「ここが、桑原重工⋯⋯」
少女、篠宮天音の目の前には、工場のような施設が併設された巨大なガラス張りのビルが聳えていた。
『桑原重工』
堅実な性能と確かな保証が売りのメテルドレス開発企業。
同じくメテルドレス開発企業であるスペリオル・インダストリー――此方はメテルドレス開発の他にも、様々な分野に着手している――とは、長年、第三世代メテルドレスのシェアを競い合っていたが、近年になり、第四世代機の開発に成功。技術面において、スペリオル・インダストリーを大きく離したことで知られる。
ちなみに、第四世代メテルドレスは、現行のメテルドレスの中でも最新鋭の機体の総称だ。第三世代メテルドレスが主力であったのも、今となっては過去の話となりつつある。その中で、第四世代の開発成功という功績は、競争激しいメテルドレス開発の界隈においてはとても大きいことなのである。
篠宮天音の知るところはここまでだ。なんでも、日本フロンティア政府に提出した雇用先推薦依頼に、この一大企業桑原重工が申し出たとの事だが、彼女にはどうしてそんな所から申し出が来たのか全く分からなかった。
だが、力が手に入るのであれば彼女はこの際なんだって良かった。
「やっぱり、皆忙しいんだろうな⋯⋯」
早速、自動ドアを抜けてエントランスに入ると、天音は自動ドアの向かいにあるカウンターを目指す。
辺りを見回せば、私服の人間は全く居ない。全員がスーツに身を包み、忙しなく動いている。手紙には私服で構わないと書いてあったが、場違い感が凄い。せめて制服で来ればよかったと天音は後悔した。しかし、後悔しても今更帰るなんてありえない。気持ちを切り替える。
何やらカウンターでペンを片手に作業をしていた女性は、天音の気配に反応して顔を上げた。
「エクィテス、篠宮天音です。今日、こちらで機体の受領があるのですが⋯⋯」
「篠宮天音様ですね。お話は伺っております。こちらの来賓用のIDを首から下げて、あちらの方へどうぞ」
IDカードを受け取り首からかける。天音は、一言礼を述べると指された方へと歩き出した。
▽
しばらく歩くと、雰囲気が変わった。
先程までの社会人の場所的な感じは跡形もなくなり、研究所と作業場に似た雰囲気を併せ持った、様々な機械類が並ぶ区画に入る。白衣を着た人間達が慌ただしく動き回っていた。そのどれも、中心にあったのはわかりやすく装甲そのもの。手足に似た形をしていたり、どんな用途に使うのか分からなかったりするが、訓練で己が使ったモノにどことなく似ていた。
メテルドレスを研究開発するエリア、なのだろう。当たりをつけた天音は滅多に見れるものではないと、少しばかりの興味を抱いて観察する。
「⋯⋯やっぱり、頭が良くなきゃこんな仕事出来ないだろうなぁ」
天音自身、頭が悪いというわけではない。これでも、東京の中で上位に位置する偏差値を持つ高校に入れる程度には勉強も出来る。だが、今、この現場を見ればそんな生易しいものでは無いと実感することだろう。少なくとも、天音からすれば子供の自分では全くの未知の世界にしか見えないという感想を抱くのは当たり前であった。恐らく、数年もここにいれば大体わかるようになるのだろうが、天音はメテルドレスに関わるようになってからまだ一ヶ月近くしか経っていない。
無知なことへの苛立ちと、妙な疎外感を覚えながら、天音は手紙に記載してあった『十三番研究室』を目指して、ワックス掛けされた床を鳴らして歩いた。
きっと、そこにいる人達も、自分の生きる世界からは掛け離れたような人達なんだろう。そんな予想を抱いて。
「篠宮天音様、よく来てくださいました。ワタクシ、感激です」
「⋯⋯はぁ⋯⋯?」
