蠍の尻尾   作:深波 月夜

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・1-3

『左、回避!』

 主の声に、反射的に岩影に飛び込む。爆風。装甲に、弾けとんだ石があたる。相手の武装は、恐らくフォートブラッグの滑空砲。長距離からの榴弾砲による爆撃には、接近戦用の装備しかない私では、手も足も出ない。緩急をつけるためか、辺りが静まり攻撃の気配が消えた。狙撃武器を持つ相手に距離を詰め切れないのは、今までから考えてもよくないパターンだ。

『相手の位置は大体掴めた、フィールド外れの岩山の上辺りだね』  

 そう、今までの、よくないパターン。主はいつも的確で、驚くほど素早く指示してくれる。それに応えられないのは、私の方。

 

 

「私も、バトルを?」

「そう、せっかくここまで来たんだし、アルのバトルも大分早く終わったし。勿論、シャウがよければだけど」

 いちいち確認なんてとらなくったっていいのにさ。そんなこと聞かなくたって、マスターがバトルしようなんて言ったらアイツがイヤだなんて言うわけがないのに。

 基本、ボク達神姫にマスターに対する「NO」はない。人間の大事な意思決定に、強い強制力を持てないのは、そりゃあ所詮はホビーだからだ。中にはキャラとして嫌がってみせたり、言うことを聞かなかったりする神姫もいるけど、あくまでもキャラクターの範疇だけだしね。

「はい、主がお望みなら」

 ほら、やっぱり。そんな中でもアイツはさらに、マスターの意思を汲もうとするタイプだし、負けこんでて乗り気でなくてもそう答えるさ。

 いつもの装備をセッティングして、ポッドに接続。バトルフィールドは岩山。レッグパーツで走破性を強化しているアイツには苦手とも得意とも言えない地形だ。あとは、相手がどんな装備かによるけど、ね。

 

 

 最初の一撃を見たときに既に胸の中に沸き上がる苦手意識と不安感。それを極力無視して走り続ける。今のところ致命的なダメージはないが、時間の問題であることは否めない。柔軟なばねがある私のレッグパーツなら、不整地であっても駆け続けるのは難しくはないが、距離がありすぎる。

 負けたくない。

 負けたくない、負けたくない。

 逸る気持ちに体はついてこれず、少しずつ足にもダメージが溜まっていく。このままでは、長くは保たない。

『勝ちたい?』

 苦い顔をしていたのだろうか。主が柔らかい声で語りかける。

「当たり前です」

 きつい顔をしたかもしれない。でも、私は必死だった。私は、もっと強くなりたい。神姫としての当然の感情に、主の為に、という気持ちが乗る。主の為に、勝ちたい。

『よし、なら、勝ちに行こうか。左側の岩場に飛び込んで』

 足場に突き出る岩の上を跳び移るようにして、指示された場所へ向かう。いくつもの岩が突き出たそこは、身を隠すにはいかにも頼りなかったが、主の指示はいつもと同じで自信に溢れていた。爆風が、一瞬前にいた場所を薙ぎ払う。この不整地で一歩でも足を止めれば、たちまち餌食にされてしまう。それをうまく駆け抜けられているのは、レッグパーツの高い性能のおかげだ。主の作ってくれたこのパーツは小型ながらも高い走破性と機動力を持っている。向かう先を悟られないよう、フェイントを挟みつつ、駆ける。次の一歩で、ゴール。突き立った岩と岩の間に入り込むのと、最後の爆撃が蹴った岩ごと足首を砕くのは同時だった。それを最後に、また少し爆撃がやんだ。

『こっちが身を隠すと、一面薙ぎ払えるように時間差で一気に複数発撃ち込んでくる。合図をしたら、その爆風に乗って、垂直に跳ぶんだ』

 ただ緩急をつけたのではなかったことを、主は分かっていた。それだけ冷静に戦況を把握していたのだ。それなら私は、ただ残された脚で高く跳べばいい。私は主の意思を乗せる刃になる、ただそれだけを考える。

『今!』

「はいっ!」

 砕けていない方の脚で地を蹴る刹那、強い力で更に打ち上げられる。巻き上げられた煙を払い除けて、私は青い空に放り出され……。

『装備変更、転送!』

 私の背に、青く輝く翼があった。反射的にエンジンを回す。唸りをあげて、私の体は大空を切り裂いた!

『後は、相手のところまで一直線だ!』

「はい! 征きます!」

 ここしばらく、訓練を続けていた新装備。機動が体に染み込むまでは実戦では使わないと言われていたウイングパーツ。デフォルト武装の組み換えで作られた翼は、咄嗟であっても、もう十分操作を心得ている。

『榴弾は弾速が遅いし、直撃しなければ爆発もしない。冷静に避けて』

 加速。数拍遅れで敵の砲弾。かわす。鋭い動きで次々と。見える。向かってくる弾道が読める。相手がどこにいるのかが分かる!

『接近したらライフルに注意。サブで何を持ってるか分からないからね』

「了解です!」

 腰のサブアームを展開し、幅広の剣、ジュダイクスで体の正面を隠す。果たして、予想は当たっていた。硬質な音と衝撃が、ジュダイクスを叩く。連射してこないところを見ると、スナイパーライフルだろうか。相手が展開していた機械脚を収納し、動き出すのが見える。遅い。展開したサブアームで、二門あった滑空砲を叩き斬り、自分で抱えていた両刃剣リノケロスで胴体部に一撃。パワーダイブ気味に突っ込んだ勢いがあってか、足で岩肌を削りながら体を制止させる。

 ゆっくりと立ち上がり空を見上げると、『1P シャウラ WIN』の表示。慌ただしくて、ついていくのがやっとだったが、今まで勝つことの出来ない相手から、勝ちを得ることが出来た。その事実もまだ頭の中に染み透らない内に、私の意識はバーチャルから溶け出し始めていた。

 

 

 まったく、結果だけ見たらアイツの圧勝じゃんか。もともと接近しての格闘戦になれば、そんなに悪くないんだから。ただ、アイツに今までに足りなかったのは格闘に持ち込む方法。前のレッグパーツだって悪くはなかったけど、例えば今回みたいに距離が大きく開いちゃったりすると、機動力が足りなくて、距離を詰めるより先にやられちゃうわけだからね。マスターが何を考えてるか知らないけど、機動力だけならデフォルトの武装で戦った方がいいだろうに。あーあ、あんなに喜んじゃって。元々相手の懐に飛び込めた時点で勝ち確定の相手じゃないさ。

 あー……何となく自覚はあったけど、やっぱりボクはアイツが苦手みたい。口うるさいし、面白味がないし、なのにマスターはアイツばっかり構ってるし……今回のバトルだってボクの時とは違って細かく細かく指示を出してる。あー、胸がモヤモヤする! 面白くない! そんなボクの気持ちを知らずに、マスターは二人で勝ったお祝いなんて、呑気なことを言ってる。こうなったら、何かワガママを通してやろう。

 

 

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