蠍の尻尾   作:深波 月夜

48 / 80
・6-3

 Dグループのもう一方の試合が終わり、若干のインターバルを挟んですぐに第二試合が始まる。試合が終わろうが終わるまいが規定の時間を待ってくれた、この間の公式大会とはそこが大きな違いだ。

 予選リーグ二回戦の相手は、イーアネイラだった。

 

 イーアネイラ。その神姫は自分に与えられた特性に、特化すれば特化するほど、ホームグラウンドでは強力な神姫に育つ。しかし逆に、どんなにホーム以外で勝とうとセッティングしても、中々高い評価は得られない神姫だった。

 と言うのも、イーアネイラは人魚型である。水中・水上であれば、大半の他の神姫には追随も許さないだろう。が、現在のバトルフィールドの環境で、それを生かせるステージはほとんどない。つまりイーアネイラのバトルロンドでの評価は、水中ステージ以外では、眠れる獅子なのだ。

 

 ホーム以外では評価の低いイーアネイラ。それであえてこのランダムステージの鳳凰杯に挑んでくると言うのが逆に不気味ではある。

「まあ、最高に運が悪くても、イーアネイラの水中装備と水中ステージが両方揃うなんてことはないと思うけどね。それを狙ってるとしたら、賭けの要素が強すぎる」

「ですね。しかしそうなると、逆に相手が何を狙っているのか、疑問が尽きません」

「……と言うことはイーアネイラの特性を活かすのを諦めて、陸戦か空戦の装備をしている、って予想が一番しっくり来るんだけど……何かが、足りない気がするんだよな」

「とりあえず、スピード重視のカスタムでお願いします。後は現地で帳尻を合わせますから」

 そうこうしている内に時間切れだ。今回は速度重視の設定に、各種刀剣類をサイドボードへ。メインには鬼姫とジュダイクスの四刀だ。

 

 今回のステージは「廃墟のビル街」。幾つものビルが林立する、地上戦では戦術的な動きの出来るステージだ。上空まで突き立つビル群もあり、市街地同様空戦でも障害物として使える。

「そういえば、ここ、アルが壁走りを見せてくれたステージだったな」

『ええ、覚えていますよ。あの技は私には真似が出来そうにありませんから』

 話しながら、いつものように上空を飛びつつ索敵。が、ビルの群れに近づくと、突然、レーザーとミサイルの攻撃を受ける。

「もう発見されたのか?」

『違います、これは……!』

 シャウの言葉通り、攻撃は全て明後日の方向と言うか、適当な狙いでとりあえず撃たれているようだ。幾つもの攻撃が、破壊可能オブジェクトのビルを壊している。とりあえず破壊された場所を狙えそうなところを計算し、距離と位置を割り出す。この辺りはマスターである俺の役目だ。それによると、ビル群の真ん中辺りだ。

 ビルを見渡せる上空へ。高所から見おろすと、結構ビルの上階部分は壊されている。が、それを辿れば……。

「いた! 正面のビルのまん前に陣取って砲撃姿勢!」

 パワーダイブ気味に駆ければ、すぐ手が届く位置。まだこちらを発見していないらしく、適当にスキュラのミサイルや、サーペント・ランチャーを撃っている。

『征きます!』

 相手を見定めたシャウが、腹を括る。たまたま飛んでくるミサイルをバリアシールドで防ぎつつ、一瞬で攻撃態勢に入る。相手もこちらを視認したらしく、足のヒレを優雅に振って迎撃の姿勢だ。

 ん……? 陸戦なのに、テティス・テイルパーツを装備しっぱなしなのか……? しかもここまでの行動が無秩序なオブジェクトの破壊……。

「シャウ、上空に上がれ、急げ!」

『急上昇、かけます』

 シャウが急制動をかけ、無理やり上空へ退避する。ある程度の高度を取り、イーアネイラの方を振り向く。

『あらあら、もう少しゆっくりしていかれたらよろしかったのに』

 ゆったりとした人魚が、身体にスキルの光を灯した。

『ビルを充分壊してSPも溜まりましたし、それじゃあお見せしますわね?』

 人魚の声は、本当にここがバトルフィールドなのかと疑いたくなるほど穏やかだ。だが、それに惑わされてはいけない。

『スキル、発動。『レイジ・オブ・オケアノス』!』

 やはり来た!

