蠍の尻尾   作:深波 月夜

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・6-5

「えー、それじゃあよー、まずは、三人全員での決勝トーナメント進出を祝って、僭越ながら……」

「はいかんぱーい」

「乾杯」

「聞けよ! お前ら! 人が喋ってんのをよー!」

 花道が一人で切れている。俺と日野はジュースの入ったグラスをぶつけると、早速口をつける。

「ごめんごめん。いやでもさ、花道の話って長いんだもの」

「もうちょっと話を短く簡潔に、ってのは、社会で教えてもらわないのか社会人」

 

 鳳凰杯一日目の結果は、三人とも無事に決勝トーナメントに残れることになった。その中でもファーストリーガーと当たったのは俺だけだったが、鶴畑の末妹と当たったことを話したら、それだけで哀れまれた辺り鶴畑和美の人望というやつが垣間見える。

「それにしても、ファーストリーガーが意外といないんだな。俺はてっきり、もっと予選からファースト同士がぶつかるんだと思ってたんだが」

「まあ、鳳凰杯はどっちかって言うと、お祭りだからね。半公式みたいなものだから、神姫ポイントの移動もそこまでシビアじゃないし」

「お前も一度、見に行ってんじゃねーか。覚えてねーのかよ」

「いや、俺は覚えてるって言ってもそのときに神姫にあんまり関心があったわけじゃないから……今にして思えば、強いストラーフがいたな、ってくらいで」

 花道が予約を取ってくれたファミリーレストランは、リーズナブルなことでも有名で学生にも優しいイタリアンだ。今はピザをつつきながら、他愛もない話をしている。

「それにしても見事に三人ばらけたなー」

「俺と花道が両方勝ち上がれば、準決勝。日野とは決勝まで当たらないからな」

「でも、花道は一回戦ファーストのレッド・ホット・クリスマスと対戦でしょ。勝ち上がれるの?」

「う……そりゃ、まあ、負けるつもりはねーけどよ……」

 そう。花道は公式の全国大会にも出場経験のあるツガル型と一回戦で当たる。レッド・ホット・クリスマスと言うのは、有名な神姫やプレイヤーのことを誰からともなく呼び始めた、二つ名というやつだ。それがあるということは、その試合が注目を浴びているということでもあり、とりもなおさず強力なプレイヤーであることの証明でも……。

「それでも、俺だって二つ名ぐれー持ってるし、そういう意味でも負けてねーぞ」

「……そうなのか?」

「うん、花道は『天雷』って呼ばれてる。元々飛鳥の追撃スキルのことなんだけど、花道は一度攻勢に回ったら強くてね。このスキルの使いどころが絶妙なんだ」

「お前だって二つ名あるじゃねーかよ、『ハイウェイ・スター』の日野くんよー」

「『ハイウェイ・スター』?」

「そーだよ、日野はハイウェイみてーに舗装道があるステージが強えーんだよ。もともとリリィはイーダだから、そういう場所に強えーのは当然なんだけどよ、陸戦の高機動戦ならちょっとしたもんだぜ」

