主砲のビームが空を薙ぐ。足を大きく左右に振って、それにバーニアを合わせる。光の筋が体を掠めるように通り過ぎて行く。
『その調子だ。ウィトゥルースの粒子砲は取り回しは良くないけど威力は高い。直撃はもらわないように注意して』
「承知!」
元々ウィトゥルースの粒子砲は対空攻撃には不向きだ。加速。一息に相手との距離が縮んでいく。接近を嫌って、ラピッドランチャーとルインM21が弾幕を形成する。が、鬼姫とジュダイクスを盾に、火線を突っ切る。時折飛んでくるインフェルノキャノンにだけ注意を払えばいい。
「こっちに来ないでくださーい!」
相手の声は悲鳴にも似た響きだ。が、構わず一気に飛び込んでいく。手を伸ばせば、そこはもう私の間合いだ。薙ぎ払うように鬼姫を振るえば、インフェルノキャノンは火を吹いて爆発する。その爆風に乗って、急上昇。すぐにループして、接敵する。二刀を揃えて、上段から振り下ろす。その一撃で、勝負はついた。
『1P シャウラ WIN』
バーチャルの空に、勝者として私の名前が表示された。
よく晴れた空に、桜の花びらが散っている。夕日を受けた花びらは、赤い光を放っているように見えた。
あの事件から四ヶ月。季節は春になっていた。が、年度が変わっても俺達の生活に大きな変化はない。強いて言うなら、一応受験を控えた身として、勉強に充てる時間が増えたことと、榊刑事から譲り受けたストラーフをサブ神姫として鍛える時間が増えたこと、くらいだろうか。勿論、シャウの鍛練も欠かしていない。今日のウィトゥルース戦も見事だった。
「相手に恵まれましたね。重砲撃装備の神姫には、やはり電撃的に勝負をかけた方がいい」
「まあ、接近戦になれば砲撃装備は重りにしかならないからね。それにしたってここのところ、勝率が良くなってるよ」
「こんなところで歩みを止めるわけにはいきませんから」
なんとも真面目なことだ。まあ気持ちは分かる。このところ勝ち星を稼いだお陰で、そろそろひとつ上のセカンドリーグへの挑戦権が得られそうなのだ。セカンドリーグの真ん中辺りまでいくと、花道や日野と肩を並べるくらいだと自惚れられる。もっとも、セカンドリーグに上がればそこは今まで以上にバトルに様々なものを賭けたプレイヤー達がいる。そう簡単には勝ち進めないだろう。
「ご主人ー、そろそろ自分もデビュー、ってわけにはいかないッスかねー……」
「メサルティム、貴女は私から一本取るまでデビューはしない、と自分から言ったのではありませんか」
「うう……そうなんスけど、このままじゃ姉さんにどんどん離されていく気しかしないッス……」
鞄の中からミーシャが這い出してきて話に加わる。
あの事件の後俺のところに来ることになったストラーフ型には、メサルティムと名づけた。バトルにも強い興味を持ってはいるのだが、起動早々に自らが姉と慕うシャウに対して「トレーニングで一本取って、自分の強さを見てもらってからデビューするッス!」と豪語し、以来シャウに負け続けて今に至る。
「そんなこと言ってもなあ。ミーシャは飛行タイプの相手にも当てられるようにならないと、結局キツくなると思うよ?」
「ううう……自分、そういう細かいのは苦手ッス……もっと! ズドーンといって! バーンと当てて! ドカーンとやっつけるのが好みッス!」
「その、当てることが出来なくて、一本が取れないのではありませんか」
「……返す言葉もねッス」
ミーシャはしゅんとうなだれる。ミーシャは一応ハンドガンも持ってはいるが、それはあくまで間合いの調節のためのサブ兵装であり、相手を倒し切るためのものではない。主力はあくまでもチーグルサブアームで扱うジレーザロケットハンマーとモーニングスターだ。もう少し立体的に戦う術を持たなければ、先に進むのは難しいだろう。そうは言っても、正直なところ、デビューした頃のシャウよりは今のミーシャの方が強いだろうと思ってはいるが、それは黙っておくことにする。
「早く私から一本取れるように精進するのですね」
そう言って澄ました顔をするシャウに苦笑する。ミーシャに対してはどこまでもお姉さんを気取るつもりらしい。
「姉さんはすぐセカンドリーグに上がるつもりッスか?」
「そうですね。可能な限り早く上に挑戦したくはありますが……主の準備の方が間に合えば、ですね」
