【完結】Zi de vis a celor morți   作:らく

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 悪党どもの吹き溜まり。何処も彼処も糞ばかり。様々な勢力が幅を利かせる地の果てで、中立地帯を謳う店がある。半壊一五に全壊六。馬鹿みたいに壊れては立て直す。

 商魂たくましいのか、単なる馬鹿なのか。店の店主がくたばった時に答えは出るだろう。

 そんな中立地帯(危険地帯)にラグーンの面々が顔を出す。まだ昼を過ぎていく分も経っていないというのに、何処も彼処も酒浸り。どのテーブルの上でも鈍く輝き存在を主張しているソレが一般人の入店をお断りしていた。

 

「珍しいな、こんな時間にお前ら(ラグーン)が雁首揃えて顔出すなんざ。厄介ごとなら余所へ行きな」

「っせーぞ、バオ。口からクソひり出す暇があるんなら酒を出しな」

「なんだよ、レヴィ。嫌に機嫌がわりィーじゃねェか」

「おお、よく分かったな、バオ。ジャックポットだ、景気が良いぜこりゃ、ハンッ!」

「絡むんじゃねェよ」

 

 バオの物言いにレヴィが舌打ちを返す。言いかえしてこないレヴィの様子にバオは眉をひそめた。ちょいと突けば粗悪品の銃みたいにすぐ暴発する跳ねっ返りが口をつぐんだのだ。

 これはいよいよ良くない事が起きる前兆かと、さらに情報を得る為、探りを入れようとして遮られた。

 

「悪いがバオ、人数分の酒を頼む。ちょいとばかし腰を据えて話をしなきゃならねぇ。隅のテーブルを借りるぞ」

「ダッチ、クソ話なら事務所でやんな。ウチは小洒落たオフィスじゃねぇ、酒を飲むところだ」

「知っている、知っているさ。だからこうして酒を頼んでるんだ」

 ダッチ以外の面々はさっさと腰を下ろして、遠巻きに二人を眺めていた。視線の先ではバオとダッチが無言で向かい合う。数瞬後、バオは無駄を悟って空のグラスと瓶をカウンターの上に無造作に置いた。

 

「面倒だけは起こすんじゃねェぞ」

「当り前さ。神様だって七日目には休むんだ。誰もが静粛な休日(ホリデイ)は嫌いじゃない」

 

 バオが足元のショットガンを軽くつま先で小突き、気が付いているダッチはおっかねぇと肩を竦めてみせた。まるで意味がありゃしねぇと、バオはため息を吐き出すとしっしっと手を振る。

 

「恩に着るぜ、バオ」

「どうせなら貸しにでもしとけってんだ」

 

 恩に着ると口にしながらどうせ軽口だろうと吐き捨てる。だが、今回はどうにも様子が違ったらしい。バオの前から離れていくダッチが背を向けたまま言葉を投げかけていった。

 

「今回ばかりは借りといてやるよ」

「……はぁ?」

 

 一瞬理解が追い付かなかった。貸しや借りなんざ、ココ(ロアナプラ)では腐るほどありふれている。毎日どこかでくそ袋が生産され、銃声が小鳥のさえずり並の街なのだ。トラブルが多ければそれだけ貸し借りが生まれやすいのは当然だ。だが頻繁に生まれることと、簡単に貸し借りを作ることは別だ。

 金を出して、酒を飲む。言ってしまえば当たり前のことをしただけなのに借りるという。だから解せない。冗談に冗談を返した訳じゃないのは声を聞けば分かる。伊達に二十回余りも店を壊してはいない。それだけ長く店を開いているのだ。その程度聞き分けられる。

 

「こりゃマジで厄ネタか? まさかメイドがまた出たんじゃないだろうな……」

 

 離れ行くダッチの背中を見ながら無意識に呟かれたバオの声は、誰にも届くことなく店内の喧騒に潰された。

 

 

 

 

 四人が囲うテーブルの上には酒とグラス、そして一つの木箱が存在を主張していた。聞いていられるかとばかりにレヴィはテーブルへ足を乗せて天井を仰いでいる。ダッチは馬鹿な話を聞いたと与太話に痛む頭へ手を当てていた。

 

