魔装姫士アマネ   作:James6

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第一章『復讐を抱えた少女』
第一話『篠宮天音』


 どこまでも果てしなく広がる黒い世界。静けさが支配するようなそんな世界、そこに異形(・・)少女(・・)は居た。

 

 

「■■■■■■■■■ァ!!」

『大型ゴーレム、損傷率八割! 自己防衛本能による撤退行動を確認! 天音さん、追撃を!』

「了解」

 

 

 十五メートルを優に超える巨体を持った歪な見た目の魚が、まるで浮き出た影のような自らの巨躯から、その体を構成する『ネフィシュ』と呼ばれる粒子を撒き散らして逃げ惑う。それを、手足に黒い装甲を纏った少女が、脚装甲のブースターを吹かして追尾する。宙を、翔ける。

 

 恐ろしい見た目の存在が死から逃れんと逃げ惑い、武装していても可憐な姿に目の行く少女がそれを追い詰める。

 まるで昨今の深夜アニメのような光景が、宇宙には広がっていた。

 

 

『罠の可能性もあります。十分に気をつけて!』

「分かってる」

 

 

 2861年、人類は宇宙に居た。

『イーヘリオス』と呼ばれる宇宙に建造されたコロニー、新たな――とは言っても、元の文明を再現しているものではあるが――居住世界にて人々は安息を得ていた。

 

 そうなった理由は、もちろん存在する。

 

 

『■■■■■ァ!?』

「ゴーレム⋯⋯最期の一瞬まで殺すッ!!」

 

 

 突如として現れた未知なる敵性存在、人類の天敵足る“堕落の胎児”、『ゴーレム』の攻勢。彼らによって地球は半年で消滅した(・・・・)のだ。そうして、住める場所を失った人類は、宇宙への逃避行を余儀なくされたのである。

 

 ゴーレムとは、胎児の見た目をした直径十センチにも満たないナニカ。それらが現れてからしばらくの間、敵対宇宙生物やら、環境汚染の産物やら、机上にてゴーレムについての様々な憶測が飛び交ったが、そのどれもが確固とした論証を持つには至らず。

 ただ、彼らが人類にとってどれほどの害を齎すか。それだけしか分からなかった。

 

 

「はぁあっ!!」

『■■■!?』

 

 

 最初の三ヶ月で、人類の空戦戦力はほぼほぼ全滅。次の二ヶ月で、陸戦海戦戦力も再編不可能な程に蹴散らされた。残った一ヶ月の間、人類は種の延命、逃避行の為の足を造らんと、その時間を稼ぐ決死の最終決戦を繰り広げた。

 

 ゴーレムは、単体では大した力を持たない。しかし、彼らは人間を含むありとあらゆる物質へと付着することで、その存在を強制的に本来とは違うもの(・・・・)へと昇華させる。そして、己の手足へと変えるのだ。

 その存在の戦闘力は、総じて人類の持ち得る力では届かないほどに高い。それこそ、現存兵器は愚か核兵器すらゴーレムの前では無力であった。

 

 

「まだっ!」

 

 

 結果として、太刀打ちすることすらままならなかった人類は、必死で造った方舟に乗って地球を捨てたというわけである。

 

 

『■■■■■ァ!!』

「ゴーレム⋯⋯追い詰めたよ」

 

 

 しかし、人類とてただ逃げ落ちるだけの無力な生き物ではなかった。生きるものとして、背負うものがある存在として、無抵抗でいられるはずなどなかった。

 

『イエス』と、そう呼ばれる人工知能が地球には存在した。

 それは、人類調停者兼高度自動演算システム。まだ地球が存在していた頃に生み出され、以降、人類の助言者として、そして調停者として度々世界の情勢に介入し活躍してきた。イエスの命令及び判断は、人類にとっての最良手段であり、絶対のものとして遵守される。人類は、()に調律を委ねた。

 勿論、ゴーレムの侵攻という到底無視出来ぬ事柄に対しても、この機械仕掛けの神はその力を遺憾無く発揮した。

 

 

「これで⋯⋯ッ!!」

 

 

 西暦2071年。人類は、イエスが天敵(ゴーレム)の遺骸から生み出したコアとその道の職人達の叡智を結集させ、『メテルドレス』と呼ばれる高次元装束を生み出した。そして、それを人類守護の要としたのである。実に、逃避行の始まりである西暦2068年から三年後のことである。

 

 メテルドレスは、イエスによって人類に齎されたブラックボックスながらも基盤となるコアと、上半身及び下半身、武装によって構成された決戦兵器である。ネフィシュ適正を持ち得る十三歳から三十歳までの女性(・・・・・・・・・・・・・)のみにしか動かせないという制約はあるものの、その力は絶大であった。

 人類にとって、それは正しく救世主足り得た。

 

 

 

「終わりだぁっ!!!」

『■■■■■■■■■ァ!?』

 

 

 異形が、少女の刃を受けて爆散する。その身体を構成していたネフィシュが撒き散らされ、キラキラと宇宙を舞う。

 少女は、腰まで伸ばしたその黒髪を揺らして、それを見届ける。その瞳には、なんの感慨も無かった。いや、小さいながらも達成感のようなものが浮かんだが、それもすぐに消え去った。

