蠍の尻尾   作:深波 月夜

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・7-4

 ザンダクロス。それは前世紀のアニメ映画の登場したスーパーロボットの名だ。数を頼みに押し寄せる敵の小型ロボットを文字通り薙ぎ倒し、迫りくる巨大ロボットを千切っては投げ、地球の平和を守るために活躍した、文字通りスーパーロボットであった。俺も子供の頃、それこそ夢中になってその活躍を楽しんでいた。

 

「まさか、こんなところでザンダクロスと戦う羽目になるなんてな……」

 様々な作品が商品化される昨今では、むしろ、フィギュアロボットにならない作品の方が少ないとさえ言われている。それでも、フィギュアロボットバトルにザンダクロスを使ってくるなんて、相当に珍しい部類だ。

「よく知ってるな。お前も、子供の頃に見ていた口か。まあ、そうであっても、手加減はせんが」

 スーパーロボットであるザンダクロスには、武装が少ない。しかし、俺の記憶が確かなら、遠距離攻撃にも腹部のレーザーキャノンやミサイルで対応出来るはずだ。射撃武器が全くないのは不利。俺は腰に巻かれているWドライバーのガイアメモリを入れ替えた。

『サイクロン!』

『トリガー!』

 ガイアウィスパーと呼ばれる機械音声が、新たな姿の名を呼ぶ。半身が緑で、半身が青。このフォームは、素早い連射を得意とする、遠距離型だ。胸から『トリガーマグナム』を引き抜き、引き金を絞る。

「なんだ、その豆鉄砲は。そんなものでザンダクロスの装甲を抜けると思うなよ」

 元々ザンダクロスは単騎で大勢の敵と戦う作品のロボットだ。いわゆるスーパーロボット系で、装甲の厚さには定評がある。しかも、相手の言が確かなら、強化セラミック製の複合装甲。そんなものは、もはやフィギュアバトルで持ち出されるような代物じゃない。その装甲を誇示するかのように、ザンダクロスは特に防御する風もなく、トリガーマグナムのエネルギー弾を受けながらゆっくりと歩み寄ってくる。

 後ろに下がりながらも、射撃の手は緩めない。だが、もとよりリアル・レギュレーションのフィールドはさほど広いものでもない。すぐに背後に壁が迫ってくる。

「どうした、少しは手ごたえがあると聞いていたが、まさかそんな程度じゃあるまいな。俺を失望させないでくれよ?」

 その言葉と共に、胸のハッチが開き、大量のマイクロミサイルが吐き出される。このフォームの防御力は紙装甲だ。耐えきれない。

『ルナ!』

『トリガー!』

 再びフォームを変える。青い半身はそのままに、もう半身が黄金色に変化する。このフォームでは、トリガーマグナムから撃ち出す弾に、追尾性を持たせることが出来る。吐き出された光弾は、目の前に迫るミサイルを次々と撃ち落としていく。次いで、ザンダクロス本体にも黄金色の弾丸が牙を剥く。

「足りないよ、そんな火力では。豆鉄砲をいくら撃ったところで!」

 残っていたわずかな距離を、背面のバーニアを吹かして一足飛びに駆け寄る。その右拳は、大きく振りかぶられている。だが、そんな動きで捉えられると思うなよ。

 一直線に振り下ろされた拳を、壁を蹴ってかわす。サイクロンの特性が『速さ』だったように、ルナの特性は『変幻』だ。意表を衝くような動きこそ、ルナの真骨頂。空中で、再度メモリチェンジ。

「そんなに火力が恋しいなら、お熱いの、お見舞いしてやるぜ」

『ヒート!』

『トリガー!』

 黄金色の片側が、今度は真紅に変わる。ヒートは炎と熱を操るメモリ。このフォームは不安定だが、それゆえに最大の火力を引き出せるフォームでもある。フォームチェンジに使ったトリガーメモリを、腰のマキシマムスロットに挿し直す。このスロットに挿されたメモリは、その力を最大限に引き出すことが出来る。バトルロンドで言うスキルのようなものだ。

