「そういえば、主、本棚に飾ってある模型なんですけれど、あれ、なんなんですか?」
「なんなんですか、とは?」
師走の風も感じられる頃。シャウの急な質問に、俺は答えに詰まる。え? 部屋に模型とかあったら駄目とか、そういうことだろうか。でも今更? もう一年以上飾りっぱなしなんだけど?
「いえ、その模型、ずっと飾ってあるじゃないですか。だから、何か思い入れのある作品なのだろうと思いまして。どんな作品なのか、知りたくなったのですが……何か、お気に触りましたか……?」
なんだ、そういうことか、驚いた。
「これは三十年くらい前の特撮作品の主人公でね。俺の大好きな作品を、ある人が俺のために造ってくれたんだ。多分アルに言えば出してくれるんじゃないかな。あいつは最近、俺より俺のコレクションに詳しくなってるから」
「真ん中から色が分かれてるのと、黒一色のと、何か違うんですか?」
うん、一年以上飾ってあったとはいえ、中々いいところに眼を着けるな。
「興味が湧いたんなら、それこそ原典に触れるのがいいと思うよ。作品としても、素晴らしい出来なのは保障するから。訓練の合間に、三十分ずつでも、見てごらん」
ほとんど何も解説らしき解説をしなかったのだが、それも仕方なし。こういうものは他人の口から聞くよりも、まずは自分の目で見るのが一番だ。
それからしばらく、学校から家に帰る頃にはその特撮が流れていることが多くなった。それに俺の作業BGMにアルが選んでくれるのも、その特撮であることが増えた気がする。それをなんとなく見聞きしていると、ちゃんと一話から順を追って見ている様だ。いつもはアクション中心で見飛ばしてしまうシャウにしては、かなり珍らしい。
それが二週間ほど続いた頃。
「さて、三人ともクリスマスの仕度は出来てるか?ちゃんと何が欲しいか伝えられない奴にはプレゼントは来ないぞ」
「うッス! 自分は、筋トレ器具が欲しいッス! 出来たら腹筋ローラー的な……グッと来る奴がいいッス!」
うむ。俺も神姫関連用品のカタログはよく見ているけれど、神姫用の筋トレ器具なんてものは見たことがない。これは自作することになりそうだが、まあ作りはそんなに難しいものじゃない。何とかなるだろう。
「ボクはねー、変身ベルトが欲しいなー。Vバックルはこの間もらったから、まだ持ってない奴で」
うむ。これは比較的簡単だ。本格的な武装展開システムを組み込んだ奴とかもあるにはあるが、アルが求めているのは、あくまでなりきり玩具としての変身ベルトだということがこの間のプレゼントで分かっている。これも何とかなるだろう。
「私は……その……」
うむ。何故シャウはいつも自分の欲求を出すときに口ごもるのだ。頬を赤く染め、もじもじしながらこっちを見てくるその姿がかわいいのは確かだが、話はまったく進まない。
「シャウ、前にも言ったけど、とりあえず希望なんだから、伝えてくれないと分からないだろ。その様子だと思いついてはいるみたいだし。何が欲しいのか教えてよ」
「その……帽子を……」
あの作品を見て、帽子を欲しがる……どうやらシャウは、しっかり作品世界にのめり込んでくれているらしい。それ自体は嬉しいことだ。そして、あの作品の象徴的な帽子と言えば、フェルト帽だ。そこまではすぐに思いつく。が……。
「あ……もしかして、私、また何か難しいことを言ってしまいました……?」
まあ、正直なところ、難しい。
神姫の服飾も昨今では大分充実していて、神姫ショップなどでも様々なサイズのものを取り扱うようになっている。だが、服飾小物においては、まだまだ充分なフォローが入っていないのが現状だ。特に帽子は、必要サイズが神姫のデザインによって大きく異なるため、武装神姫にとっては鬼門である。特にエスパディアは武装神姫の中でも、一、二を争うほど小顔なデザインだ。頭も小さく、帽子のサイズ選びが非常に難しい神姫として一部では有名なのだ。市販の量産品では、まず間違いなくシャウにとっては大きすぎるものばかりだろう。
まあ、それでも心当たりはあるし、何とか出来なくはないだろう……。