 

 

『オペレート、終了します。お疲れ様でした。今日も絶好調でしたね!』

「⋯⋯ありがとう」

 

 

 

 人に仇なすゴーレムを、それぞれの思いを胸に討伐する。

 

 

 

 ―――それ(メテルドレス)を纏い戦う女性達を、人々は『魔装姫士』と呼んだ。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「今日から、私も魔装姫士⋯⋯」

 

 

 感慨深いものを胸に抱きながら、少女―――篠宮天音(しのみやあまね)は手元のカードを見つめた。腰まで伸ばした艶やかな黒髪と、クールさを印象付ける透き通るような青色の眼が特徴的なその少女は、巨大なビル、『魔装姫士統制局』――各イーヘリオス(フロンティア)に支部を置き、イエスが存在する特殊なフロンティア『エルフロンティア』が一つ『第一エルフロンティア』に本部を置く。魔装姫士の大元締め――の支部を後にして歩き出した。

 少女が歩み出したアスファルトの大地。イーヘリオスが一つである、此処『日本フロンティア』の季節は春。過去に存在した地球の島国、2010年代の日本とその周辺海域を完全に再現したこのフロンティアには、朗らかな春の風が吹き抜けていた。

 

 

「⋯⋯桑原重工に行くんだっけ」

 

 

 篠宮天音は、この春から東京有数の進学校に通い出した高校一年生だ。

 そして、高校進学と同時に魔装姫士としての免許『魔装姫士ライセンス』を取得し、晴れて新米魔装姫士となったエクィテス――世間一般では、魔装姫士をエクィテスと呼ぶ。実際の正式名称は魔装姫士であるが、エクィテスは大抵が魔装姫士本人を指すことが多い。――である。

 魔装姫士になることとは、メテルドレスひいてはそのコア、ネフィシュ操作への適性が存在することが前提条件となる。全世界の女性の0.01パーセントがこれを持ち、さらにその20パーセントが魔装姫士ライセンスを取得している。これ(ライセンス)があることで、メテルドレスを纏った上での対ゴーレム戦闘及び有事化での反社会的敵対存在(テロリスト)の対処、人命救助などを行うことが出来る。また働きに応じて、魔装姫士統制局から給料が支給される。魔装姫士の統制の他に、総数10000機しか存在しないメテルドレスの管理――コアを生み出すイエスがその総数を一万個で留めている為――や、各フロンティア(国家)間情勢の仲介及び仲裁を行う統制局は、今やイエスと並んで、この世界になくてはならない存在だ。

 

 

「私に専用機なんて⋯⋯なんでだろう」

 

 

 天音の中には、疑惑の念が広がっていた。

 彼女は魔装姫士になってから、まだ一日も経っていない。実戦経験すら持たない新米も新米。そんな彼女に、数少ないメテルドレスの専用機が割り当てられるというのだ。

 専用機、というのは簡単に言えばその個人用にチューニングされたメテルドレスを指す。本来、メテルドレスはその中核となるコアの絶対数の少なさを補う為に、シフト形式で魔装姫士達に割り当てられる。装甲と武装を転換することで、メテルドレスはその力の出し方を様々に変えるのだ。故に、この無茶なやり方が通る。そうでもしなくては、やりくり出来ないということでもあるのだが。

 閑話休題。

 彼女は、そんな実情に見合わず、専用機を与えられることとなった。それは破格の待遇と言えるだろう。

 しかし、それに対して困惑を抱くその内側でもう一つ、彼女はとある思いを抱いていた。

 

 

「お爺ちゃん⋯⋯この力があれば、奴ら(ゴーレム)に復讐⋯⋯出来るかな⋯⋯?」

 

 

 少女は、愛してやまなかった祖父の姿を脳裏に浮かべ、桜の舞う街道を再三歩み出した。その眼に、滾る怨嗟の炎を煌めかせて。

 

 

 ◇

 

 

 祖父の言葉は難しいものばかりだった。

 少なくとも、幼き頃の天音にとっての祖父とは、妙な事を言う厳しい人物という印象が強かった。

 だけれども、身寄りのない天涯孤独の身であった篠宮天音という少女にとっては、祖父という存在がこの上なく大きいものであったことは疑いようのない事実だろう。

 

 

「お前は、強く在れ。堂々たる様で天の音を、聞くのだ」

「天の、音?」

 

 

『天の音』

 篠宮天音の名前でもあるそれについて、彼女の祖父は度々口にして語っていた。

 その時の彼女には分からないものであったが、今の彼女には何となくわかる。

 

 

『天の音は、祖父を奪ったゴーレムへの復讐を望んでいる。囁きかけてくるのは、ゴーレムを殺すこと、ただそれだけ』

 

 

 だから、篠宮天音は魔装姫士となったのだ。

 天の音が示した、己の天命を果たすため。何より、大好きな祖父の仇を討つ為に(・・・・・・・・・・・・・)

 

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