そうして天音は、辿り着いたそこで待ち構えていた白衣姿の男性を見て、正確には彼の対応を見て戸惑いを隠せないでいた。
今時珍しい瓶底メガネをかけ、白衣をオイルに汚したその男は、天音のそんな様子などお構い無しに話し続ける。その後ろで、やれやれと言った仕草でため息を吐く白衣の女性の姿が。
「おっと、申し遅れました。ハイ、ワタクシ、十三番研究室主任の
「私は
「⋯⋯はぁ⋯⋯」
今度こそわけが分からなくなり、天音はしっかりとしていそうな雰囲気の赤坂未子と名乗った茶髪の女性に話し掛ける。
「あの、私は篠宮天音って言いま「知ってますよ! 勿論! なんと言っても、このワタクシが社長に直談判したんですからねぇっ!」⋯⋯直談判?」
「回ってきた貴女の資料を見て、この人が全力で頼み込みに行ったの。社長、だいぶ引いてたわよ」
割り込んできた西園の言葉に、しかし天音は内心で驚く。
なるほど。この奇天烈な人物が、自分を雇うように上に掛け合ったらしい。複雑な気持ちだが、それでも多少の恩はあるため飲み込んでおくことにした。まさか、自分を推した人物がこのような人間であるとは考えもしなかった。とはいえ、別に嫌だったりするわけでもなし。ただ、驚いただけだ。
そこで、天音はあることに気が付き未子に問い掛ける。
「あの、ここって二人だけなんですか?」
「そうよ。私とこの人、二人だけの研究室。ま、私もこの人も腕はそれなりだから心配しなくて大丈夫」
道中の他の研究室には、少なくとも十人以上は詰めていた。それに対して、ここはこの二人以外の人影が見受けられなかったのだ。しかし、二人とも腕に自信はあるらしい。でなければ、自分を雇うように社長に直談判して、それを通すなんて出来ないだろう。納得した天音は、研究室を見回した。
やけに生活感に溢れていることを除けば、資料が貼られ、何かの機械が点滅している一般的に思い浮かべるような研究室そのものだ。何か、少女がポージングをしているフィギュアが飾ってあったり、ロボットらしきもののプラモデルが飾ってあったりするが、自分が知らないだけで案外普通のことなのかもしれない。
「じゃ、早速、篠宮天音様の専用機をですね。お見せしたいと思いますよ、ハイ」
「じゃ、これに着替えたら隣の部屋に来てね」
「分かりました」
言って、ドアから先に隣の部屋に向かった二人を見送り、未子から手渡された桑原重工のロゴの入ったスーツを一瞥する。
「⋯⋯専用スーツのぴっちりした感じ、苦手なんだけど⋯⋯どうにかならないかな⋯⋯」
年相応の少女らしいことを宣いながら、天音は着替え始めるのであった。
▽
着替え終わった天音が隣の部屋に赴くと、そこにはコードの繋がれた何かが、ブルーシートに覆われた状態で置かれていた。
西園も未子も、パソコンや機器類を操作して何やら確認をしているらしい。
すると、天音が来たことに気が付いた西園が手を振って、近くに来るように誘導する。
「やっと来ましたねぇ。それじゃあ、ご対面と行きましょうか!」
まるで子供のようにはしゃぐようにしながら、西園はブルーシートに覆われた何かの元に駆け寄り、そのシートの端を掴む。
そして、天音の方をチラリと確認すると心底楽しそうに笑って、ブルーシートを勢い良く引き剥がした。
「運命のご対面っ! ハイ、ジャジャーンっ!」
「⋯⋯!」
現れたのは、
天音は、その姿に息を飲んだ。
その姿は、あまりにも、あまりにも彼女にとって衝撃的だったのだ。
何故なら、その機体は、過去に自分を助けた魔装姫士が纏っていたそれと同じ見た目をしていたから。祖父が死んだあの日に、目の前でゴーレムを完膚無きまでに殺し尽くした正義の騎士だったのだから。
「こちら、桑原重工が誇る第三世代機、チャリオッツでございます!」
