蠍の尻尾   作:深波 月夜

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・番外ノ1

 さあ、決勝トーナメント第六試合は、Kブロック代表K選手対Lブロック代表日野司選手!

 K選手とその神姫ミル選手、予選ではまさに嵐のような圧倒的な戦い方を見せてくれました! そのメイン武装はガトリングのみ! しかし驚くなかれその量は背に十二門、サブアーム六門、両手に二門の計二十門! その二つ名の通り嵐のように吹き荒れる弾丸で、ごり押すように対戦相手を下してきました! なお、プロフィールによりますとミル選手、胸はAAカップだそうです! こんなことを特筆するあたり、マスターの人間性が垣間見えますね!

 一方の日野選手とパートナーリリィ選手、全国高校生大会でも活躍を見せてくれたコンビです! 予選でも危うげのない戦いぶりで、安定して勝利を収めてきました! その正当な戦法は、全国のイーダ使いのまさにお手本として高い評価を得ています! 近寄ることさえ難しいミル選手のガトリングの前にどのような攻略法を示してくれるのか、今から気になるところであります!

 

 

 流石は鳳凰杯。観客の数もそうだが、その盛り上がりも目を見張るものがある。それだけ質の高い試合が行われているということでもあるし、この様子なら今回の春の陣も大成功と言っていいだろう。

 まあ、せっかく出場した友人たちが一足早く敗退してしまったのは残念だったけど、それでもその試合内容は見事の一言だった。俺も、その盛り上がりに水を差さないように、精々頑張らなければ。

「よろしく」

「……」

 筐体に入る前に、対戦相手の姿が見えたので挨拶をして手を伸ばす。その肩には相棒の神姫『ガトリングストーム』のミルさんが乗っている。

「……よろしくお願いします」

 手どころか、オーナーらしい男性は返事すら返さない。肩に乗った神姫が返事と共に、深々と頭を下げる。それさえも無視するかのように、男性は無言のままさっさと筐体に入っていった。どうやら、あまり気分の良い相手ではないらしいね……。歎息をひとつ吐くと、俺も筐体の中に入る。

「何という無礼な振る舞いですの、あのオーナー! ツカサ、あなたは余所であんな振る舞いはしていないでしょうね!」

「ご機嫌斜めだね、リリィ」

「当り前ですわ、仮にも私のマスターにあんな振る舞い、腹を立てて当然でしょう!」

 その様子に、俺の方が苦笑いを返す。こんなことは別によくあることで、目くじら立てるようなことでもないんだけれどね。

「まあ、その怒りにやり場があるだけましだね。どのみち今から対戦するんだ、思う存分ぶつけておいでよ」

「そうさせてもらいますわ。あの無礼なオーナーに、ひと泡吹かせてやりましょう!」

「そうだね、『ハイウェイ・スター』がどれほどのものか、教育してやろう」

 それだけ言うと、俺はリリィの体を筺体に接続する。さあ、試合の始まりだ。

 

 

「めんどくせぇステージに当たったなー、これぁよー」

 バトルステージは「廃墟の都市」。ビルやらなんやらが朽ちたまま林立するステージだ。しかもその、ビル街に放り出されたとあっちゃあ、やる気も駄々下がりってもんだ。特にミルのやつは移動速度がとにかく遅い。開けたところに出るまでは、まだ相当かかるだろう。めんどくせぇ。

「おいミル、その辺のビルの三つ四つ、吹き飛ばしちまえよ。見晴らしが悪ぃと、めんどくせぇだろーが」

『でもオーナー、私にはそんな破壊力のある武装は積まれていませんが……』

「うっせぇ、口答えすんじゃねえよ。お前は黙って私の言う通りにしてりゃいいんだよ、オーナーが黒っつったらカラスも黒いんだよ!」

『……申し訳ありません、オーナー』

「……突っ込めよ! カラスは元から黒いだろうが! 馬鹿にしてんのか!」

 ミルが困ったような顔で謝罪の言葉を並べる。こうやってミルのやつを困らせるのが、私の仄暗い愉しみだ。

「ぐちゃぐちゃ言ってねぇで、とにかく、開けたところに出ろ。道路だろうがなんだろうが、見晴らしのいいところに出ちまえがこっちのもんだ」

「はい、オーナー」

 イライラするようなすっトロい動きで、ハイウェイを登っていく。実はヴァローナ型は、重装備や索敵が苦手だ。だが、そんなことは関係ない。この装備の目の前に出りゃあ、どんな相手でもあっという間にミンチだ。それはこの大会の予選でも変わりない。リアルバトルと違って重量制限なんかがありやがるせいで、ミルの装備を全部載せられなかったのは残念だが、まあ関係ない。どのみち私達の前に吹き荒れる、暴風雨の前に立っていられるやつなんざ、いやしないのだから。