「それじゃあ何か、ロック、ベニー? このアラビアンナイトのランプを擦ればたちまち願い事が叶うってのか」

「そりゃいいぜ、お姫様もびっくりのビビディ・バビディ・ブーだ。こいつはいよいよガラスの靴を運んでくれる王子様もお払い箱ってわけか」

「確かに僕もロックもそう言った。だけど勘違いをしないでほしい。僕らだってそんなことを全面的に信じている訳じゃない。ただここで示された暗示と起こったことが一致しすぎている。全くの無関係だと信じる方が難しいって話だよ。比較論の話さ。こいつが無関係なことと何かしら関係があること、それらを天秤に掛けただけさ」

「なるほどな。ベニーの言い分に理があるのは分かった。だがなベニー・ボーイ、天秤へ乗せる重りに問題があっちゃ何の意味もねぇ。撃たれて死ぬのと、爆破されて死ぬことを比べて、撃たれた方が原型は残るからハッピーだと抜かすようなもんさ。死んじまやぁ、どっちも等しく死体なことには変わりないのに、だ。分かるか?」

 

 言い終えるとグラスの中身を空にする。植物に沈められた事務所を思えば、この程度の酒精では頭痛薬の代わりにさえなりはしない。しかしそれでも無いよりましだとさらに瓶の中身をグラスへ注ぐ。

 

「だったら、振ってみればいい」

「ロック」

「ダッチ、今度はアンタが振ってみるんだよ」

 

 説得も考察も、間にある筈の過程を全てすっ飛ばしてロックがジュマンジを広げてサイコロを置く。燻らせた煙草の奥の瞳が楽しげに笑っていた。レヴィはロックの顔を一瞥すると

「また病気が顔を出しやがった」と吐き捨てた。

 

「どうしてもお前は俺におままごとへ付き合えと言いたいらしいな」

「何事も検証が必要だって言っているだけさ」

「誤魔化すなよ、ロック。本音を語れよ」

「……先をな」

 

 先の無くなった煙草を消し、新しい一本を咥える。

 

「この先が見たいんだ。こいつが実現しているでも、こいつの暗示をどこかの馬鹿が実行しているでも構わない、だが俺はこの先を見たい。何が起きるのか、終わった後にどうなるのかそいつを見てみたいんだ、ダッチ」

 

 淡々と、高揚もなく、落ち着いた口調だ。墓の前で死者へ語りかけるみたいに熱は無い。

 それでも三人は知っていた。発射したがっている弾丸みたいに、自らの中へ火薬を詰め込んでいるロックという男を知っていた。

 そしてロックに撃鉄を叩きつけるのも誰かと知っている。

 

「振ってやりなよ、ダッチ。それで満足するってんだ。振って事が起きれば原因が分かってハッピー。何も起きなきゃ二人の頭が火星辺りで遊泳しているって話で終わりじゃないか」

「だがな、レヴィ。仮に本当に何かが起きて見ろ。分水嶺は今かもしれない。取り返しのつかない事が起きたら、それこそ事だ」

「その言葉こそがアンタも信じたがっている証拠じゃないか」

「言葉尻に噛み付くんじゃねぇよ、ロック。仮定の話だといってるだろうが」

「仮定としてあげる程度には現実味を感じてる、だろ?」

 

 面白くもねぇ言葉遊びだとダッチが不快さに酒をあおった。だが感じている頭痛は欠片も引きやしない。本格的に頭痛薬が欲しくなってくると胸中で悪態をつく。

 そして頭痛薬代わりの酒も瓶を逆さに振っても落ちなくなった。事務所がおしゃかになった苛立ちと現状に対する不満に瓶をテーブルへ叩き付ける。

 

「らしくないな、ダッチ」

「荒れたくもなるさ、ベニー」

 

 諌めるベニーの言葉に冷静さを取り戻すが、事務所が返ってくるわけでもない。

 現実ってやつに唾を吐いてやりたいが、実態がある訳でもない。それに最悪吐いた唾を自分で踏むかもしれないリスクもある。だからこそ胸糞悪い現実の前では溜息しか出てこない。

 追加の酒でも頼むかと立ち上がりかけたダッチへロックが水を差す。

 

「ダッチ」

「まだ何か話したいってんなら構わないさ。だがとてもじゃないが素面じゃ聞いていられねぇ。酒を貰ってくるからちょっと」

「ダッチ、違う、違うんだ。駒が動いている」

 

 ロックの指摘に全員が一斉に盤上へと意識を向けた。

 指摘通りに駒が動いている。カバの駒がサイコロの出目に従い先へと進む。進んだ数は七。ラッキーセブンだと能天気に浮かれる馬鹿は四人の中にはいなかった。

 ただ全員が盤を真剣に見つめている。

 

