さあ鳳凰杯二日目、決勝トーナメント第二試合は、Cブロック代表Mk.A選手対Dブロック代表深波月夜選手!
Mk.A選手とそのパートナー渚選手、その戦い方はまさに豪快の一言! 武装はオーナーであるMk.A選手が作り上げた強化外骨格、『ビアンキ』! 柔軟な動きと高い格闘性能を誇っています! 予選でもストラーフを格闘戦で圧倒するパワーファイターぶりを見せてくれました! 決め技であるスキル『神雷』による飛び蹴りは圧巻で、閃光をまといながら対戦相手を撃ち抜くその様は、まさに『白光』の名にふさわしい一撃でした!
一方で深波選手とそのパートナーシャウラ選手、その技の冴えは見事なものでした! 予選では、様々な刀剣類を扱い、相手の土俵で怯まず正々堂々とした戦いを見せてくれました! 特筆すべきはそのオリジナルスキル『無名:大顎』! その一撃は防御で名を馳せるサイフォスの鎧を両断するほどの威力! 要警戒です!
バーチャルバトルだと言うのに、流石鳳凰杯の決勝トーナメントということだろうか。観客席には人が溢れている。私の緊張感とは裏腹に、主は平然とされている。まるで普段の対戦前と変わりない。
「主は緊張なさらないのですか? これだけの観衆が見ているのに……」
「まあ、客が何人いても、出来ることが変わるわけじゃないからな。ゲームセンターだって、最近は何人か見てる人もいるだろ、それと同じさ」
そういうものですか、と私は次の言葉を飲み込んだ。昨夜主と調べた限りでは、相手の神姫の戦い方は、ガチガチの格闘戦のようで、その一撃の破壊力は軽量装甲しか載せていない私には、確かに脅威だ。ならこちらも、相応の戦い方をするしかあるまい。
「装備はデフォルトで、機動力重視でいこう。あの一発は食らうとまずい」
「そうですね、遠距離武装を積んでいないように見えますし、ソードビットで撹乱するのも有効かもしれません。それも積んでもらえますか」
私の言葉を受けて、デフォルトのリアパーツにソードビットコンテナが追加される。一撃必倒のパワータイプだけに、機動力はそれほど高い方ではない。回避重視の機動力でかき回し、一撃離脱を狙うのが今回の作戦だ。
装備を整え終わると、私の意識がバーチャル空間に移る。今回のステージは「火山」。ランダムなタイミングで火口から火の玉が吹き上がる、テクニカルなステージだ。
「あたしは、渚。あなた、名前はなんていうの?」
試合開始に向けて意識を切り替えようとしていた私に、対戦相手のアーンヴァルMk2が声をかけてくる。こんなことは初めてで、私は一瞬面食らってしまった。
「え……私は、シャウラ、と申します」
「シャウラさん。いい名前だね、よろしく。楽しいバトルにしようね!」
「……よろしく、渚、さん……」
楽しいバトル……バトルロンドが楽しい、ということだろうか。そんな風に思えることを、私は心底羨ましく思った。気楽なのだ。アルキオネと同じ。私は強くなければいけない。『格闘戦最強』。そうあらねばならない。そうでなければ、私はいけないのだ。それが不良品である私の存在理由なのだから。私の中に、黒い感情が沸き上がる。負けたくない。バトルを楽しい、なんて言う神姫には。黒い感情はそのまま、私の闘志を燃え上がらせた。
『Leady...Fight!』
電子音が試合の開始を告げる。私は空へ駆け上がり、一足飛びに間合いを詰めて、先制の一撃を狙う。
「征きます!」
先行して、ソードビットを展開する。シロが私の思考を読み取り、渚さんの周囲から一撃を狙って駆け回らせる。しかし……。
「ふっ!」
気合いの呼気と共に強化外骨格『ビアンキ』の拳が唸る。鋭い一撃が空を裂き、ビットを叩き落とす。
『素手でビットを叩き落とすか……さすがに決勝トーナメントまで来ると、一筋縄ではいきそうにないな』
今のも、決して楽な一撃ではなかったはず。それでも正面からただ一撃を放つだけでは届かない。そういう相手らしい。墜とされたビットは二機。初手から『セブンスソード』を使えなくなる、その結果から見れば悪手だった。しかし、それならそれで構わない。もとより『セブンスソード』を必要とする性質の相手ではないのだ。複合フレームで組み上げられた『ビアンキ』は防御力に優れた構造ではない。通常の攻撃でも、ダメージは十分に通るはずだ。
