蠍の尻尾   作:深波 月夜

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 翌々日の放課後。俺達三人は学校最寄の、駅前のハンバーガーショップにいた。

 やはりと言うべきか、日野と花道の神姫も、強盗神姫を捕らえるというマスターの提案に反対はしなかったらしい。それを受けて、参加する神姫も含めて作戦会議を持つことになった。本来なら神姫の持ち込みは校則で禁じられているが、それぞれの鞄の中でケースに収められ、放課後まで待ってもらった。窮屈な思いをさせたが、早ければこの週末には事件は起こるのだ。それに間に合わせるためには急がねばならない。

 注文もそこそこに、俺達は店の奥の、空いているテーブル席に陣取った。席には俺と日野、花道の三人。テーブルの上にはそれぞれシャウとアル、イーダ型のリリィ、アーク型の梅夜と飛鳥型の白雪が並んでいる。

「で、具体的にはどうするんよ」 

 向い合わせのテーブル席で、花道が尋ねる。作戦の立案は任せてある、とでも言いたげだ。

「まずは、役割分担だな。理由は分からないけど、強盗神姫は郵便ポストの傍で事件を起こしている。ここまではいいな?」

 二人と神姫達がうなずく。本当のところは、それも分からない。だが、現場の写真から見て取れた共通項として、偶然と考えるのは不自然だ。今回は、郵便ポストの近くという仮定の上に立っている。それは本来ならば危険なことではあるのだが、十の内の七つである。もし仮定が外れていても、俺達の行動が空振りで終わるだけだし、そもそも強盗神姫が本当に現れるかどうかさえ確定ではないのだ。

「俺達がやらなきゃならないことは大きく三つ。まずは相手を見つけることだが、これは俺達がそれぞれに別れて探すしかない。主に事件が起きてるY駅の西側を中心に、郵便ポストのある辺りをしらみ潰しにする」

「つってもよー、いくら三人それぞれに探すとしたって、範囲は結構広いぜ。徒歩で見回りするのはキツくねーか?」

「いや、Y駅では市が観光客向けにレンタサイクルを貸し出している。今回はそれを使おうと思う」

 探す側の数が増やせない以上、機動力で補うしかない。自転車ならば小回りも利くし、降りて置いていくのも簡単だ。

「続けるぞ。ふたつ目は、見つけたら速やかに警察に連絡することだ。これはとにかく連絡を密にして、見つけた奴が足止め担当、残る二グループが現場に向かいつつ通報、って形を取るのがベストかと思う」

 警察も無能ではない。今回の件では、該当地区の巡回強化はしているだろう。俺が巻き込まれたときだって、あと五分足止め出来ていれば、榊刑事が来てくれたことになるのだ。そこまで都合よくはいかないだろうが、通報出来れば数分で警官が駆けつける体制は出来ているだろう。

「三つ目は逃がさないこと。理想としては取り押さえることなんだが、無理をする必要はない。今回の目的は強盗神姫を警察に引き渡すことだからな」

 これは普段のバトルロンドと違い、互いの条件が異なるためだ。相手はその場から逃走しなければならないが、俺達はそうではない。極端に言ってしまえば俺達は負けてもいいのだ。足の片方も破壊して、その場から逃げられなくしてしまえばあとは警察に任せることが出来る。もっと言えば手がかりになる証拠を確保しさえすれば、逃げられたって構わない。

「まあ作戦と言っても、そんなに細かいことはないね。逃がさないように気をつけるだけで、後は時間を稼ぐだけだっていいんでしょ?」

「日野の言う通りだ。後は全員の携帯のGPS機能を使って、お互いに位置を確認出来るようにすることと、発見したらすぐ他のメンバーに連絡を入れることを徹底するくらいだな」

 本音を言えば、強盗神姫に遭遇するのは俺がいい。日野の神姫はイーダ型のリリィだけで、強盗神姫と一対一で向かい合う必要が出てくるし、花道は熱くなると他に目が行かなくなる可能性がある。何より、二人の神姫は公式戦を控えているのだ。幾ら時間を稼ぐだけでもいいとは言え、余計なリスクは背負わせたくない。

