蠍の尻尾   作:深波 月夜

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・5-2

 ブライトフェザーがフェザーブレイドを両手に構え、迎え撃つ姿勢を取る。だが、それをサブアームで払い除け、素体腕で抱えたGNソードⅤを上段から振り下ろす。軽装のブライトフェザーにとっては、速度に乗せたその一撃だけでも充分致命傷となりうるものだったが、更に追撃で左手を掲げ、ビームガンを撃ち込んだ。一発、二発。それが決め手となった。

『1P シャウラ WIN』

 対戦相手のブライトフェザーがポリゴンの屑になって崩れ、ジャッジCPUが私の勝利を告げた。

 

 

 結局、ほとんど何の準備も出来ないまま、公式の大会には出場することになった。公式の大会とは言っても、花道のバイト先の神姫センターはそれほど大きな場所ではなく、参加者も十人を切る程度の、慎ましいものではあった。その結果、所有する神姫ポイントの近い者同士が割り当てられたと言う触れ込みが吹いて飛ぶほど、一回戦を軽く勝ち抜いてしまった。

 確かにブライトフェザーは発売時期を指して言えばエスパディアよりも新型である。しかし、新型ならば強力というわけではない。

 昨今の武装神姫業界では武装の大出力化、大型化が進み、元々高額な嗜好品であった武装神姫は更に高額化。初心者が入門しにくくなるという傾向にあった。そこで開発されたのが、武装をコンパクトにまとめたライトアーマーシリーズである。このシリーズは武装を極力絞ることで価格を抑え、初心者用の入門セットとして各社の売り上げに貢献している。

 ブライトフェザーもそのライトアーマーシリーズの一作である。が、その性質はバトルよりも一昔前の生活サポートアンドロイドとしての側面が強く、武装の性能も初心者向けの基本セット的なものであり、バトル重視のユーザーからは敬遠されがちなシリーズでもあった。自然、その少ない武装からその特性を活かすためには明確な思想に裏打ちされた戦術が不可欠で、それは数としてはごく少数になる。一回戦のブライトフェザーは、そんなごく少数、ではなかったようだ。

 

「お疲れ。手早く済んだね」

「ありがとうございます。ライトアーマーも発売半年ほどですから、まだそう簡単には負けられません」

 今回はソードビットのコンテナを兼ねたシールドは、サイドボードに入れてあった。純粋に高速装備で、一瞬でも早く接敵し、斬り捨てることに特化した装備だ。リアユニットのテールノーズバインダーなども追加している分、以前よりも速度は上がっている。

「他の試合が終わるまで、少しは余裕がありそうだね」

「暇してんなら、集計手伝えよ」

 そう声をかけてきたのは、店員と同じ格好をした、花道だ。いや、花道は今はこのセンターの店員なのだから、何も間違ってはいないのだが。

「なんだろう、もう少し客を労わったらどうだ」

「お客様、お手透きでしたら集計作業の方、手伝っていただいてもよろしいでしょうか」

「よろしくないです」

 即答する。そもそも俺はこの大会について、前情報を何も持っていないのだ。早く試合が終わったのなら、少しでも周囲の情報を得たい。

「そんなことしてもよー、二回戦の相手が誰になるかは決まってねーんだぜ?」

「うん、そういうことじゃない」

 対戦中のプレイヤーから見て取れることは様々だ。バトルを俯瞰することで、どんな装備や戦術が流行なのか。それに対してどんな対策が取られているのか。プレイヤーのスタイルはどうか。総じて、この神姫センターがどんな場所なのかも、そこに集うプレイヤーがこれ以上なく雄弁に語ってくれる。そういったことを見ているだけでも、時間は飛ぶように過ぎていくのだ。

「まあ、どの道一回戦の終了時点で出来る集計なんて、プレイヤーカードを勝ったか負けたかで分けるくれーなんだけどよ」

「何も手伝うことなんかないじゃないか……」

 しかし、やはりこの空気はいい。バトルロンドの真剣なバトルの空気が、ここには溢れている。それは裏バトルの会場の熱気や、リアルバトルの身を切るような空気とはまったく違う。お互いがお互いを尊重して、互いの技を高めあう。それはアスリートが纏う空気に近いものがある。その意味では、ここは神姫センターとしては良い場所なのかもしれない。

 そんなことを考えながら他のバトルを観戦していると、あっという間に次の試合の組み合わせが決まる時間になった。スイスドロー式では前の試合の勝率によって対戦相手が決まるため、ぎりぎりまで誰と戦うことになるかが分からないのが難点らしい。

 発表された組み合わせによると、次の相手は一回戦で辛勝していたウェスペリオー型だ。互いによろしくお願いします、と挨拶すると、戦闘準備を整える。

 

 戦闘フィールドは「夜の平原」。最近の忍者型や今度発表された夜戦飛鳥などにあわせたアップデートで追加された新ステージだ。地形的には今までもあった平原ステージと同じで、起伏はあるが障害物になりそうなものがないシンプルなステージ。