「こっちからも、行くよッ!それッ!」
『ビアンキ』が地を蹴り、その巨体が宙を舞う。「はあッ!」
空気を裂く音が、私の耳にまで届く。サブアームの動きにバーニアをあわせ、緊急回避。繰り出された飛び蹴りが私の体を掠めるように過ぎていく。が、その一撃を警戒するには充分だった。
渚さんが地に降り立った瞬間を狙って、すれ違いざまにGNソードⅤを振るう。浅くだが、手ごたえがある。追いかけてこようとした渚さんの進路を、ソードビットでふさぐ。
「くっ……」
渚さんが咄嗟に前ではなく、後ろに飛んで距離を取る。その挙動は、大型の外骨格からは考えられないほどの速度だ。が、それが想定を外れるほどではない。そして、距離が開いてしまえば渚さんに攻撃する手段はないのだ。飛び回る蜂のように、ソードビットが渚さんの周囲を牽制してまわる。実際に突っ込ませてしまえば一瞬で墜とされてしまうかもしれない。だが、それは渚さんが万全の警戒態勢を敷いていればこそだ。動きの前後を狙えば、ソードビットでも十分に一撃を狙える。
再び向きを変えて、攻撃の構えを取る。加速。フェイントをかけながら、突き進む。渚さんは迎え撃つ構えだ。
「はあッ!」
だが、その拳は空を切る。その隙に、浅いが、一撃。これでいい。砂の山を削り取るように、少しずつ一撃を重ねる。機動力に劣る渚さんは、追い足で私を追い詰めることなど出来ない。警戒すべきはその強打だが、今の一撃ならば、深追いをしなければ、避けきることは出来る。
「なかなかやるね、シャウラさん! 予習してた動きよりも、よっぽど速いし、鋭いよ!」
予習されていた、というのは予想外だったが、それも当然かもしれない。私達だって、出来る範囲の予習はしてきているのだ。
『シャウ、そろそろ例のが来るかもしれない。警戒して』
「承知!」
そうであっても、私に出来ることは変わらない。ソードビットで牽制しつつ、突撃。前にもまして加速をつける。
「そうそう好きにはやらせないよ! ブースト、ナックル!」
『ビアンキ』の肘から延びるバーニアが火を噴く。瞬間的な加速を得て、渚さんの拳が一気に伸びてくる! 今まで相対したこともないような勢いで、新型ストラーフの拳が迫る!
「くうっ!」
すれ違いざまに一撃を入れることさえも忘れて、逃げる。この一撃は予習していた。それでも避けるだけで精一杯、いや、あらかじめ知っていなければ、避けることもかなわなかっただろう。
『へえ、渚さんのブーストナックルを、初見で避けるか。なかなかやるもんだな』
「感心してる場合じゃないよ、オーナー!」
『まあまあ、渚さん。相手は軽量装甲で一撃離脱だ。それなら、一発当てれば風向きも変わるさ。いろいろ試して、揺さぶってやろう』
「それもそうだね、まだ試合は始まったばかりだし、もっと盛り上げていかなくちゃ!」
相手のマスターとの会話が、オープンチャンネルで入ってくる。どうやら、特に専用回線設定をされていないらしい。その場合、対戦相手にも神姫との会話が開示される。
盛り上げるつもりなら、盛り上げてもらおう。ただし、それにつきあうつもりはさらさらない。
私は私の戦いをする。それだけのことだ。
思った通りのタイミングで、ブーストナックルが飛んできたのは、俺達にとっては幸運だった。予想外のタイミングで放たれていたら、あれを回避するのは難しかったろう。
「シャウ、相手もまだまだ隠し玉があるかもしれないぞ、気を抜くな」
『はい、このまま、もう一撃征きます!』
そう、ここで警戒しているのは、まだ見たことのない一撃だ。今の状況は、決してこちらの優位ではないと、俺は見ている。なにしろ、一夜漬けで相手のすべてを閲覧出来たとは思えない。出してくるとしたら、おそらくカウンターか。さっきのブーストナックル同様、こちらの意表をついた出し方で出てくるはずだ。だが、その思考が既に相手の術中だった。
『渚さん、今だ!』
『スキルいくよ! 『インパルスドライブ』! シュートッ!』
大きく振りかぶった『ビアンキ』の脚部から、エネルギー弾が吐き出される。
「シールド!」
果たして、俺の言葉は間に合った。スキルの威力自体も、シールドを貫通するほどではなかった。だが、安堵したその瞬間、もう一撃がシールドを貫く。
『きゃあッ!』
「あのスキル、連打出来るのか!?」