「おや、久しぶりですね、先生。すっかりご無沙汰なんで、もう忘れられたかと思ってましたよ」
「その先生っていうの、やめてくださいって言ってるじゃないですか。もう」
「何を言ってるんですか、先生は先生なんだから」
その日俺が学校の帰りに訪ねたのは、個人でミニチュアの服から武装から、果てはカスタムパーツまで製作している、言わばフィギュアロボットの何でも屋だ。以前から親交があって、一般に流通しないようなものを手に入れる際にはお世話になっている。
「まあ、呼び方のことは置いておいて、用立てて欲しいものがあるんですけど」
「はいはい、今回は何がご入用ですか?」
「以前作ってもらった、帽子をひとつお願いしたいんですよ」
「また帽子ですか? 以前の奴は壊れちゃったのかな」
「いや、今回はウチの神姫にプレゼントする用で。前のやつはちゃんと大事にとってありますよ。第一、そうそう壊すような機会もないですし」
俺は苦笑いする。ここで作ってくれる帽子は、人間サイズの帽子を作るのと同様、型を作ってフェルトを圧着させて作っている。その出来は、まさに職人技だ。
「おや、先生、神姫も始められたんですか」
「ええ、一年ほど前になるかな」
俺は出された紙に頭のサイズや帽子の色など、必要なことを書き込んでいく。次いで今の住所なども書き込み、完成したら送ってもらえるようにしておく。サイズ的には以前作った型がそのまま使えるそうで、一週間ほどで出来上がるそうだ。時期としてもちょうどいい。その後も二時間ほど、最近の話をしてから俺は店を出た。既に日は暮れてしまったが、まだ他のプレゼントの手配もあるし、もう少し寄るところがあるんだよな……少し遅くなってしまうが、何とか今日のうちに片付けたい。俺は携帯を取り出すと、帰りが遅くなる旨のメールを送った。
そしてクリスマスの夜。その日も私達は、いつものようにバトルロンドに出て、いつものように反省会を済ませ、家に戻ってきた。帰り道で買ったケーキとチキンを簡単に用意して、夕食。この家に、人間は主一人だ。それだけに、クリスマスと言っても大きなツリーや飾り付けがあるということはない。それでも、私達のサイズの小さなツリーが用意されている。それだけで、私には充分だった。
「さて、それじゃあお待ちかねのプレゼントといこうか」
そう言って、主は小さな包みをみっつ取り出した。それぞれに、しっかりとラッピングまでされている。
「シャウ、開けてみてよ」
「はい」
包みを開けると、そこから出てきたのは、黒いフェルトの帽子。白いリボンが巻かれ、そこには『WIND SCALE』という作中メーカーのロゴまで入っている。
「これは……! 主!」
「気に入ってもらえたかな?」
「勿論です! 主、ありがとうございます!」
帽子を胸に掻き抱き精一杯のお礼を告げる。この感動は、一体どうやって伝えればいいだろう。まるで作中で主人公が被っているものを、そのまま取り出してきてくれたようだ。
「おおっ、これは! まごうことなき腹筋ローラー! ご主人、よくこんなものを見つけてくれたッスね!」
「いや、流石に神姫用の筋トレ器具なんて売ってなかったから、それは市販のローラーとグリップを組み合わせて作った自作品だよ。簡単な作りだから、もし壊しても同じ物が作れるからね」
「壊さねッスよ! 大事に使うッス!」
後ろでは、メサルティムも自分の贈り物を見て感動の声を上げている。
「おおー! ボクのはWドライバーだね! さすがマスター、分かってらっしゃる」
「ちゃんとガイアメモリも外れるし、ドライバー自体も動くやつだよ」
あっ……作中で、主人公が使う変身アイテム……。いえ、贈り物は一人ひとつずつですから……羨ましくなんかは……。
「シャウラ、羨ましいだろー。どうだー?」
「べっ、別に、羨ましくなんかっ……!」
「姉さん、涙目になってるッス……」
「別に! 涙目になんか! なってません!」
「えーと……シャウ?」
「何でも! ないです!」
……後日、ベルトを借りてめっちゃ嬉しそうにしているシャウの姿を目にすることになるのだが、それはまた別のお話。