ある夜の川神の街。そこに一人の女性が歩いていた。額に十字の傷を持つ、長い白髪の女性。その名は九鬼揚羽。
先刻のこと。
「なに?最近不振なやからが川神をうろついているだと?」
「はい、揚羽様。」
九鬼財閥軍部部門のある部屋で部下が揚羽のみみに入れておくべき情報を話していた。
「何でも夜な夜な町を歩いては怪しげな札や、剣を抜いて何かを切っているそうです。」
「どんな顔かわかるか?」
「申し訳ありません。我々もその者の写真を撮ろうと試みましたが上手く撒かれてしまうのです。」
「そうか。このことは他に誰が知っている?」
「担当にあたった者のみでございます。」
「ならばよい。他の者には話すな。」
「かしこまりました。」
伝え終わると部下はその部屋から退席する。揚羽はその部屋の窓から川神の町を見下ろす。
「・・・・・・・・一体、何が起きているのだ・・・・・・・」
そして今。
「確かここいらに現れるはずだが・・・・」
「あれ!揚羽さん?」
揚羽は後ろから声を掛けられ後ろを振り返るとそこには松永燕がいた。
「どうしたの、こんなところで?」
「お前こそなんで此処にいる?」
「私はちょっと夜の街を散策してみようと思ってね。」
「相変わらずだな。私は私用でここに・・・・・・っ!」
「っ!」
二人はただならぬ気を感じ取る。
「あいつか。」
「そのようだね。どうする?追う?」
「ああ。」
二人の視線の先には黒いコートを着た高校生くらいの背丈の男性がいた。二人は気配を消して彼を追いかける。
「隙が無いな。」
「うん。でも殺気は無い。なにしているんだろう?」
二人は彼を追いかけていると彼は地下の休憩場に入って行く。そこは昼は一通りが多いが夜は全く持ってない。ホームレスが集める場所としてよく知られている。
「何故こんなところに?」
「ホームレス狩り・・・・・・・にしては穏やかじゃないような感じだね。」
「入ってみるか。」
二人は階段をゆっくりと、音を立てずに降りて行く。二人はこっそりと覗くとそこには驚くべき光景があった。彼が一人の女性の目に向けライターの火を付けてかざしていた。
「貴様、何をしている!」
「っ!」
彼は驚き二人の方を振り返る。その隙に女性は彼女達の下へ掛け走る。
「助けてください!あの人変なんです!」
「わかりましたから警察に。」
「そんなことしなくてもいいぞ燕。私が倒す!」
揚羽は地面を蹴り、彼の元まで跳び、右正拳月を喰らわそうとする。彼は前転して回避する。
「やああ~~~~~!」
燕が彼に向かい右キックを喰らわそうとするが彼は左腕でその攻撃を受け止めるとその攻撃を返し、燕の腹部に手加減をして押す。
「ぐぅうっ!」
燕は後ろに飛ばされ片膝を突く。
「はああ!」
揚羽は左アッパーキックを彼の右手に喰らわそうとするが彼は低い姿勢から上へ跳び、揚羽の後ろを捕る。
「舐めるな!」
揚羽は片足を上げている体制から右足に力を込め、そのままオーバーヘッドを喰らわそうとする。彼は腕を十字に組みその攻撃を受け止める。
「なかなかやるな。」
「邪魔しないで下さい!あいつを斬るのを!」
「ふんっ!」
揚羽は彼から距離を置き、燕と共に構える。
「聞こう。何故彼女にライターを向けた?」
「確認のためだ!あいつが敵とわかった以上、斬るのが俺の指名だ!」
「何をほざけた事を・・・・」
「中二的発言もほどほどにね。」
「・・・・」
彼は懐から魔導ライターを取り出すと火と付け、息を噴き掛けた。魔導火は小さくも二つに別れ、二人の目の前に止まった。
『っ!』
彼は二人の目を注意深く見た。魔導火は魔導ライターに戻って行く。
「な、何をした!」
「確認をしただけだよ。」
そういいながら彼は魔導ライターを懐に収める。
「どうやらアンタ達はホラーじゃないようだな。よかった。」
「ほらー?」
「なんのこと?」
二人は彼の発言に疑問を抱いた。
「そろそろ本性を出したらどうだ?」
彼は女性のほうを向くと懐から巻物を取り出すと広げた。巻物には血の様な物がこびり付いていた。
「ぐぅう!貴様ァアアアアアアアアアアアア!」
女性は素体ホラーの姿になる。
「なっ!」
「うそっ!」
二人は驚きを隠せなくなる。
「斬るぞ!」
彼は魔戒剣を取り出し抜刀、そのままホラーに向けて走り出し、そして斬る。
「キシャアアアアアアアアアアアアア!!」
ホラーは奇声を上げながら回避し、彼の背中を蹴る。彼はバランスを崩し方膝立ちになる。ホラーはその隙を突いて上へ逃げようとする。
「しまっ「逃がすか!」」
揚羽が立ち向かおうとしたときであった。彼は魔戒剣をホラーに向け投げる。ホラーは魔戒剣を回避するが魔戒剣は空間を裂き、円を描く。
「はああっ!」
彼はホラーに向かい跳ぶ。円の中から光が溢れ、金色の鎧が各パーツごとに出てくる。ホラーはそれに驚きそこで動けずにいた。彼がホラーに近づくにつれて金色の鎧が彼に身に纏われてゆき、左手には牙狼剣が握られていた。
「おおおお!」
彼は右手でホラーを地面に叩きつけると両手で牙狼剣を持ち、十字に斬った。
「キシャアアアアアアアアアアア!!!!!」
ホラーは悲鳴を上げながら消滅した。彼は鎧を解き、牙狼剣を収める。彼はそこから立ち去ろうとする。
「待て!」
揚羽は彼を止める。
「さっきのは一体なんだったんだ?お前は一体何者なのだ!」
