蠍の尻尾   作:深波 月夜

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 六枚のソードビットが、機械式の翼を背後から切り裂いた。寸刻待たず、レグルスが地に墜ち、そのまま、もがく様子もなく動かなくなる。故障だろうか。いや、もしかするとバッテリーが上がったのかもしれない。ただでさえエネルギーを食いそうなスキルを乱発したのだ。相手のマスターは、眼を閉じて頭を掻いている。

「そろそろよさそうだね。決着はついたかい?」

 路地の影から姿を現したのは、榊刑事だ。その傍らには、アンジェリクスと、ロートケーファに乗ったアルもいる。

「榊刑事、いつからいたんですか」

「いや、つい今さ。だろう、アルくん?」

 アルには、最も重要な役を担ってもらった。即ち、事が起こったときに俺達のところまで榊刑事を連れてくる、という役目だ。

「サツか。間が悪い、ってぇわけじゃなさそうだな」

「そうだね、今回はしっかりと網を張らせてもらったよ。容疑は……まあ分かってるだろう。違法賭博への参加、違法改造武器の製造、器物損壊に伴うMMS保護法違反、MMS倫理規定違反……まだ必要かな?」

「いんや、充分だ。そのくらいで収まってくれりゃあ御の字、ってえところだな」

「それで収めてやれるかどうかは、君次第だな。余罪の方もたっぷりありそうだし、ね」

「おいおい、勘弁してくれ」

 黒い手帳を見せながら、罪名を挙げる榊刑事を前にしても、この人の態度は変わらなかった。動かなくなったレグルスを優しい手つきで拾うと、砂を払うような仕草をした。

「やれやれ、せっかくレストアしたんだがな。まぁたリアユニット全損かよ。景気よく壊してくれるぜ、まったく」

「あ……申し訳ありません……」

「……ちっ、毒気抜かれちまったぜ。本当は俺等の稼ぎを減らしてくれた分だけ、痛い目を見せてやろうと思ってたんだがなあ」

 顔を逸らしながら空いた方の手で頭を掻く。

「あの……まだバトルがしたかったら、私達はK市のゲームセンターにいます。バーチャルでならいつでも受けて立つ。そうお伝えください」

「へっ、冗談じゃねえ。二度もこんなにされて、これ以上やる気になんかなるもんかい」

 榊刑事が、それじゃ行こうか、と促している。罪の清算がどれほどになるか分からないが、俺としては、出来ることならもうやりあいたい相手ではない。今回の被害も甚大だ。ミーシャの装備ばかりではなく、せっかくの新装備まで傷だらけ。これをまた修理しなければならないかと思うと、気が重い。それでもなお自分と戦う方法を示したシャウは、懐が広いと言うかなんと言うか。

「よっぽど見るべきところがあったのかな?」

「そうですね、高速格闘戦に特化したアーンヴァルなんて滅多に見ませんし、ビットの扱い方も、学べる部分は多くあると思いますよ」

 それは確かにそうだ。それ以外にも、アーンヴァルはビーム系装備の扱いにも優れている。GNソードⅤの使い方や、セブンスソードの扱いも、吸収出来る部分は多いのだろうとは思う。が、それとまた戦いたい相手かどうかは別だ。

「でも、それ以上に、あの人を放っておいてはいけないような気がして……いけませんでしたか?」

「いけないわけじゃないけど……まあ、シャウがいいならいい」

 なんにせよ、今夜の戦いは終わりだ。シャウの武装を解き、片付け始める。

「そういえば、主、今回の武装パーツですけれど、いつの間に準備されていたのですか? 私、まったく知りませんでしたけれど」

「う……あれは、その、なんだ、えーっと……」

「……?」

 急な問いかけに、答えに詰まる。シャウは不思議そうな顔を浮かべている。それはそうだろう。答えに窮していると、横からアルがひょっこり顔を出す。

「マスター、そういうところマメだからなー。シャウラの起動日にあわせて準備してたんだよねー」

「私の……?」

「んなっ!? アル、何でそれを知ってるんだ!?」

「ボクは自宅警備員だからねー、PCの購入履歴やら、図面の製作記録なんかを、ちょいちょいっと……ね?」

 ……なんということだろうか。今度からは履歴はクリーンにしておかねば。いや、そんなことより今は……。

「この武装……本当なのですか、主?」

「う……その、なんだ。シャウがウチに来て、ちょうど一年になるからと思って、準備していたんだが……」

「ありがとうございます……! 私、こんなとき、なんて言ったらいいか……それなのに、こんなにぼろぼろにしてしまって……」

 途端に、シャウの表情が曇る。馬鹿だな、そんなこと、気にするようなことじゃないのに。しかし、その思いがうまく言葉にならない。互いに言葉に詰まってしまう。

「シャウ」

「はい」

 思い切って口を開く。

「無事で良かった。そのために武装が傷ついたのなら、そんなことは気にしなくていい」

「……はい。でも私、主に何も返せません。今の私には、何もないから」

「それこそ、気にしなくていい。俺はもう、返し切れないほどのものをもらってる」

 また、言葉に詰まる。横ではアルが呆れたような顔を向けてくる。だが、それでもいい。それは確かに、俺の本心だった。

 

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