そう、左右の足で一発ずつ、あの飛び道具を撃ち出したのだ。こちらがシールドで受けるのも、一発でシールドを抜けないのも、計算に入れて……。
「被害は、シャウ?」
『大したことはありません、シールドが抜かれたので驚きましたが、ダメージ自体は軽微です』
「遠距離でも気を抜くなってメッセージかな? 面白くなってきたな」
一瞬、シャウが怪訝な表情をしたが、すぐに次の指示を出す。
「次にあのスキルが来たら、シールドを斜めに張って受け流すんだ。馬鹿正直に受けるだけが能じゃないってところを見せてやれ」
『了解です』
体勢を立て直し、もう一撃を狙うシャウ。
『さあ渚さん、『インパルスドライブ』も見せたことだし、相手はいよいよ隙がなくなってきたぞ』
『そうだね、オーナー。でもあたし達だって、まだまだ上があるんだから、負けてられないよ!』
『それは当然だ、どんどんいくぞ』
相手のマスター、Mk.Aといったか……心底楽しそうな声で指示を出している。バトルロンドが、神姫が、心底好きなのだろう。だが、その気持ちでなら俺だって負けていない。相手がまだ上を見せてくれるというのなら、こっちはさらにその上を見せてやる。
シャウが刃を構えて駆ける。その一撃が、上段蹴りを潜り抜けるようにして相手を捉える。岩肌を蹴って、急上昇。一気に距離を取る。しかし……。
『そうそう逃がしてばっかりじゃないよ!』
シャウを追って、『ビアンキ』の巨体が飛ぶ。背面に備えたバーニアをフルに使っているようで、存外に瞬発力はあるようだ。
『迂闊な! 空中に出てくるなどと!』
シャウが急激に軌道を変える。迎え撃つ体勢で、振り向く。が、そこにはすでに、バーニアで加速をつけた飛び蹴りが迫っていた。
『なっ!?』
咄嗟にサブアームで展開した鬼姫で、体を庇う。掠めるように当たっただけだが、危うかった。今のを直撃で食らっていたら、そのまま地面に叩きつけられていてもおかしくない。
『大丈夫か、嬢ちゃん!』
『防御は間に合っています……しかし、厄介ですね。正当なスタイルなのに、ことごとく意表をつく動きをしてくる』
「起動してからそう間があったわけじゃないだろうに、ずいぶん堂に入った動きをしてくるんだな。よほどあのマスターの指導がいいんだろう」
『感心している場合ではありません、主、指示を』
「そうだな、向こうが距離を開けても攻めてくるんなら、こっちも息を抜く暇を与えないことだ。ビット、いけるか、シロ」
『任せな、と言っても深く狙うんだったら使い切りだな。ダメージの方は期待するんじゃねえぞ』
『決まりですね、征きます!』
展開されたままになっていたソードビットが、再び勢いよく駆け始める。扱いにはだいぶ慣れてきているのだが、意識が外れるとすぐにビットが遊んでしまうのは、今後の課題だな。しかし、それは相手の力量が尋常ではないことの証左だ。
四機のソードビットが交互に目標に襲い掛かる。が、それとて単発で迂闊に踏み込めば墜とされてしまう。あくまであれは相手を動き回らせるための呼び水だ。動かない相手の隙を見つけるのは難しい。ならば、まず動かすことだ。その中から、隙を見つける。
今、相手は動き回っている。その意味では狙いどころだ。しかし、それは相手の誘いでもある。機動力に劣る相手の狙いは、カウンターだ。こちらが動けばそれを機と見て、逆に攻めてくるだろう。だが、カウンターを警戒する限り、浅傷を負わせるだけで終わってしまう。どこかで一歩、踏み込まねばならない。
ソードビットが周りをぶんぶん飛び回り、煩わしい。しかし、相手の狙いはこちらに揺さぶりをかけることだ。それを墜とそうとして踏み込めば、逆に手痛い反撃を食らうだろう。ソードビットが装甲の表面をひっかく。今は、それを耐えてもらう。この局面は、我慢比べだ。
「渚さん、もうちょっと耐えてくれな。なあに、すぐに息が詰まって、相手から手を出しに来る」
『そこを叩く、って寸法だね』
「流石渚さん、よく分かってる」
そう言うと、構えだけはビットに向ける。ビットだって無限ではない。そうしている限りは撃墜を避けるために、無理押しはしてこないはずだ。無論何かを狙ってビットと引き換えに攻め込んでくることも考えられないではない。だが、それは一発限りだ。狙ってくるとしたら、この局面ではない。