「おいおい、こいつはどういうことだ。俺は振っちゃいねぇぞ」

「たぶん振動だ」

「どういうことだ」

「ダッチが瓶でテーブルを揺らした時にサイコロが転がったんだ。こいつ(ジュマンジ)はそれを振ったと認識したんだ」

「当たり屋だってもう少しは筋道を通しやがるぞ、くそが」

「僕たちや僕たちの周りがどうであろうと、こいつにはそれが正義ってだけの話なんだよ」

 

 いくら悪態をつこうがジュマンジは決して止まらない。絞首台を上る囚人みたいに規則正しくマスを進み、絞首台から落下する。暗示が浮かぶ。まだ二回しか見ていないというのに、すでに見たくないほど見た気がしていた。

 

  “雷ではない”

  “落ち着いていると”

  “大間違い”

 

 浮かんでいた文字が消えていく。幻覚でもみていたかのように、きれいさっぱり消え去っていく。

 文字が消えると同時に周囲を各々が見渡す。遠目からは明らかに不審な動きだが、他の客は酒を飲み騒いでいるため気が付かない。唯一違和感を覚えていたバオだけが気が付くが、話の内容は聞こえてこないために結局は何も分からなかった。

 周囲を見渡しても変化は何もない。それを確認したのか再び四人の顔が互いを向く。

 

「どうやら必要なのは頭痛薬ではなく精神安定剤だったようだな」

 

 ダッチがロックとベニーへ向かってそう言えば、二人も言いかえす言葉は無かった。本当に偶然だったのかとロックが視線をテーブルへ戻して、気が付いた。

 

「ダッチ」

「頼む、ロック。少し口をつぐんでくれ。いい加減与太話はうんざりだ。生産的な話へ切り替えようじゃないか」

「ダッチ、見る所が違ったんだ」

「ロック?」

 

 あまりにも真剣な声色にダッチがロックを呼ぶ。だがロックは視線をテーブルに固定したまま微動だにしなかった。

 

「もう起きているんだ、ダッチ。もう何かが始まっているんだよ」

 

 ロックの言葉が言い切られるまえにテーブルの上のグラスと瓶が独りでに落下して、甲高いガラス特有の破砕音を奏でた。

 他の三人も気が付き、すぐにテーブルへと視線を向けた。

 揺れている。残ったグラスが、ジュマンジが微かに振動していた。

 

「この感じ、見覚えあるぜ」

「奇遇だね、レヴィ。そりゃ僕もだ」

「発煙筒でも焚いて駆けまわるか?」

「仮設トイレに逃げ込むよりかはそっちの方がまだましだね」

 

 二人の軽口の間にも振動は徐々に大きくなっていく。他の客にも気が付く者が出始め、バオの背後の棚では同じように震えている数多くの酒が身投げを始めた。

 明らかな異常事態に、店内の喧騒が困惑のざわめきレベルまで落ち込む。するとどうだろう。聞こえてくるではないか。ごろごろと鳴る雷鳴のような音が。振動と同じく、大きくなっていくその()()が。

 

「店から出ろ、ダッチ、ロック!!」

「本当にあれなら冗談じゃない!」

「何だってんだ、二人して」

「ジョーズの次はジュラシックパークへのご招待だとよ、クソッタレ!」

 

 ジュマンジを抱えたベニーを追って、他の面々も外の車へ向かって走り出した。

 

「おいレヴィ! またお前らが何かしたのか!」

「うるせぇ、バオ! アタシらにも限度って物があるんだ! 何でもかんでも原因だと思うな!」

 

 背後からのバオの怒声にレヴィも噛み付き返す。だが一向に止まる事無くかけていくレヴィにバオも嫌な予感を覚えたのかショットガンを小脇に抱えた。

 だがそれに何の意味も無い。いつものようにどこかしらから銃弾が跳ぶのであればカウンターに仕込んだ鉄板で対処できた。だが今回はそんな小さな物が店へと飛び込んできたのではない。

 バオは聞く、背後の壁の悲鳴を。振り返った刹那、そいつらは現れた。

 象に、犀に、馬に、鳥に、猿にetc……と多種多様で数多の動物たちが壁をぶち破ってのご登場だ。サーカスであれば拍手喝采だがおあいにく様、ここはバーでカウンターの中だ。どう頑張っても悲鳴か怒声くらいしか上がらない。

 バオは目と鼻の先に現れた象の鼻に横合いから殴り飛ばされ、自分の店の壁に衝突した。

 

「ハリー、ハリー、ハリー!」

 