 

 

「見つけましたわ」

『じゃあ身を隠して。今回はそこまで精密に狙う必要はないし、移動速度は最低ランクだ。簡単だろう?』

「言ってくれますわね。それなら代わりに狙いをつけてくださいませんこと?」

「まったく、厳しいね、君は」

 手元に送られてきたのは、サイドボードに設定してあったシュラムRvGNDランチャーだ。これならば、目標まで曲線を描いて弾頭を撃ち込むことが出来る。ビルの陰に身を隠すと、私は送られてきたランチャーの砲口を、天に向けてかざした。大体の位置を狙って、引き金を引く。追い立てるように弾頭を次々に撃ち込む。あの足ではそうそう速くは動けまい。足場を少々乱してやる。それくらいでもいいのだ。空になった弾倉に新しい弾頭を詰め、もう一度、微妙に射角を変えて撃ち出した。

 

 

「ったく、イーダ型だってぇから真正面から来てくれるのかと思ってたらよー、狙撃たぁめんどくせぇことしてくれんじゃあねーか。なあ、ミル」

『はい、オーナー』

「そう思うんならよー、あんなグレネードぐれぇ撃ち落として見せろっつーんだよ! あぁ?」

『……申し訳ありません』

 あのイーダ型、こそこそしやがって。姿を隠したまま、曲射でこっちを狙い撃ってきやがる。しかもミルは細かい狙いをつけるのは苦手だ。あんな小さい的を狙い撃つような真似は出来ないだろう。それを承知で、無理な指示を出す。

神姫バトルは私にとっては、暗い愉しみの発露の場だ。そうでなければ、こんな本気も出せないようなお遊びの場に、誰が好き好んで来るものか。

 爆撃が飛んでくるのも、十度目を超えたか。撃ちもらしが至近距離で炸裂する。ダメージは軽微だろうが、足場が悪くなると、重量のあるミルには不利だ。

「おいおいおいミルよぉ、私は飛んでくるグレネードは撃ち落とせ、っつったんだぜ。聞いてなかったのかよ?」

『申し訳ありません、すぐに……』

「まあ所詮お遊びだし、負けたって構わねぇんだけどよ、次から一発しくじる度に、一発殴るからな。そのつもりでやれ」

『はい、オーナー』

 ガトリングから吐き出された弾が、分厚い弾幕を形成する。『ガトリングストーム』。誰がつけたかは知らないが、このあだ名だけは気に入っている。そう呼ばれることが、この遊びに興じる理由の一つであるのかもしれない。ミルをいたぶるだけならば、別に場所はどこでも、事足りるのだ。

「足場だけは選べよ、ミル。ただでさえ重てぇんだからよ、転びでもしたら砲身歪むぞ、分かってんのか?」

『はい、オーナー』

 調教の甲斐あって、ミルは自分の意志のようなものがほとんどない。いいことだ。神姫ってのは、これぐらいで丁度いい。実際はミルのやつが転倒しようが、どうでもいいところはある。この試合はバーチャルだし、こけたところで実害が出るわけでもない。むしろ、ミルを嬲る口実が出来た、くらいのものだ。

 ミルがのそのそと、弾幕を張りながら動く。少しでも足場のいい方へ。あんな適当な指示でも、私の指示には忠実だ。それもまあ、調教の成果だろう。

 爆撃を避けられる位置に入ったのか、少しの間爆撃がやむ。ようやく前に出てくる気になったか。幸い周りはハイウェイの上で、開けている。なるほど、この舗装された道路なら、向こうの土俵だろう。ここに追い込むつもりで爆撃なんて方法をとったのか。だが、だからどうだと言うのだ。私達の作る嵐の前には、重装甲の神姫ですら物の数ではない。後は姿を現すまで、ミルをいたぶりながら待つだけだ。