彼は振り返ると口を開いた。
「俺の名は直江大和。魔戒騎士だ。」
「魔戒騎士?」
「なんなのそれ?」
「もう夜は遅い。日付も変わった。」
大和は二人に腕時計を見せると時計の針が十二時を過ぎていた。
「十五時四十五分に川神学園の裏にある裏山にドリームキャッチャーを付けた墓があります。そこでまた会いましょう。」
「ふざけているのか!」
揚羽は怒鳴った。
「ふざけていません。学校があるんで休めないんです。」
「「学校?」」
「ええ。それでは。」
大和は魔導筆を懐から取り出すと自分の前にかざし、その場から姿を一瞬のうちに消した。
「な・・・・・・・・・・・」
「なに・・・・・今の・・・・・・・・」
その頃元老院では・・・・
「グレス様、これは由々しき事態です!」
「どうしたのですか?」
「直江大和です!あいつは騎士でありながら模造刀とはいえ一般人に剣を向けたのですよ。」
「それについては私は何も攻めません。」
「何故ですか!」
「いいですか?彼が今いるのは川上の地です。そこで行われるのはケンカと決闘。そんな地でいちいちそんな些細なことに命を削らしては彼の命が尽きてしまいます。」
「しかし!」
「聞きなさい!私達はただホラーを狩ればいいものではありません。あなたは忘れていませんか?かつて、ホラーをただ狩り、そこから新たな陰我を生んでしまったことを。」
「うっ・・・・・!」
その者は言い返せなかった。
「信じてみましょう。彼らが救うのは人の命だけではないことを。」
そして約束の時間、揚羽と燕はドリームキャッチャーが付けられている墓へ歩いていた。
「ねえ、揚羽さん。」
「なんだ?」
「彼、本当にいると思う?」
「アレほどまっすぐな瞳をしているんだ。きっといるはずだ。」
二人はしばらく山を歩いているとドリームキャッチャーが付けられている墓を見つける。それと同時にその近くに置かれている紅い敷物を被せている椅子が目に入った。
二人は走り、近づいてみるとそこにはお茶を準備している大和の姿があった。
「あら!もう来ちゃった。」
「時間は守る方でな。」
「それに君に聞きたいことがあるしね。」
「そうですか。まあ立ち話もなんですからどうぞお掛けになってください。」
大和に促され二人は椅子に座る。
「では何から話しますか?」
「ではまず魔戒騎士についてだ。何故あのようなのと戦っている?」
「ええ、お答えしましょう。九鬼揚羽さん。」
「ワタシの名を知っているのか!」
「ええ。少々調べさせてもらいました。百代姉さんに並び立つ『四天王』の一人。そちらの方は松永燕さんとお見受けしますが・・・・・・・違いますか?」
「そうでけど・・・・・」
「ちょっと待て。今百代のことを口にしなかったか?」
「ええ。あの人とは昔一緒にいた仲なので。それより本題に入りましょう。俺たち魔戒騎士は人の陰我によって引き寄せられてるのホラーを斬ります。元々は魔戒法師、RPGで言うところの魔法使いが対処していましたがホラーが手に終えなくなってゆくレベルになったので魔戒騎士が生まれました。」
「ホラー?」
「ホラーは人間の陰我、たとえるなら欲望といいましょうか。それを嗅ぎつけ、ゲートとなるオブジェから人間に憑依します。憑依された人間は魂を殺され、肉体をホラーに乗っ取られます。まれに人間の魂がホラーを勝り、逆になることもありますが。」
「救うことは出来ないのかな?そのホラーに表意された人間を元に戻すとかさ。」
「不可能です、松永さん。過去何人もの魔戒騎士や魔戒法師が試みましたが結局は封印する以外他にその人を救う方法はありません。」
大和はそういいながらお茶を差し出すと二人はそのお茶を受け取り口に運ぶ。
「ホラーを我々が倒すことは可能か?」
「不可能です。どんなに化学が進歩してもホラーを倒すことは出来ません。我々が使いいているソウルメタルによって作られた剣、または魔導筆で発する術でしか倒すことは不可能です。」
「そうか・・・・・・わかった。ではあの鎧はなんだ?」
「あれはソウルメタルによって作られた鎧です。俺の鎧は牙狼という名を持っています。」
「牙狼?あの牙狼か!」
揚羽はその名を聞いて驚いた。
「どうしたの揚羽さん?」
「川神に伝わる昔話に『牙狼』の名が出てくる。もしやお前は・・・・・」
「その牙狼か、と?俺は牙狼の継承者です。昔話に出てくるのは先代の牙狼です。」
「そうか。」
「ついでにもう一人紹介しましょう。」
そう言って大和は左手を突き出す。左手の中指にはザルバがはめられていた。
「おいおい、ここまで話しちまっていいのかよ。」
『しゃ、喋った!』
「おっと!これは失礼。俺の名は魔導輪のザルバだ。よろしく。」
「ど、どうも。」
「よろしくお願いします。」
二人はザルバにお辞儀をする。
「お二方に約束して欲しい事があります。本来であればこのことに関する記憶を消さねばなりません。ですが、もしあなた方がこのことを墓まで持って行ってくれることを約束してくれれば記憶を消しません。」
「どうしてそんなことを話す?」
「あなた方の記憶を消せば昨日のようなことが繰り返す可能性があるからです。」
「・・・・・・・わかった、約束しよう。九鬼の名に掛けて。」
「私も約束するよ。」
「ありがとうございます。」
大和は頭を下げた。