 背後へ振りかえっていたレヴィの悲鳴のような絶叫が三人の背中を叩く。

 慌ただしく、車に乗り込めばすぐさまエンジンが点火される。

 

「早く出せ! クレープの生地にされるぞ!」

 

 急発進する車の背後からショットガンの銃声が木霊する。どうにもバオは怒り心頭らしい。連続する銃声がそれを示しているが、残念かな、跳び出してくる獣の数に変わりは感じられない。

 

「ロック、お望みどおりの先の展開だ! どうするか考えが有ったらぜひ聞きたいね!」

 

 後部座席に向かって声を張り上げるダッチ。だがそれもそのはずだ。車を踏みつぶさんと獣の軍勢が後を追ってきているからだ。これで冷静な奴がいたら勘違い野郎か、死にたがりだけだ。

 バオの店から出た獣たちは大半が勝手気ままに散開して、そこいらじゅうで車をつぶし、出店を刎ね飛ばし、人を轢いていた。ジュラシックパークとの違いがあれば餌になるかならないかくらいのこと。

 レヴィが背後へ向かって鉛玉をぶち込んでいるが、追ってきている象や犀にはまるで痛手になっていなかった。

 

「ダッチ、デカブツ共が石頭過ぎる! これじゃあ中身まで届かない!」

「だったら行先は決まっている。そうだろ、ダッチ」

「ったく、可愛げのねぇ。代金はお前さんの給与から天引きだからな、ロック。精々値切れ。ベニー、教会へ向かえ」

 

 ダッチが自身の携帯電話を背後のロックへと投げ渡す。ロックも了承し、すぐさま電話を耳へと宛てた。

 レヴィも事態の推移を理解すると頭をひっこめ、無駄玉を消費することをやめた。幸い、速度に関しては僅かに車が勝っていた。この分であれば問題なく暴力教会までたどり着く。

 一応の危険が去ったとなれば意識にも余裕が出る。のど元過ぎればだ。狭い後部座席でごそごそと動き始めたレヴィにダッチが訝しんで視線を送ればジュマンジを広げているではないか。

 

「レヴィ、お前さん何をする気だ。その物騒なおもちゃをひっこめな。そいつは後で海にでも沈めるべきだ」

「ダッチ、そいつはもう遅い、遅すぎる」

「まだだ、分水嶺は超えていな──」

「──とっくに超えているよ、ダッチ。分かっているはずさ。ほら見なよ、あっちの通りを」

 

 十字路へ侵入する直前にレヴィが首を振って方向を指し示す。見覚えのある通り。全員が通りを奔り抜ける間の僅かな時間にそれを見た。事務所のある建物から漏れだした植物が、さらにその勢力を広げているのだ。また背後ではどこかで車が爆発したのか黒煙が所々で上がっている。

 

「動物は肉に変えちまえばいい。だがあれはどうする、除草剤でも撒いてみるか? 無意味だと私は思うね」

「だが……」

「覚悟を決めなよ、ダッチ。それにこれだけのことをやらかしてんだ。ケリをつけずに捨てたって映画の『マスク』みてぇに戻ってきちまうのが関の山さ」

「……確かに言う通りだ。全くもって最高だよ。どうやら俺は相当参っていたらしい。そういやそいつに書いてあったな。クリアをすれば全てが消えて元通りだと」

「ああ、書いてあるよ。先に上がれば勝ちだとよ。私らが死ぬか、上がるのが先か。勝負してやろうじゃないか、面白い」

「ああ、面白い。全くもって正気じゃない。正気じゃねェがそんなこと今に始まった話じゃない」

「それでこそさ、キャプテン。それじゃあさっさと済ましちまおうぜ。二日もこいつで遊びたくはねぇ」

「同感だ」

 

 レヴィがニヤリと笑い、サイコロを掴んだ。ダッチの同意を受け、サイコロを転がす。からんころんと音がなる。サイコロが止まり、駒が動き出す。示された物は。

 

 “夜に抱かれた 狩人たちが”

 “今宵はアナタを 抱きしめる”

 

 浮かび文字が消えていく。広げたジュマンジを閉じながらレヴィとダッチは周囲へ視線を走らせた。いつだって襲撃は文字が消えて少ししてから。僅かな時間がある。今までも先制をなんとか躱してきたが、どれ一つとってもまかり間違えば死んでいてもおかしくはなかった。

 

「ベニー、道を変えろ! 何でもいい、速く右へ曲がれ!」

 