「チャリオッツ⋯⋯」
あの日の機体と同じ型であっただけだとしても、天音からすれば、それが己の専用機となるのは運命だとしか思えなかった。
「本当なら、第四世代機を渡したかったんだけどね。そんな好待遇は難しいって社長がね」
「ですが、貴女の活動次第では第四世代機を渡すのも吝かではないと申しておりましたし、ワタクシ共も、
「⋯⋯いえ、ありがとうございます」
もっと強い力を得られるということ自体に異論は無いし、問題も無い。無いのだが、今はこの運命の巡り合わせに浸っていたかった。
引き寄せられるかのように、目の前の騎士に触れようと手を伸ばしたその時である。
研究室内に警報が鳴り響いた。
「⋯⋯ッ!?」
「ゴーレム、ですねぇ」
「タイミング良いんだか、悪いんだか」
驚いて手を引っ込めた天音は、二人の言葉から、ゴーレムが現れたことを察すると、その眼を鋭くした。
憎き敵と、目の前にある自分の力。気持ちが逸った。
その様子を見て、西園が何かを思い出したかのように口を開く。
「赤坂くん、赤坂くん」
「なんですか、主任⋯⋯ああ、そういうことですか」
「確か、今日うちに詰めてるのって篠宮天音様と第四世代の娘の二人だけでしたよねぇ。上に頼めないですかねぇ?」
「⋯⋯分かりました。上に相談してみます。主任はいつでも出せるように準備しておいてください」
「了解っ! お任せくださいなぁ!」
また慌ただしくなった研究室内で、天音は二人の動向を見守っていた。
▽
場所は変わって、ガレージ。いくつかのメテルドレスが立ち並ぶ中で、天音は騎士鎧のようなメテルドレス――チャリオッツを纏って立っていた。
周りには、桑原重工のロゴが入ったつなぎを来てキャップを被った作業員たちが、多忙極まりないといった風に作業をしていた。
様子を伺いながら、チャリオッツの装甲に包まれた指先を開閉していると、未子が天音に話し掛けてくる。如何にも、緊張している感じの少女を心配してのことだろうか。
「まさか、担当出撃許可が下りるだなんて思ってもみなかったわ」
「⋯⋯ありがとうございます」
「気にしないで。経験は沢山しておいて損は無いし、実戦データもいくらあっても得しかないから」
「そうですとも。幸いなことに市街地からも遠いところでしたから、急なお願いでも通りましたのでねぇ、僥倖ですよぉ」
実際、一刻の猶予も無ければ天音が出ることは叶わなかっただろう。その時は、天音も引き下がっていた。ゴーレムを殲滅したいとは思うが、不必要に人が死ぬことは絶対に嫌なのだ。教官に言ったら甘いと叱られそうだな、なんて思いながら天音は気を引き締める。
「さてさて。準備も出来たようですし? お覚悟出来たら出発してくださいませ」
「初陣なんだし、ちょっと緊張しているくらいがちょうど良いわよ。頑張ってね」
「分かりました」
一言、軽く言って意識を集中させる。
己とメテルドレスの
「篠宮天音、チャリオッツ、行きますッ!」
開け放たれたガレージの扉から、天音は勢い良く大空へと飛び立った。
▽
『今回のオペレートは、私が務めるわ。次までには担当が決まるでしょうけど、よろしくね』
「はい、未子さん」
耳に付けたインカムから聞こえる未子の音声誘導に従いながら、天音はゴーレムがいるそちらの方へとブースターを吹かしながら突き進む。
メテルドレスは、飛行時の負荷軽減や宇宙空間での魔装姫士の安全の為に、薄い透明なネフィシュの膜で魔装姫士を覆う機能がある。これによって、どれだけのスピードを出そうとも、魔装姫士はGで死ぬことが無い。とはいえ、最新式のスピード特化型などなら従来のネフィシュ膜では心許ないし、ネフィシュ供給機関であるコアのネフィシュが尽きれば膜を張ることも出来ず、魔装姫士は為す術なくゴーレムに殺されるだろう。余程の高エネルギー喰らいでなければ尽きることなど早々無いが。
