蠍の尻尾   作:深波 月夜

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・4-6

 ずきん、ずきんと頭が痛む。リリアーヌを呼び出したときはいつもそうだ。でも今は、その痛みさえ心地良い。

 

 こんなにも素敵な夜になるとは思わなかった。

 あの晩、踊ったエスパディア。あの娘とならば、きっともっと素敵な踊りを踊れる。そう思ったそのときから、私の胸の中にいつもあの娘が居座るようになった。そして、そのことを不快とも思わない。ただ、その日から日々の無聊が、一層深くなった。

 あの娘がいない寂しさと、灰色の日々を埋めるために、オーナーに辻でリアルバトルをすることを申し出た。オーナーは、思っていたよりあっさりとそれを呑んでくれた。オーナーも、あの娘の主人に用があるらしい。

――でもオーナー、私、あの娘を壊してしまうわよ?

 そう言うと、オーナーは笑った。いいねえ、是非そうしてやってくれ、と。

 

 その次の日から、私達は夜毎、あの娘を探して回ったのだ。そして今夜、ようやく見つけた。

 ずきん、ずきん。

 あの娘の首を刈り取って帰るためのものだと思えば、この痛みさえ甘いものに感じられてくる。

 ずきん、ずきん。

 ずきん、ずきん……

 頭痛は絶え間なく響き続ける。バッテリーは無理やり三回目のブーケット・オブ・リリアーヌを発動したことで、もう禄に残量がない。それでも、この夜会が終われば、彼女を連れて帰ることが出来る。そう思えば安いものだ。

 

 実際、彼女の手はもう詰んでいる。リリアーヌに対抗する術であったソードビットを、セブンスソードとかいうスキルを発動するために費やしてしまったのだ。おかげで今、展開されたリリアーヌのトークンを処理することが出来ないでいる。しかし、そのためにセブンスソードを解除してしまえば今度はバルディッシュのザンバーを受けることが出来なくなる。

「さあ、フィナーレよ、シンデレラ」

 そう言う私の口元が、きゅうっと吊り上がるのを、私は押さえ切れなかった。

 

 

 シャウがサブアームを展開し、空を切る。その動きにバーニアをあわせて、軌道を細かく変える。そうすることで辛うじて、トークンからの攻撃をかわすことは出来た。だが、その代償として攻撃の機会は失われている。

 まさかこの段階でもまだブーケット・オブ・リリアーヌでトークンを生成出来るとは思わなかった。そもそも、あれだけ強力なスキルだ。その発動にはかなりのエネルギーを食うはず。俺はそう予想したのだが、その予想は見事に裏切られた。

「シャウ! 一度セブンスソードを解除して! ビットでトークンを処理するんだ!」

 回避に集中したままでは、いずれ保たなくなる。セブンスソードを解除してしまえば、ザンバーを受けるのには不利だが、それ以前にこのままでは押し切られてしまう。どうあっても、先ずは相手に取られたアドバンテージを消すところから始めなければならない。

「シロ!」

「おう!」

 二人の声と共に、GNソードⅤが通常の姿に戻り、ソードビットとの連結が解除される。一拍の間をおいて、解き放たれたソードビットがトークンに向かって飛ぶ。

「そう簡単にはいかないわよ? リリアーヌ!」

 そう言うと、トークンがより複雑な動きをとり始めた。トークンまでこんな複雑に操作出来るものなのか? 補助コントロールユニットも介さないでこんな動きが出来るなんて、と素直に感心してしまう。ビットが手間取る隙に、更に斬りかかる死天使。間に張られたバリアシールドは、トークンの攻撃を防ぎはするが死天使本体の攻撃には易々と切り裂かれてしまう。

「くっそお! 嬢ちゃん、もうちっとリソースをこっちにくれ! これじゃあトークンに当てられねえ!」

「そう、言われても……ッ!」

 シャウ自身も、死天使の攻撃を捌きながらシールドを張るので手一杯だ。左肩の物理シールドやサブアームの鬼姫を合わせて何とか帳尻を合わせているが、一刻も早くトークンを処理出来なければ詰みだ。

「ソードビットを集中しろ! 一機ずつ、順番に処理するんだ!」

 俺のその声に火線が集中する。剣閃を避け切れなかった一機のトークンが、ようやく弾け飛ぶ。だが、バリアの隙間を縫って、トークンの攻撃がシャウを捉える。

「シャウ!」

「……大丈夫、ッ!」

 顔を直撃したかと思ったが、追加したアイシールドが守ってくれたようだ。身代わりに砕けたアイシールドの破片がキラキラと散っている。

「あら、御免なさいね。顔を狙うつもりはなかったのだけれど」

 返事の代わりに再度ソードビットが襲う。が、狙いを絞っても二機目のトークンは墜とせない。逆にトークンの支援を背に、レグルスが上段から切り下ろしを見舞う。それを受けるシャウの動きはぎりぎりだ。それどころか、トークンの支援によってその場に縫い付けられてしまっている。

「流石に、その剣は堅いわね。普通なら焼き斬れるのだけど。材質は何? 鋼でも使ってるのかしら?」

 正鵠を射ているのだが、その声には侮るような響きも含まれている。まさか本当に鋼で作られているとは思っていないのだろう。

「まあ、それならそれでやりようはあるのだけれど」

 トークンが更に前に出て、火線を集中する。しかし、バリアの展開に気を取られれば、ザンバーからの防御とビットの操作が疎かになる。結果として、バリアでの防御を捨てて、トークンの撃破とザンバーからの防御を優先するしかない。回避運動を途切れさせたら、たちまち動けなくなってしまう。

「くう……ッ!」

「シャウ! 突撃!」

 トークンが前面に出てきた。今、この瞬間しかない。

 

 

 主からの指示が出た。それを合図に、火線を防ぎながら強引に突撃を仕掛ける。一言で、主の狙いは伝わった。バリアシールドを目の前に展開しながら、射撃を続ける二機のトークンに身体ごとぶつける。シールドの向こうに、爆炎が広がった。

「なんて強引な……!」

 炎の渦を切り裂きながら、ザンバーを抱え上げたレグルスが迫る。障壁はザンバーの一撃には耐えられない。交差した鬼姫で受け止める。

「スキル発動! 無銘:大顎!」

 長大な剣を受け止めたまま、強引にスキルを発動して大顎を形作る。はげしい火花を散らして押し合う、鋏と大剣。

「そんなもので私のバルディッシュを受け止めるつもりなの? あはははは! 首刈りだ! その首もいであげるわ!」

 狂気の笑いを溢れさせる死天使。その狂気の篭った一撃を、私は真っ向から受け止める。

「シロ! 今!」

「任せろおッ!」

 シロがそう応えた刹那、レグルスの背後から六つの流星が襲った。

 

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