 レヴィが再び社外へ身体を乗り出しながら叫び散らす。訳が分からないながらも、あまりにも鋭い声が猶予の無さを物語っていた。

 ほとんど速度を落とさず、カーブを始める。タイヤが地面を削りながら、タイヤ痕を焼き付ける。振れる車体の中にありながらレヴィは狙いたがわず弾丸を吐き出す。

 そしてそれと同時に、ケツを向けた建物の屋上からも弾丸の返礼が返ってきた。

 レヴィの牽制が屋上の壁を削り、相手の弾丸が地面とトランクの一部にめり込む。

 車の速度も相まって邂逅は一瞬。だが確かにレヴィは見た。幻覚でも、他人のそら似でもない。銀髪の双子を確かに見たのだ。

 

「あはは、逃げられてしまったね、姉様」

「ええ、残念だわ、兄様。仕方ないから追いかけましょう」

「そうだね、姉様。追いかけようか」

 

 離れていく車を見送りながら二つの小さな影が笑いあい、影を重ねる。

 まだ終わらない。まだまだ終わらない。ゲームは続き、ジュマンジは先を暗示する。ゴールにたどり着くその時まで。

 

 

 

「神は留守だがどうやら悪魔はご在宅だったらしい」

 

 銃声がなり止んだ直後、レヴィの第一声がソレだった。胸糞わるいと欠片も隠しはしない声色が見たモノに対する不快さをこれでもかと主張していた。

 

「レヴィ、何を見たんだ?」

 

 通話を終えたロックが、取引の内容をダッチへ告げてから問い掛けた。むかっ腹に任せて吐き出そうとして、レヴィが一瞬止まった。あの少女の死に際を見ていたロックを思い出したからだ。

 だがそれでもいづれ見ることになるのだ。そして今のロックはあの時のロックとは違う。四ツ目を助けてからのロックはずっとらしく(悪党に)なっていた。

 

「私の見間違いでなきゃ、姉御にファックされた双子だよ、ありゃ」

 

 簡潔な回答。ベニーが一瞬誰だったかと思い出そうと眉を顰め、ダッチが「ああ」と短く漏らし、ロックが顔を歪めた。

 

「レヴィ、でもそれは──」

「──ロック、お前が聞いて私が答えた。信じるも信じないもアンタ次第さ。ただ私は意見を変える気はない。鏡から引きづり出したみたいにそっくりで、銀髪の銃を振りまわすガキ二人だよ。私が見た物はそれが全部でそれだけだ」

 

 突きつけられた言葉にロックが押し黙った。誰も言葉を発さない沈黙が車内を満たす。

 

「レヴィ」

 

 ロックの呼びかけにレヴィの視線が向く。過去を思い出したことでまたロックが戻るのではないかと小さな不安が胸に灯る。

 

「自慰の為の感傷なら聞きたくないよ」

「違うさ、レヴィ。俺が頼みたいことはそんな事じゃない。そんな事じゃないんだ」

 

 夜の水面のように穏やかで、それでいて深い黒を湛えた瞳をしているロックが、レヴィの考えを否定する。考えなかったかといえば嘘である。過去の失敗を、今度こそあの少女を助けることはできないか。そんな甘美な幻想に一瞬は手を伸ばしたいと思った。

 だがそんな事出来るはずがない。世界はいつだって不条理で、奇跡なんてない。あるのは理不尽と、運だけだ。

 

「壊してくれ」

 

 だからロックは自分に出来ないからとレヴィに願う。どうしても許容できない不条理を砕いてくれと言葉にする。

 

「あの娘は死んだんだ。空を仰いで、海を眺めながら眠ったんだ。彼女の物語はもうずっと前に閉じられて、血で汚れた歯車の中から抜け出したんだ。そいつをこのジュマンジ(クソッタレ)が冒涜して血だまりに引き戻すというのならそいつは許せない、そいつだけは見過ごせない。だからレヴィ、お前が見た物を壊してくれ」

 

 自身の心配を杞憂だと蹴り飛ばされたレヴィが僅かに瞳を見開き、歯をむき出してシニカルに笑った。殺せではなく壊せと言うのがまた堪らなく愉快だった。自分の言葉を信じたうえで蘇った存在としてではなく、作られた存在だとロックは自分の中で答えを定めたのだ。

 

「オーケー、ロック。私が墓の下から二度と引っ張り出されないよう、寝かしつけてやるよ」

「そうかい……それなら安心だ」

 

 穏やかに返答をするとロックが窓から空を眺める。青く綺麗な空はあの時と何一つ変わりない。

 

 

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