「とりあえずこんなところだけど、何か質問はあるか?」

「そうですわね、相手の神姫の装備や動きなどを教えてもらえますかしら」

 手を上げたのは日野の神姫、リリィだ。

「俺が見た限りではストラーフのレッグパーツとナイフ以外は、ヘッドバイザーくらいだったな。動きに関しては正直、よく分からない。ただ、逃げるときの跳躍力はかなりのものだったから、いざ戦闘となったときも立体的に動いてくるんじゃないか、って程度だ」

「ほとんど何も分からないのと同じですわね。人目を避ける以上、相手はあまり大きな火器は使わないでしょうし」

 まったくその通りだ。正直な話、実際に見たと言っても相手と戦ったとは言えない。相手としては逃げることを優先するだろうし、激しい戦闘にはならないということも充分考えられる。

「相手の神姫をよォ、ブッ壊しちまっちゃあマズいんだろう?」

花道の神姫、梅夜だ。

「そうだ。犯人を探すための証拠として警察に引き渡さなきゃならないし、そこまでやる必要はない。それに、もし戦闘になったとしても自分達の安全を守ることを最優先させてほしい」

「まだるっこしいな。ブッ壊してメモリだけ引っこ抜くんじゃダメなのかい?」

「さっきも言ったが、今回の目的は警察に証拠として引き渡すことだ。無理に破壊しなくてもいい。それだけリスクが上がるからな。それと、これは俺の考えだが、俺は出来たら強盗神姫を止めるだけじゃなく、救ってやりたいと思ってる。その意味でも、破壊は避けてほしい。もっとも、これは俺の考えだから賛成出来ないんなら、強制はしないが」

「へっ、ウチのアニキも甘っちょろいが、輪をかけて甘ちゃんかよ」

「梅夜」

 花道が梅夜を睨み付ける。口ではそんなことを言うが、花道は俺の考えに賛成のはずだ。梅夜もそこはわきまえているだろう。

 第一、神姫の武装でコアや頭部などの基幹部分を破壊するのは困難だ。バトルロンドはあくまでもホビーの範疇で、見た目の派手さと較べると破壊力はない。特に神姫の『命』に関わる部分は堅牢に作られていて、リアルバトルでも神姫がロストする事態はほとんどなくなっているはずだ。

 その一方で、俺の目的を達成するためには、神姫を取り押さえて、確保する必要がある。警察が取り押さえてもいいが、強盗神姫自身を救うためには、いわば警察に恩を売る必要が出てくるのだ。単に協力をしただけでなく、出来れば実際に犯行に使われた神姫を取り押さえたという実績がほしい。が、それは俺の心の中にしまっておく。出来たら、俺の個人的な思いで、仲間の神姫にまで余計なリスクを負わせたくはない。

「一般の方が、巻き込まれた場合は?」

 シャウが手を上げる。

「まずはその人の安全確保かな。とは言っても最終的にはそれぞれで臨機応変に動くしかないが」

 これはマスター達の側で考えておくべきことだ。そもそもどういう状況で相手を発見出来るかがまったく分からない。見つけたときには既に他の人が襲われていることだって考えられるのだ。

「私達は二人ペアですから、一人が相手をしてもう一人が避難誘導したらいいですね」

「そうだな」

「そうすると俺だけはそういう状況に遭ったらちょっと面倒か……」

「お前ん所は飛べる装備もねーからな。いいんじゃねーか、日野が見つけた場合は足止め専門、そうでなかったら通報係、ってことで」

 それでいいかも知れない。日野は直情傾向の花道と違って、クレバーな戦い方を好む。リスクを排除して足止めに徹するとなれば、それなりの戦い方をするだろう。

 

 その後は、個別の動きを確認する流れになった。白雪と梅夜は自分達の連携について話し、リリィは日野と細かな動きのパターンを打ち合わせている。その傍らで俺は地図を広げ、三人分の役割分担を書き込む。当日はこの地図が命だ。今までの事件が起きた場所も同時に書き込んでいく。

 作業と打ち合わせは三時間にも及び、終わったときには全員がそれなりに疲労を覚えていた。が、これはまだ準備作業に過ぎない。実際の戦いは、これから始まるのだ。

 そして日曜日。作戦の日がやってきた。

 

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