『トリガー! マキシマムドライブ!』

「行くぜ……トリガー・エクスプロージョン!」

 拳を振るった勢いで、背を向けていたザンダクロスに向けて、引き金を引く。一瞬の溜めの後、巨大な火球がザンダクロスの背後から襲いかかった。

「むぅん!」

 背中越しに迫る火球を、裏拳気味の剛腕が横に薙ぐ。一瞬広がった爆発は、しかしザンダクロスの前にはその用をなさなかった。

「一撃が狙えなかったから大火力? セオリー通りで欠伸が出るぞ」

「火遊びはママに怒られちまうか……? 安心しな、本当にお熱いのはここからさ!」

『ヒート!』

『メタル!』

 体の青が硬質な銀色に変わり、俺の背には打撃武器『メタルシャフト』が下げられている。メタルは闘士の記憶を宿したメモリで、防御力は随一だ。遠距離でだめなら、男らしく殴り合いといこうじゃないか!ちょうど開いた距離が好都合だ。もう一発、かましてやるぜ!

『メタル! マキシマムドライブ!』

 二発目のマキシマムドライブに、手にしたメタルシャフトの両端が、激しく炎を吹き上げる!

「次はコイツだ……メタルブランディング!」

 炎を纏ったシャフトを連続で撃ちつける。右かと思えば左、上かと思えば下に、息を吐く暇もないくらいに、激しく。ザンダクロスの両手も、ガードのために上げられている。その守りを正面から抜くのは、やはり困難だ。だが、どんなに堅くても、操っているのは人間だということは変わらない。

『ヒート!』

『ジョーカー!』

 ジョーカーは切り札の記憶。すなわち、勝負を決める一撃を打ち込むときのフォームだ。半身が真紅で、もう片側が黒。その右手が炎を纏い、両腕を盾にして身を守るザンダクロスのガードの下からアッパーカットを狙う!

『ジョーカー! マキシマムドライブ!』

「ジョーカーグレネイド! 燃えたろ……?」

 ガードの隙間に割り込まれた拳が、ザンダクロスの顎を揺さぶる。いかに装甲が堅くても、そのダメージに繋がれている人間の方はそうはいかない。強かに顎を打ち抜かれれば、しばらくは脳震盪を起こしてろくに動けないはずだ。そこを、決める!

『サイクロン!』

『ジョーカー!』

 これが一番の基本の形だ。そして、一番の必殺技を撃てるフォーム。

『ジョーカー! マキシマムドライブ!』

「喰らわせてやるぜ! ジョーカーエクストリーム!」

 Wの周囲に巻き起こる風。それに運ばれるように垂直に飛ぶと、W自身が左右に半身ずつ分かれる。そして、そのまま時間差で、二発の飛び蹴り。意識が揺れているザンダクロスが、受けられるわけもない! 足から撃ちこまれたエネルギーが、ザンダクロスを巻き込んで爆発する。

 それを背に受けながら、立ち上がるW。

 

「こんなもんか?」

 

 そのさらに後ろで、ほぼ無傷に近いザンダクロスが立ち上がった。

「軽口ばかりでダメージもみんな浅い。ハードボイルド気取りだとは聞いていたが、半熟卵だな」

 おいおい、Wの必殺技を連続で食らったのに、全然効いてないのか。鈍いのか、堅いのか……。

「失望だな。所詮は過去の遺物か。もういい、さっさとケリをつけて、仕舞いにしよう」

 まったく、誰に聞いていたのか知らないが、言いたい放題言ってくれるじゃないか。

「まあそう言うなよ、もう少し付き合っていけ……Wの力は、こんなもんじゃ終わらないぜ!」

 ザンダクロスには、ダメージが入っているようには見えない。しかし、これ以上火力のある技は今のWにはない。それなら、どうするか……簡単だ。今のWを超えればいい。

 再びゆっくりとこちらに向かってくるザンダクロス。だが、そこに一羽の鳥が襲いかかる。

「なんだ、支援メカか? こんな低火力で、足止めのつもりか?」

「足止めね……足どころか、息の根まで止めてやるぜ。来い、エクストリーム!」

 黒い鳥が、Wの頭上で舞う。そして、そのまま腰のWドライバーに収まる。そして、翼と胴体が開き、そのシルエットが『X』の字を形作る。

「パワーアップフォームか。なるほど、そっちが真骨頂、ということかな?」

「サイクロン・ジョーカー・エクストリーム……行くぜ、ここからが本番だ!」

 全身に配置された『X』の意匠が輝く。俺は専用武器、『プリズムビッカー』と『ビッカーシールド』を構えた。

 

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