 

 

「さて、身支度は整ったかい、お嬢様」

『ええ、ドレスの仕上がりは上々でしてよ。それじゃあ、参りましょうか』

 お互いにわざと芝居がかった台詞を投げ合う。相手がこちらの望んだ場所に入ったのは、着弾観測と索敵に使ったぷちますぃーんずによって確認している。お手本だとか、正統派だとか言われるが、実はそんな正当な手段よりも、こうした地味な策の積み重ねの方が自分の本領だと思っている。

 リリィがサイドボードから装備を切り替え、トライク・モードに変形させる。これがイーダ型のバトルモード。そして、スキルの第一段階だ。来たとき同様、倒壊しかかって斜めになったビルの上を駆け降りる。このステージでは陸戦でも、この方法を使えばビルの屋上に上がれることは、ネットでもあまり知られていない。が、陸戦中心の神姫にとっては重要だ。高所を押さえての砲撃なんかはあまり使う場面はないが、選択肢を増やすためにも、こうした知識はあると便利なのだ。それにイーダ型は本来、索敵もあまり得意ではない。今回は不要だったが、相手の位置を探るためも、視点を高くするのは有効だ。早くに相手の位置を把握することで、使える道路も変わってくる。それを事前に組み立てるのは、マスターの手腕だと思っている。

 ビルを駆け降りて、通常の道路に乗る。ここまで来れば、あとは相手のヴァローナまでは一本道だ。

最後に大きく曲がったジャンクションを駆け上る。

 天を裂く雷鳴のような銃声が轟く。大量に積まれたご自慢のガトリングがお出迎えだ。

「一気に駆けてくれ、リリィ!」

 弾幕にさらされる時間がわずかでも短くなるように、最後まで姿を隠していられるこのエリアに相手を追い込んだ。ここなら段差の関係で、ぎりぎりまで相手は射角が取れない。

『お仕置きの時間ですわ! スキル発動! 『スリルドライブ』!』

 トライク・ヴィシュヴァルーパー全体がスキルの光に包まれる。これはトライクにハイパーアーマーを付与して、少しの間移動速度と攻撃力を上げるスキルだ。なぜ速度と攻撃力がセットで上がるのか。それは言うまでもない。

「行け、リリィ!」

 まるで要塞のような数の砲口を向けるヴァローナに、さらに加速しながら突っ込んでいく。短時間でいい、ハイパーアーマーで耐えてくれ!

 ヴィシュヴァルーパーの装甲に、次々と弾痕が刻み込まれていく。それはまるで、激しい暴風雨にさらされて、雨滴が表面を打つかのようだ。ここだけは、賭けだった。トライクが耐えられなければ、この賭けは俺達の負けだ。いくらハイパーアーマーと言えど、ダメージを完全に無効化することは出来ない。

 果たして、その時は予想よりも早く訪れた。前輪を支える副腕の根元に、被弾。イーダのサブアーム、エアロチャクラムは他の機種のサブアームに比べて華奢で、構造上の強度も高くない。それを認めた一瞬、俺の頭に敗北の二文字がよぎる。だが……。

『これしきのことで! 負けませんわ!』

 前輪のサスペンションが、一瞬深く沈みこむ。次の瞬間、リリィは走りながら右の前輪を持ち上げ、片輪走行で残された道を走る! 持ち上げられたエアロチャクラムが、吹き飛んで後方に流れていく。その次の瞬間、ヴィシュヴァルーパーがヴァローナ型に激突し、そのまま遮音壁を突き破ってハイウェイ下まで落下する!