 しかし、このステージでウェスペリオー型と戦うのは不利だ。ウェスペリオーも比較的最近発売された型ではあるが、それよりもまずいのはそのモチーフが蝙蝠であるところだ。当然、この夜戦フィールドにも対応しているはずだ。

『索敵、始めます』

「頼む。このフィールドは視界が悪い。視覚はあまり頼りにならないから、そのつもりで」

『と言っても、相手はウェスペリオー型ですからね。レーダー対策も標準装備だったはずです』

 その通りだ。夜戦が基本になる蝙蝠型は隠密性が高く、レーダーや音響索敵でも発見されにくいという特徴がある。一方でエスパディア型の策敵性能はそれほど高い方ではない。

「かくれんぼではこっちが不利だな」

『いえ、発見しました。ビームシールドの類いを展開していますね』

「ビームシールドを?」

 俺は怪訝な顔をした。高い隠密性はウェスペリオーの武器のひとつだ。一方でビームシールドは常時光と熱を放出する、言ってしまえば「目立つ」装備。ウェスペリオーを使う利点を殺しているとしか思えない。こちらでもそれを気にして、GNソードⅤはメイン装備からサイドボードに移している。そんなことに気づかなかったとは思えないのだが……。

『ミサイル、来ます!』

 墨を流したような夜空に、白煙を引いてミサイルが飛来する。いや、白煙だけではない。パステルカラーのようなカラフルな煙を引いたミサイルが何発も飛んでくる。

「何だこれは?」

 ますます分からない。せっかく夜の闇が姿を隠してくれるのに、わざわざ目立つことをしているとしか思えない。普通のフィールドで使うための眼くらましをそのまま使っているのだろうか? しかしそれなら通常のミサイルに切り替えれば済むことだ。ここまで手の込んだ準備をしてくる相手が通常弾を用意していないとは思えない。この攻撃にも、何か意図があるはずだ。

『弾速も速くありませんね。これなら余裕をもって避けられます』

「警戒、怠るな。こんな妙な攻撃、聞いたこともない。何を意図してるのか分からないから、注意して」

『承知!』

 煙を引いて飛んでくるミサイルは、確かに回避が難しいというような速度ではない。が、突然の爆発がシャウを襲う。

『きゃっ!』

「離脱!」

 原因不明のダメージを受けたら、即その場から離れる。訓練でも繰り返し教えた通り、シャウが上空へ離脱する。ミサイルの数発が、それを追いかけてくる。その中には、明らかに速度が違うものが紛れている。

『シールド!』

 シャウが左手を上げると、目の前にバリアシールドが展開される。数初の爆炎が、障壁に遮られて半球を描く。

「なるほど、スモークを引くミサイルで注意を引いて、高速の小型ミサイルを紛れさせてきたのか。面白い戦法だ。シャウ、ダメージは?」

『二発目からはシールドが間に合いました。戦闘継続には問題ありませんが、ダメージはもらいましたね』

 ダメージだけで済んだのなら、まだいい方だ。奇襲で勝負を決める気なら、相手がカードを切ったときには勝負が付いていることだって充分ありえる。この奇襲一発で勝負を決められなかったのは幸運だ。

「シャウ、相手の位置は見失ってないな?」

『はい、このまま征きます!』

 シャウが一気に加速する。ビームの光がゆらゆらと、誘導灯のように揺れている。そこに向かって一直線に。鬼姫を振りかぶり、突撃。だが……。

『えっ?』

 消えた。数瞬前まで捉えていたはずの相手の影が、ビームの光が消えると共に掻き消えた。その直後に、背後から再びミサイルの雨が襲い掛かる。

『後ろ!?』

「馬鹿な、もうあんな距離に?」

 カラフルな煙の隙間から、ビームの光が垣間見える。それから察するに、今の位置からはかなりの距離を移動したことになる。ウェスペリオーは確かに飛行型だが、その特性は速度より機動力と隠密飛行寄りだったと記憶しているのだが、こんな短時間にそこまでの移動が出来るものだったか?