『周囲の民間人の被害は無し。避難ももう既に終わっているわ。やりたいようにやっちゃいなさい』
「了解です」
これ以上ない好条件である。初陣だが人の命がかかる戦闘だ。であるにも関わらず民間人の被害を気にすることなく戦えるというのは、どれだけ新人にとって安心感があるのか、言うまでもないだろう。
絶対に倒す。そんな決意を固めて、天音はより一層のスピードを出した。
『もう少しでゴーレムと会敵するわ。準備は良いわね?』
「⋯⋯大丈夫です」
天音は、背中にマウントした盾と剣、両手で携えたアサルトライフルを感触のみで確かめて、すぐさま意識を前方に切り替える。
木々を薙ぎ倒し土煙を上げながら、ナニカが森をひたすらに突き進んでいた。
形状は全長十メートル弱はあるだろう大きさの猪だ。しかし、その頭部には鹿のような角も生えている。
「⋯⋯ゴーレム⋯⋯ッ!!」
『■■■■■■■ィィィ!!』
『天音ちゃん、気を付けて! 来るわよ!』
彼我の距離が数十メートル程度離れた地面に立って、ゴーレムを見据える。その息遣い、地を踏み鳴らす音が、遠く離れていても鮮明に聞こえた。
仮装訓練の時とは比べ物にならない、実物と相対したことでの緊迫感。初めてではないが、こうして戦える力を持ったことで、再度明確に理解出来る。
―――なるほど、これは簡単に死ぬ。
この世界では、死と隣り合わせなど当たり前だ。教官はそう言っていたが、確かに力を持っていても、これが相手なら油断ひとつで容易く死ねるだろう。
魔装姫士は絶対数が少ない。齢三十にして、魔装姫士はネフィシュ適正を失う。それは、誰一人として例外などない。だが、それ以上にそこまで生きていられる魔装姫士自体が少ないのだ。面接官や教官にも言われたことではあるが、それまで生きていられるなら、それは多分に幸せなことなのだろう。
「⋯⋯っ!」
『■■■■ゥゥウ!!』
ならば先手必勝。この理は戦いの中でこそ最大にその言葉の意味を披露する。
引き金に手をかけて、照準を合わせる。ゴーレムはその見た目通りに凄まじい速度で突進してくる。
「はぁッ!!」
銃口から吐き出された実体弾丸が、ゴーレムの身体へと吸い込まれていく。
ゴーレムには、凡そ元となった生物や物質がある。しかし、それらは習性や特質などを引き継ぎはするものの、構造は全くの別物へと変質しているのだ。
『■■■■ォォオ!』
「弾かれ⋯⋯ッ!?」
弾丸は、その肌を貫通することなく全て弾かれた。
こういう手合いには近距離戦が有効だ。天音は、習ったマニュアル通りにアサルトライフルを放り捨て、背中の盾と剣を構える。
「はぁぁあ!!」
『■■■■ィッ!?』
ブーストしながらゴーレムへと突っ込み、意表を突く形でその右前脚を切り付ける。
ゴーレムはバランスを崩しながら転がるように木々に激突した。切り付けた場所は、致命傷ではないが決して軽いものでもない。証拠に、彼らの体の全てを構成する要素であるネフィシュが、そこから漏れ出ている。
『良い感じよ。油断しないでそのまま倒しちゃいなさい』
「分かってます⋯⋯!」
ゴーレムは、バランスを崩して立ち上がるのに苦戦している。今のうちなら、首を刎ねることも容易だろう。
通常、ゴーレムには元となった存在と同じ部位に同じように弱点が存在するのだ。あれが猪のゴーレムであれば、首を切り捨ててしまえば活動を停止する。
「死ねぇ!!」
天音は出力を全開まで引き上げてゴーレムへと迫る。そこでやっとゴーレムも立ち上がり、天音の方を確認する。
だが、もう遅い。
