蠍の尻尾   作:深波 月夜

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・5-1

「なあ、神姫ポイントっていくつ持ってるか分かるか?」

「なんだよ、急に」

 高校最後の夏も終わり、再び学業に追われる日々が始まった。そんなある日、突然花道がそんなことを尋ねてきた。

 神姫ポイントというのは、神姫プレイヤーが個別に持っている得点のことで、公式な試合では互いにこのポイントを賭けて試合が行われている。勝てば増え、負ければ減る野が基本で、そのため、強いプレイヤーというのは、このポイントを多く持っているプレイヤーであると言い換えることが出来る。つまり、このポイントを比べれば自分と相手の大体の強さが可視化される。それを急に聞いてくるとは、どうしたのだろう。何かあったのだろうか。

「いや、俺がバイトしてる神姫センター、あるだろ。そこで今度、公式の大会を開くんだけどよ、キャンセルが入って人数が足らないんだわ」

「そんなの、一席空白で不戦勝扱いだろ。参加者は得したな」

「ってことにしたくねーから声かけてんじゃねーか。そんなに大きな神姫センターじゃねーし、なるべくならコケさせたくねーんだよ。特に今度のはサードリーグ向けの設定だから、俺が出るわけにいかねーんだわ」

「それじゃあ、俺も参加出来ないね」

 俺に先んじて、日野が答える。

 現在の神姫競技は、ファーストからサードまでのリーグ制だ。プレイヤーは神姫センターで公式の登録をすると、同時にサードリーグに登録される。それぞれのランクで一定の成績を納めると、次のランクに昇格出来る仕組みだ。最近は受験勉強で参加していないが、日野は花道と同じセカンドリーグの上位にいる。その辺りまで行くと全国的な大会への出場資格にも手が届くし、他県のプレイヤーでも祥しい人間になら知っている、という程度の知名度になる。ちなみにこのリーグ昇格にも先の神姫ポイントを一定以上持っていることが条件のひとつである。

「で、どのくらい持ってるか、分かるか? もうセカンドの規定値にいっちまってるかな」

「残念ながら、そこまではいってないよ。ポイント的には、まだサードのままだ」

 俺は日野や花道と違い、高校に入ってすぐ神姫を始めたわけではないし、高校生リーグの公式試合にもほとんど出ていない。キャリアとしてはそろそろ一年以上になるものの、戦績のほとんどは公式と はいえポイントの大きく動かない草バトルが中心。対外的な評価としてはそれほどでもないのだ。

「ちょうどいいじゃねーか。一年もいればサードはもういいだろ。セカンドに上がっちまえよ」

「お前な……」

 気軽に言ってくれる。夏休みでさえ受験勉強に囚われていた俺達と違って、花道は進学をしない。四月からは現在アルバイトをしている神姫でセンターに、そのまま就職予定だ。もっとも、その夏休み中にきつい思いをした原因の大半は、休み前に壊されたシャウとミーシャの武装のレストアが立て込んでいたせいでもあるのだが。なにせシャウがウチに来てから一周年の記念に、と作っていたのをアルの奴が喋ってしまい、俺はマスターとしての意地にかけても記念日までに武装を修復することになったのだから。

「いいだろ、少しくらい。何も、何週間も時間くれって言ってねーじゃんか。頼むよ」

「ちなみに、それっていつ? 今月末にかかってくると、俺達模試があるから」

「大丈夫、今週末だ!」

 日野が余計なことを聞いている。自分が出られないからって、気軽なものだ。その日程では特別なことは何も出来ない。参加する以前の問題だ。

「いいじゃないか、模試の前の息抜きに。君、確かこの間の結果は良かったんだし」

「日野まで……」

 そんなことを言われると、俺だって出たくないわけではないのだ。受験勉強という重荷を放り出したいという、人並みの欲求はある。

「んじゃ決まりな。今日バイトだから、代わりに参加登録しといてやるよ」

 勝手なものだ。まあ、そんなことを思いつつも、俺自身既に気持ちは参加したいと思ってしまっているのだから、仕方ない。

「ちなみに形式なんだけど、スイスドローの三回戦な」

「……なんだっけ、スイスドローって」

「……お前、一年も神姫やってて知らねーのかよ?」

「まあ、俺達と違って、公式大会の出場経験が少ないからね、仕方ないよ」

 

 日野の説明によると、スイスドローというのは試合の運営方法のひとつだそうだ。大まかに言うと、勝率の近い者同士がランダムで試合をする形式のことらしい。要は一回戦を勝った者は勝った者同士、負けた者は負けた者同士が試合を組むようになるので、一回戦以外は常に自分に近い強さの相手と試合をすることになるのだそうだ。ちなみに一回戦も手持ちの神姫ポイントを基準にマッチングされるらしいので、完全にランダムというわけではないらしいのだが。この方式だとトーナメントと違って、負けても試合が組まれるし、成績次第では一回戦負けでも上位に入ることが出来るので公式の大会では割とメジャーな方式らしい。が、あまり公式大会のような大掛かりな舞台とは縁遠い俺には馴染みのない形式だ。

 

「まあ、要は負けなきゃいいのさ。そう考えりゃ、トーナメントと変わりねーよ」

 運営する側としてはどうかと思うが、花道の竹を割ったような回答が頼もしい。どの道今週末に試合などといきなり言われても、碌な調整は出来はしないのだ。ならばいっそのこと、開き直って運がよければセカンドリーグに昇格出来る、というくらいに考えていた方が精神衛生上はいいのかもしれない。

「ん……? 今週末って、明後日じゃないか!?」

「そうだよ? だから焦って参加者探してたんじゃねーか」

「まあ頑張れよ。暇があったら、応援くらいには行ってあげるから」

 ……もうなるようになれ。今回はこの間までのそれとは違って、純然たる競技、試合だ。負けたら食われるわけじゃなし、腹をくくって飛び込むしかない。とりあえず今日は帰ったら、シャウと武装の調整をしよう。そう心に決めたのだった。

 

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