蠍の尻尾   作:深波 月夜

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・1-2

 

『英雄ってのはさ、英雄になろうとした瞬間に、失格なんだよね』

 画面から流れる台詞に混じって、シャウラが素振りをする音と、マスターの使ってるリューターの音が聞こえる。

『もうひとつは、オマエ、なにがあったか知らないけど、見てらんないよ。そういうの、ウザいからさ』

 昔の特撮を見ながらゴロゴロするのは、唯一絶対のボク、アルキオネの趣味だ。マスターのコレクションから持ってきたこの話も、もう三十年以上前の人気シリーズの一作だけど、このシリーズは未だに人気だし、ボクも大好き。週末にはテレビで最新作を流している。こうして好きな特撮を見ながらポテチを貪り、コーラ味のジェリカンを飲む時間だけは何があっても譲れないね。活発なランサメント型らしくない? よく言われるけど、ボクみたいに引きこもるのが好きな、型破りな神姫だっているのさ。

『確かにアイツは馬鹿だが……』

『俺やお前よりマシな人間、でしょ?』

 しかしこの話、何がいいって、今出てきた緑のヤツが好きなんだよなぁ。カッコいいし、銃がメインの武器なのに格闘もやる。オマケに重装備の追加があるなんて、ホントにカッコいい。まぁ、最後は死んじゃうんだけどさ……。

『先生……また、旨いもん買って帰ります……』

 あぁ……。

 たまらぬ……。

 

 

 大好きな話ほど、終わると寂しい。

 なんで死んじゃうんだろう。

 見終わった映画をプレイヤーから片付けながら、さっきのシーンを思い出した。そりゃあお話だから、登場人物にはなんかしら決着がつかないと納得いかないし、ラストシーンみたく『全部なかったことになりました!』はどうかと思うけど、大好きな話や人がいなくなってしまうのはやっぱり寂しい。こんな時だけは、自分が感情のある神姫なんだって思う。

 ボクら神姫は、CSC(コア・セットアップ・チップ)が作る感情を持っている。これが他のフィギュアロボットとの大きな違いで、今の武装神姫ブームにも大きな役割を果たしていると言われている。コアとの組み合わせで性格や特性が異なり、唯一無二の個性が出来るんだそうだ。

 CSCの入っている胸をさする。今、ボクは、寂しいと感じている。それはいいことなんだろうけど、やっぱりモヤモヤする。感情があるからって、いいことばっかりではないんだろうなぁ。しんとした部屋に、変わらず素振りとリューターの音が聞こえてくる。ええぃ、人(?)が落ち込んでるというのに、むしゃくしゃする。こんな時は、マスターを連れ出してうさを晴らさねば。自宅警備員を自称するボクでも、たまには外に出たくなるのだ。

 

 

「めずらしいな、アルがバトルがしたいなんて」

「フフン、ボクにもたまにはそういう風向きの日があるのさ」

「……」

 今日はせっかくのお休みの日なのに、突然駄々をこねだしたあの子の提案で、作業を中断した主と一緒に二駅離れたゲームセンターまで来ている。あの子は気まぐれなくせに、言い出すと聞かないところがある。私も訓練を中断して同行することになった。

「装備はこの間と一緒でいいか?」

「勿論」

 軽い口調で、主のお手製のレッグパーツと、少しカスタムを加えたアサルトライフルを握っている。自分でも気づいている、私はあの子のことをあまりよくは思っていないようだ。いい加減で、怠け者で、自堕落で……。

「準備は出来た?」

「オッケー、いつでも行けるよん」

 主の手が、あの子をコンソールに運ぶ。それを見る私の胸がざわざわと波立つのは、何なのだろう。電子音がバトルの開始を告げるのが、どこか遠くの音のように聞こえてくる。

 

 

 バトルステージは「廃墟のビル街」。風が吹くたびに、土煙が舞う。その土煙を切り裂くように、Zel3.6mmガトリングキャノンが弾幕を作る。相手のランサメントはまるでアイススケートで滑るようにかわしていく。レッグパーツはオリジナルだろう、ホバークラフトのように走れるらしく、朽ちたビルや瓦礫を盾に、何でもないように走り続けている。ターンやジャンプ、姿勢を変えたりスピードを変えたりと、多彩な動きはこちらの弾が影を捉えることさえ許さない。