 これがこのエリアに追い込んだ、二つ目の理由だ。あの重装甲では、いくらスリルドライブを使って攻撃力を上乗せしても、一撃では仕留めきれないだろう。そして、その要塞のごとき砲火から二回目の突撃のチャンスが得られるとも思えない。一撃で、少なくとも行動不能になるくらいのダメージを重装甲の目標に与えるには……簡単だ。高いところから落として、自重をダメージに換算してもらえばいい。しかも今なら、上から乗っかったヴィシュヴァルーパーが押しつぶしてくれるというおまけつきだ。

『スキル発動、『アーナンタ∞アサルト』!』

 ウチのお嬢様はまだ容赦をする気がないらしい。追撃スキルで落着するその瞬間までアサルトカービンを撃ち込んでいる。

そして、落着! 地面に大穴を穿ち、自分の装甲とヴィシュヴァルーパーに挟まれて、完全に潰されている。

『2P リリィ WIN』。その文字がハイウェイにかかる虹のように眩しかった。

 

 

 武装セットを片づけてケースに収めると、リリィを連れて筐体を出る。そこには先ほど会った男性と、ヴァローナ型の神姫がいた。あまりにも険悪なムードで、一瞬声をかけるのをためらったほどだ。

「ミルよぉ、お前、負けんなっつたのに、何負けちまってんだよぉ」

「申し訳ありっ……ありまっ……せんでした」

 神姫を乱暴に鷲掴みにし、謝罪の言葉を遮るように指で頬を叩いている。

「何をやっているんだ!」

 語気が荒くなる。その様子に、相手もようやくこちらに視線を向ける。

「余所の人は黙っててもらえないかねー、これは私と神姫の問題なんだからさぁ……そうだろ、ミル」

「はい……オーナー……ですので、どうかお引き取りを……」

「余計なことかもしれないが、これは下手をしたら神姫虐待行為として警察に通報されるレベルの事案だ。見過ごすわけにはいかない……!」

「で、どうするつもりよ」

「実行委員会に申し立てさせてもらう。警察沙汰になれば試合中のデータを警察に提出してもらえるだろう。会話ログやカメラからの様子だけでも、証拠につながるような言動は出てくるはずだ」

「おいおいおいおい、本気かよ、兄ちゃん。たかが神姫に、そこまでするか……いや、そういや去年の一斉摘発のときにもそんなようなことをしたやつがいたって聞いたなあ……」

「何をぶつぶつと……」

「あー分かった、今後二度とこのようなことはしないよ。だから警察沙汰にはしないでくれ。ミル、オーナーカードを開示して。よかったら連絡先を交換させてくれ。もし万が一何かあったら、君の所に連絡させる。とりあえずそれで手打ちにしてくれないか? 頼むよ」

「急に態度が変わりましたわね……」

「ならば、連絡先は交換しましょう。ミルさん、と言いましたね。何か自分に不利益なことがあったら、ためらわず連絡をください。それじゃあ」

 その場を離れると、リリィが耳の横でこそこそと話しかけてくる。

「あれだけで本当によかったんですの?」

「いや、一時しのぎだろう。とりあえず運営委員の方にも申し立てるけど、そこどまり、かもね。積極的に警察に通報してくれるとは思えないし」

 人格と技量が正比例するなんてのは幻想にすぎない。トッププレイヤーの中にだって、人格的に危うかったり、神姫の扱いがひどかったりする人間はいる。結局は、人間が神姫とどのような関係を築こうとしているか、それ次第なのだ。

「やれやれ、せっかく勝ったのに、なんとも後味が良くないね」

「仕方ありませんわ。さ、ツカサ。運営本部の方に行きましょう。さっきの娘、これで少しでも救われるといいんですけれど……」

 おそらく、無理だろう。神姫虐待は人間への虐待以上に潜在化しやすいし、仮に表面に出たとしても「合意があった」とされやすい。神姫とは基本的にオーナーに対して否を告げられない立場なのだ。それが分かっているからなおさら、さっきの神姫に救いがあることを願わずにはいられない。

「……こんなことをするキャラじゃ、なかったはずなんだけれど、ね」

「何か言いまして?」

「いや、何でもないよ。さ、早く運営に報告して、もうひとつの報告もしに戻ろう」

「報告なんて。きっと私の勝利を、ちゃんと見てくださってますわ。だって、ツカサのお友達なのでしょう?」

 その通りだ。だが、それでも、直接、勝った、と言いたいじゃないか。そのためにも、気乗りのしないことは手早く済ませてしまうに限る。運営本部までの道々、脚が早まるのを感じていた。

 

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