「まあ、そうだね。今のペースだと順調なら五月の大会あたりで昇格出来るかな。その頃ならまだ余裕は作れるはずだし」
サードリーグはほぼすべての公式試合がバーチャルで行われている。準備と言ってもするべきことは日々のパフォーマンスを維持するくらいのことで、特別にするべきことは何もない。それくらいならば受験勉強の合間を縫って羽を伸ばすことも出来るだろう。
「……姉さん、帰ったらすぐ、一本お願いするッス。このままじゃどんどん離されていく気しかしないッス」
「そんな平常心を欠いた心地で挑んで、一本取れるつもりでいるのですか。まあ、稽古は受けて立ちますが」
『Winner 1P』
「また負けたッス……」
「またやってるっすかー。よくやるっすなー、本当にー」
頭を垂れるミーシャを茶化すように、アルが声をかけている。あれで本人は慰めているつもりだそうだから、声をかけられる方はたまらないだろうと思う。
「それでも良くなってはきていますよ。途中の打ち合いでは小さく素早く立ち回ることが出来ていましたし、跳躍や壁蹴りで立体的に動くことも出来ていました。もっとも、勝負を動かそうという気持ちが入ると大振りになって、攻め手が単調になるところはまだまだ課題ですけれど」
シャウの評価は的確だ。シャウ自身、自分のバトルが終わるとこうやって課題の評価を欠かさなかったためでもあるが、こうやって指導する側に回っても適役だ。もっとも、実戦中はどう見ても鬼教官のそれなのだが。
「後は立体的に動くときには充分に気をつけないと。空中では姿勢や勢いを変えることが出来ないから、逆にそこを突かれると簡単に逆転されちゃうからね。特に飛行型を相手にするときはそこを注意かな」
「ボクみたいに、遠距離武装をガッツリ積んで、ってわけにはいかない?」
「まあ、本人の適正や好みもあるからなあ。ミーシャはストラーフだから、射撃武器にも適正がないとは思わないけど」
ミーシャの好みはどう見ても一発の威力がある大技系だ。サブアームによる格闘戦も出来なくはないが、訓練している技はプロレス系。この間は訓練でネイキッド相手にジャーマンスープレックスを決めていた。
「だって、一撃でドカーン! ってやる方がキモチイイじゃないッスか……」
ストラーフの特徴はパワーだ。一番古い型でありながら、素体状態でのパワー比べなら最新型に至るまでのどの神姫と較べても遜色はない。そのパワーを最大限に活かす方法として、その論は間違いではないが、如何せん大味なのだ。一撃の攻撃力に懸けるなら、それ以上にその一撃を当てるための方策が大切になる。
「そういえばミーシャ、明日は毎月の定期メンテの日だよ」
「うーッス……ご主人、定期メンテってこんな頻繁にやるものなんスか? ひと月に一度って、結構な頻度だと思うんスけど……」
「そうは言ってもね。菊川さんは技師としては一流だし、申し訳ないけどミーシャはお古でウチに来たってこともあるし。正直アフターフォローがちゃんとしてるってのはありがたいことだしね」
定期メンテというのは勿論方便だ。実際はAITSDの検査を中心にやってもらっている。今のところ表面には何の症状も出ていないが、何がきっかけで表面化するか分からない。勿論何事もないのが一番ではあるが、安心するためにもしっかりとした経過観察が必要なのだ。
「とりあえず、今日も一本取れなかったんで筋トレするッス……」
「あ、じゃあボク重りの役やりまーす」
言うが早いか、腕立て伏せの体勢をとるミーシャと、その上で胡坐をかくアル。
「うーん、あれには効果はあるのかな……?」
「さて。人工筋肉と小型モーターで動いている神姫に筋トレが有効という話はついぞ聞いたことがありませんけれど」
ミーシャの趣味というか、体を動かすことは好きらしい。それ自体は珍しいことではないが、筋トレのようなことが好きなのだ。
「最適な動作を探すって意味では、トレーニングの有効性は否定しないけれど、腕立て伏せや腹筋の動作が有効活用される場面を想像出来ないんだよなあ」
「レクリエーションのようなものでしょう。適当なところで休みなさい、明日のメンテでよくない結果が出ないとも限りませんから」
騒がしいような、賑やかなような。こうして今日も、いつもの毎日が過ぎていった。