川神院の朝は早く、日の出と共に門下生が修行を開始する。そんな中、ワン子と皆から愛称で呼ばれている川神和子が自分の愛用している武器を手に川神院から出た。
「いってきま~すっ!」
ワン子は元気な挨拶をして走る。
「ゆーおーまいしん!ゆーおーまんいん!」
ワン子は「勇往邁進」と声に出して走る。ちなみに意味は目標に向かってわきめもふらず勇ましく進んでいくことである。しかしそんなことをワン子は知らない。というか忘れている。そんなワン子が向かったの島津寮の中庭である。
「みんなおっはよー!」
「おはよ、ワン子。」
ワン子の挨拶に大和が答える。
「今日は大和ちだね。」
「そうだな。ワン子、準備はいいな。」
大和はワン子と距離を取り模造刀を右手で抜刀、ワン子に剣先を向ける。
「オッケー!今日こそ勝ってみせるわ!」
ワン子も薙刀を構える。
「では双方準備はいいな?」
クリスが立会人になる。
「―――――始め!」
「はっ!」
クリスの合図と同時にワン子が大和に向け石突を突いてくる。大和は前転をしながらワン子と距離を詰めるとそのまま右踵落としを喰らわそうとする。ワン子は前に走り大和の攻撃を回避すると槍先を後ろに向け突く。大和は左手を突くとそのまま右に勢いよく右脚を振り槍先を防ぐ。ワン子は槍から手を離すと反転して大和に跳び蹴りをする。大和は身体を横に転がし回避すると立ち上がる。
「やっぱり一筋縄じゃいかないね、大和!」
「当たり前だ!簡単に負けるつもりはないからな!」
「そうこなくっちゃ!」
ワン子は薙刀を拾うと左手で石突を手に取り、そのまま大和に向け突く。大和は身体を右に反らして回避すると大和はそのままワン子に接近、剣を振るおうとする。ワン子は右脚を前に出すと右の手で薙刀の柄を掴み反時計回りに回転し薙刀の柄を大和に向け叩き込む。しかし大和はそれを見抜き左手で受け止める。
「もらった!」
ワン子は薙刀を策を乗り越えるように跳ぶとその勢いを利用して大和に蹴りを入れようとする。大和は右腕でその攻撃を受けながら後ろに跳び、ダメージを軽減する。
「やっぱ硬い!」
ワン子は薙刀を短く持つと細かく大和に振るう。
「犬は大分無駄な振りがなくなってきたな。」
「そうですね。以前のワン子さんと比べて隙がありません。」
「だがそれに対応している大和もすごいがな。」
クリスとまゆっちが感心する。
「こっちからもいくか!」
「っ!」
大和は姿勢を正し手の平を上に向け剣先をワン子に向けるとレイピアのように何度もワン子に向け突く。
「くっ!」
ワン子は後ろに下がりながら回避をする。
「あっちゃ!また同じところ間違ってる。」
「やはり癖は直させないとな。」
猛竜と哀空吏が指摘したのは後ろに下がりながら回避するところである。真後ろのまっすぐ下がれば格好の餌食である。しかし斜めにジグザグによければ少なくとも同じところは狙われず相手に隙を作ることは可能である。
大和は手の甲を上に向けると右脚を踏み込み剣を左から剣を振るう。ワン子は薙刀を立てて大和の剣を防ぐが大和の一振りは強くワン子は弾き飛ばされてしまう。
「きゃっ!」
ワン子は背中を地面に突く前に石突で地面を突く。薙刀の柄が湾曲から元に戻ろうとする反動を利用しワン子は大和まで跳び薙刀を横に振る。
「やあああああああ!」
「ふっ!」
大和は薙刀の先が当たる場所より前に立つと左脚を蹴り上げワン子を宙に跳ばす。そして大和はワン子の方へ飛び剣撃をワン子に喰らわせる。
「ぐぅ!」
ワン子は再起不能になった。同時にワン子は身体を上手く動かせなくなった。
「やばっ!」
大和はワン子をお姫様抱っこしながら着地する。
「大丈夫か、ワン子?」
「う~・・・・・負けちゃちゃっ!」
ワン子は自分の置かれている状況を見て顔を紅くする。
「大丈夫か?」
「う、うううううううううううん!そ、それより早く降ろして!」
「おう。」
ワン子の言葉に従い大和はワン子を下ろす。
「大丈夫か?顔が紅いぞ。」
「だ、大丈夫!平気だから!」
ワン子はそういうがふらついていた。ワン子は脚を踏み外し倒れそうになる。
「無理するな。安静にしていろ。」
倒れそうなワン子を大和が支える。
「う・・・・・・うん。」
大和はワン子を木陰に寝かせる。
「大和、次は私の番だ!」
「おう。」
クリスと大和は構える。ワン子は木陰からその光景を見ていた。
(やっぱり大和は強いね。なかなか一撃を入れられないよ。百代お姉さまに勝った実力はやっぱり凄いわ。でも大和はその・・・・・・かっこいいって言うか・・・・・・優しいっていうか・・・・・なんて言ったらいいんだろう?こう心の奥からこみ上げてくる感情がなんだかよく分からないんだけどでも大和を見ているとそんな感情でいっぱいになる。なんなのかな、これ?)
ワン子は自分の今大和に抱いている感情が分からなかった。今まで修行し、師範代を目指していたワン子。だが小雪に負けたあの日に大和は自分を抱きしめてくれた。そして新しい目標をくれた。そんな大和にワン子は自然と惹かれていた。
(絶対百代お姉様のように強くなって百代お姉様の助けになって大和の隣に立って見せるんだから!)
そんな思いを心に抱いてワン子は今日も勇往邁進する。