『何ですか、これ! フィールドが揺れるなんて!』

「イーアネイラのスキルの効果だ。これは単純だが強力なスキルで……バトルフィールドに海を召喚する!」

『そんなスキルが……!』

 見る間に、ビルの林は水に飲み込まれてゆき、あっという間に海面からビルの頭だけが出ている、そんなステージに変えられてしまった。

 

 スキル『レイジ・オブ・オケアノス』は使いどころのないスキルだ、と言われている。その発動には、イーアネイラ型の装備をほとんど全て身に付ける必要があり、装備の自由度が大きく下げられてしまう。しかもその効果は直接的な攻撃ではないため、当たり判定もない。そして決定的なのが、そこまでしてもフィールドの全てが水中になるわけではない、という点だ。今回もステージの大半を飲み込んだ水だが、精々ビルの半分が水没しただけで、シャウのような飛行型には空というもうひとつのフィールドがある。つまり、大掛かりな準備が必要な割には、勝負を決める決定打とはなり得ない。それがこのスキルの世間的な評価だ。

 しかし、イーアネイラ型の武装をフルに使いこなすなら、フィールドに水を呼ぶという効果だけでも充分以上に強力だ。少なくとも水中にいるだけで、こちらからの攻撃はまともに機能しなくなる。特にシャウのような格闘特化の機体では、水中でまともに機能する攻撃というのは極端に限られる。つまり、少なくとも負けの目を大きく減らすスキルではあるのだ。そして……。

 

『ミサイル、来ます!』

「回避して、敵の位置を割り出す」

 とは言ったものの、相手は水中を高速で移動しながら撃ってきている。今の居場所を特定出来たとしても、寸刻後にはもう移動してしまっているのだ。

 さあ、どうする……今はまだ回避も間に合うし、散発的な攻撃にはバリアシールドを展開することも出来る。だが、ただ水を呼んで穴熊よろしく巣に篭るだけでは芸がない。恐らくここから、何かしらの追加の一手があるはずだ。

「発射位置がどんどん近づいてきてる。何か仕掛けてくるぞ、注意して」

『主、ソードビットをください、せめて事が起こる前に展開します』

 すぐにビットコンテナを兼ねたシールドを送る。が、ソードビットも水中で充分に機能する装備ではない。相手が水の中にいる以上、こちらの武器はすべて枷をつけられたも同じなのだ。

ざざ、ざざ、と水がさざめく。一瞬、背筋を撫ぜる違和感に、身が震える。静か過ぎる!

「シャウ、来るぞ! 構えろ!」

『ッ!』

『スキル発動! 『ウェパル・アサルト』!』

 突然姿を現したイーアネイラ。その場所は、真下。水中から猛烈な勢いで飛び出してくる、その手には、三叉の槍『トリアイナ』。瞬間、反応し、六枚のビットが迎撃に向かう。確かに入った。が……。

「またハイパーアーマーか!」

 勢いはまったく衰えず、その槍の一撃がシャウを襲う。迎撃に意識を向けたためか、防御は間に合わない。

『うあ、っ!』

「シャウ!」

 一撃加え、静かに着水すると影を捉える間もなく水の中に消える。寸刻間をおいて、再びスキュラのミサイルが飛んでくる。

『くっ……シールド!』

「ダメージの診断は?」

『かなり削られましたが、動作不良箇所、ありません。まだ征けます!』

 今のスキル、『ウェパル・アサルト』。これも使いどころが難しく、敬遠されがちなスキルだ。ハイパーアーマーを付与し、水中から飛び出し様の一撃を加えるスキル。その動きは捉えにくく、攻撃力も高い部類に入る。その唯一の弱点は、水中フィールドでないとそもそも使うことが出来ないというその一点に尽きる。『レイジ・オブ・オケアノス』同様、メインのスキルに据えられた『ウェパル・アサルト』でさえ癖が強すぎて、水中以外では性能を発揮出来ないとあって、イーアネイラがバトルではあまり見られない理由のひとつになっている。そのふたつのスキルがコンボを組むことで、これほど強力になろうとは。

 

 

 どうする……散発的な射撃でダメージを食らうことはないが、このままではジリ貧だ。『ウェパル・アサルト』は迎撃出来ない。しかし、私の方から水中に入ったところで水中特化型のイーアネイラの前では手玉に取られるのが落ちだ。相手は再度、スキュラとサーペントの射撃に切り替えてきている。が、それもSPが溜まるまでの繋ぎだろう。準備さえ整えば、また『ウェパル・アサルト』が来るはずだ。

 回避のために、私は高度を取り、高速で飛んでいる。イーアネイラはそれに追いつくことは出来ないが、射撃だけはこちらを捉えて離さない。射撃位置は相変わらず、こちらを追い続けている。それに対して、今の私が取りうる手段は、ただ逃げるだけ。このままではいけない。どこかで、反撃に転じなければ、勝ちの目はないのだ。

『シャウ、今から指示するポイントに移動だ。そこで勝負に出るぞ』

「反撃の策があるのですか?」

『俺も試したことがないから、うまく行けば、だけどね。まあ、多分、いけるんじゃないかな』

 主にしては珍しく、歯切れが悪いお返事。それも仕方ないのかもしれない。何しろ、水中に篭る相手と戦うことなど、初めてなのだから。それでも、主の見つけた勝ち筋があるのなら、それにすべてを賭けるのに、何をためらうことはない。私は、主の望むものを裁つ刃になる。ただ、それだけでいい。

