蠍の尻尾   作:深波 月夜

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「再起動完了、始動します」

 シャウの口から再起動を告げる自動メッセージが流れる。ようやく、武装管制プログラムのインストールが完了したようだ。眼を見開くと、すぐに空へ駆け上がる。今の事態は飲み込めているらしい。

「オートバランサー、調整。ウェイトレシオ、変更。出力調整、良し!」

 その右腕と両脚は機械式の強化四肢に換装し、高速飛行リアユニットからは支持アームが伸び、左側から身体を庇うようにシールドユニットが接続されている。腰には前後にウエストアーマーが追加され、リア部分には追加の小型バーニア。さらにリアユニットの後方からもテールノーズバインダーが伸びている。そして、構造的に脆弱なカメラアイを覆うようにアイシールドが展開している。変わらず取り付けられたサブアームからは鬼姫を展開し、右手にはGNソードⅤを、左腕には引き続き、アームガードを装備している。

 シャウが見開いた視線の先には、死天使の凶行が続いていた。左手を上げると、アームガードのビームガンから光弾を放つ。命中こそしなかったが、鎌を振り上げた黒い天使がシャウの方を振り返る。

「なあんだ、お色直しだったのね……?」

 心底嬉しそうな表情だが、その瞳の色は狂気に満ちていた。愉悦と殺意を同時に振り撒きながら、再び死天使が宙を舞う。待ち切れなかったと言わんばかりの勢いで、鎌を振り上げてシャウに迫る。

「新しいボレロもよく似合ってるわ。でも、貴女はきっと首だけになった方がずっとずっと素敵よ?」

 新しく追加されたシールドで、それを受ける。が、重量バランスが大きく変わっているせいか、受けると同時に、寸刻、体制が崩れる。それを、反射的にテールノーズバインダーを吹かしてバランスを保つ。

「主っ!」

「分かってる!」

 死天使が離れた隙に、駆け寄ってミーシャを確保する。傷ついてはいるが、目立った外傷は武装パーツ部分だけ。本体部分は無事だ。

「ミーシャ! 大丈夫か、ミーシャ!」

「うう……これ以上お肉食べれないッス……」

 あまりのダメージに、シャットダウンしてスリープモードに入ったらしい。夢を見てるようだ。大きく頷いて、シャウにミーシャの無事を伝えると。一瞬安堵に表情を緩ませる。が、すぐにレグルスをねめつける。

「恐い顔、ゾクゾクしちゃう」

 しばし無言で視線を交わす二人。だが、浮かべる表情は対照的だ。

「さあ、また踊りましょう? あんな虫のことを気にしちゃ嫌よ、私だけを見て?」

「邪鬼め……」

「ふふ、恐い恐い。そんな顔していたら、楽しく踊れないじゃない? もっと楽しく踊りましょう。リリアーヌ!」

 声と共に、再び三つの光球が現れる。それはゆっくりと、シャウを取り囲むように動き始めた。

「さあ、陽気にステップを踏みましょう! 舞い散れ、ブーケット・オブ・リリアーヌ!」

「そんなものは!」

 周囲から撃ち込まれる光弾。だが、新しい武装はただの追加パーツではない。シャウが左手を掲げると、目の前に光の壁が現れる。

「ビームシールド?」

 障壁が、トークンから放たれた光弾を阻む。

「それだけで終わりません! シロ!」

「任せな、嬢ちゃん! 目標設定だけ、しっかり頼むぜ!」

 リアユニットに据えられた、自律思考型ぷちますいーんず指令ユニット、シロにゃんが応える。するとシールドから六機のソードビットが飛び出す。不意に放たれた六枚の刃が、宙を舞い続けるトークンを次々と切り裂いていく。

「ソードビットまで!?」

「もう好きには、させません!」

 GNソードを振りかぶり、一息に間合いを詰める。斬撃。弾く。更に袈裟斬り、次いで逆袈裟と、息も吐かせぬ勢いで攻める。剣が非実体剣になったためか、攻め足が軽い。非力なアーンヴァルでも充分な攻撃力を持つのだ。刀剣での近接特化型であるエスパディアが扱うそれが、引けを取ろうはずもない。しかもそのすべてを受け止めるだけというわけにはいかないのだ。力比べに持ち込まれれば、その時点で死天使は不利になる。横薙ぎ。一撃を受けた後、死天使は密着距離を嫌って、アームビームガンで牽制しつつ後ろに離れる。が、もはやそこもシャウの間合いだ。長短六本の刃が襲う。

「鬱陶しいっ、リリアーヌ!」

「一旦戻れ、レグルス!」

 不意にマスターに呼び戻され、死天使が反射的に後ろに飛ぶ。が、それを追うソードビットはそうはいかない。シャウの判断の迷いが、そのまま機動に表れる。本体を追うべきか、トークンに向けるべきか、優先順位を瞬時につけられなかったのだ。

「ふらつくな、嬢ちゃん! しっかり指示してくれねえと、動かせねえ!」

「ご、ごめんなさい」

 補助用のコントロールユニットとしてシロにゃんを背負ってはいるが、その指示はあくまでシャウが下すものだ。結果として、中途半端にリリアーヌとソードビットがにらみ合うような格好になった。

「何よ、オーナー、私はまだまだ踊り足りないのよ。もっと躍らせて頂戴」

「なに言ってやがる、時間かけすぎだ。全部見せてやっても構わねえんだろう? だったらお前のスキル、出し惜しむような真似するんじゃあねえよ」

 その言葉に、息を呑む。まだスキルを温存していたのか? ブーケット・オブ・リリアーヌだけでも充分すぎるほど強力なスキルだったのに、まだ上があるなんて。シャウもアイシールド越しに驚いているのが伝わってくる。

「はあい……仕方ないわねえ、もっともっと愉しみたかったのに……」

 その声は、やはり心底残念そうだ。落とした視線が上げられる。その赤い瞳がまっすぐにシャウを射抜く。

「そうね、たまには本気のジルバを踊るのも、悪くないかもしれないわ。いつもは私の興が乗る前に、お相手が着いてこれなくなってしまうんだもの」

 彼女はゆっくりと鎌の柄に指を這わせる。長柄をひとしきり撫でると、呟くように言った。

「バルディッシュ……起きなさあい、出番よ……」

 その声と、ビームサイズの柄に埋め込まれた玉が、輝き始めた。

 

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