 

 

 再び、バリアシールドを展開。私の目の前で数発の直撃弾が障壁に阻まれ、炎を上げる。

「いつの間にあんな距離に?」

『ウェスペリオーはそこまで速度が出る機種じゃない。なにか仕掛けがあるな』

 主は冷静な声でそう告げる。しかし、例え仕掛けがあっても接敵しなければ始まらない。もう一度上空へ駆け上がり、加速して突撃する。カラフルなスモークの向こう側に、確かに揺らめくビームの光を視認する。しかし、ミサイルの雨を振り切って向かった先では、捉えられると思った瞬間にウェスペリオーの影は掻き消えた。

「また!?」

 訳が分からない。確かに私は、ここに敵の影を確認していたのに。それとも何かのジャミングを受けているのだろうか。しかし、ジャミングであったとしても瞬間移動のようにして短くない距離を移動していることには説明がつかないのだ。

『……シャウ、落ち着け。多少乱暴な方法だけど、策はある。先ずは相手の仕掛けた謎を解くところから始めよう』

 主の声は、落ち着いている。この声があるから、私は平静を取り戻せる。もし私一人だったら、この訳の分からない状況に混乱し、自滅していたかもしれない。私は主の望むものを裁つ刃。それだけに徹すればいい。それで私は安心出来る。

 

 

 突然、相手のエスパディアがこちらに背を向けて逃げ始めた。

「ご主人様、あいつ、逃げ始めたよ」

『何か距離を取って有利に働くものがあったか? サイドボードかな?』

「とりあえずミサイルで追撃しとくよ」

 パステルカラーのスモークを引くミサイルに紛れて、肩のニンブスからもマイクロミサイルを追加でばら撒く。とはいえ、スモークミサイルは弾速や威力よりも大量の煙を出すことを目的とした装備だし、マイクロミサイルは一撃一撃の威力はそれほど高くない。

「今ならまだポイント勝ってるよね?」

『一撃入ってるからな』

 時間切れになれば、ダメージが入っている方が判定負けになる。この試合ではエスパディアが何か仕掛けてこなければ、あたい達の勝ちだ。

「このままだと、射程の外まで出るね」

『時間切れを狙ってもいいんだけど、とりあえず追うか。出来たらポイント稼ぎたいし』

 同じ勝利でも、判定勝ちだともらえる神姫ポイントは目減りする。この相手は格闘戦主体の装備っぽいし、今のところご主人様の作戦に見事にハマっている。これなら気づかれるまでにもう一発二発狙えるだろう。

「あれ、止まった?」

 相手を追いはじめてすぐ、エスパディア型が急に脚を止めた。特に回避運動を取っている様子もない。狙い時だ。ぎりぎり射程に入ったマイクロミサイルを放つ。スモークの方は間に合わないが、問題ないだろう。が、その直後、放ったミサイルの全てが一撃で撃ち落とされた。

 

 

「この辺でいいだろう、反転して」

『スキル発動、シロ、お願い!』

『よっしゃあ、行くぜ! 『セブンスソード』、第二段階!』

 サイドボードから転送されたGNソードⅤを中心に、六枚のソードビットが結合し、長大なバスターソードを形作る。これが、スキル『セブンスソード』の第一段階だ。このスキルには、次がある。

『準備出来たぜ、嬢ちゃん!』

「勝負は一瞬だからね、位置の把握をしっかりよろしく」

『了解です、『セブンスソード』、第二段階! バスターライフル! 発射!』

 グリップが倒れ、バスターソードの先端が開く。そしてそこから、バスターソードの刀身を銃身として、エネルギーの奔流が解き放たれる。これがセブンスソードのもうひとつの能力だ。バスターソードを形作るのに使われる膨大なエネルギーを、バスターライフルとして放出する。勿論シャウの火器管制能力は低い。この能力を最大限に活かすには足りないだろう。しかし、今はそれでも充分だ。

 攻撃目標は、さっきまでいた辺り一帯を適当に。そんな大雑把なもので構わない。狙って当てるつもりなど、端からないのだ。

『見えた!』

「やっぱり、あのビームシールドみたいなのはダミーだったか」

 奔る光が幾つものミサイルを巻き込んで、夜の闇を白く切り開く。そこにはウェスペリオー本体の他に、ふたつの小さな影。ビームシールドとミサイルコンテナを積んだ、中型のビットだ。あれがスモークミサイルを吐き出すと共に、暗闇の中での目印として、こちらの目を欺いていたのだ。しかし、手品の種が割れればなんてことはない。

 通常の形に戻ったGNソードⅤが、バスターライフルの軌跡を追うように闇を切る。それはさっきまでの光と比べればはるかに頼りない。だが、それでも充分だ。

『なんて真似をしてくれるんですかあッ!』

 咄嗟にダミーのビットが間に割り込んでくる。が、既にそこにはソードビットが展開している。剣閃が煌めき、ダミービットが爆散する。その明りが、煌々と二人の影を照らし出した。GNソードⅤで、一撃。しかしそれだけでは終わらせない。

『スキル発動、ディアホーンスラッシュ!』

 サブアームで展開した鬼姫を十字に振るい、追撃。咄嗟に翼を閉じて、剣戟を防ぐウェスペリオーだが、それでもまだシャウの攻め手は緩まない。更に左腕のアームガードから、ビームガンを乱射。先の盲目の死天使が使ってきた、ビームガンを追撃に使うという使い方を、シャウは完全にものにしている。寸刻の間をおいて、シャウの名前がファンファーレと共にバーチャルの空に浮かび上がった。

 

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