 主が指示した位置は、水没したビル群のはずれ。破壊されたビルの立ち並ぶ場所を、細かく指定する。

『そこだ、高度、下げ』

 高度を下げる。その指示に一瞬、違和感を覚える。高度があるからこそ、水中から飛んでくるミサイルやランチャーを余裕をもって避けられるのだ。言わば、その距離が私のかざす盾なのに、それを手放せ、という指示。しかし、すぐにそれを飲み込み、高度を下げる。ビルに囲まれた辺りを、水面ぎりぎりまで下がる。正面から、ミサイル。避けるだけの広さはなく、シールドを張って身を守る。

『シャウ、ちょっとの間でいい。潜れるか』

 なんという指示だろう。空戦装備の私に、水中特化型を相手取って相手の土俵に飛び込めと言う。しかし、それが主の見定めた筋道ならば、私にためらうことはない!

「ええ、主が望むのならば」

『よし、水中ですぐにスキルだ。サイドボードを送る』

 サイドボード。これで私にも主の考えが伝わった。

『相手は正面。頼むぞ』

「はい、征きます!」

 水の壁に、私は自らぶつかって行く。水の揺らめきに合わせて、視界が揺れる。そういえば起動してから一年半ほどになるが、バーチャルとは言えこうして頭の先まで水の中に入ったことなど、ついぞなかった。そんなことを思った刹那、手にしていた鬼姫に変わり、リノケロスが送られてくる。思った通り。ここで、主が望まれているスキルは……。

「スキル発動! 『パッシング・シェイブ』!」

 合体剣、ギラファブレイドを、思い切り振りまわす。重い。水の中で剣を振るうのがこんなにも大変だなんて! それでも、パッシング・シェイブの追加効果は、確かに発動している。水が渦を巻き、周囲の瓦礫を舞い上げる。その中に、いた。確かに正面から、イーアネイラが渦に飲まれて、引き寄せられてくる。が、相手もただ引き寄せられてくるだけではない。水の流れに乗せて、スキュラのミサイルをありったけ放ってくる。だからと言って、止められるものか!

「おおおぉぉぉ!」

 着弾。爆発のダメージが、私の身体に刻まれる。それでも。逸れたミサイルも、爆発が水圧となって牙を剥く。それでも! ここで負けるわけにはいかない!

 密着。待ち望んだ瞬間だ。ギラファブレイドを、水平に一閃。水の重さとは違う、手ごたえが確かにあった。次いで、急上昇。再び空中へと駆け上がり、すぐさまパワーダイブ!

「いっけえええぇぇ!」

 水面近くの魚影めがけて、自らの身体を杭として打ち込む。私を中心に、激しい水柱が上がる。そのまま、流れるように剣の連結を解除。もうひとつのスキル、『ディアホーンスラッシュ』へのコンボを繋ぐ。何百回と訓練した、私の決め技だ。二本の刃が、イーアネイラの身体を十字に切り裂いた。

 

 

「ん、お疲れ。よくやったな」

「はい」

 いつものバトル後の、いつもの労いの言葉。そっと近づけられる人差し指に、拳を合わせる。

「主、よく水中でイーアネイラが来る方向を絞れましたね。あれがなければ、パッシング・シェイブでも決められなかったかもしれません」

「ああ、あれ? あの場所、覚えがなかったかな。あそこ、アルが壁を走った場所だよ。三方向が壁で、あそこの路地に入れる道は一箇所しかない。いくら水浸しにされてるとは言え、入り口が一箇所しかなければ来る場所は同じさ」

 なるほど。あの場所だったのか。私が羨んだ、あの技を見せた路地。そう言えば、様変わりしてしまっていたが今回のバトルフィールドは、アルキオネとの才能の差を思い知らされたバトルと、同じフィールドだった。

 主の知識は一体、どこまで及んでいるのだろう。フィールドの知識もそうだが、スキルにしても、バトルの方法にしても、私以上に詳しく、正確だ。何より、対戦中の作戦の組み立ての速さと緻密さには、舌を巻く。それを感じるたびに私は、主と共に道を歩んでいる気がして、嬉しくなる。『格闘戦最強』という謳い文句を現実のものにするために、主も共に進んでくれるのだ。そう思えるから。

「さて、とりあえず今日はもう一戦、頑張ってもらわないといけないんだけど。いけるか?」

「ええ、主が望むのならば、いつでも」

後一戦。それを勝ち抜けば、決勝トーナメントの出場が叶う。勝ちたい。私のために。そして何より、主のために。その気持ちを胸に、私達は次の試合に向かった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。