蠍の尻尾   作:深波 月夜

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・6-1

 朝の光が差す駅前で、俺達は人を待っていた。

「遅せーな、あいつ、時計見てねーんじゃねーの?」

 花道は時計を見ながらいらいらしているが、実際は俺達が早過ぎるのだ。日野は時間には遅れない。が、本当に遅れないだけだ。一方花道は意外と時間にはうるさく、待ち合わせよりも早く来ることを身上にしている。

「いつものことだろ、花道。第一、まだ待ち合わせにほ十分もある」

「社会人になったらよー、十分前行動は当たり前だろうがよー」

「残念だったな、俺と日野は四月からも当分学生だよ……ほら、来た」

 こちらの姿を認めても、別に急ぐ風もなく日野が歩いて来る。その様子に花道がいらつくのも、俺達三人にはいつものこと、だ。

「や、お待たせ」

「遅せーよ、何分待たすんだよ」

「そう思うなら、今度からはもう少しゆっくる来るんだな、花道。日野は待ち合わせとしちゃ、普通に着いてる」

「花道、また早く来てたの? 今日は何分前に来たのさ」

「うるせーな、三十分前には着いてたよ」

 それは流石に早過ぎだろ。俺がそう思うのと、日野が遠足前の小学生か、と笑い声を上げるのは同時だった。

 

 陽ざしも暖かく、風も春の匂いが強くなってきた。

 今日は、鳳凰杯初日である。俺達は三人連れ立って、東京にある鳳条院グループ本社ビルの近くにあるスタジアムまで電車で向かった。高校では仲の良かった三人だが、同じ舞台に立つのは初めてだ。まあ、それは俺がフィギュアロボットによるバトルゲームを頑なに触らなかったからなのだが。それでも、最初で最後とはいえ、この二人と同じ大会に出られると言うのが、嬉しくないわけではない。それはきっと、花道と日野の二人も同じだろう。

 会場までの道程は、思い出話に花を咲かせていたらあっという間に過ぎてしまった。入学当時のことも話したが、俺が神姫に触れてからの一年半ほどの話が大半だった。それだけ、俺達の中には武装神姫というものが根を張っているということだろう。

「着いたぜ、ここが今日の会場だ」

「花道、本当に楽しそうだな。完全に遠足気分かよ」

「いいじゃない、別に。花道は、俺達三人でこういう大会に出るの、夢だったんだってさ」

 何だそれは。初耳だ。というか、何でそんなことを?

「日野、お前、そういうこと本人の前で言うか!?」

「花道はさ、結構君のこと、気にしてたんだよ。勿論変な意味じゃなくてね。だから、君が神姫始めたとき、結構喜んでてさ。同じ土俵で競い合えるって。それで今日も、早く着いちゃったんだろ」

「……ちっ、そうだよ、悪ぃかよ、畜生」

 いや、別に悪くないだろ。と言うか、そんな風に思っていてくれたなんて、まったく知らなかったぞ。俺の中に、少しだけ、ずきん、とするものがあった……。

「変な空気にしてんじゃねーよ。今日はせっかくの祭りなんだからよ、楽しく暴れりゃそれでいーんだよ、ったく」

 そう言うと花道は一人でずかずかと入り口に入っていく。日野はやれやれ、といった風な顔を浮かべ、花道を追いかける。俺も二人の後を追って、入り口を潜った。

 

 十時になり、予選の開会時刻を迎えた。鳳条院グループ社長による開会宣言のみの簡単な開会式を終え、早速会場内ではグループごとに移動が始まっている。俺は予選Dグループ。花道と日野はそれぞれEとLで、綺麗にばらばらになった。

「さて、次に会うときは決勝トーナメントに参加することになってるわけだがよー」

「やれやれ、まだ気が早過ぎるでしょ、花道」

「いいじゃないか、日野。それぐらいの気持ちで臨んだって。そもそも、二人は本戦まで残ったことがあるんだろ」

「まあ、あの時はファーストリーガーとは当たらなかったからね」

 それでもセカンド上位の実績は伊達ではないのだ。予選でもエンジョイ勢のサードリーガー辺りなら、歯牙にもかけないだろう。

「とりあえず、今日はもう祝勝会の場所、取っちまってるからな。負けんじゃねーぞ?」

「……花道、それは流石に気が早すぎるでしょ」

「俺もそう思う……」

「ばっ……! なんだよ、いーだろ別に! 誰か負けちまったらお前ら二人の合格祝い! 全員負けちまったら残念会だ! 別に無駄にはなんねーだろ!」

 日野がぼそっと、三人で大会に出るのがよっぽど嬉しかったんだな、と呟いた。俺は苦笑いしながら花道の背中を叩く。

「そんなこと言っといて、一番に負けるんじゃないか? 味噌をつけてくれるなよ?」

「誰に向かって言ってんだよ、これでも全国大会経験者だぜ?」

「負けるつもりは、俺もないけどね」

 三人が、誰が言うともなく拳を合わせる。

「決勝で」

「おう」

「じゃ、決勝で」

 三人が、それぞれのグループに向かう。

 決勝で会おう。俺は二人の友人に、もう一度、心の中で呟いた。

 

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