけの秘密だ。絶対に誰にも言っちゃいかねぇ。」
「・・・・・・・・・わかった。」
大和は魔導具を片付けると燕と共にその場を去った。このとき大和には目に浮かんだ最後の人物がどうにも頭から離れなかった。知らないはずなのに知っている人、それが誰なのか大和自身、分からなかった。
そしてこの時大和は気付いていなかった。霊獣の尻尾が自分の魔法衣と蒼い花のブローチに当たっていたことを。
その日の夜、燕は霊獣を見た興奮で家に一人でいても昼寝が出来ないでいた。
「すごかったぁ~。まさかんなものがこの世に存在しているなんて。それにお母さんの顔・・・・・・・・・笑ってたな。なんかお母さんに会いたくなってきちゃったよ。」
燕がそう言った瞬間一本の電話が入った。燕はそれに出る。
「もしもし?」
『燕?』
「お母さん!どうしたの急に!」
『なんだか電話したくなってね。元気?』
「うん!元気だよ、お母さん!」
燕はこの至福の一時を過ごした。