凄まじい速度に怖気付くことなく、少女はゴーレムのすぐ真横に飛び込み、剣を振り下ろした。容赦なく、全霊をもって。
―――
『■■■■■■ィィィイ!!』
「えっ⋯⋯?」
何か直感のようなモノ。気が付いた時には、ゴーレムと目が合っていた。
全身に走る衝撃。
視界が二転三転し、何かに打ち付けられたような最後の衝撃。痛みが少女を襲う。
「か⋯⋯はっ⋯⋯!?」
『天音ちゃんっ!? 撤退しなさい!』
天音のダメージに、これ以上の戦闘は不可能だと断じた未子は撤退を命じる。
しかし、それをわざわざ逃がす程、ゴーレムも甘くなかった。
見ればゴーレムは、少女の油断を突いたその頭部の角で以て、今度こそ天音を葬らんと少女を見据えていた。
『■■■■■■ォォォオ!!』
「⋯⋯くっ⋯⋯!?」
万事休す。ゴーレムは少女を轢き殺す勢いで突き進む。
―――死んだ。
そんな諦めの念が少女を襲う。恐怖に反射的に目を瞑る。
ゴーレムの巨躯が今まさに少女を殺さんとしたその時―――
『■■■ァ!?』
「ああ、もう。新人ちゃん、最後まで諦めないの」
「⋯⋯へ?」
何かによる攻撃を喰らい怯んだゴーレムの悲鳴。次いで未子でも天音でもない、第三者の声がその場に聞こえた。
恐る恐る閉じていた眼を開く。
まず目に入ったのは、蒼白いカラーリングの装甲。所々の塗装が剥げているが、それは長年の使用から来るものだろう。つまりは、歴戦の姫士。
その纏い手である豊かな体付きをした魔装姫士は、黒髪を揺らしながら同色の眼で天音を一瞥した。
「じゃ、ささっと倒しちゃうから、待ってなさい」
「は⋯⋯い⋯⋯」
『■■■■ィィイ!!』
新たな敵の出現に、ゴーレムは怒りを露わにする。それは、己を軽々しく倒すと宣言した女への怒りか、それとも後一歩で敵を殺し損ねたことへの憤りか。
彷徨を浴びながら、臆すことなく女は愛銃のマシンカービンを構える。
「⋯⋯ふうん⋯⋯新人にしてはやるものね。油断しちゃった感じかしら」
『■■ォオ!』
「ちょっと、五月蝿いわよ」
女目がけて突進を敢行するゴーレムは、怒りで何も考えてはいないのだろう。女はふっと笑みを零すと、ブースターを吹かして右に重心を傾けながら移動する。
そして、ゴーレムの横に回り込むと、再度ブースターを噴射して突撃する。その左手には妙な
『■■■ォォオ!?』
「ほら、これでも喰らいなさい⋯⋯!」
女がゴーレムの至近距離に到達すると、突き出されたその盾はすぐさま真価を発揮した。
妙な突起がゴーレムの硬い表皮を突き破る。それは、
そして、突き破ることで穴の空いた部位へと、クローが突き刺さったままにマシンカービンの銃口を突き刺す。
「これで、終わりよ」
『■■■■■■ァァァァァァア!!?』
体内に銃弾を浴びせかけられたことで、ダメージが限界を超過して蓄積されたゴーレムは爆発四散する。
後に残ったのは、飛び散る粒子と無残にも荒れ果てた森。そして、二人の魔装姫士。
ゴーレムが殲滅された。憎き怨敵が死んだという安心感と、己の手で倒す事は愚か、戦闘不能にまで追い込まれた事実に歯噛みをする。
『天音ちゃん、大丈夫?』
「⋯⋯大丈、夫です⋯⋯」
『一人で帰って来られる?』
「は、い⋯⋯」
多分無理だ。今にも痛みで気を失いそうであった。しかし、油断したせいでゴーレムを倒せなかった悔しさが、まだ幼い天音に意地を張らせた。
「⋯⋯⋯⋯」
「新人ちゃん? 新人ちゃん、大丈夫かしら? ああ、意識無いわね、これ」
未だキラキラと夕陽を受けて煌めき飛散する粒子を見て、そしてゴーレムを倒した己の恩人とでも呼ぶべき女がこちらに近寄ってくるのを微かに感じ取りながら、天音は到頭意識を保てなくなる。
気を失う間際に見たのは、慌てる女性の姿であった。
よろしければ感想、待ってます。