 そういえば、日野とはそういうステージでやったことがないな……それに花道とやったときも、G&Sのついでで来ていたときだったし、あれが本気だったとも思えない。

「なんだ、二つ名が羨ましくなってきたか?」

「でも鳳凰杯の本戦に残ったんだから、明日の選手紹介で何かつけられるかもね。花道の『天雷』だって、俺が覚えてる限り、去年の鳳凰杯からだったと思うよ」

「マジか。よく覚えてんなー」

「そりゃあ、花道は俺にとっては一番身近なライバルだからね。動向くらいはきちんとチェックするさ」

 細けーやつ、とこぼしているが、花道もまんざらではなさそうだ。日野も、臆面もなくよくそういうことを言える。まあ、俺達の関係性だから言えることなのかもしれないが。

「そういえば日野は一回戦、誰と当たるんだ?」

「ああ、俺の相手はサードリーガーだね。あんまり大会には出てないけど、有名人だよ。『ガトリングストーム』っていう二つ名の」

「ゲーッ、あいつと当たんのかよ!」

「花道は彼のこと、きっと苦手だよね。彼、対空砲山ほど積んでるから」

 なるほど、サードリーグ所属でも、高校全国レベルから、それ以上のプレイヤーが残るべくして残っている、と言うことなのだろう。

「まあ、日野のブロックには鶴畑の次男もいるし、勝ち上がるのは難しそうか?」

「そうだね。と言っても、俺も素直に譲るつもりはないけど」

 それはそうだ。俺だって鶴畑の末妹には勝っているのだ。だったら日野や花道が勝てない道理はない。

「そういうお前は、誰と当たるんだ? 聞いても分かんねーか」

「ああ、俺は知らない選手だったけど、有名なんじゃないか? Front Lineの登録選手らしいんだけど」

「ああー、先行で次世代機使ってる奴か」

「ディオーネコーポレーションからも、そういう選手が出てたね。やっぱり、メーカー的にはこういう場はアピールになるから」

 そう。ここしばらく既製品のリメイクが多かった武装神姫業界は、今、次世代機の話題で持ちきりだ。片や新進気鋭の新参入メーカー、ディオーネコーポレーションが送り出す、最強を謳う神姫『アルトレーネ』。片や武装神姫最初期から神姫事業に力を入れていた古参島田重工の子会社、Front Lineが送り出す、最新型『アーンヴァルMk2』と『ストラーフMk2』。この三機種は早くも今年の神姫業界の目玉と言われており、メーカーのモニター応募には定員の百倍とも二百倍とも言われる数の応募があったとか。

「しかし、一回戦でいきなり次世代機と当たるなんて、ついてねーな」

「一回戦でファーストに当たるやつに言われたくない」

「まあ、そういう意味では一番恵まれたのは俺かもね。彼の戦い方は見たまんまだし」

 そうかもしれない。日野としては戦力的にも性格的にも把握出来ている相手と闘うことになるのだ。一方俺は性格どころか、機体性能からして既に未知数の相手と戦わなければならない。使ってるのはアーンヴァルの方だから、やはり高機動でランチャーなんかを主兵装にするんだろうけれど……。

「あ、そうだ。オーナーカード、用意しといた方がいいよ。本当は昨日伝えようと思ってたんだけど、忘れてた」

「オーナーカード?」

「あー、名刺みてーなもんだよ。自分のハンドルネームと、交換用の連絡先載せたやつ。そうやっておけば、大会終わった後も連絡が取り合えるから、気になる戦い方してるやつと交換すると、いろいろ便利だな」

 なるほど、武装神姫の界隈ではそういう呼び方をするのか。確かにそうやって横のつながりが出来れば、戦術研究や練習にいいのだろう。普段そういう相手はゲームセンターや神姫センターでの草バトルで賄っているが、特定の戦術を試すときなんかは気心や戦術の知れた相手がほしいと思ったことはある。今までは特に声をかけたりすることもなかったが、また作ってみようか。

「カード作ると楽でいいよ。SNSなんかで使ってる名前をそのまま使えるしね」

「俺達は全国大会の登録そのまま使ってるけど、鳳凰杯は本名必須じゃねーから、そっちの方が違和感ねー相手もいるしな」

 そうか、それで二人は本名で登録していたのか。なんでわざわざ、と疑問だったのだが、ようやく納得する。プレイヤーの大半は俺のように、プレイヤーネームを持つのが普通だと思っていたから、二人が本名で参加しているのを見たときはちょっと驚いたものだ。

「そう、明日の目標としては、アルトレーネを使ってた子とオーナーカードを交換することだからな、俺ぁ」

「カードの交換はともかく、そういう下心丸出しだからいつも失敗するんじゃないの、花道」

「うるせー、年齢相応の男子として、かわいい女のオーナーがいたら声をかけたくなるのは正常なことだろーが」

「無駄だ、日野。花道にはそういうオブラートみたいなの、ないから。それに気づいてないから直らないんじゃないか」

「ははは、確かに」

「お前ら、俺を馬鹿にしてんのか!?」

また始まった。こういうところは花道の欠点であり、それを次々乗り越えていく強さは美点でもある。まあ、傍から見て、かわいい女の子と見ると声をかけないではいられない上、綺麗に毎回爆死しているというのが、長所と写るか短所と写るかは、その、なんだ。意見の分かれるところだろう。

 

 そんなこんなでも、楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。時間としてはそれほど遅い時間ではないが、俺達にとっては明日の試合が本番だ。後ろ髪引かれる思いはあるが、お開きにすることにした。

「まあなんにせよ、とりあえず残りは明日だな! 次の目標は優勝か?」

「また、大きく出たね」

「そんなこと言っておいて、一回戦で消えるなよ?」

「うるせえ、お前らこそ、一回は勝てよな」

 店を出るその瞬間まで、この雰囲気は続いていた。

 

 

 そして、決勝トーナメントの朝が来た……。

 

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