「コマンダー、攻撃が当たりません!」

『慌てるな、今当たらないのは作戦の内だ。落ち着いて作戦ポイントまで追い込め!』

「サー、コマンダー!」

 コマンダーからの指令で、廃ビルの隙間の路地に弾幕で壁を作る。廃墟の迷路の中で、相手は確実に道を選ばされている。コマンダーの作戦通りだ。

『相手は録に撃ち返してこれてない、圧倒出来るぞ』

「サー、足が自慢のようですが、追い切れない速度ではありません」

 恐らく足でかき回して勝負するタイプなのだろう。唯一手に握られているのはロングバレルのアサルトライフルで、銃剣が付けられている。が、その機動力もこちらの火力には手も足も出ないらしい。ガトリングの作る弾の壁に遮られ、間合いを取るので精一杯だ。追い詰めていることを悟られないように、慎重に追う。コマンダーの作戦通りに追い詰めてさえしまえば、あの軽装では、直撃は耐えられないはずだ。

 しかし、この相手、決して弱くはない。事前に確認した戦績では二戦二勝と戦歴の浅い新米だと思ったが、単に経験戦闘数が少ないだけだ。おそらく、本人かマスターのどちらかがバトルを好まないのだろう。個々に性格の違う神姫には、バトル嫌いの個体が生まれるのも珍しい話ではないらしい。

『次の路地に誘導しろ! そこは袋小路だ、一気に押し潰しちまえ!』

「イエッサー!」

 コマンダーの声に、雑念を振り払う。狙い通り、相手はビルとビルの隙間にある細い通りに逃げ込む。ここならばもう逃げ場はない。路地を曲がる。壁に囲まれた空間に、ありったけの弾丸を放つ。が、いない。ガトリングの弾が空しく壁に痕を穿っていく。

「ッ! どこに……」

「チャオ」

 上。目に飛び込んでくる不敵な笑顔と、赤い機影。それを追いかけるように、無数の銃弾。そして降りかかる斬撃に、何が起こったのかも分からぬまま途切れる意識を手放した。

 

 

「……すごい。壁を走り抜けるなんて……」

「装備の特性をうまく生かしたね。ホバーやローラー装備ならではの意表のつき方だ。これがストラーフのレッグか何かだったら、相手も壁を蹴って上空に逃れるのを警戒したかもしれなかったけどね」

 袋小路に追い詰められた後、何事もないかのようにそのままの勢いで垂直に壁を走り抜け、相手の上に飛び込むなんて、到底私には真似出来ない技だ。追い込まれているように見せていたのか、それとも、一瞬の機転で不利を覆したのか。どちらにしても、やはり、あの子は強い。主も細かく指示を出す私の時と違い、安心して見ている様子で、指示のひとつも出す様子がなかった。私なんかと違って、強い……また、胸がざわざわと波立つ感じ。なんなのだろう、この感覚は……コアにバグでもあるのだろうか。それとも、感覚器官の不調? コンソール上には、またひとつ白い星が表示された。

「お疲れ、どうだった?」

「久しぶりに駆け回って疲れたねー。でも、いいストレス解消にはなったかなー」

 戻ってきたあの子を笑顔で迎える主。それを見ると、胸のざわつきが強まる。

 バトルそのものも久しぶりだというのに、あの子は強い。それも、普段から訓練をするでもなく。日常的に遊んでだらけている姿からは、想像も出来ないほどだ。

 その一方で、最近の私は勝率があまり芳しくない。今のところ、十五戦して九敗と、大きく負け越している。敗因の多くは、得意のレンジに持ち込めていないことだと主は教えてくれた。射撃装備の相手のかざす、間合いという名の盾を抜く術が、今の私には決定的に不足しているのだそうだ。さらに相手が飛行装備をしている場合、もはやなす術がない。

 主は「今の装備構成には穴があるから、仕方ない」と仰有っていた。でも、やはり私は、私自身がうまく出来なかったことを思い返し、今もあの子との差を感じ、胸をざわめかせてしまうのだ。

 

 

 相変わらずアルは強いな。それが率直な感想だった。アルは装備に対するセンスが半端じゃない。大体の装備は一度使ってみれば特性を掴むし、二、三度使えば使いこなせてしまう。それは起動した時からずっとそうで、もはや天性と言う他なかった。まぁ、本人がバトルをするより特撮見ながらゴロゴロするのが好きなせいか、どうしてもバトルが強いってイメージはないんだけどな。

 一方のシャウは勝率そこそこで、今のところ、十五戦して六勝。この成績なのには理由がある。格闘戦しか出来ないシャウは、普通の神姫以上に弱点が多い。デフォルトの装備を使えば空を飛ぶことも出来るんだが、まだ実際にバトルでは使わせてない。それには一応の理由もあるんだが……。

 ここまで来たついでだし、シャウもバトルさせてみるかな?

 

 

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