それにしても、最初は単純な武装で出てきたと思ったが、これが中々どうしてやるものだ。一回戦からこのレベルなら、地方からわざわざこのために出てきた甲斐もある。
「こっちが苦しい時は相手も苦しいって言うけど……楽しいときもそうなのかね」
『どうしたの、オーナー、急に?』
「なに、なんとなくさ。相手のマスターの顔、見てみたくなった」
きっと今は、自分と同じような顔をしているに違いない。苦しいと思っているのに、顔には薄く笑みが乗っていることだろう。そう予想する。もし本当に思う通りの表情をしていたら、きっと、バトルロンドの楽しみに取り憑かれているのだろう。自分と、渚さんがそうであるように。
再びソードビットの攻撃が装甲の表面を削っていく。これだけなら大したダメージにはならないが、塵も積もれば、というやつだ。放っておいて、気がついたらLPがごっそり減っていた、という事態には気をつけなければならない。
『ああ、もう、厄介だな!』
ソードビットが中心の動きに切り替わっているが、本体も警戒を引き付ける動きを取るのを忘れていない。それさえなければ、渚さんの技量だ。最初の一撃のように、瞬時に叩き落とすことだって決して不可能ではないのだ。
いっそ、こっちから大きく動いて誘ってみるか。そう考えなくもない。しかし、それこそが相手の狙いであるのは間違いないのだ。そう考えること自体が、自分が焦れてきている証拠だ。
その刹那、渚さんの足元が揺れる。火口から火球が吐き出され、飛んでくる。ビットの動きが止まった。相手も、火球に対応するように動いている。意識が逸れた。
「今だ!」
『よおし! 行くよ、オーナー! でやあっ!』
『ビアンキ』が地を蹴り、バーニアを吹かす。何の躊躇もなく、炎が降り注ぐ中に突っ込んでいく。活路は前にあり。渚さんの座右の銘だ。
火の玉が体を掠めても、渚さんはまったく怯む様子を見せない。それどころか、さらに加速する。ようやく巡ってきたチャンスなのだ。今までに溜めた鬱憤を晴らすかのように、速く、ただ速く。二つ名が示す通りの、白い閃光、『白光』のように。炎から身を守るためか、バリアシールドを背負った相手に迫る。これなら逃げられまい。
『ダイナミック・ライトニング! いっけえぇぇ!』
空中で一回転し、足を突き出した飛び蹴りの構え。背面のバーニアもフルに使い、地から湧きあがる雷光のように、相手に迫る。
『っく、シールド! 全開!』
「ほう、二枚目のシールドも張れたのか」
おそらく自作の出力装置だろうに、二枚も独立展開するシールドが張れるなんて、それだけでも大したものだ。しかし、その出力は明らかに一枚目よりも弱く、展開している面積も狭い。渚さんも一瞬はその障壁に阻まれたが、それもほんの一瞬だ。派手にシールドを切り裂き、渚さんのダイナミック・ライトニングが突き刺さる。
『これぞ、ダイナミック・ライトニング! どうだ!』
派手な名前は付いているが、スキルでも何でもないただの飛び蹴りにバーニアを吹かして加速をつけた、単純な技だ。それでも渚さんは、名前を叫ぶだけでも威力が上がると信じてやまない。
『まだ、まだぁ!』
サブアームで展開した剣を横薙ぎに振り払って渚さんを追い落とす。あの一瞬にサブアームを使って体を庇ったのか。それだけなめらかに本来の体にない武装を使えるということは、相当に使い込んでいるのだろう。
「本当に、楽しいな、渚さん。バトルロンドってやつは」
『オーナー、何のんきなことばっかり言ってるのさ!』
必倒の一撃を阻まれたにもかかわらず、自分の口から出てきたのは、そんな言葉だった。
「シャウ、ダメージは?」
『かなり持っていかれましたが、まだ大丈夫です』
とは言っても、今の一撃は完全に不意を衝かれた。狙う側からすれば確かに絶好の機会だったのは確かだ。だが、果たして降りかかる炎の中に突っ込んでいけるだけの度胸をもった神姫が一体どれほどいるのか……。
「流石、決勝トーナメントってだけのことはある」
俺は自分の口の端が持ち上がるのを感じた。この大舞台で、こんなにもいい勝負を演じられることが、楽しい。俺は確かにそう感じている。
「無理を言うかもしれないけど、もう少し耐えてくれ。勝ち筋はまだある」
『はい、主の心のままに』
シャウの闘志はまだ燃え尽きていない。そう、本番はここからだ。